【2018年度】越境ECの今を解説(後編)

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各国の法律/ 税制の変化

世界的な越境EC市場の拡大により、 各国の税制や法律にも変化が見られます。それにより、以前はできていたことが急にできなくなったり、新たな課税が始まったりということがあるので、注意しましょう。

越境ECに参入する際には、参入する国や地域の税制や法律を正しく理解しておくことが大前提です。 有名な税制としては、中国が2016 年4月に実施した新税制があります。こ の税制では、越境ECについて、個人用入国荷物を想定した「直送モデル」と、 保税倉庫を活用した主に大手越境ECプ ラットフォーマーを通じた取引を想定した「保税区モデル」とに大きく分けられました。そして、それまで共通していた「行郵税」を変更し、直送モデルと保税区モデル、それぞれに異なる課税を行っ ています。この変更により、税金が高くなるケースも多々あります。ただし、この税制の一部の施行は、現場の混乱を避けるために度々延期されており、今のところ2018年末までの延期が発表されています。

この延期により、天津市・上海市・浙江省杭州市等 10の都市で、CFDAの認可取得がされていない化粧品類等も、中国向けの越境EC(保税区モデル)において従来通り取り扱いができるようになっています。また、直送商品および化粧品、幼児用粉 ミルク等の初回輸入時の輸入許可証、登録、届け出も、2018年末まで不要となっています。この税制が2018年末で施行となるのか、あるいは引き続き延期となるのか、注視しておきたい点です。

ほかにも、中国以外の国や地域でも、 税制・法律の変化は見られます。 イギリスでは、2018年1月、付加価値税制が改正されました。この改正により、越境ECにおいて、イギリス国内に商品在庫を持ち、そこから商品を発送する場合が課税対象となりました。一 方、受注の度に日本から発送する場合は対象となりません。課税対象となる取引を行うEC事業者は、事前にイギリスの当局に登録してVAT番号を取得し、課税取引に応じたVATを支払うことが義務化されています。

オーストラリアでも同時期に税制の改正がありました。この改正により、2018年7月1日以降、AU$1000以下の商品の受注に対して、 消費税(GST)が課税されます。また、税制以外に、ヨーロッパで 2018年5月、重要な法律が施行されました。それは一般データ保護規則(GDPR)と呼ばれる法律で、 条項から構成されています。この法律では、イギリスを含むEU諸国の国民の氏名・住所・連絡先・決済情報・IPアドレス等、個人を特定するデータの保全・保持・収集・消去に関して、厳しい制限が設けられています。様々な定めがありますが、個人を特定できるデータを保持し、利用する場合には、ユーザーの許諾が必要となります。

ECサイトでよく用いられる、オプトインや事前入力の形では許諾を得たとはみなされないため、注意が必要です。日本の企業であっても、 EUのユーザーに対して取引を行うので あればこの法律が適用され、違反した場合は重い罰金が課せられます。 税制や法律については特に、正しく理解していないと致命的な失敗につながります。そのため、専門に知識を持った人やサービスの支援を受けることをおすすめします。

これからの越境EC

これからの越境EC

今後、越境EC市場はどのように変化していくのでしょうか。おそらく市場の成長は当面続くでしょう。

人口減少などの要因により、国内市場の成長は鈍化しています。そのため、日本のEC事業者にとって、新たな販路として海外市場は一度目を向けるべきところです。また、日本のEC事業者が、今、越境ECに参入すべき理由として、世界の越境EC市場の規模に加え、2020年に開催予定の、東京オリンピック・パラリンピックの影響があげられます。

越境ECは、インバウンドの影響を少なからず 受けるからです。日本を訪れた外国人 が、日本で買って良かったものを、帰国した後に越境ECで買うという傾向があるため、訪日外国人客のニーズをチェッ クしておくことは、越境ECの参考になるでしょう。

もちろん、インバウンドだけを当てにするのではなく、国や地域ご とに、現地ユーザーのニーズに応じた商品開発や販促を行うことが重要です。しかし、せっかく越境ECに参入するのであれば、2020年までの機会も活用すべきです。 かつて、越境ECは大企業でないと難しいという時期もありましたが、今は中小企業を含め、様々な規模・ジャンルの企業に可能性が開かれた市場です。

大手メーカーから中小企業までこれまでECを本格的に運営したことのない企業であっても、チャンスはあります。さらに、越境ECではその国でないと買えない、独自の製品へのニーズが高い傾向があるので、地方の店舗などにも大いにチャンスがあります。

参入先については、米国・中国だけでなく、台湾や東南アジアなど、様々な国・地域に可能性があります。ただ、一 口に越境ECといっても国・地域によっ て主流となっているECの形態が異なるため、まずはその情報収集から始めると良いのではないでしょうか。

参入にあたっては、本誌のようなメディアなどから情報収集を行うと共に、越境ECを支援しているいくつかの会社に相談するのが良いでしょう。サービスを売り込まれるのではないかと不安に思うかもしれませんが、多くの支援会社では、その会社が手掛けている市場できち んと売上が伸びる見込みのある企業を選定した上で、サービスを提供しています。そのため、複数の会社に相談することで、自社がどのような市場が向いているのか、また、越境EC参入にあたりどのような課題があるのかが、見えてくる ことも多いです。

越境EC参入のハードルは確実に下がっているとはいえ、越境ECならでは の課題は変わらずあります。国・地域 によって税制や法律、商習慣、消費者の ニーズなどは大きく異なります。日本の 市場と同じ感覚でいると、失敗する可能性が高くなってしまいます。逆に、適切な支援を受けることで、越境ECでの成功の可能性は大きく上がります。このことを踏まえて、ぜひ、検討チャレンジ をしてみてください。

<ECのミカタ通信 2018 Autumn vol.16より抜粋>

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