ALPS処理水問題の影響下で日本企業が取るべき越境EC・中国ECの新戦略

ECのミカタ編集部 [PR]

国内成長が鈍化するなかで、越境ECを検討する事業者が増えている。特に中国は注目度の高いマーケットだが、2023年はALPS処理水(※)海洋放出問題による影響で多くの日本ブランドが打撃を受けるなど、リスクも潜んでいる。さらに近年は中国ブランドの台頭も著しく、競合としての存在感も無視できない。

株式会社Nintは、主に日本・中国のEC関連データの分析サービスに実績のある企業だ。同社の「情報通」は日系企業TOP100社中7割、4,000社超の企業での導入実績がある。本記事では同社 経営戦略室の堀井良威氏に、現在まで続くALPS処理水放出の影響や、中国EC市場最大のヤマ場 「W11(ダブルイレブン)」の実態と対策、さらに日本の企業・ブランドが取るべきオンライン販売戦略について伺った。
※ALPS(Advanced Liquid Processing System)処理水:東京電力福島第一原子力発電所の建屋内にある放射性物質を含む水について、トリチウム以外の放射性物質を、安全基準を満たすまで浄化した水。

中国から東南アジアまで。越境ECの成功に欠かせないビッグデータ

──まずは、貴社の事業内容について教えてください。

当社ではECのビッグデータを解析し、その可視化を通じたビジネスサポートを行っています。データは、日本ではAmazon、楽天市場、Yahoo!ショッピングの3プラットフォームから、中国ではアリババグループの「天猫(Tmall)」「淘宝網(taobao)」をはじめ、「京東 (JD.com)」、「拼多多(pinduoduo)」「抖音(Douyin)」などから公開情報を収集しています。また今年の年末からは、東南アジア・台湾で最大規模を誇るEコマースプラットフォーム「Shopee(ショッピー)」「Lazada(ラザダ)」のデータ提供もスタートします。化粧品や食品、電化製品を中心に、多岐に渡る事業者様への支援を行っています。

──ビッグデータが一般に浸透する黎明期から取り組まれてきたそうですね。

当事業に取り組んで20年以上になります。他社と一線を画す点のひとつが、データ蓄積の量です。現時点での傾向だけではなく、過去に遡って見られることが当社サービスの強みです。ダッシュボードにアクセスすることでご確認いただくことはもちろん、特定の商品を掘り下げたり、複数のプラットフォームを跨いだりするケースでは、当社によるレポート発行も実施しています。

処理水問題による打撃。マーケットシェア縮小の理由は他にも?

──中国のEC市場でビジネスを展開する日本ブランドは、ALPS処理水放出問題からどんな影響を受けたのでしょうか?

日本ブランドの一部商品について、買い控えや問い合わせが増える動きがありました。主に影響を受けたのは、口に入れたり肌に触れたりするような食品、化粧品、ペットフードやベビーマタニティ系の商品で、全体の半分ほどのカテゴリーがマイナス成長となりました。

問題は、8月24日の放出から、いまだに影響が続いていることです。年明けには収まってほしいと考える事業者様も多いと思いますが、まだまだ完全な終焉は訪れそうにありません。スポーツウェアや文房具、カメラなど変わらず好調な商材もありますが、放出以前は上昇が続いていた水産食品などの流通額は激減しています。

──日本ブランドは厳しい立ち位置にあるのでしょうか?

中国のEC市場に占める日本ブランドのシェアは4%程度ですが、外資としてはアメリカに続く2位で、そのプレゼンスは決して小さくありません。しかし、中国は世界中が狙う市場ですので、中国の消費者にとって日本ブランドは唯一のオプションではありません。母国(中国)ブランドを推す社会的なトレンドも強まるなかで、日本ブランドは高品質・高価格、中国の商品は低品質・低価格という構図も変わりつつあります。

このように日本ブランドのマーケットシェア縮小にはさまざまな背景がありますので、全てを処理水放出の影響と括れない状況です。

(画像提供/株式会社Nint※2023年10月時点)

「安かろう・悪かろう」のイメージはもう古い。中国ブランドは手強い競合に

──中国では毎年W11(※毎年11月11日に中国で行われる独身の日を祝うイベント)に大規模なECセールが実施されます。今年はこの期間を迎えても、日本ブランドの売上げは回復しなかったようですね。

そうですね。当社のデータを見ると、処理水放出の影響で前年比マイナス15%にまで下落した売上は、W11の時期でさらにマイナス19%まで落ちました。ここで注目したいのは、プラットフォームが多様化する現状において、ひとつのイベントに依存しすぎることのリスクです。今後の施策はプロモーション予算を分散し、年間を通じて売上を取りに行く方向に変わっていくと思います。

──現状を受けて、各戦略はどのようにアップデートすべきでしょうか?

