ECの人材と育成について 第4回:商材・サービスによるタイプ別のEC担当者

中島 郁

ECの人材の獲得と育成について結論から言ってしまうと、獲得は外部人材の募集を実施して、もしよい人が見つかれば採用するといったくらいのレベル感で、ただ、必要なタイミングで必要なレベルの人が見つかる可能性は低いため、結局内部育成していくことになるということです(これは、ECに限らず、筆者が得意とする新規ビジネス全般に言えることです。DX、デジタルビジネスをはじめ、アナログでの新規ビジネスなどもです)。この連載では、どのスキル、人材がEC業務に向いているか、どう育成していくかを、事業者側視点で書いていきます。連載(全6回)の第4回は「商材・サービスによるタイプ別のEC担当者」です。

ECのタイプや商材、販売方法によって、人材は違うのか

ECのタイプが違っても人材のベースは同じといってよいでしょう。先に解説したような適正とそれぞれの商材などの知識があるということが重要です。これも、これまでの経験に固執するか、引きずられる人は、その段階では違うといえます。

また、人材のタイプという言い方をしていますが、最終的には(結局は)、顧客との向き合い方、アプローチの仕方、顧客体験の考え方によるもので、これまでの考え方の業務(EC)をしてきた人が、別の考え方へ移るときの柔軟性、マインドセット(心構え)によると考えています。

・ECモールと自社EC
あえて言うのであれば、ECモール(マーケットプレイス)しか経験のない人は、最初の段階では、自社ECへの取り組み方の違いに戸惑うということもあります。また逆もです。同じ会社で営んでいても、商材以外の部分の顧客体験がかなり違うと言ってよいのではないでしょうか。同じECですが、ルールの違うゲームのようなものと考えればよいのかもしれません。

集客がすでにある駅ビルのテナントのようなECモール店と、人通りの少ないロケーションの路面店である自社ECでは、ビジネスのやり方が違うのは当然です。それは、告知や広告といった部分だけではなく、もっと根本となる集客のための特徴を出す考え方や、商品の見つけやすさ、そして、購買のプロセス(チェックアウトフロー)などでもです。また、インフラの考え方も、十分に準備されたものを使うことと、自分たちで選んで導入していく点などでも違います。

ECモール経験者も少しだけ時間が経てば、自社ECになじんでいきます。筆者の感覚的には、自社ECのみの経験者がECモールになじむほうが割と早いと思います。

自社ECでの即戦力が欲しい際は、ECモールだけの経験者よりも自社EC経験者を採用するほうがよいとは思いますが、全くEC経験がない人よりはECモールだけの経験者のほうが、育成ははるかに速いともいえます。ただ、これもどちらかの経験が成功体験となりすぎていて、違いを認識できない、したくない人が向いていないのは、言うまでもないことです。

・商材による違い
EC以前に小売ということで、商材が違えば、その特性を理解しないと販売しにくいので、当然と言えば当然で、少しは時間がかかります。価格が違えば購入決定まで時間が違いますし、用途が違えば機能の説明などが必要であったり、流行のあるもの、賞味期限のあるもの、配送や取り扱いの時間/難易度などの違いも当然あり、経験のある商材のほうがよいでしょう。これらは担当者の特性上の違いというよりは、これまでの経験によります。これも切り替えのできる人であればほとんどの場合大丈夫ではないかと思います。

それよりも、商材自体よりも取扱商品の範囲が、単一カテゴリーのECと複数カテゴリー、総合小売といったECの違いのほうが大きいかもしれません。やりやすさ、学びやすさで言うと、単一カテゴリーが一番良いと思います。筆者のいた総合小売業のECは、ECサイト上での考慮点、商材ごとの取り扱いなどが多岐にわたります。総合小売業のECはトップページ上にカニと靴が同居するなどということもあり、非常にブランディングもターゲッティングもあいまいとなる状況が多々あります。併売や同梱なども考える必要がありますので、なじむまでには割と時間がかかります。

・単品通販系ECと通常小売店型EC
健康食品や化粧品などの消費される商品で定期購買な利用を目的とするECと、通常の店舗のように商品をいろいろ見てもらい購買単価を高めていくことが目的のECでは、インフラや一つひとつの業務は同じですが、その使い方やビジネスモデル自体が違うと言ってもよいでしょう。各機能、スキルは活用できますが、全体のストーリーや売上、費用のかけ方、利益の考え方が、大きく違うと考えてよいのではないでしょうか。これも経験者は即戦力に近く、時間をかけても頭の切り替えができない人は向いていないと言える要素になります。

