「CRM」を意識したECサイトとは?アーカス・ジャパンとSabeevoが語るEC事業者が実行すべきCRM施策

ECのミカタ編集部 [PR]

すべての小売企業にとって欠かせない戦略であるにもかかわらず、多くの企業は十分に実行できていない「CRM(Customer Relationship Management、顧客関係管理)」。EC事業者が顧客との関係を強化し、売上と利益を最大化するために必要なCRMとは、どのようなものか。そして、CRMを活用したECサイトを実現するにはどうすれば良いか。CRMシステム「EMOROCO(エモロコ)」の提供やCRMのコンサルティングを手がけるアーカス・ジャパンの松原晋啓代表取締役社長と、ウェブサイトなどのデザイン制作を手がけるSabeevoの中尾祥憲取締役が、CRMとデザインの専門家として、それぞれの立場からECにおけるCRMの重要性と、CRMを意識したサイト制作のポイントについて語った。

多くの企業は「CRM」の役割と重要性を理解していない

——今回はECにおけるCRMの重要性や、制作やデザインの観点からEC事業者が取り組むべき施策について語っていただきます。本題に入る前に、そもそも「CRM」の定義についてあらためて教えてください。

アーカス・ジャパン株式会社 取締役副社長 兼 CRM事業部長 松原 晋啓氏(以下、松原):CRMという言葉は日本語に直訳すると「顧客関係管理」になります。複雑な概念ではありますが、簡単に説明するならば、さまざまなデータを統合・分析して顧客一人一人の属性やインサイト、カスタマージャーニーなどを把握し、「自社の顧客はどのような人で、何を求めているのか」を理解することです。

見込客も含めたすべての顧客について理解した上で、新規獲得効果が高い施策の仮説を立てたり、一人一人に最適なアプローチを行うワン・トゥ・ワン・マーケティングを行ったりしながら、顧客と良い関係を構築してLTV(Life Time Value)を最大化していく。そして最終的に売上と利益を増やす。そのために企業は顧客とどのように関わるべきか、それを考える土台となるのがCRMです。

アーカス・ジャパン株式会社 代表取締役社長 松原 晋啓(まつばら のぶあき)氏。アーカス・ジャパンでCRM事業を統括。サービス/学習データベースとDynamics CRMをつなげる、人工知能搭載型のパーソナライズドCRMシステム「EMOROCO (エモロコ)」を企業向けに導入しているほか、CRM全般に関するコンサルティングや業務設計支援などを手がけている。

——EC業界において、CRMが非常に重要な施策であることは広く認識されています。一方で、CRMがうまくいかない、もしくは、どのように始めれば良いか分からないという声も少なくありません。EC業界におけるCRMの現状や課題をどのように見ていますか。

松原: CRMを十分に実施できているEC事業者は、ごくわずかしかいないというのが正直な感想です。CRMの第一歩は、会社が関わるすべての顧客について、1人の顧客を1つのIDで管理する「One 顧客・One ID」を実現すること。ECサイトや実店舗、カスタマーサポート、ソーシャルアカウントなど、すべてのチャネルの顧客情報を統合することが必要です。

企業がCRMで失敗する原因のほとんどは、「One 顧客・One ID」が徹底できていないことにあります。CRMの基盤となるデータが整備できていないのに、マーケティングオートメーションなどのCRMツールを導入しても成果は上がりません。それが現在のEC業界の課題ではないでしょうか。

株式会社Sabeevo中尾祥憲取締役(以下、中尾):松原さんのお話を聞いていて共感する部分は多いです。弊社はウェブサイトやECサイトの制作などを受託しているのですが、サイトを訪れるユーザーの年齢層や性別、居住地域などが曖昧なまま、感覚的に「カッコよく作って」とか「〇〇みたいなサイトにして」といった要望をいただくことが多いです。

弊社としてはターゲットをできるだけ明確にするため、クライアントにヒヤリングを行うのですが、明確に回答が返ってくることは少ないですね。その場合、そのサイトを誰が使うのか、どういう気持ちで買い物をするのかペルソナを想像して制作するんですが、本来はデータや根拠が必要です。ターゲット次第で魅せ方や導線設計が違ってきます。

