ebayで越境EC、始める際に考えるべきポイント

「ebay」世界最大のマーケットプレイスの日本支社トップによる説明会

「ebay」世界最大のマーケットプレイスの日本支社トップによる説明会イーベイ・ジャパン事業本部長 佐藤丈彦氏


イーベイ・ジャパン株式会社(以下、ebay)は、東京ビックサイトで5月13日より開催される「第3回通販ソリューション展春」内においてブース出展や越境ECセミナー及び、13日には同社事業本部長による越境EC市場動向などのメディア説明会を行った。
ebayは「イーベイ・ジャパンへのさらなる理解促進、及び重要なマーケットである日本市場における事業展開の説明機会を設けさせていただきたい」とし、ebayの概要や越境ECの市場動向などの講演を行った。

ebayは、1995年9月にアメリカで設立された、インターネットオークション世界最多利用者数を誇るインターネット通信販売やオークションを手がける企業。日本国内には99年「イーベイジャパン」を設立するも、2002年に一度撤退している。2007年に、過去のライバルであったYahoo!オークションと提携を結び再び国内市場に参入している。
同社の大きな特徴は、世界約190の国と地域、1.5億以上のebayユーザーに向け自社商品を販売できる点である。また販売方法も固定価格とオークション形式など選択でき、世界最大規模のマーケットプレイスでビジネスを手がける事が可能となっている。世界中に1.57億人のバイヤーと2,500万人のセラーが存在し、常時8億商品が出品されており、約9.8兆円の取引高を誇っている。

越境ECを始めたい、または現在行っている事業者にとって、長年の実績とノウハウをもったebayは非常に多くのビジネスチャンスが眠る市場であるといえる。
しかしその一方で、アカウント作成までの工数が同業他社と比較して非常に多く、時間がかかることであったり、新規アカウントでの出品点数に制限があり、購入者からのフィードバックで良い評価を獲得し「アカウントを育てる」期間を置かないとビジネスとして成り立つトランザクションがさばけないなど、軌道に載せるまで多くの体力が必要という難点があることも事実である。アカウント作成の指南本が流通していることからも、ebayのそれが他社比較で難易度高めであることが伺えるであろう。
出品点数の制限枠を増やすために交渉が必要であったり、諸々の審査基準がユーザーには全く明かされていないことなどから、小規模事業者や中小企業などの中には「アカウントを育てる」期間に耐えきれずに離脱してしまうというケースが数年前まで見受けられた。

今回、同社事業本部長である佐藤丈彦氏のメディア説明会に参加し、質疑応答の機会をいただけたので、「ebayの今」を知り、越境ECへの活用と海外販路の拡大を計るためのハウトゥを学んでいきたい。

質疑応答

ーーアカウント作成など、スタートする際のハードルが同業他社と比べて高めである印象があるのですが、今後下げていくご予定などございますか。

○実は、新規スタートのハードルが高いという声は多く、もちろん弊社としてはハードルを下げていきたいと考えております。iPadなどで使用できるアプリケーション導入をしていったり、「モバイル化」という面などでも使いやすさは非常に向上されておりますので、セラー(出品者)様に対してのサービスを今年は特に本格化していきたいと思っています。

ーー数年前のお話で恐れ入りますが、米国版では新規アカウント取得した際、出品点数の個数制限がございましたよね。まずは月間10出品までで、購入者からの良い評価を積み重ね交渉を行い、出品点数の制限枠を広げていく。というやり方がスタンダードだったと思うのですが、今後そういったフローや制限の簡略化などされるご予定はございますか。

○まず、「制限」には、「手数料が発生する」という制限と「出品できなくなる」という制限の二種類があります。手数料を加算される制限の面では、出品無料範囲枠をかなり拡大しています。現状、利用地域などで若干の差はございますが最大2,500商品までは無料出品が可能なので、拡大はされています。
出品個数制限の面では、弊社が重要視している「フィードバック」という購入者からの評価がありまして、フィードバックは非常に重要な指標となっております。例えば、ポリシーで販売ができかねる商品ジャンルの物などを売ってしまったり、間違った商品説明で別の商品が購入されてしまったりすると、購入者からの評価次第ではペナルティとしてアカウントが停止されてしまうこともあります。ですので、セラー様のアカウント停止リスクを防ぐ意味でも、徐々に慣れていただき、段階的に制限を広げていくというフローはおそらく今後もそのようになっていくかと思います。しかし、多く販売したいとおっしゃるセラー様に厳しい個数制限をかけるという状況は矛盾しておりますので、ご質問にありましたような事態は現状でも緩和されておりますし、今後も随時効率的に改善していきます。

