オムニチャネル対応を迫られる顧客サービスの5つの潮流

マンハッタン・アソシエイツ(Manhattan Associates, Inc. NASDAQ:MANH)は、2017年の小売業界において重要になると考えられる分野についての予測を行いました。その注目分野とは、インターネットショップ専門業者のリアル店舗への進出、革新的な配送方法の実現、人工知能およびAR/VR技術の普及、そして「オムニチャネル型顧客サービス」への移行です。
マンハッタン・アソシエイツの EMEA地域 シニアバイスプレジデントである Henri Seroux(ヘンリー・セロー)は次のように述べています。

「いまや流通小売業者には、“重要顧客”に向けて個別にカスタマイズしたサービスを遅滞なく提供できるような仕組みを常に整えておくことが求められています。販売チャネルの違いはもはや存在しません。そして、経済状況の混迷がまだしばらく続くと考えられる2017年において、ショッピングに対する消費者の期待レベルはますます高まり、インフラとなる技術革新も進むものと予想されます。そうした中で流通小売業は、自らが変化していく必要に迫られ、そのスピードはますます加速していくだろうと思われます。消費者との関わり方も変化していき、販売チャネルの運営方法にも大きな影響がもたらされるでしょう。そこでマンハッタン・アソシエイツでは、2017年の流通小売の現場に影響を及ぼすと予測される以下の5つの潮流、ならびにそれに対して流通小売業者が取るべき戦略について、主にネットショッピングの普及が進んでいる英国市場を中心に考察しました」

1. ネット専業店の実店舗へのシフト
2. 時間を短縮する配送の新形態
3. カスタマイズサービスの切り札となる人工知能
4. 仮想現実と拡張現実がもたらす変革
5. 全社的オーダー管理でオムニチャネル型顧客サービスを実現


1. ネット専業店の実店舗へのシフト
ここ1~2年の間、ネットショッピングで成功したオンラインストア専業の小売業者の多くが、リアルな店舗を持ち始めています。そしてこの傾向は2017年も衰えることなく続いています。その形態は本格的な営業店舗のほか、期間限定の仮店舗、他社との協業型店舗など様々ですが、今後もオンラインストアが、リアルな買い物かごと仮想の買い物かごの両方を重視していくだろう傾向はますます高まっていくものと思われます。オンライン専業ストアであるというかつての「新規性」は、もはや過去のものとなっているのです。

特にこの傾向が顕著なのはおそらく米国でしょう。Amazonは数百店にも及ぶリアルな書店を立て続けにオープンし、Amazon Echoという先進的なホームスピーカーをプロモーションするための期間限定の店舗を立ち上げたりもしました。会計のための待ち時間がゼロというコンセプトの食料品店Amazon Goもこれに続くものです。
英国においても、ファッション用品を扱うオンライン専業店Missguided社が2016年にロンドンに最初の実店舗オープンしたり、ファッションのオンライン専業セレクトショップであるAsos社が大型スーパーのAsda社が提供する「toyou」と呼ぶ店舗サービスを活用して表通りに販売拠点を設けたりといった動きが活発化しています。
その他にも、eBay社が家具日用品販売のArgos社との協業により目抜き通りに店舗を構え、顧客が自分の都合に合わせて商品を受け取る、あるいは返品商品を持ち込めることを可能にする体制を整えたり、オンライン紳士服ブランドのMr Porter社が期間限定ショップをオープンしたりしています。
また、チョコレートメーカーのHotel Chocolat社と家具小売のMade.com社はともに、オンライン専業の小売店としてスタートしましたが、今では実店舗やショールームをそれぞれ運営しています。

マンハッタン・アソシエイツが2016年12月に実施した調査によると、消費者がリアル店舗を訪れる理由の上位2つは、購入前に製品を試すことができることと、商品を「その場ですぐに」入手できるということでした。
ネット購入におけるクリック&コレクトの傾向は昨今さらに強まり、自宅以外の場所で自分の都合に合わせて商品を受け取ったり、返品手続きをしたりという消費者の要求は今後もますます拡大していくでしょう。そうした動きが加速する中で、オンライン専業の小売業者は実店舗へのシフトを検討せざるを得ない状況となっているのです。
このように、オンラインで構築したブランドを実店舗の環境にもスムーズに移行するという取り組みが2017年の流通小売業の課題のひとつと言えるでしょう。

2. 時間を短縮する配送の新形態
前述した英国におけるマンハッタンの調査によると、消費者の58%が「その場ですぐに」商品を入手するために、店舗に足を運んでいます。こうした状況下で小売業者には、オンラインからの注文に確実に応えられる配送方法の確立と、顧客の要望に沿って出来る限り即座に商品を手渡すことができる方法を構築することが求められています。
さらに、オンラインと実店舗の融合が今後さらに進んでいけば、小売業者は、消費者の満足度を高めるために、従来「ラスト1マイル」で取り組んできたこと以上のサービスを提供できるような努力が必要になってくるでしょう。

