定期購入に特化した、LTVを高める施策づくり

松元貴志

定期購入において事業者の頭を悩ませるのはLTVです。「実際に販売したけど、継続して使ってもらえなかった」ということはよく起こります。

定期購入をビジネスモデルとして採用している場合、獲得費用が高くなりがちなので、LTVが伸びなかったら赤字となってしまいます。

今回は、定期購入ビジネスにおけるLTVを少しでも高くする手法について解説しました。


定期購入型のビジネスモデルを採用するにあたって、LTV(Life Time Value:顧客あたりの累計売上)を最大化することがビジネスの成功を決めるポイントになります。

定期購入型のビジネスモデルを採用している会社の多くは、初期の広告費などの獲得費で現金が出て行くモデルとなっています。

初期にかかった費用は、後から回収していくことが一般的(いわゆるJカーブ型)であるため、企業が継続して売上を伸ばすためには、ユーザーのLTVを高めることが大切です。

定期購入モデルにおけるLTVの基本的な考え方は、現在契約している商品を解約されないことが大原則です。

お客様に解約されないという前提で、消費量を増やしてもらい購入個数を増やす、もしくは今買っていただいている商品以外を販売するなどして、企業はLTVを伸ばしていく施策を打っています。

今回は、定期購入をビジネスモデルの中心と据えているEC事業者の方へ向けて、LTVを上げる施策について説明します。

LTVの考え方について

定期購入においてLTVを考える際には、1回あたりの購入単価と継続率に分けて考えることができます。特に、継続率が重要指標となります。

すぐに解約されてしまう商品は、LTVは当然高くなりません。またLTVを高くしたいからといって、最初から高めの価格設定にしてしまうことも得策ではありません。顧客獲得のための広告費用が上がってしまい、利益が出ない構造になってしまうためです。

毎月効果を感じることができ、かつ支払い可能な金額設定にした上で、解約されないようにするにはどのようにすればよいかを考えることがLTVを高めていくコツとなります。

成功したら購入単価を考える

事業の始めのうちは、販売商品が少ないため、顧客の一人当たり購入単価を上げることは難しいです。
ですので、事業の初期には解約率にフォーカスすると良いでしょう。

購入1回あたりの解約率が20%を切る数字になってくると、ビジネスモデルとしても安定してきます。

解約率が安定した後には、次の商品の開発や、広告費をさらに投資することで、さらなる顧客獲得に向かってもよいでしょう。

新商品開発を行なうメリットは、複数の種類の商品を購入してもらうことで、一人当たり購入単価をあげることができます。

お客様の目線で見ると、健康のための投資と、美容のための投資の予算は異なっていることが一般的です。

これまで健康のために売っていた商品とは別に、美容の商品も販売することができれば、お客様の美容のための予算も獲得することができます。

逆に、現在購入しているお客様を分析してみて、今と同じカテゴリの商品をさらに購入してもらえそうであれば、類似の商品を販売すると成功確率が高まります。


カテゴリによる分類以外での新商品の開発アイディアとしては、例えば現在販売している商品が年齢が限られてしまう商品である場合には、加齢しても使える商品を開発するなど方法は様々あります。

いづれにしても、お客様の反応やニーズを踏まえて商品開発を行い、購入単価を上げることが大切です。

定期と単発購入の併存は難しい

ビジネスモデルの話に戻ると、定期購入と単発購入(1回のみの購入かつ非定期での商品購入)をどちらも50%ずつ、もしくは40%,60%といった割合で事業計画を作成する方がいらっしゃいます。

どちらもうまくいって同じくらいの売上になればよいのですが、実際にはそうはいきません。

定期購入をビジネスモデルの中心と据える以上は、90%以上の売上を定期購入に振り切ったほうがよいでしょう。

LP(ランディングページ)においても定期購入しかできないようにしたほうが、LTVも高くなります。

単発購入をビジネスモデルの中心にする場合は、インフルエンサーを活用して販売していくパターンや、小売店での店頭販売を活用して販売していく場合に多く当てはまります。

特に、小売展開を考えている場合は、ネットで安く買えることを小売店が嫌がる場合もあるので、初期のうちから小売店でも販売をする予定なのか、ECサイトを中心に販売するのかを決めておきましょう。

