京東カンファレンス開催、中国越境ECの変化とチャンス

ECのミカタ編集部

5月23日東京にて、京東全球購(JD Worldwide)ビジネスカンファレンス&商談会が開催された。京東集団(JDドットコム)の責任者および日本のパートナー企業による、中国越境ECの最先端の講演とともに、当日その場で登壇企業の担当者と話ができる商談会が行われた。そこから見えてきた、中国越境ECの現状と今後の戦略について紹介する。

カンファレンス登壇者と全体感

 カンファレンス登壇者は下記の通り。まずは、急成長する中国越境ECの現状について、また今年の4月に行われた税制改正について話があった。これは中国政府が越境ECに対して積極的な姿勢を見せているということでもあり、中国越境EC市場に参入を考える企業にとって、まず押さえておかなければならない点だろう。

 そして、実際に中国越境EC市場に参入した日本企業の事例、その際にどのような点に注意すべきなのか、成功事例・失敗事例を交えての話が続いた。日本とは全く違う環境、頭では理解していたつもりでも現地に行くと全く違った…そんなことが、越境ECでは特に起こりやすい。事例を知ることは、制度を理解すると共に、大きな力となってくる。

カンファレンス登壇者
・オリックス株式会社 中国室 VP 呉 桐桐
・京東集団(JDドットコム)副総裁 辛 利軍
・京東全球購(JD Worldwide)総監 陳 婉
・DHLグローバルフォワーディングジャパン株式会社
  営業本部 トレードレーンマネジメント部 部長 木目田 宗之
・株式会社オプトホールディング 上席執行役員 吉田 康祐
・上海鲲馳貿易発展有限公司 総経理 李宏德

中国EC市場における2つの変化

 中国経済は、いまだ成長を続けているとは言え、これまでに比べると成長が鈍化していると言われる。確かにネガティブな要因があるのも事実だが、一方で個人消費は二桁台の成長を見せており、GDPのおよそ60%を占めるまでになっている。経済成長に伴い、主要産業が製造業から小売業等の第三次産業へと転換し、中産階級ができつつあるという見方もできるようだ。その中で、価格重視から品質重視へとニーズの変化も起こりつつあるようだ。

 個人消費の中でも特に急成長しているのが、EC市場だ。2016年グローバルインターネット通販売上予測ランキング(eMarketer調べ)において、中国は対前年度比27%超の成長率を見せ1位となっている。また、その中で大きな変化が2点ある。1点は、これまで中国のEC市場はC2Cがメインだったが、2015年にB2Cの市場占有率がC2Cを超えたということだ。もう1点は、スマホ利用の増加だ。「微信」「QQ」等のスマホアプリを経由した注文も多い。京東も2014年5月、QQとの提携を行っている。

中国越境ECの今、そして税制改正

 中国越境ECにおいて大きなニュースと言えば、2016年4月8日の税制の改正がある。この改正を理解するためには、まず、中国越境ECにおける2つのモデルを理解する必要がある。その2つのモデルとは、直送モデルと保税区モデルだ。直送モデルとは、中国のユーザーがECサイトで購入した商品が、海外の販売元もしくはメーカーから直接届くモデルのことだ。保税区モデルとは、中国のユーザーがECサイトで購入した商品が、中国国内にある保税区から発送されるモデルのことだ。海外の販売元もしくはメーカーは、この保税区にある倉庫に商品を送っておく形になる。

 通常、中国と海外のB2Bの取引、一般貿易の場合は、関税・増値税・消費税という3つの税金が設定されている。消費税に関しては、特定の嗜好品・贅沢品に対してのみだが、化粧品はその対象となる。一方、越境EC、B2C取引の場合はこれまで、1件の購入金額の上限を1000元・年間の購入金額の上限を2万元として、この3つの税金の代わりに「行郵税」という低い税率の税金が設定されていた。また50元以下の取引については免税措置が取られていた。

 これら特別の税制が取られていた背景としては、内外格差をなくし、消費者にメリットを与え取引を活発化するという目的があった。しかし越境EC市場が拡大する中で、B2C取引と偽って安い税率で輸入した商品を中国国内で販売する等、税金逃れ等が問題になってきたこともあり、新たな税制が導入されることになった。また、この新たな税制には、中国政府が越境ECにより積極的に参入していくという姿勢もうかがえる。

