正しい利用規約のポイント(下)

【連載コラム】これだけはおさえておきたいECの法律問題
アンダーソン・毛利・友常法律事務所 弁護士 木川和広

第8回:意外と知らないメルマガの法規制(下)
http://ecnomikata.com/ecnews/strategy/7945/

第9回:正しい利用規約のポイント(上)
http://ecnomikata.com/ecnews/strategy/8002/

「消費者の利益を一方的に害する条項」とは?

前回のコラムでは、消費者契約法により無効になる利用規約の条項として、「事業者の賠償責任を免除する条項」と「消費者が支払う損害賠償額を予定する条項」についてご説明しました。

今回は、もう一つの類型である「消費者の利益を一方的に害する条項の無効」について、ご説明します。

消費者契約法は、民法、商法等の規定に比べて、消費者の権利を制限し、または消費者の義務を加重する条項で、信義誠実の原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは無効としています。信義誠実の原則とは、契約の当事者は、相手方の信頼を裏切らないように誠実に権利を行使し、義務を履行しなければならないという原則です。

前回のコラムでご説明をした賠償責任に関する規定は、消費者の利益を一方的に害する規定の典型例ですが、それ以外にも様々な態様で消費者の利益を害する規定が存在しうることから、このような包括的な規定が置かれています。

以下では、この規定によって無効となる条項の例をご説明します。

例1:消費者からの解除・解約を制限する条項

民法の規定では、事業者が商品の納期に遅れた場合、例えば、消費者から1週間の期間以内に納品するように求めたにも関わらず、その期間内に商品が納入されなかったとしたら、消費者の側から契約の解除をすることができます。

これに反して、例えば、「当社からの納品が遅れた場合でも契約を解除できない。」とか、「当社からの納品が遅れた場合であっても、1か月以内に納品した場合には契約を解除できない。」といった条項を設けると無効になる可能性があります。

例2:事業者からの解除・解約の要件を緩和する条項

上の例とは逆に、消費者が代金の支払期限に遅れた場合、事業者は相当な期間を定めて支払を催告する必要があり、その期間内に支払がない場合に初めて契約を解除することができます。

これに反して、消費者の側に期限の猶予を与えないような条項は無効になる可能性があります。例えば、「購入者が支払期限を徒過した場合には、催告無しに直ちに契約を解除できる。」といった条項を設けると無効になる可能性があります。

例3:消費者が一定の行為をしない場合に、承諾したものとみなす条項

民法では、申込者の意思表示または取引上の慣習により承諾の通知を必要としないものとされる場合には、契約は承諾の意思表示と認めるべき事実があったときに成立するとされています。

それにも関わらず、例えば、利用規約の中に、「当サービスの会員になった方には、当社の新商品を不定期にお届けします。会員が3日以内に商品を返品しない場合、その商品を購入したものとみなします。」などという条項があると無効になる可能性があります。

適格消費者団体からの差止請求

上記の例以外にも、無効となる条項はたくさんあります。それを全て例示することは難しいですが、一般論として言えば、あまりに事業者側に都合良くできている条項は無効になると考えれば良いでしょう。

こうした条項が利用規約に含まれている場合、以前のコラムでご説明した適格消費者団体の差止請求の対象になる可能性があります。差止請求がされると、適格消費者団体のHPに事業者名が公表され、場合によっては一般のニュースでも報道されることがありますので、差止請求を受けないように、予め自社の利用規約をチェックしておくことをお勧めします。