ECでスタートしたのちに、小売店で販売を開始したブランドも多くありますが、限定的な店舗での販売であったり、露出を目的とした販売であったりと、本格的に小売店で伸ばしているブランドはあまり多くないのが実情です。

流入経路を見てLTV施策を講じるか考える

LTVを向上させるための施策を実行する前に、集客経路によってLTVを計測することをおすすめします。

例えば、あるブランドでは、TikTok広告経由で獲得したユーザーのLTVが、他の媒体で獲得したユーザーのLTVに比べて低いという事例がありました。

このブランドでは、TikTok広告経由での集客を辞めて、他の媒体でユーザーを獲得していく決断をしていました。

ユーザーを獲得する手段は、インフルエンサーに対するギフティング、Googleリスティング広告、Instagram広告、YouTube広告など様々ありますが、集客経路によってLTVは大きく異なります。

他の広告チャネルよりも20%以上LTVが低いチャネルがある場合には、LTVを上げる施策を実施する前に、集客チャネルを絞ることが優先事項となります。

もちろん、獲得するコストが圧倒的に低い場合にはLTVが低くても問題ありません。

しかし、現状の獲得費が圧倒的に低い集客チャネルでは、徐々に獲得費が上がっていくことが予想されるため、最終的にはLTVを意識して獲得チャネルを限定していくことも視野に入れることが大切です。

LTVを高めるために考えてほしい項目

LTVを高めるための具体的な項目について述べていきます。

購入間隔の設定
定期購入において、購入間隔は事業計画を設定する上で重要なポイントです。毎月購入する事業計画にしていても、実際には2ヶ月に1回しか購入されない場合もありえます。

購入間隔が、30日間隔から45日間隔になっただけで、入金サイクルは1.5倍長くなります。現金を潤沢に持っていない事業者にとっては購入間隔が長くなることは致命的です。

したがって、購入間隔を考える際には、見積もりよりも長くかかる計算で事業計画を組むことをおすすめします。

具体的には、30日購入間隔で計画を立てていても、購入間隔の平均は40日程度になると予想し、キャッシュフローは約1.3倍多く見積もることが大切です。



消費量の促進
LTVを上げるためには、お客様にできるだけ多く消費してもらう必要があります。

消費量を増やしてもらうにはいくつかのハードルがあります。

まず、調査すると意外と多いのがダンボールを開けられていないことです。

定期通販を頻繁に利用する方の中には、毎月多くの商品が届き、ダンボールを開けずに溜まってしまう方もいらっしゃいます。

そのため、まずは開けてもらう工夫をする必要があります。

開けてもらったあとにも、すぐに使ってもらう、食べてもらえるような工夫が重要になります。

停止した顧客の掘り起こし

定期購入モデルの場合、解約とは別に、一時的に購入を停止したいというお客様が一定数発生します。


一度購入を停止したお客様の最も多い理由は「商品が余っているから」というものです。

商品が余っている場合に、購入を一時的に停止することはもっともだと思います。

事業者側として気をつけたいのは、購入を停止している間に他の商品にスイッチされてしまうことです。

世の中には、競合となる商品が多数溢れており、購入を停止している間にも様々な会社が広告によるアプローチで、「うちの会社の商品も試してみませんか?」と迫ってきます。

新しいものが好きな方にとっては、別の商品を試してみたら満足できたので、停止中の商品は今後注文をやめるということも頻繁に起こります。

一度停止したお客様がまた購入を再開してくれるという前提ではなく、商品の購入がとまってしまうのではないかという危機感を持ってください。

商材にもよりますが、一度停止した方が、再度購入してくれる確率は5~30%の範囲だと考えています。大多数のお客様は、停止してから再購入をするには至りません。

停止したお客様と定期的に連絡をとることで、再度買ってもらうために思い出してもらう施策が有効です。

クロスセル戦略

事業主としては、一つの商品を5年以上に渡って使ってもらいたいものですが、いつか飽きられてしまう時が必ず来ます。

また、年齢によって使用できる商品も変わってくるため、年齢に応じた商品を提供する必要があります。

例えば、妊活のための亜鉛サプリを販売している場合のクロスセル商品を考えてみます。

妊活用亜鉛サプリを購入して下さっているお客様が妊娠した後には、妊娠中に必要な葉酸のサプリメントを販売します。
無事出産した後には、妊娠線をケアするためのクリームを販売できます。