新税制の詳細とその影響

 では、新税制は具体的にどのようなものなのだろうか。まず、直送モデルにおいては、1件あたりの購入金額上限が2000元に引き上げられ、行郵税税率が4段階(10%/20%/30%/50%)から3段階(15%/30%/60%)へとまとめられ、実質的に税率が上がったことになる。保税区モデルにおいても、1件あたりの購入金額上限が2000元へと引き上げられた。そしてここが大きいのだが、50元以下の免税が廃止され、さらに行郵税が廃止されると共に、通常税率の70%の増値税・消費税が課税されることになった(関税は0%)。

 この新税制で保税区モデルの商品が増税になるかというと、実は商品によっては違う。むしろ、化粧品や高額商品等は減税になる。低価格商品に関しては増税となってしまうが、それでも一般貿易で輸入されて中国国内に出回る商品に比べれば安価に抑えられる可能性が高い。また、新税制は一見すると直送モデルの方が有利なように思えるが、中国政府としては保税区モデルを推進したいという意向が見える。直送モデルにおける税制の取り締まりは厳しくなるだろう。また、中国のユーザーから見えれば、保税区モデルの方が商品が早く届き、返品対応も安心というメリットがある。

 これらの点を踏まえた上で、今後、越境ECに参入する場合、また越境ECで成長しようと考えるなら、どのような方針が良いのだろうか。

京東を利用するメリットとは

 越境ECに参入する場合は、直送モデルにしろ越境ECモデルにしろ、何らかの越境ECのプラットフォームを利用することが一般的だ。京東もそんなプラットフォームであり、中国最大級のB2CのEC企業だ。特にここ1〜2年の成長は著しい。京東の強みは、創業当初から徹底して偽物を排除した厳しい品質管理を行ってきたことだ。その姿勢が、価格から品質へと消費者ニーズの変化に合致し、成長に勢いをつけている。

 また、2014年に「アジア一号」と名付けられた最先端のオートメーション化がなされた巨大物流センターを稼働し、配送品質の向上にも努めている。都市部だけでなく、中国全土に数多くある農村もカバーできるよう配送網を広げており、また、およそ80%のユーザーに対しては即日もしくは翌日配送が可能な体制を整えている。

 京東がこういった点に力を入れる背景には、ECはただ商品を提供すれば良いというわけでなく、質の良い商品を提供しなけばならない、そしてそれだけではなく、お客様の元に商品を届けるその瞬間艶を含めて完全なサービスであるという想いがあるという。それは、これから成長してく中国越境EC市場において必ず必要とされるものだろうし、大きな強みとなっていくだろう。

中国越境EC市場で失敗しないために

 越境ECというのはこれまで何度か波があり、その度にチャンスだと言われつつ、盛り上がり切れなかったという歴史もある。だがここに来て、中国側の体制が整ってきたこともあり、中国越境ECに関しては、大企業でなくとも成果を出す企業が増えてきている。この波にうまく乗るために、失敗しないために、これまで中国越境ECに挑んできた企業の話を聞くと、3つのポイントがあるようだ。

 1つ目は、信頼できる中国でのパートナー企業を見つけること。2つ目は、商習慣の違いを理解すること。例えば、中国では状況の変化が激しく、時間をかけて計画を立てるというよりも、まずは始めてみて状況に合わせて都度対応してくということが一般的だそうだ。また、日本ではビジネスに関しては、情より理、理より法が優先される傾向になるが、中国では真逆の発想だという。こういったことを理解するためにもパートナー企業は必要であるし、3つ目として、前述の点を前提とした社内体制を構築する必要がある。

 そしてこれらのことは、頭で理解することももちろんだが、まずは現地に行ってみて、現地を感じることも欠かせないという。言われてみれば当然と思うかもしれないが、実際に中国越境ECに取り組んできた方々の体験に基づいて話されると、説得力も増す。

京東集団 副総裁 辛 利軍 氏 メッセージ

 最後に、京東集団(JDドットコム)副総の辛 利軍 氏に独自取材をする機会を得て、メッセージを頂いた。中国越境ECに参入を検討している、または参入して頑張っている皆さんに、この言葉をぜひ送りたいと思う。 「京東では創業当初から品質を重視してきており、今、中国のユーザーはより本物志向となっています。その中で、日本商品は大事な位置づけになってきています。素晴らしい商品を持ちながら、今まで中国マーケットに進出することは難しいとあきらめていた中小企業の皆さんは、私たちはアシストしたいと思っています。そしてより素晴らしい商品作りに専念していただきたいです。また、中国のユーザーに対しては、ほしいもの、最新のものが手に入らないという状況を解決したいと思っています。新しいことを始めるときは、チャンスとリスクが並存します。どちらかだけを見るのではなく、バランスが大切です。そのために私たちのサポートがありますし、私たちは、皆さんの決心を後押ししします」。


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