Amazonでは、ドローンを活用した click-to-deliveryサービスを世界で初めて導入し、注文後13分で届けるという驚異的な配送を実現しています。こうした配送手段は、全ての企業がすぐに真似できるものではありませんが、Amazonによるこの歴史的な取り組みが、他の流通小売業者のそう遠くない未来における変革につながっていくものと想像されます。
しかし、ドローンによる配送だけが、唯一の革新的サービスではありません。他にも配送効率を向上させる様々な取り組みが行われています。

例えば英国の大型スーパーであるAsda社は2015年末に、業界でも先駆的となった「toyou」と呼ぶ店舗サービスを開始しました。このサービスは、他のオンラインショップで購入した商品でも、Asdaの商品と同様にAsda店頭にて受取と返品を行うことが出来るようにしたものです。数多くの家庭用品ブランド等と提携して、消費者にとって利便性の高い配送と返品を実現しています。
また、欧州の宅配サービスのDeliveroo社やStuart社などもサービスを拡大し、流通小売業者に向けて新たな配送の選択肢を提供しています。

2017年は、商品を1時間以内あるいは数分以内に届けるといった、消費者のさらに高まる要求に対応するため、小売業者が様々な協業を模索するといったことが予想されます。そしてこれは単に消費者の要求だからということだけでなく、あらゆる面でサービスの運用効率を高めていきたいという小売業者のチャレンジでもあるのです。
そして本当に目指すべきものは、顧客が望むものを、いつでも、どこにでも届けることができるような体制を整備すると同時に、そうした新しい配送方法の導入が企業の収益を悪化させることなく、確実に利益を向上させていくことに他なりません。

3. カスタマイズサービスの切り札となる人工知能
昨年は顧客サービスのひとつとして自動会話プログラム「チャットボット」の活用が進み、一部ではAIを活用していることが話題となっていました。しかし多くのチャットボットは知能というにはまだ程遠く、推測をもとに回答している程度のものに過ぎません。チャットボットは非常に複雑で、その機能が開発者のアルゴリズムやデータアクセス頻度によって形作られていくという点において、現時点では多くの取り組みが特定の質問に対して「最良の推測」を行っているだけのもので、カスタマイズした個別の回答を導き出す計算能力を備えているとまでは言えません。

しかし、コンピュータが人間のように論理的な推論や意思決定を行うことを目指した技術は、今はまだ道半ばではあるものの、その進歩の早さは目をみはるものがあります。
現在は、自然言語処理、ニューラルネットワーク、ディープラーニングなどがその先端テクノロジーとして注目されており、時間とともに豊富なデータが蓄積されつつあります。こうした取り組みの積み重ねによってAIの能力は確実に高まりつつあり、すでに人間のように考え、話し、判断し、対話ができるレベルにまで至っている例が現れ始めています。

アウトドア用品の米国 North Face社は昨年、対話型のショッピングアシスタントの仕組みを導入しました。これは、自然言語処理技術を用いた顧客との会話により、個々の好みにあった商品を提案するというもので、AIを活用してニーズをリアルタイムかつインテリジェントに判断するという点で、カスタマイズサービスのあり方を塗り替える革新的な取り組みと言えるでしょう。このサービスを用いれば、顧客がどのような目的で何を望み、どういったスタイルやカラーを探しているかといったことを2分以内に特定することができます。

同様に、米国の大手百貨店 Macy'sは最近、AIを活用した店頭でのショッピングアシスタント・アプリケーションとして「Macy's On Call」を試験的に導入し、米国内の10ヵ所の店舗で情報提供ツールとして運用しています。顧客は、特定の商品や売り場、およびブランドがどこにあって、その店舗で利用可能なサービスは何かといった質問をスマートフォンに自然言語入力することで、カスタマイズされた関連情報を受け取ることができます。

こうした小売業者によって開発され試行されているサービスは、AIアプリケーションのほんの一部に過ぎませんが、今後、全社の在庫や顧客に関するデータと密接に連動したサービスとして展開できるようになってくれば、顧客に対するサービスとして非常に大きな価値が生まれる可能性があります。AmazonのAlexa、GoogleのAssistant、AppleのSiri、MicrosoftのCortanaなどのAIアシスタントは、その普及が進めば進むほど、より多くのデータや個人情報が蓄積され、提供できる能力はさらに強力なものとなっていくでしょう。

将来、オーダー管理システムが在庫や顧客取引に関する豊富なデータを蓄積し、それがさらに発達したAI技術と連動するようになる世界を想像してみてください。小売業者が消費者の興味や嗜好を本人以上に熟知することで、購入したいと潜在的に考えている商品や、その配送方法などを先取りして提案できるようになるのです。そうした時代が来るのはそれほど遠くない未来かもしれません。