この時に、妊娠中しか購入されない葉酸サプリは、出産が終わると解約されます。(実際には妊活中から葉酸サプリを接種する方もいますが、あくまで例としてとらえてください)

適切なクロスセル商品の販売を行わないことは、一度購入によって繋がりを持つことができたお客様が簡単に解約してしまうことを意味します。

集客にかけるコストを有効利用する上でも、クロスセル商品の販売が有効な手段であることはお分かりいただけるのではないでしょうか。
一方で、サントリーが販売しているセサミンEXのように、1つの商品でも長期的に愛用される商品も存在します。

商品特性に合わせて、クロスセルの戦略を考える必要があります。

アップセル戦略

アップセル戦略とは、1回の購入においてより単価が高い商品を買ってもらうことです。小容量のセットではなく大容量のセットを購入してもらったり、通常よりも高級ラインを買ってもらったりすることで購入単価をあげます。

アップセル戦略をとるためには、複数SKUを用意する必要があるため、1つの商品で成功した後にとるべき戦略といえます。

1SKUしかない場合は、まとめ買いがアップセルに該当します。まとめ買いをしてもらうと、配送費も安くなりますし、LTVも一気にあがります。

年収でのセグメントは意味をなさない

年収の高いユーザーほどLTVが高くなるという勘違いを犯すこともあります。

年収が高いセグメントを特定してLTVが高くなる施策を実行する手法は、往々にして失敗に終わります。
年収の高さは指標の一つに過ぎないため、本当にLTVが高くなる顧客かどうかを見極める必要があります。

価格設定の重要性

価格は、LTVを考える上で非常に重要です。

例えば、目標LTVを25,000円と設定したときに、初回に1,000円、その後6回で4,000円にするのか、初回に1,000円でその後3回で8,000円にするかで大きく戦略は変わってきます。

初回4,000円で2回目から7,000円×3回で合計25,000円のパターンもあります。

初回価格を変更することは度々ありますが、2回目以降の価格は変更のオペレーションも大変ですし、消費者に混乱を生みます。2回目以降の価格は発売前に慎重に設定しましょう。

変更に際して、後から価格を上げるのは難しいですが、安くするのは簡単なので、予め少し高めに設定しておくことも手段の一つです。

LTVの数値を考えるうえで重要なポイント

1.初回解約をできるだけ減らす
定期購入モデルでは、初回価格を安く販売しているため、初回で解約されてしまっては赤字になります。

例えば、一人あたり獲得単価12,000円、初回の販売価格980円と設定している場合には、初回で解約をされてしまうと、約1万円の赤字となってしまいます。

2回目以降で、8,000円の売価だとすると、2回目を購入してもらった時点で赤字は3,000となります。

実際には、商品原価や配送料といった別の費用がかかってくるため、ここまで単純なモデルではありませんが、1回目で解約されるか、2回目以降で解約されるかには大きな違いがあります。