ECサイトの制作において大事なことは、見た目がかっこいいサイトを作ることではなく、顧客に買ってもらえるサイトを作ることです。どんな顧客がいるのか、どこからサイトを訪問しているのか、どんなコンテンツを閲覧して買い物してるのか。そういったCRMの視点でサイトを制作することが重要だと痛感しています。

株式会社Sabeevo 取締役 アートディレクター 中尾祥憲(なかお よしのり)氏。ウェブサイトやECサイト、アーティストのCDジャケット、紙媒体まで、さまざまなジャンルのデザイン制作を手がけるデザイナー。キングコング西野亮廣氏が手がけるオンラインサービス「しるし書店」のアプリデザインも担当。

松原:CRMに取り組めていない会社が、それだけ多いというのが現実なんです。せっかくECサイトを作っても、ターゲットに合っていなければ売上は伸びないでしょう。ECサイトの構築であれ、リニューアルであれ、せっかくお金をかけて作るのにもったいないですよ。

実際、ECサイトをリニューアルしたのに売れ行きがいまいち伸びないから、CRMを考えたいという問い合わせをいただくことも多いです。でも、本来CRMはリニューアル前に実施しておくべきこと。もっと言えば、製品やサービスを立ち上げる段階からCRMは始まっています。CRMは経営戦略と密接に結びつくものですからね。

しかし、CRMは直接的な売上や利益の効果が見えにくいため、予算や人員が後回しにされることがほとんどです。私は経営者の方に「CRMをやるべきか、やらざるべきかの判断は必要ありません」とお伝えしています。考えるまでもなく「やらなくてはいけないもの」なんですよ。

「One 顧客・One ID」を実現するには、どうすればいい?

——「One 顧客・One ID」を実現できていないことがCRMの課題だとおっしゃっていましたが、「One 顧客・One ID」を実現するにはどうすればいいのでしょうか?

松原:分かりやすい例では、会員IDやポイントカード、決済システム、メルマガ会員、LINEアカウントなどの情報が活用できます。ブラウザのクッキー情報やSNSのアカウント情報、IP情報も役立ちます。また、アンケートの回答者やリアルイベントの来場者リストなども、CRMにおける重要なデータ。そして実店舗では、顔認証や位置情報、ビーコン(近距離無線通信)による来店者情報の捕捉が行われています。こうした、さまざまなデータを活用し、見込み客から既存客までを含めた「One 顧客・One ID」をめざします。

——買い物をする前の見込み客の情報も蓄積することが必要なのですね。

松原:購入後の顧客の情報は、CRMに必要な情報の半分以下です。購入前の顧客の情報も取得しないと、新規顧客に対するマーケティングを正しく行えません。ですから、会員IDやポイントカードで顧客情報を管理しているだけでは、本来のCRMには程遠いです。

——「One 顧客・One ID」を実現する上で、必要なデータを完璧にそろえるのは難しいように感じます。

松原:必要な情報を100%集めるのは無理でしょうね。ですから、どうすれば必要なデータを出来るだけ多く取得できるのか、また、どのように分析すれば欲しい情報が手に入るのか、知恵を絞る必要があります。顔が見えない顧客と多角的に関わりを持つことで、実像を浮かび上がらせる「パーソナライゼーション」という考え方があるのですが、見えないものを、なんとか見えるようにしようというのがCRMの活動なんですよ。

最近はCRM 3.0(パーソナライズドCRM)時代に突入し、人工知能を活用したデータ分析が進んでいます。弊社も人工知能を使った分析エンジンを開発し、「EMOROCO」というCRM3.0対応の製品に搭載することでこれまで捉えきれなかった顧客データの解析に効果を発揮しています。

CRMを意識してECサイトを作るには、どうすればいい?

——CRMの観点から、ECサイトを作る際はどのような点に注意すべきなのでしょうか。

松原:ターゲットを明確化した上で、カスタマージャーニーに沿った導線設計を行うことが重要です。

DMPに蓄積したデータを分析し、顧客の年齢層、性別、居住地域、興味関心などの情報を把握します。そして、購買分析ツールやウェブサイトのアクセス解析ツールなどを活用し、見込み客を含めて顧客の動きを調べてください。検索エンジンからサイトへ流入したときに使ったキーワードの種類、ページごとの離脱率、コンバージョン率なども分析し、顧客の気持ちを理解することが重要です。また、一部の商品が全社売上の大半を占めているのか、それともたくさんの商品が満遍なく売れているのかによってもサイトの構造は変わります。