これまで日本ブランドが中国に向き合う瞬間は、主に製造拠点としての中国でした。これは1980年代から始まったビジネスモデルです。そこから消費大国としての中国を販売ターゲットとして見るトレンドへと変わり、2010年代以降はインバウンド需要が伸びていきました。その後はコロナ禍に見舞われつつも、越境ECが拡大。まさにこれから……というところで処理水問題が発生しました。

この巨大なマーケットから撤退すべきかといえば、その答えは確実に「NO」です。とはいえ、戦略面の見直しは不可欠です。これまで外資ブランド同士の戦場だった紙おむつやスキンケア系の商品群にも、品質とコスパを上げた中国ブランドが参入を始めています。今後は日本市場においても中国ブランドとの競合が避けられなくなると考えられますので、販売や製造戦略を再構築し、増え続けるライバルに対抗する必要があります。

リスク分散のためにも検討を。日本拠点で東南アジアに進出する方法とは?

──越境ECへの新規参入を考える場合、検討したい商材や海外市場はありますか?

中国市場ならば、例えばOTC医薬品に注目すると良いと思います。「中国市場と違って日本市場から直送のものは偽物が紛れにくい」という発想は、前述のような中国製品の品質向上や環境の変化もあってもうあまり効き目がありません。それよりも、現地で手に入りにくいカテゴリーの商材に照準を合わせる方が効果的です。

また中国は人口が多いので、しっかりデモグラフィックでセグメントしていくことも必須です。「富裕層向けに……」といったぼんやりしたターゲティングですと、その商圏内に億単位の人口が存在し、ペルソナを絞り切れていない場合があるので注意が必要です。

さらに、中国以外にも東南アジアを検討したいところです。リスク分散の観点からも、インドネシアやフィリピン、タイなど成長著しい他国に目を向けることは効果的です。

──東南アジア市場における成功のコツはありますか?

現地法人を設立し、長年に渡り取り組んでいる大手メーカー様も多いですが、東南アジアで大きなマーケットシェアを取るのはなかなか難しいですよね。ただ、「Lazada(ラザダ)」や「Shopee(ショッピー)」などの越境ECプラットフォームを使えば日本拠点からコントロールができますし、決済周りの手間も少ないので、以前のようなハードルの高さはなくなってきています。

これは東南アジアに限らずですが、もちろん日本仕様の商材をそのまま海外に出せば売れるということではありません。日本製品が特徴とする、過剰に高精度なUIが海外では不評な場合もあります。ただし発想を逆転させれば、必要最低限の機能があって低価格の“100均”の商品など、海外で大きなプレゼンス獲得を期待できるものもあります。

2023年11月28日にNintが開催したセミナー「独身の日(W11)徹底解説セミナー〈処理水問題に揺れる日本ブランドのW11振り返り〉」でも、中国EC市場におけるビッグデータを用いて、日本ブランドのW11結果を外観しながら、2024年の中国EC事業戦略のヒントを解説

──最後に、日本のEC事業者様に向けたメッセージをお願いします。

中国企業の台頭は自分のビジネスには関係ないかも、と感じる方も多いと思います。しかし中国ブランドは確実に成長を続けており、その存在を無視することはどんなビジネスにおいても不可能です。今後は競合としての中国ブランドに危機感を持ちつつ、東南アジア市場にも着目することが求められます。特に中国ブランドは成長のスピードが本当に速いので、できるだけ早く、まずは市場にエントリーすることが大切です。

当社としてもデータ解析を通じて、中国や東南アジアにおける水先案内人になりたいと思っていますので、ぜひ一度ご相談いただければと思います。

■日本のEC市場データに関心がある方はこちら■
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