変貌した「楽天」新時代で勝つための新戦略〜新春カンファレンス解説〜

石郷“145”マナブ

 楽天株式会社(以下、楽天)は先日、新春カンファレンスを開催し、速報で情報をお伝えしたが、もう少し深掘りして理解ができるようにと、執行役員の野原彰人氏に直接、話を伺うことにした。実感として、先日も書いたが、楽天に限らず、ショッピングモールは、かつてのあるべき姿とは時代の要請とともに変化していて、ショッピングモール自体がお客様と店の両方との関わりに踏み込んだものになっている印象がある。

 ともかく楽天はどう変わろうというのか、それをそんな時代背景を思い描きながら、読んでいただけると、気づきがあると思っている。

2018年、楽天は何をしていたのか?

 楽天が昨年注力していたのは何かと言えば、まずデジタル広告の強化だ。例えば、検索サイトでキーワードを検索した際に、検索結果で楽天市場へと誘導する表示させるなど。結果、デジタル広告経由の月間ユニークユーザー数は1.8倍。また、新規ユーザー獲得のためのキャンペーンなども積極的に行い、2017年と比較して約2.3倍のレベルで投資をし、新規ユーザーに向けてのクーポンなども用意。故に、新規ユーザーの合計数の昨年対比が前年より高い水準で推移しているという。

 2019年上期の施策で見ると、先日、会長兼社長 三木谷浩史氏も触れていた通り、「強み」と「弱み」に分けて、そこに合わせて戦略を組み立て実行に移す。
・強み:独創性のある個店の集合体/柔軟なプラットフォーム/自由なコミュニケーション
・弱み:個性による統一性のなさ/バラバラな決済方法と配送方法

 確かに、楽天市場は、名古屋の「うまいもの大会」の記事でも書いたが、地元の商店街のような、スタッフや店長の「人となり」が浮かび上がる店舗が多く、個性的であることが強みである。

お客様との関係が進化したチャットで密になる

 この部分を最大化する為に、と、彼らは最近、チャット機能を導入。その結果はいかほどか。チャット機能を利用したユーザーの転換率、客単価を見てみよう。共に向上しており、転換率にして8.2%増、客単価にして74.2%増となっている。

 一方で、店舗がチャットに迅速に答えなければならないという印象が強いことから、業務に拘束されず済むようにチャットボットを導入して、店舗の作業工数を減少させ、店舗とこの機能を気持ちの面でも結びつける。

 その上で、進化も必要である。その点、近々チャットで問い合わせしてくれた相手が誰なのかを特定できるようにして、よりお客様と店舗の距離を近づける。具体的には、ユーザーIDを紐付けされ、購入回数などを可視化できるようにする。他、チャットに画像送付機能をつけるなど、細かな進化も見られる。

 このコミュニケーションの深さは楽天市場の特性をより伸ばすものと同社は捉えており、チャット機能などを含めた「R-Messe」では、会話情報などを蓄積し、AIも搭載して、データに基づき、個々の店舗に合わせた対応ができる環境を整える。

店にとっての肝となる価格などでもテコ入れ

 楽天市場では、管理画面上に価格最適化エンジンを搭載する。競合の価格分析や季節性、その店の売上履歴などから、AIを駆使して、その時、その店にとっての最適な価格を提示する。単純に安売り競争を誘発するものではなく、あくまでも、価格の推移をたどる事で自分たちの商品の価値を見極め、何にプライオリティがあるかを指し示すものだとした。

 ちなみに、効果のほどだが、この機能においては「売上利益最大化」「在庫削減」の2点から、最適化をできるようになっているので、分けて結果を挙げると「売上利益最大化」では売上29.4%上昇、利益31.9%上昇、「在庫削減メニュー」では売上20.9%上昇、在庫削減改善ポイントが6.5ポイント上昇したと出ている。

 時代の波に合わせて、楽天のライブコマース「楽天Live」もスタートする。通常のライブコマースと同様で、配信者と視聴者がインタラクティブにリアルタイムで交流ができる点が売りとなっている。楽天らしいなと思われるのは、購入する段階においては、楽天の購入画面に推移して、そこを行き来して、ショッピングを楽しめる。