・B2CとB2B
EC固有のスキルは大きくは同じようなものですが、ECに限らず対象の特性が消費者であることと、企業/事業者ということで違います。B2Bでは、顧客が個人ではなく、組織の中で複数の人が関与しています。

例えば、窓口担当者、意思決定者、承認者、キーマンなどで、購入決定プロセス、購入動機が違うと言えます。消費財系の低単価の商品の場合はそこまで分かれていないことも多いですが、それでも、見積書や請求書が必要となったり、支払いや出荷が別タイミングとなったりということもあります。B2C系のサイトでは、このようなことに対応する機能はありませんし、タイミング/時間軸が違うこともほぼありません。

これらに対して担当者のタイプに違いがあるかというと、大きくはありません。他のところでも書いたように、これまで違う種類のビジネスをしてきたことに引きずられるかどうかが一番でしょう。これも時間が解決するともいえます。また、法人営業の営業部隊と連携するECの場合は、最初の窓口や大口の注文などは担当者が直接顧客担当者とやり取りすることが多いので、営業担当者との連携をすることができる人ということもあります。

・メーカー機能を持つEC/メーカー発のECなどと仕入れて売る/小売系のEC
製造機能を持つ会社が直販としてECを行う場合と、小売的に商品を仕入れて販売するECでは、まず、利益率が違います。その結果、かけられる費用が違ってきます。また、メーカーの場合は、EC部門からのリクエストで商品開発、独自商品なども行われることもあると聞いています。小売でもPBや独自商品を取り扱う場合もありますが、その商品規模や商品開発に関わる深さが違うといえます。メーカーのECでは、販売そのものよりも消費者などと直接コミュニケーションすることにより、EC以外でも販売する商品の開発のための調査、R&D機能を期待している会社も多くあります。仕入れて売ることが中心の経験者にはなかなかなじみにくいところかもしれません。

さらに、メーカーの場合は、自社EC以外にも、小売やその他の流通に商品を卸している場合が多く、同じ商品を自社ECで扱う場合に、値引きは不可、在庫は卸先優先などといったケースも多いようです。これらは、経験の違う人には非常にじれったいと思いますが、そういったビジネスルール(モデル)と割り切れる人である必要はあります。

どの違いも、向き不向きというよりも、そのタイプのなかでの役割に違いがあるということでしょう。もしくは 違う種類の業務があるという風に解釈すればいいのかもしれません。ECのタイプで考えるより、即戦力であれば、単純に、同様の商材、同様の形態のEC経験者がよいわけです。EC経験のない人であっても、経験の商材、顧客が同様であれば、ECのスキルを身に着けていけば割と早く戦力になります。同じように、商材、方法、顧客が違っても、EC経験があれば、基本的な作業はすぐにできると言えます。

結論から言えば、ECのタイプでどうのこうのというよりは、これまでの経験に引きずられなく、違う部分は違うと受け入れられる人が、どのタイプでも向いていると言えます。

究極の適正

少し引いて考えると、書籍にも書きましたが、商品だけでなく、商品、ECサイト、機能、物流、支払い、サービスなどを包括的なプロダクトとして、戦略、マーケティング、顧客体験を考えて、それを実行していける、新しいプロダクトへ取り組むマインドがある人は、どんなECにも(事業にも)向いているということでしょうか。

第5回に続く


著者

中島 郁 (Kaoru Nakashima)

豊富なEC、オムニチャネル、デジタル化の実務経験に加え、アナログを含む成長や新規事業のタネの掘り起こしと実現に強い。ベンチャー⇒外資⇒老舗と通常と逆の経歴で新規事業/新組織を担当。関与は小売、EC、デジタル/リアル、メディア、サービス等。トイザらスでマーケティング部門/EC法人立上げ、ジュピターショップチャンネル役員(EC・マーケティング)、GSIcommerce/eBayEnterprise APAC代表/日本法人社長。三越伊勢丹ではコンサルでの関与後EC役員事業部長に就任、オムニチャネル推進も担う。大規模EC3社の事業責任者経験は珍しい。ベンチャー~大企業の新規事業、戦略、マーケティング、EC、小売、リアル・デジタルを実務視点で支援。Babson College MBA

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