LINEが新たに発表した取り組み、アダストリア・アサヒビールの取り組み事例も紹介

ECのミカタ編集部

2021年5月14日にLINE BIZ DAYが開催された。2020年のLINEの法人向けサービスの取り組みの振り返りや2021年に控えている新たなサービス、さらにはLINEを活用してデジタル施策を推し進めている事例が紹介された。その一部をご紹介する。

2020年の振り返りと2021年の新たな施策

2020年、LINEは引き続きそのユーザー数を400万人伸ばし、8,800万人(2021年3月時点)にその数を伸ばした。また法人向けのLINE公式アカウントのアクティブアカウント数(認証済みアカウントのうち、月に1度以上機能を利用しているアカウント)もYoY121%増になり、27万アカウントまでその数を伸ばしている。

そんなLINEが2020年に新たにリリースしたプロダクトが以下の3つだ。
・Talk Head View:LINEで最も利用されるトークリスト上部に掲載される広告枠
・LINEミニアプリ:自社サービスをLINEアプリ内で提供することが可能に
・LINEで応募:LINEの従来のデジタル販促を1つに統括

そんなLINEが2021年に新たに展開する予定のものを紹介していこう。

店舗スタッフのデジタル接客を推進するSTAFF STARTとLINEの業務提携が発表された。

コロナの影響で実店舗は大きなダメージを受けている。そんな中、店舗スタッフはSTAFF STARTを通じて顧客に対して情報を発信してきた。その結果、2020年にSTAFF STARTを通して発生したEC経由の売上額は1,104億円と新たな市場を作り出した。

そんな今の時代に必要とされているSTAFF STARTと8,800万人のユーザーを抱えているLINEの業務提携はどのような価値を生むのだろうか。

新たにスタートするサービスは「LINE STAFF START」。すべての店舗スタッフに対してLINE公式アカウントを付与するサービスだ。

友だちになったLINE公式アカウントのやり取り内で、ユーザーは自身と合いそうなスタッフを選択することができる。そうすると選択したスタッフから直接、接客を受けることが可能になるのだ。スタッフがオススメした商品はLINE上で購入が可能なため、ユーザーからするとECサイトに移行する必要がなく、スタッフからは評価も可視化される双方にメリットある仕組みになっている。

さらにはユーザーは普段慣れ親しんでいるLINEのUIそのままに接客体験が可能となっている。一方で、スタッフは自社商品、自分のコーディネートがLINE画面上に表示され、ワンタップで送信できるUIになっている。自社サイトからアイテムを探しリンクコピーをする手間を省いた設計でスタッフの負担も軽減が可能になった。

LINE公式アカウントをベースにしているため1to1だけではなく一斉配信も可能だ。ビデオ通話による接客やライブコマース、実店舗への来店検知も機能としては想定中とのことだ。

今年秋のローンチを目指している。STAFF STARTを運営しているバニッシュ・スタンダード 代表の小野里氏は「顧客の購入体験と従業員の販売体験も変わる今回の業務提携の目的はデジタルを活用しリアル店舗や商業施設、そこで働いているスタッフをもっと活性化させること。

デジタルを活用してリアルをよくしていく、そんな未来をLINE社と一緒に作っていきたい」と述べた。

2つ目の発表はフィードフォースとの業務提携だ。

オンラインとオフラインのデータを統合し、小売のDX化を図る。具体的な取り組みは、次のようになっている。

◆EC事業者向けLINEログインパッケージ

[概要]
ECサイトにLINEログインとMessaging APIを手軽に導入できるID連携サービスだ。LINEを活用したCRM / One to Oneのコミュニケーションを実現するために必要な機能を、まとめて導入することができる。

[提供価値]
・LINEログインによる会員登録率の向上
・自動ログインとLINE通知メッセージによるユーザー体験の向上
・ECサイト上の行動データにもとづいたコミュニケーションによるリピート率向上
・親和性が高い見込み顧客への広告配信による新規集客

◆実店舗事業者向け会員証パッケージ

[概要]
LINEアプリ上にデジタル会員証を作成できるサービスだ。会員証をLINEミニアプリとして搭載することで、LINEを通じた会員管理とコミュニケーションの自動化・最適化が可能になる。

[提供価値]
・会員管理機能の提供
・会員証のデジタル化によるユーザー体験の向上
・会員証発行の店頭オペレーションコスト削減
・実店舗の購買データにもとづいたコミュニケーションによるリピート率向上
・親和性が高い見込み顧客への広告配信による新規集客

