消費者庁より怖い?適格消費者団体

【連載コラム】これだけはおさえておきたいECの法律問題
アンダーソン・毛利・友常法律事務所 弁護士 木川和広

第1回:ライザップの事例から考える景品表示法への対応
http://ecnomikata.com/ecnews/backyard/7009/

前回のコラムでは、消費者団体からの景品表示法違反の指摘に対して、ライザップが鮮やかな幕引きを図って事態を収束したことをご説明しました。

今回は、もしライザップが消費者団体と全面対決したらどのような結末が待っていたか、法律的な観点からご説明したいと思います。

適格消費者団体の差止請求権

ライザップに申入書を送付したNPO法人「ひょうご消費者ネット」は、消費者契約法上の「適格消費者団体」です。適格消費者団体とは、消費者庁長官の認定を受けて、消費者の利益のために、法律上の差止請求権を行使する団体をいいます。適格消費者団体による差止請求権は、消費者契約法、景品表示法、特定商取引法、食品表示法の4つの法律に規定されています。

適格消費者団体は、これらの法律に違反する状況があると判断した場合、まず事業者に対して、書面による差止請求をします。ひょうご消費者ネットがライザップに送付した申入書(書面による差止請求)には、以下のように記載されていました。

「直ちに、貴社のテレビコマーシャル、ホームページ及びパンフレット等の広告において、『30日間全額返金保証』及びその内容の記載を削除することを申し入れます。」

書面による差止請求が事業者に到達して1週間を経過した場合、または事業者が差止請求を拒んだ場合、適格消費者団体は、その事業者に対する差止請訴訟を提起することができます。この制度は、「消費者団体訴訟制度」または「団体訴権」と呼ばれています。

適格消費者団体による差止請求が裁判所に認められた例として、今年1月の京都地裁の判決があります。これは、サン・クロレラ販売の関連団体である「日本クロレラ療法研究会」が配布していた折込みチラシの記載を、サン・クロレラ販売の商品に関する優良誤認表示と判断したものです。この判決は、EC業界でも度々問題になるリンク商法に関する新しい判断を示したもので、皆様の参考になると思いますので、次回、詳しくご説明いたします。

必ず消費者庁が出てくるわけではない

景品表示法に違反する表示が行われた場合、消費者庁長官や都道府県知事による「措置命令」の対象となることがあります。一般的に、措置命令では、①問題の表示を差止めること、②違反表示であったことを新聞広告などで消費者へ周知すること、③再発防止策を講じること、④今後同じような表示を行わないことが命じられます。もし、ライザップが広告も会則も変更せずに突っ張ったとしたら、行政当局が調査に乗り出して措置命令が出された可能性も否定できません。
 
一方、行政当局が動き出す前に事業者の方で自主的に改善措置をとった場合、措置命令を受けずに済むことがあります。一昨年に世間を騒がせたメニュー偽装の際は、あまりに消費者庁に持ち込まれる案件が多かったため、自主的に違反を申告した会社に対しては口頭注意だけで済ませるということが頻発しました。それで、多数の案件を処理する必要性から、消費者庁長官が独占していた措置命令権限を都道府県知事に拡大したという経緯もあります。

報道のコントロールが大切

実は、ライザップの問題が起こったのと同じ頃、全日本通販という会社に対して措置命令が出されました。しかし、この措置命令はあまり世間の話題にもならず、ライザップの件だけが大々的に報道されました。行政当局や裁判所が景品表示法違反を認定したわけでもなく、消費者団体が申入書を送っただけなのに、報道を見た方は、あたかもライザップの景品表示法違反が確定したかのような印象を持たれたのではないかと思います。

ライザップの方が全日本通販より知名度が高く、ニュースバリューがあったことは事実ですが、ライザップの話題がここまで大きく報道されたのには、適格消費者団体によるマスコミへの情報提供の影響も少なからずあったと思われます。それをうかがわせるものとして、ライザップに対する申入書には、以下のように書かれていました。

「本書面並びに本書面に対する貴社からのご回答の有無及びその内容等、本書面に関する経緯・内容についてはすべて公表させて頂きますので、この旨申し添えます。」

表現はお堅い感じですが、要するに、言われたとおりに是正しなければ、マスコミに情報を提供するなどして、世論に訴えるぞという脅しのようなものです。消費者庁よりも適格消費者団体が怖いのは、マスコミを使ってネガティブキャンペーンを仕掛けてくることがあるからです。その意味で、適格消費者団体との泥仕合を避けて、すぐに会則を修正したライザップの対応は、報道コントロールの観点からは、非常に鮮やかな対応だったと言えます。

次回は、今回のコラムの中でご紹介した京都地裁のサン・クロレラ判決について解説いたします。