したがって、1回目の解約を防ぐことで、赤字になる可能性を下げることができます。

1回目の解約を防ぐ方法として実際に企業が行っている手法は強引なものが多く、最近では使用されなくなっている方法もあります。

ここでは、参考として一部ご紹介します。

まず、有名な手法は定期縛りです。

定期縛りとは、最低でも2回もしくは3回は購入しないといけないという手法です。

定期縛りの注意書きは文字が小さく、初回価格に釣られて購入した顧客からの批判も多かったことから、定期縛りを採用する事業者は減っています。

きちんと明記した上で、健全な形で運用している会社も存在する手法です。

定期縛り以外の手法では、初回と2回目の配送間隔を短くする手法もあります。

配送間隔が短い場合には、ユーザーが適切に商品効果を実感する前に次の商品が送られてくるため、初回で解約される確率は下がります。

この手法も健全なやり方とは言えないため、あくまで常識の範囲内で2回目の配送時期を設定する必要があります。

クリーンな手法としてよく用いられるのは、短期間では効果が出ないことを訴求していく方法があります。

どんな商品でも、短期間での使用では望んだ効果が出ないと思います。

そうした場合を想定し、一定期間の使用をしないと効果が出ないことを購入後に伝え、初回購入後すぐに解約されることを予防する方法です。

これまで初回解約を防ぐ方法について述べましたが、初回での解約をすぐに受け付けるべき場合も存在します。

例えば、化粧水などで、肌荒れが悪化したと言われた場合には、すぐに解約を受けましょう。

直接的な原因が商品ではなくても、肌荒れが起きた時には、ユーザーはその時使用していた商品に原因を求める傾向にあります。

ユーザーがネガティブな原因で解約を申し出た場合にはすぐに受けましょう。

また、1回で解約をしてくる人の中には、転売目的の人が数多くいます。特に、よく売れている商品で、初回価格を大きく割引している商品は転売目的で狙われます。

同じ住所や同じ連絡先での購入は自動ではじくなどの対策を講じることはもちろん、転売対策業者に依頼することも作戦の一つです。

転売目的の組織に狙われると、すぐに赤字になってしまうため、毅然とした対応が必要となります。


2.10回以上購入するヘビーユーザーをできるだけ増やす
LTVを考えたときに、一定のヘビーユーザーの存在が必要です。

一般的に、5~10%程度は10回以上購入するヘビーユーザーになります。

どんな商品であっても、品質が良いものを作れば、必ず気に入って継続して使ってくれる方がいます。

10回以上購入してくださるヘビーユーザーを増やすためには、小手先のテクニックよりも商品の品質が良いかどうかに左右されます。

5回継続特典などを実施したことで、4回しか買わなかった顧客が5回商品を購入して下さることは間々ありますが、10回以上商品を購入してくれるとなると、重要な要素は商品力です。

例えば、平均購入回数が約5回の時には、購入回数5回前後の顧客を見るのではなく、ヘビーユーザーを優先的に見ていくとブランドが伸びる鍵が隠されているはずです。

LTVとECサイト

LTVを高めるためには、LTVを高めるための施策が実行できるECカートを選ぶ必要があります。そもそも定期購入に対応しているか、また定期購入のステータスや細かい顧客の対応に対応できるECカートであるかは重要なポイントです。

例えば、乳液は1つ、美容液は2つ配送に変更したい、ただし美容液は2ヶ月に1回だけ送ってほしいという要望がきたときにオペレーターがすぐに変更できるECカートを選択しているかどうかでオペレーションの柔軟性が変わってきます。

今回触れた、クロスセル、アップセルについても購入完了直前または、直後に打診できる機能をそもそももっていないECカートを選定してしまうとLTVをあげる施策がとりにくくなってしまいます。

チャットボットを導入し、チャット形式でのクロスセル、アップセル施策をとることも主要な施策です。

LTVをあげていくためにはECカートによってできることが大きく変わってきますので、LTVをあげるためにどういうことが可能かをECカートの営業担当に確認することをオススメします。

特にSKUが増えたタイミングをあらかじめ想定して、複数の商品がある場合はどのように売りたいかを自分なりに想像してみてください。


著者

松元貴志

早稲田大学創造理工学研究科経営デザイン専攻修了。新卒でユニリーバ・ジャパンに入社し、ヘアケアマーケティングブランドの従事。人材関連会社を創業し、人材会社に売却。その後、代表を務める株式会社メジオにてD2C事業を開始。アパレル事業からヘアケアの定期通販事業まで展開。現在は創業した株式会社BrandismにてD2Cブランド立ち上げを支援。

https://brandism.co.jp/