2社続けての業務提携を発表したLINE。両方、小売のデジタル支援が軸になっており、より小売事業者によるLINE活用事例が増えることになりそうだ。

15アカウントで友だち数2900万人 アダストリアが目指す「パーソナライズ」とは

15アカウントで友だち数2900万人 アダストリアが目指す「パーソナライズ」とは

アダストリアが登壇したセッションではLINE公式アカウントを活用した顧客とのパーソナライズコミュニケーションをどのように構築していこうとしているのか、執行役員 マーケティング本部長 兼 広告宣伝部長の田中順一氏より解説がなされた。

30を超えるブランドを国内外に約1,400店舗展開しているアダストリア。ファッション以外にもインテリアや食などマルチにカテゴリー展開を行っている。自社EC「.st(ドットエスティ)」の会員数は1,200万人を超える。

そんなアダストリアのマーケティング戦略は認知、好意度、新規、売上の、4つの軸から成り立っている。その指標全てに関わり、最もアダストリアとしても重要視していることが顧客の声やNPSのスコアだという。毎日、顧客からの意見を定量・定性両方の観点から確認し、実際に反映している。

そんなアダストリアはLINE公式アカウントを主に以下の3パターンに管理・運用をしている。

・大きいブランド:認知や事業規模が大きく友だち数がすでに多い。特定ユーザーに向けて双方向のコミュニケーションなどが行えるMessaging APIを導入。
・新規ブランドなど:友だちを増やしていくステータスのブランド。友だちが増えたらMessaging APIの導入を検討
・.st:全配信やセグメント配信を行う。さらにはLINEのID連携を行い、会員データ活用している。より広い情報を取得したいニーズを持っているお客様向け。

全体の友だち数合計2,900万人、その中でのID連携者は100万人とのこと。

配信内容もアカウントの目的によって配信内容を変えたり、販促だけではなくブランディング目的での配信など使い分けを行い、そしてうまくいった事例は他ブランドの配信に活かしている。

多くのブランドを展開しているアダストリアならではの考えだが、ブランド毎にアカウントを作る必要はあるのだろうか。

田中氏はブランドの目的、事業モデルごとに大きく変わってくるとしながらも、ブランド単体の情報が欲しい顧客に対して、マスの情報を配信してもノイズになってしまう。そのため、ブランドのアカウントと全体のアカウントを使い分けることで、相乗効果が発揮される考えのもと上記の運用方法を継続していると話した。

また友だち数に関しても、必ずしも数の多さが重要なのではないと語っている。総数より、どのような内容を、どのくらいの頻度で、どの程度配信することができるのか。これらを踏まえながら、実際の開封率や投資額に対して定量的にも定性的にも判断することが大事とのことだ。

ではアダストリアはLINE公式アカウントを活用することで、どのような効果が発揮されているのだろうか。

わかりやすいところで言うと、メールなどの配信ツールと比較した時のクリック率は3倍に。そして全体のアクティブ会員と、LINEのID連携を行なっているコアユーザーを比較した時、ロイヤル顧客となる割合もID連携しているユーザーの方が全体割合で比較した時、15%多い結果に。

さらにはリアクションの即効性に関してもメリットが大きいと話した。年代・性別など内容を絞れば絞るほどクリック率は高くなる傾向にある。

LINEで繋がっているユーザーは、感度の高さが伺える結果と言えるだろう。

目的に応じて配信内容も使い分けているアダストリア。まだまだ道半ばとしながらも、よりパーソナライズ配信に注力していくとした。情報が溢れていくなか、必要な情報しか目に入れない時代になりつつある現代で、いかに見てもらうかを考え、クリエイティブ作成や施策展開を行なっている。

さらには、LINEの即効性を活かす取り組みとして、ライブ配信も強化している。1時間後のライブ告知などはLINEとの相性は非常にいいのだという。企画にもスタッフのこだわりを感じる。低身長の方に向けた、ママに向けたライブ配信を企画立てし、個別配信などを活かしターゲットを絞ることで顧客にとって必要な情報を届けられるようにしているのだ。

企画立てを行う際に重要になっているのは、データも重要だが、それ以上に店舗スタッフの意見だという。日々、顧客と接していくなかでどのような悩みが多いのか、どのような課題を解決できるブランドなのかを捉えられている店舗スタッフは非常に貴重な存在だ。