ーー効率化かつ改善を進めながらも、セラー自身を守るためにも「アカウントを育てていく」というフローは従来通り行うということでしょうか。

○そうですね。せっかく作成されたアカウントが、慣れない大量出品によるミスなどで停止されてしまっては元も子もありませんからね。

ーーアカウント作成時の審査結果で、最初が10個からの企業があれば、最初から300個出品できる企業もあると思うのですが、その審査基準の明確な提示は可能なのでしょうか。

○出品される商品の性質や事業規模など様々な組み合わせ等で、弊社内部の審査部がコンフィデンシャルな部分もあり独自に審査を行っているため、明確な提示は難しいです。そういった意味では「やってみないと分からない」という側面はあると思います。

ーーちょっと長くなってしまいますが、物流面についてお伺いします。3月に日本郵便様が「クールEMS」という、フランスなどにクール便を送るサービスを開始しましたよね。その際に日本郵便様に気になる回答をいただいておりまして、御社を利用させていただき越境ECをやってらっしゃる多くの事業者様は、発送手段として日本郵便様の「EMS」を利用していると思います。ですが、フランスで日本郵便様のサービスを扱っているのは「クロノポスト」という会社様で、クロノポストの荷物の扱いが非常にラフすぎるという話を聞きます。不在のままサインも貰わず玄関先に放置であったり、中には従業員が荷物を…、それで結局行方不明に、なんていうウワサも耳にします。で、日本郵便様が「クールEMS」を開始した際、やはり現地での請け先はクロノポストでして、そこで「日本郵便」として何かクロノポスト対策を行いサービスのクオリティ向上を目指すかどうか訊ねたところ、答えはNOでした。現状でも、御社で越境ECを行う企業様にも、「フランスに送る際EMSは絶対NG」というケースが多いと思います。そこでお聞きしたいのは、御社では今後クロノポスト対策を行うご予定はございますか。

○現状ではピンポイントでの対策という動きはありません。ただ、「物」が一度国を超えて、しかも別の業者に渡ってしまったタイミングで何かコントロールできるかというと、おそらくどのような業者様でも難しいと思います。仰るように、ヨーロッパは若干そういった傾向が強いんです。そこは今後、弊社でも大きな課題となってくるポイントだと思って真摯に対応していきたいと思います。

ーーありがとうございます。決済面についてですが、現状、決済手段はペイパル様のみご対応ということでしょうか。

○そうですね、現在ではほぼ100%ペイパル様対応となっております。

ーーまたアカウントのお話で恐縮なのですが、ペイパル様もアカウント開設が非常に難しく、ここもebay様新規参入の大きなハードルだと思います。今後、アカウント開設が簡単に行える他の決済手段を導入されるご予定はございますか。

○基本的にはございません。ただ、分社化の話もあるため、今後可能性がゼロというわけでもありません。

ーー御社ポリシーで出品が禁じられている品目で、食品、アルコール類、並行輸入品、アダルトグッズ、とありますが、例えば並行輸入品の見分け方であったり、アダルトグッズに関しては書籍などでパッケージは通常でも中身は…という商品も多いと思います。そのような、商品監視の体制といった部分ではどのようになっているのでしょうか。

○定期的に弊社の方で確認をしております。「未然に防ぐ」という体制と「禁止商品は落とす」という対応でポリシーを守っております。

ーーYahoo!オークション様などでも禁止商品がいきなり出品取消されてしまいますが、同様のイメージでしょうか。

○そうですね。並行輸入品の見分け方に関しては、正直非常に難しくもあり、各国々で取り決めが決まっていまして、その差や違いなど多角的に検討しなければいけません。その辺りは、国を超えワールドワイドに事業を行っている故の特色でもあります。ですので、システムでガチガチに縛りつけるやり方ではなく、ポリシーにより双方の信頼関係を構築していくやり方で展開しています。さきほどご質問にありました出品点数などの件でも同様ですが、弊社は「信頼関係」を重視しております。少々時間がかかることは事実ですが、信頼関係が築けているセラー様は弊社ポリシーに大きく抵触することはありませんし、双方安心してパートナーシップを結んでいけると思っています。

ーーなるほど。信頼関係を重視しているからこそ、ある一定のハードルを持ってスタートし、関係を築いていく期間で徐々に大きくなっていく、というフローになっているのですね。ありがとうございました。

ebayの今

佐藤氏への質問を通じ、同社が新規参入時に一定のハードルを設けている理由が「信頼関係」を重視しているからということが非常に良く分かった。法律の違う世界各国をまたいで展開する事業だけに、信頼なくしては展開も難しいということには深くうなずける。
世界最大規模のマーケットプレイスebayでビジネスチャンスをつかむには、それなりの「覚悟」が必要。しかし、その覚悟の先には、文字通り世界が自社の顧客となる。簡易化が進む傾向がある業界中で、譲らないポリシーを貫き通す姿勢があるからこそ、信頼関係が持つ何よりの強みを知っているのかもしれない。信頼関係の中で「育てたアカウント」は、きっと何物にも代え難い我が子のような宝物になるだろう。