4. 仮想現実と拡張現実がもたらす変革
ここ数年、消費者の購買動機を刺激し、企業の売上促進に貢献する手段として、仮想現実(VR)と拡張現実(AR)が様々な形で取り上げられてきました。過去1年ほどでウェアラブル端末はより実用的になり、これまでとは異なる没入感のある新たなユーザーインターフェイスに対して投資を行う企業が増えてきている環境を見ると、2017年はVRやARがニッチな市場からビジネスの本流へと転換する年となるかもしれません。
BMW社は、Accentureと協力してGoogleのAR技術 Tangoを活用したアプリケーションを開発し、実際の状況で車がどのように見えるかを視覚化する仕組みを提供しています。化粧品専門店の仏Sephora社が開発したバーチャル・アーティストアプリは、特定のメークアップカラーが自分の顔でどのように見えるかを即座に確認できるツールです。米国のホームセンターLowe's Holoroom社は、顧客がVRゴーグルを使って自分の理想とするキッチンやバスルームをデザインすることが出来るアプリを提供しています。これらは、ここ15ヶ月ほどの間に開発されたものばかりです。

さらに、ウェアラブル技術の開発を進める大手企業がB2B市場への進出を拡大しようとしていることから、2017年は店舗でのVRやARの技術導入がさらに進み、店舗には常にバーチャルなストックルームが存在するという環境が整備されていくでしょう。
また、人の視野に直接情報を映し出すHUD(ヘッドアップディスプレイ)やスマートグラスを利用すれば、口頭では説明がしづらい製品の特徴や、配送方法、価格などあらゆる情報をビジュアルかつリアルタイムに顧客に伝えることが可能になります。さらにその間、店舗スタッフは顧客のそばを離れたり、タブレットやスマートフォンを確認する作業を行うことも出来るようになります。

5. 全社的オーダー管理でオムニチャネル型顧客サービスを実現
世界各国の流通小売業者では、過去7~10年をかけて、フロントエンドの販売プロセスの整備を進めてきました。その多くでは、全社レベルのECプラットフォームへの投資が行われ、それがオムニチャネル型ビジネスに転換していくための基盤ともなっています。
そして、そうした企業の大半は、フロントエンドと同様にバックエンドのシステムを構築することが重要であることに着目し、過去数年間で、消費者の期待に応えられるようなシームレスで一貫したオムニチャネル型サービスの提供を目指してきました。こうした取り組みのポイントとなっているのは、全社的に統合されたオーダー管理システム(OMS)にあります。先進的な流通小売業社は、自社のオムニチャネル戦略を策定し、それを実行に移した際の重要な技術要素として、このOMSの存在を挙げています。

そして今、ほとんどの小売業者が認識しているのが、今後は、過去の顧客の購買データと在庫など現在のリアルな情報を結びつけるためITをフルに活用し、顧客が潜在的に持っている購買意欲を満たすことができる、本当に役に立つ、厳選された情報だけを提供していく仕組みを持つことが、ビジネス成功の条件になるだろうという考えです。
全社レベルでのOMSを構築することは、今後さらにユーザーの選択肢が広がってニーズがより移ろいやすくなるであろう市場において、消費者の期待に確実に応えつつ競争力を維持するために不可欠な取り組みとなります。
商品の提案を行う際に顧客に伝えなければいけないのは、それがアプリ経由であっても、ウェブサイトからでも、店舗でも、またコールセンターであっても、a)在庫の有無、b)いつ入手できるか、c)どういった受け取り方法があるか、d)支払い方法は何が選べるか、e)購入と同時に別の商品を返品し、それを一回のクレジットカード処理で済ますことが出来るか、といった情報であり、これらすべてに対応した上で利益を確実に確保することが、流通小売業者の今後の課題となります。

在庫を常に100%把握できていると考えている小売業者はわずか6%に過ぎませんが、一方で消費者の3人に1人は、もし店頭に在庫がないならば、他の店で買うか、購入をあきらめると回答しています。
今後、流通小売各社が全社規模で OMSを構築することの重要性に着眼し、導入がさらに進むことで、こうした比率も必然的に変動していくでしょう。そして、顧客に対して商品の在庫情報をリアルタイムに提供できるような仕組みが構築できれば、販売機会を逃さないための様々なアプローチを展開することが可能になるのです。

●マンハッタン・アソシエイツについて
マンハッタン・アソシエイツは、サプライチェーンとオムニチャネル分野のテクノロジーリーダー企業です。フロントエンドの販売プロセスとバックエンドのサプライチェーンの統合によって企業内外の情報を集約するとともに、先進のソフトウェア、プラットフォーム技術、および豊富な実績と経験が、お客様の成長と収益の確保を強力に支援します。そして、最先端のクラウドならびにオンプレミス環境をベースとしたソリューションを時代に合わせて開発し、店舗、流通ネットワーク、物流センターに提供することで、オムニチャネル市場におけるビジネスを成功へと導きます。