アダストリアの店舗スタッフは約1万人。コロナの影響もあり、オフラインからオンラインにも力を発揮したと言う。ライブ配信以外にもSNSやWebサイトにスタイリングアップを投稿することで、新たな顧客接点を創出した事例になった。

新たにOMO店舗といった新しいチャレンジを行っており、スタッフのさらなるデジタル展開にも注目が集まるアダストリア。店舗での会員登録もLINE上で行えるようになり、スタッフにも顧客にも負荷のかからない仕組みづくりを進めている。

アダストリアが目指すことはナカマーケティング(仲間×マーケティング)。ブランドというコンテンツとそれらを担うアダストリアの従業員、そして顧客、この3つが仲間として捉えたマーケティングを深化させていく。そのために顧客1人に100通りの自分ごとになる情報を届けていく必要がある。

この世界を実現するためにもアダストリア1社だけではなく、さまざまな方々と協力していくとして締めくくった。

アサヒビールと共に考える、LINEを活用したデジタル販促と今後の展望について

アサヒビールと共に考える、LINEを活用したデジタル販促と今後の展望について

アサヒビールはLINEを活用した販促領域のデジタル施策を早期から着目し、数多くのチャレンジを積み重ねてきた。BtoBtoCとしての歴史が長く、顧客の情報を直接収集することに課題を抱えていたアサヒビールだが、LINEとの取り組みによりブランド体験までをカバーした事例を紹介する。

アサヒビールの事例詳細の前に知っておきたいのが「LINEで応募」というキャンペーンプラットフォーム。商品に貼ってあるQRコードを読み込むだけでキャンペーンに参加できる。

ユーザーは専用のアプリやID/PASSなどは不要で簡単にキャンペーンに応募することができ、企業はどのような顧客が商品を購入したかを把握することが可能になり、さらには個別のメッセージ配信にも対応している柔軟性の高いサービスだ。

アサヒビールはこの「LINEで応募」を活用することで、ハガキで行なっていたときより数倍に応募数を伸ばしている。この他にも店外から店内、購買、再購買までLINEはデジタル販促のメニューを揃えており、それら全てがデータとして利活用できる。

これらを活用し、アサヒビールはどのような取り組みを行なったのか。

2017年にLINE公式アカウントを開設したアサヒビールは、この4年間にさまざまなチャレンジを行なってきた。2020年にはAIを活用した配信を開始したり、今年に入ってはアサヒビール最大のブランドであるスーパードライのキャンペーンもLINEを活用して訴求を行っている。

マーケティング施策の中心としてLINEを据えているには大きく2つの理由があるという。

1つは8,800万人(2021年3月時点)の圧倒的な会員数。そして2つ目は会員IDの信頼性の高さ。携帯端末に1つという会員IDは企業が顧客とコミュニケーションを行う際に判断に迷うことがないのだという。

LINEの強みを最大化するために、アサヒビールは今現在、あらゆる顧客接点に「LINEの入り口」を作っている。その理由として玉手氏は、どのようなビジネスでもお客様との接点が存在する。その接点全てを意図的にデジタルで管理することが重要であると説明した。

アサヒビールと顧客は、量販店や飲食店、工場やECなどが主要な接点になる。また販路だけではなく、購入頻度や手に取っている時間のアンケート結果などあらゆる情報を1つのIDで紐付け中長期的に蓄積、そしてその結果から最適なコミュニケーションを行うことを愚直に推し進めていく。

そして要となる、情報が蓄積されるIDがLINEというわけだ。

具体的な事例として、2021年に行ったスーパードライのキャンペーンを紹介する。

「LINEで応募」を活用したこの取り組みは、6本購入するとイベント参加か、限定グッズに応募できるものだ。

アサヒビールとしては、6本購入してくれる顧客がどのようなユーザーなのかを把握したかったという。そのためにユーザーが応募する際にはアンケートを設けて、正確なデータを取得するようしていた。そしてそのデータをCDPに集約し、分析を行なっていたという。

ハガキと大きく異なる点はスピード感とリアルタイム性だ。

キャンペーン開始初日から分析を行うことが可能になり、仮説検証のスピードが格段に向上した。その結果、ターゲットに合わせたクリエイティブを配信するリードタイムも改善している。

