正しい利用規約のポイント(上)

【連載コラム】これだけはおさえておきたいECの法律問題
アンダーソン・毛利・友常法律事務所 弁護士 木川和広

第7回:意外と知らないメルマガの法規制(上)
http://ecnomikata.com/ecnews/strategy/7867/

第8回:意外と知らないメルマガの法規制(下)
http://ecnomikata.com/ecnews/strategy/7945/

EC事業者が消費者団体と頻繁にトラブルになる問題の1つが、利用規約の記載内容です。

法務部門を持たない中小事業者の場合、同業他社の利用規約をネット上で拾ってきて、少しだけ内容を変えて自社の利用規約にすることが多いと思いますが、元々の利用規約に何らかの法的な問題があり、その問題が残ったまま自社の利用規約として使用していることがあります。その結果、利用規約に書いてあるからということで、お客様からのクレームを拒絶し続けたところ、消費者団体から差止請求を送られ、慌てて弁護士に相談し、初めて自社の利用規約が法律に反した内容になっていると気づくということが起こります。

BtoCのビジネスをするに当たっては、自社の利用規約が法律に適合した内容になっているか、きちんと確認することが必要です。そこで、今回から2回にわたって、具体的な事例の説明を交えながら、利用規約をめぐる法律問題について解説したいと思います。

利用規約と消費者契約法

本来、ビジネス上の契約には、「契約自由の原則」とか「私的自治の原則」と呼ばれる近代法の基本原則が適用され、ビジネスの当事者同士が合意している限り、原則として、どのような内容の契約でも有効とされます。この原則は、お互いの情報力や交渉力が同等の場合には、経済活動を促進する上で有効に機能します。

しかし、事業者と消費者の取引のように情報力や交渉力に大きな格差がある場合には、消費者にとって一方的に不利な契約が結ばれるなど、様々な問題を生じます。そうした問題を解消するために、2000年に成立したのが、消費者契約法です。消費者契約法は、消費者に一方的に不利な条項を類型化し、そうした条項が契約に盛り込まれても無効だとしています。

事業者の賠償責任を免除する条項の無効

消費者に対する事業者の損害賠償責任の全部を免除する規定は無効です。例えば、「製品の使用により購入者に損害が生じた場合であっても、当社は損害賠償の責任を負いません。」という規定は無効です。

また、事業者に故意又は重大な過失がある場合の損害賠償責任の一部を免除する規定も無効です。故意というのは意図的に損害を与えた場合、重過失というのはほんの少しの注意を払えば損害を防げた場合です。例えば、「当社の損害賠償責任は〇○円を限度とします。」という規定は、軽過失の場合だけでなく、故意や重過失の場合まで損害賠償責任の範囲を限定し、それを超える部分の賠償責任を免除しているので、その限りで無効になります。

一方、「当社に故意または重大な過失がある場合を除き、損害賠償責任は〇○円を限度とします。」という規定であれば、軽過失の場合に限って一部の賠償責任を免除していることになりますので、「○○円」の部分の金額にも依りますが、直ちに無効とはなりません。

消費者が支払う損害賠償額を予定する条項の無効

消費者が支払う損害賠償額の予定条項が無効となるのは、以下の2つの場合です。

まず、消費者側からの契約解除に伴う損害賠償額の予定で、平均的な損害の額を超える部分については無効となります。例えば、1年間にわたって月に1回継続的に学習教材を送付する契約をし、割引された1年分の教材費を前払いしてもらうという契約において、半年以内の途中解約の場合は半年分の教材費を違約金として支払ってもらうというような条項を設けていたとしましょう。このような場合、おそらく、既に送付済みの教材の割引部分プラス解約に伴う諸経費の合算額が事業者の平均的な損害になりますから、半年分の教材費からこれらの合算額を引いた部分については、無効となるおそれがあります。

次に、消費者が支払い期限までに代金や利用料金の支払いをしなかった場合の遅延損害金は、年率14.6%を超える部分については無効となります。稀に、驚くような率の遅延損害金が記載されている利用規約を見かけますが、14.6%を超える部分については裁判上請求することができませんので、ご留意ください。

(次回に続きます。)