ペイパルの取り組みに学ぶ、決済代行サービスの活用術

利根川 舞

左からPayPal Pte. Ltd. ラージマーチャント セグメント 統括部長 橋本 知周氏、
一般社団法人 日本旅館協会 会長 針谷 了氏、クレジットカード委員長 森 晃氏

クレジットカード決済代行のペイパルが日本の旅館を救う

 昨日、PayPal Pte Ltd.(以下「ペイパル」)は急増する訪日外国人観光客への決済時におけるサービスの向上の一環として、一般社団法人 日本旅館協会(以下「日本旅行協会」)の会員施設が自社サイトでペイパル決済を導入できるよう全面的にサポートしていくことを発表した。

 ”訪日外国人観光客”といえば、「ECのミカタ」でも越境ECにつながるチャンスであることを度々お伝えしているが、今回のペイパルの取り組みにおいても、”訪日外国人観光客(インバウンド)”、”越境EC”、”決済代行”、”クレジットカード情報の非保持化”など、EC通販業界にも関係のあるキーワードが。

 日本政府観光局によると、 2016年4月の訪日外国人旅行者の数は前年同月比18%増の208万2千人となり、 3月の201万人を上回り2ヵ月連続で単月での200万人超えを達成した。 さらに、2020年に行われる東京オリンピック・パラリンピックに向け、 訪日外国人宿泊客の増加が予想されている。

 日本旅館協会だけでなく宿泊施設では、 各国ごとの文化や決済サービスの相違により、 予約をしているにも関わらず当日連絡もなく宿に現れないお客様(No-show)や直前キャンセルなどの弊害も出てきているそうで、そういった状況を鑑みて日本旅館協会はペイパルの導入に至ったそうだ。

 登壇した日本旅館協会 会長の針谷 了氏によれば、”No-show”や”直前キャンセル”は入るはずの売上やキャンセル料を回収できないだけでないという。ビジネスホテルとは異なり、旅館では一泊二食が一般的で、宿泊者からの連絡もない場合や直前のキャンセルの場合、料理や宿泊者のために確保していた人員も無駄になってしまうのだ。

 また、ゴールデンルートと呼ばれる東京、大阪、京都などの観光地に旅行者が集中しており、地方への環境客が少ないという問題も起こっており、”地方創生”が叫ばれている今、観光客が来ないという状況はいただけない。

ペイパル導入で何が変わる?

ペイパル導入で何が変わる?

 宿泊施設施設に対して、ペイパルが提供できることとして4つが挙げられた。まずは、事前決済による機会損失の低減。2つ目に予約者が安心して決済できるシステムの提供だ。

 世界中で利用されているクレジットカードの主要ブランド全てが登録できるため、スタンダードな決済方法として利用されており、消費者を惹きつける”ネームバリュー”がある。また、ペイパルは1万6千人の社員のうち8千人がセキュリティチェックを行っている部署におり、世界最高峰のセキュリティ技術を誇っているのだ。

 3つ目に、世界に約1.8億人いるペイパルユーザーへのアプローチやエリア単位のPRで地方の活性化も行うことができる。例えば、国内であれば「ペイパルクリップ」というペイパルを使って決済が行えるお店などを紹介しているサイトがある。国外であれば、銀聯カードとの提携によって、銀聯カードのサイトにペイパル決済が利用できるお店が「ペイパルクリップ」のように紹介されたりと、世界へ向けてのプロモーションができるのである。

 これらはEC通販業界においても同様のことが言えるだろうが、ECサイトにとってもさらに嬉しいのは、スマートフォンやパソコンなどのデバイスが同じであれば、ペイパル決済を導入しているサイトではIDやパスワードの入力が一度で済ませることができる。個人情報の入力の手間を省き、離脱を防ぐサービスはいくつかあるが、ペイパル決済であればそのIDとパスワードを入力する手間すら省略できる。

 さらには、宿泊施設であれば電話やメールのみで受け付けているような、サイトを持たない宿泊施設もメールを送ることができる。一方、ECサイトであればショッピングカートを持たずして、ボタンのみで決済が可能となるなど、ペイパルユーザーの手間をとことん減らしているのだ。

 約1.8億人で構成される「ペイパル経済圏」において、新規ユーザーの集客から、ペイパル決済による離脱防止までが一貫して行えるのが、ペイパルの強みと言える。

決済代行サービスのメリットとは?

 では、ペイパルのようなクレジットカード決済代行サービスを利用することはどこにメリットがあるのか。

 クレジットカード決済を導入している時、何が一番怖いかといえば、顧客のクレジットカード情報を管理しなければならないことだろう。顧客の個人情報やクレジットカードの番号だけでなく、セキュリティコードも管理しなければならない。もちろん、セキュリティ対策はしていても、顧客の情報を持っているとなれば不安はぬぐえない。

 加盟店には2018年までにクレジットカード情報の非保持化、もしくはPCIDSS(データセキュリティの国際規格)への準拠が求められており、そういった意味でももともとクレジットカード情報を持つこのない決済代行サービスを使うことはメリットとなる。

 そして、クレジットカード決済代行サービスでは数種類のクレジットカードに対応しているのもポイントだ。一つ一つのクレジットカード会社と契約する場合、数を増やせば増やすだけコストがかかってしまう。しかし、例えば、ペイパルではビザ、マスター、アメックス、JCB、銀聯の他に各国における主要カードにも対応しており、国内のユーザーだけでなく、世界中のユーザーに利用してもらえるのだ。なお、ペイパルでは年内ないし来年には日本においても銀行口座をペイパルに利用できるようにしていくという。

 今回の記者会見の中で、日本旅館協会 クレジットカード委員長を務める森 晃氏は旅館は地方の文化と経済の中心であると定義しつつも、「旅館だけがクレジットカードを使えても意味がないのです。」とコメント。地方の文化に親しんでもらい、経済を回していくためには、その周辺のお土産屋や、飲食店などもクレジットカードに対応していかないと利便性は向上していかないというのだ。

 それはEC通販業界にも当てはまることで、数あるうちの1店舗が利便性を向上させるのではなく、業界全体がそういった意識を持つことで、”ネットで商品を買う”がさらに当たり前になり、業界をさらに盛り上げることができるのではないだろうか。

 今回のペイパルと日本旅館協会との取り組みは、直接ECサイトに関係のないように思えて、日本をより知ってもらうための良いチャンスであり、日本の文化を、日本の商品を知ってもらうことで、帰国後の越境ECにつなげることができるのである。日本の”おもてなし”を世界に発信するチャンスが、ここにある。


記者プロフィール

利根川 舞

メディア編集部
ロックを聴きつつ平安時代に思いを馳せる文学人間。タイムマシンができたら平安時代に行きたいです。
ライブハウスやフェス会場に出没しては、笑って、泣いて、叫ぶ姿が目撃されている。ACIDMANや10-FEET、ROTTENGRAFFTYが大好き。

サービスやその場の雰囲気がイメージしやすくなるような記事を書いていきたいと思います。

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