実店舗を持っている企業であれば、店舗の来店履歴や購買履歴などのデータも必要です。来店しても買い物をしなかった顧客を認識するために、顔認証で来店者を特定したり、ブルートゥースやビーコンを活用して来店者を捕捉したりします。「自社の顧客はどのような人で、何を求めているのか」を理解することがスタートです。

中尾:サイトをリニューアルするときは、根拠となるデータが必要です。例えば、離脱率の高いページは魅力的なコンテンツを増やしたり、他のページへの導線をわかりやすくしたりすることが必要です。想定より若い女性ユーザーが多いことが分かったら、もう少しポップなイメージした方がいいと判断がつきます。制作の判断基準となるデータがないと、直感や想像でサイトを制作しなくてはなりません。結果的に成果は上がりにくくなります。

それからもう一つお伝えしたいのは、サイト制作は1回完成したら終わりじゃない、ということ。多くの企業はサイトを制作したらしばらくはそのままで、数年して売上が伸びていないと感じたら、また作り直します。しかし、本来はCRMのデータを踏まえて、細かくチューニングし続けるべきなんです。それができると、より売上を伸ばしやすくなると感じています。

松原:本当にその通りだと思います。CRMは変わり続けることが前提です。もちろん企業は予算の制約などもあると思いますが、顧客や市場に合わせてサイトも変えていかなくてはいけません。

CRMの重要性は売上規模に関係ない。中小ECのCRM施策とは?

CRMの重要性は売上規模に関係ない。中小ECのCRM施策とは?

——CRMは顧客数が数十万、数百万単位の大企業が行うものだと考える企業もいるようです。この辺りはいかがですか?

松原:それは完全に誤解です。CRMに売上規模は関係ありません。CRMが必要かどうかは、見込みも含めたターゲット顧客の数で決まります。例えば、ターゲット顧客が数人しかいないならCRMは必要ありません。すべての顧客の顔が見えますから。しかし、ECのようにBtoCのビジネスはマスに対してアプローチしますから、絶対にCRMが必要です。むしろ小規模な段階からCRMに取り組んでおくことが、後々の事業の成長速度に影響してきますよ。

——中小のネットショップがCRMを取り組むとき、どのような施策が効果的でしょうか?できればお金をかけずに実行できることを教えていただきたいです。

松原:お金をかけなくてもできることは、たくさんありますよ。ECサイトのアクセス解析はもちろんのこと、ブログやSNSアカウントで情報を発信し、アクセスしたユーザーデータを分析することもできます。リアルのイベントに登壇して聴講者リストを集めることだってCRMです。ECサイトの商品ページに付いたクチコミも重要な情報ですよ。

弊社は中小企業に対するCRMのコンサルティングも多数手がけていますから、ノウハウもたまっています。もしCRMで悩んでいる方がいらっしゃったら、とりあえず弊社に相談していただきたいです。費用をかけずに成果を出す方法を一緒に考えていきましょう。

——最後にアーカス・ジャパンとSabeevoの展望をお聞かせください。

松原:CRMの重要性をもっと理解していただけるよう啓発していきたいです。特にECサイトは、会員情報や購買データを集める上でCRMと切り離せない存在。ECサイトにCRMを活用するのはもちろん重要ですが、ECサイトをCRMに活用するという視点も大切です。すべての小売事業者やサービス事業者にとって、CRMは欠かせない存在だということをこれからも伝えていきます。

中尾:弊社はアーティストのウェブサイトやCDジャケットなども制作していて、デザインに対するユーザーの機微というか、感覚的なものを具現化することを得意としています。今後は、アーカス・ジャパンさんのようにCRMを得意とする会社と組んで、CRMとデザインを組み合わせて価値を提供していけたらいいですね。

松原:そうですね。弊社はシステム開発やコンサルティングが得意ですが、デザインについては専門外なので、デザインのプロと組んでいきたいです。CRMのデータ構築や分析は弊社が担い、ウェブサイトの見せ方や導線設計はSabeevoさんのようなデザインの専門家にお任せする。それぞれの強みを生かしてコラボレーションすれば、CRMを上手に活用したECサイトが作れるはずです。「CRM×デザイン」の相乗効果で、企業のCRMを支援していきたいです。

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