さらには毎日、情報が更新されるため、日々行った施策が顧客のどのような行動に影響したのかが分かる。アサヒビールでは、キャンペーン終了の1週間前にLINE上で締め切り間近であるプッシュ配信を行った日が、最も応募数が増えた結果であることが確認できている。そこまで大変な動きではないので、締め切りアラートのプッシュ配信は顧客のためにもなるので、玉手氏おすすめの施策とのことだ。

アサヒビールに根付いている言葉として、「当たり前のことを馬鹿にせずちゃんとやる」というものがある。これまでの施策はエクセルで出来ることで、高度なMAなどは必要としていない。目の前の顧客のためを考えたときにどのようなアクションが必要なのかを考え、実行することが何よりも大事なのだ。

また、アサヒビールはAIを活用しLINE公式アカウントからのメッセージ配信を高度化、効率化を図っている。誰に何を送った方がいいのかを人間の感覚だけではなく、AIに判断させることで何が大きく変化したのだろうか。

アサヒビールでは、AIの精度を確かめるためにテストを行った。

テスト内容はとあるキャンペーンに対して、全員に配信を行ったときの場合と、AIが応募するだろうと予測したユーザーのみに配信をした場合の応募率を計測するというものだ。

テストの結果、AIが予測したユーザーの方が17.9倍、スコアが高かった。

「誰に送るべきか」の予測も重要だが、それ以上に「誰には送らなくて良いのか」をAIは予測できるようになっている。友だちの数が増えるにつれて、誰に何を送れば良いのかわからないという表裏一体の課題に対して、人の感覚と併せてAI活用は最適なコミュニケーションに寄与する。

AIが夢中を超える時代になりつつあるという玉手氏の感想も印象的だった。

では実際にどこからスタートするべきなのだろうか。玉手氏の意見は「事業のど真ん中」だ。最も顧客とのつながりが強く、データ蓄積も早いところから展開していくことで改善点も見えやすくなり、提供できる価値も大きいと話した。

アメリカのデータには、世界を見たとき「購買の判断軸」は変わってきている。

アメリカのデータには、世界を見たとき「購買の判断軸」は変わってきている。

85%の消費者は信頼するブランドのみからの購買を検討し、63%の消費者はブランドへの信頼がなくなったため購買をやめた経験があると答えている。

60%のミレニアル世代とZ世代は「製品そのものよりも、ブランドが果たす”社会的問題の解決”で購買を判断する」という結果が出ている。

国内データではないものの、この潮流はいずれ日本にも訪れると予測すると、国内事業者も販促の取り組みなどに備えていく必要があるのだ。

「LINEで応募」はオトク感を創出するキャッシュバックキャンペーンと、ブランド体験を創出するイベントなど幅広い軸をカバーすることで、企業にとって使いやすいプラットフォームを目指していくとしている。

もちろんユーザーの使いやすさも重視している。今後、リテール企業との各種連携により、応募手段も拡充していく。そのためにLINEはリテールパートナープログラムを新たに開始した。ユーザー、リテール店舗全てに対してさらなる支援を拡充していくとした。

経営統合し注目も集まっているZホールディングスグループのヤフーやPayPayとも今後販促領域における連携が始まる。短期ではなく、中期的なユーザーとの関係構築が必要になるなかでデジタル販促をどう仕組み化していくのか、アサヒビールの事例から学べることは多い。

LINE活用は大前提の戦略か、事業規模問わず活用が可能。

LINE活用は大前提の戦略か、事業規模問わず活用が可能。

アダストリアとアサヒビール以外にもTVerや東急ストアもLINEを活用したデジタル施策の事例を話していたが、感じたのはLINEが持つ可能性の広さだ。

LINE自体はコミュニケーションツールとしてあまりに身近な存在であるが故に、その他の活用方法に目が向かない人もいるのではないか。

しかし、LINEはサブアカウントを作れないのでパーソナライズに強みがあり、小売のデジタル化を推進する姿勢を改めて見てみるとEC事業者は絶対に無視はできない。

高度なマーケティングツールと遜色ない機能性を兼ね備えており、どの事業規模でも活用することができる価格設定。まずはLINEを活用してマーケティングを始めようという考えも一般的になっているのではないか。

まだ施策でLINEを活用していない事業者で検討もしたことがない方はどのような施策が実現できるのかから情報収集をしてみてはいかがだろうか。

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