楽天独特の統一感のなさなどの「弱み」に応える施策

 改めて、弱みに関して、楽天はこう説明している。
弱み:個性による統一性のなさ/バラバラな決済方法と配送方法

 統一感という部分においては、商品画像の登録に関するガイドラインを策定したのは、記憶に新しい。そこではテキスト要素20%以内、枠線なし、画像背景は写真背景又は単色白背景のみとした。又、アフィリエイトの料率と計測期間を4月から変更する。料率は店舗ごとから商品カテゴリーごとにして買い物の肝となる商品を意識したものとし、計測期間も30日間から24時間へと変えた。

 そして、統一は物流にも及び、楽天独自の配送管理を備えた「ONE DELIVERY」構想である。楽天スーパーロジスティックスを枚方、流山に物流センターを新設し、配送、保管含め値ごろ感のある価格設定を発表したのは、最近のことだ。Rakuten EXPRESSを使えば「あす楽」対応が可能となり、最短で注文の翌日、7時からの配送が実現。

 今後、東京、大阪エリアでは当日お届けも可能となる。深夜帯の不在再配達にも対応し、20〜22時、22時から24時の選択可とし、置き場所指定のサービスを一部の商品に限り実行しているという。

 枚方、流山の物流センターの稼働を開始しただけでなく、それだけではフォローしきれない地域においては、独自物流網を構築させるため、関通など外部の物流会社とも連携するなど、気合のほどが感じられる。更に、一部の店舗からの要望があった、楽天スーパーロジスティックスに入れるだけではなく、そこへと入れるための集荷も楽天が行うとした。そして、前回のカンファレンスでは三木谷氏が語って話題を集めたわけだが、送料無料となるバーを統一し、ユーザーの利便性を向上させたいとしている。

品質向上、安心安全の意識に関しても一歩踏み出す

品質向上、安心安全の意識に関しても一歩踏み出す

 2014年の品質向上委員会設立に始まり、ブランド模倣品補償、レビューの傾聴施策など数々行なってきたが、特に反響の大きかったのが違反点数制度。これに関しては、実施して以降、違反店舗数は減少したが、2019年から改良を行い、違反レベルの低いものについては店舗が意図せず起こった可能性もある為、違約金ではなく講習に切り替えて、罰するのではなく教育する方向へとシフトさせた。
 
 又、そもそもの品質向上委員会に関しても、テコ入れを行い、規約やガイドライン立案の際に、助言を行うアドバイザリーパネルを用意し、新たな体制のもと最適なルールづくりに努める。アドバイザリーパネルには日本消費者協会 理事の河野康子さん、ECネットワーク理事 沢田登志子さん、JFECの曽根原千秀さん、英知法律事務所パートナー弁護士の森亮二さん、イーコマース事業協会の吉村正裕さんらが連ねた。

店にとっては楽天の変貌を利用できるか、どうかだ。

 冒頭にも記載したが、出店を促し、手数料を取って、集客を含めて付加価値のあるプラットフォームを形成するというのがこれまでの楽天市場の役目だったように思うが、これからは出店した店にどういうオプションをつけて、店としての付加価値をどう発揮させるかに移ってきているのだろう。

 その一つ一つの取り組みが店にどんな未来をもたらすかは、店次第であり、そこには賛否もあるだろうし、未知数である。店舗運営も難しくなっていくのではないか。しかし、店とお客様、店と楽天のより密なる関係が求められることには変わりがない。ECの未来を見据えて、この動き、注目していきたい。


記者プロフィール

石郷“145”マナブ

キャラクター業界の業界紙の元記者でSweetモデル矢野未希子さんのジュエリーを企画したり、少々変わった経歴。企画や営業を経験した後、ECのミカタで自分の原点である記者へ。トマトが苦手。カラオケオーディションで一次通過した事は数少ない小さな自慢。

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