【第1回】弁護士法人Martial Artsの「EC相談室」〜メルマガ配信に関する法規制〜

吉新拓世 / 齋藤拓

弁護士法人Martial ArtsがEC事業に関するお悩みに答えるコラム。第1回はメルマガ配信に関する法規制について。知っておくべき4つのポイントから解説します。

【ご質問】
 当社では,お客様に新製品のお知らせなどを書いたメルマガを発行していきたいと考えております。これまでお客様から商品の注文を受けた際に,ウェブサイト上でご入力いただいたメールアドレス宛てに送信しようと思っているのですが,法的な問題はありますでしょうか。他に気を付けておいた方がいいことがあれば,併せて教えてください。

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※コラム『弁護士法人MartialArtsの「EC相談室」』への質問である旨の明記をお願いいたします。

1 広告電子メールを規制する2つの法律

 新製品やお買得情報をタイムリーに配信するメルマガは,通販事業者にとって,既存顧客とのコミュニケーションを密にするツールであるとともに,潜在顧客の掘り起こしにも繋がり,売上げ向上のための重要な手段の一つです。一方,消費者にとっては,毎日のように様々な事業者からメールをたくさん受け取ることによって,その処理を強いられることになり,迷惑になる場合があることも事実です。また,不要な電子メールが大量に送信されることによる,通信設備への悪影響も無視できません。

 そこで,2つの法律が,メルマガを含む広告電子メールに対する規制をしています。法律の名称は,「特定電子メールの送信の適正化等に関する法律」と「特定商取引に関する法律」といいます。以下では,前者を「特定電子メール法」,後者を「特定商取引法」と呼んで,メルマガの配信にはどのような法的な問題があるのかについてご説明します。

2 メルマガを配信するためには,前もってお客様からの「同意」を得る必要があります。

2 メルマガを配信するためには,前もってお客様からの「同意」を得る必要があります。画面例1
「特定電子メールの送信等に関するガイドライン」(総務省)31頁の画面例を参考に作成しています。
http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/d_syohi/pdf/m_mail_081114_1.pdf

画面例2
「特定電子メールの送信等に関するガイドライン」(総務省)32頁の画面例を参考に作成しています。
http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/d_syohi/pdf/m_mail_081114_1.pdf

画面例3
「特定電子メールの送信等に関するガイドライン」(総務省)33頁の画面例を参考に作成しています。
http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/d_syohi/pdf/m_mail_081114_1.pdf

画面例4
「特定電子メールの送信等に関するガイドライン」(総務省)34頁の画面例を参考に作成しています。
http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/d_syohi/pdf/m_mail_081114_1.pdf

 特定電子メール法と特定商取引法が規制するのは,広告や宣伝を行う手段として送信するメール(ショートメッセージを含む。)です。お買い上げ商品の確認メールや代金請求のために送るメールは,広告や宣伝の内容を含まない限り,問題となりません。

 特定電子メール法と特定商取引法は,お客様に対して広告メールを送信するためには,原則として,お客様からの「請求」や「同意」が必要であるとしています。ですから,メルマガの配信にあたっても,お客様からの「請求」や「同意」を得ることが必要になります(以下では,「同意」のみにクローズアップして説明します。)。

 ここで大事なことは,「同意」を得たというためには,お客様が広告メール送信について,きちんと「認識」していただいたうえで,「同意」したといえることが必要になるということです。

 たとえば,上記の画面例1と2のように,「同意」を求める文章が,とても小さい文字で書かれていたり,膨大にスクロールしてはじめて文章が現れ,注意しないと分からないような場所に書かれているなどの場合には,お客様はその文章を見ていない可能性が高まりますので,お客様が本当に「同意」しているとは言い難くなってきます。ですから,画面例3のように,同意取得のための文章は,最終の確認画面などに,他の文字より小さくない文字で,太字にしたり,色を変えたりして目立つようにし,確実にお客様に文章を「認識」してもらえるようにしておくべきです。

 また,「同意」を得るための方法として,ウェブサイト画面上にチェックボックスを設ける場合もあります。カラのチェックボックスを設けておいて,お客様に個別にチェックを入れていただく形式であれば,お客様が「認識」したうえで同意したといえる可能性がかなり高くなります。しかし,予めチェックが入っている状態にしておいて,お客様がチェックを外さない場合に「同意」したことにするという形式の場合には注意が必要です。このような場合には,お客様が知らず知らずのうちに「同意」したことになってしまい,きちんと「認識」したうえでの「同意」でないことになってしまう可能性があるわけです。

 ですから,画面例4のように,チェックボックスをわかりやすい場所に表示したり,チェックを外さないと「同意」したことになることの説明書きを記載しておくべきです。また,チェックボックスがたくさんある場合には,一度にすべてのチェックを外せるようにしておきましょう。

 なお,「同意」を得ずに広告メールを送信した場合には,100万円以下の罰金に処せられる可能性がありますので,注意が必要です。

3 「同意」を得たことの保存が義務付けられています。

3 「同意」を得たことの保存が義務付けられています。※但し,この方法を用いるためには,「同意」を得る際のウェブサイトの構成や書面などが定型的なものであり,「同意」を得られたメールアドレス等が正確にリスト化されること,消費者が「同意」することを容易に認識できるように表示していることが条件になります。

(1)保存しなければならない内容

 わかりやすい方法で,お客様からきちんと「同意」を得ることができたなら,その「同意」を得たことを記録して保存することが義務付けられています。特定電子メール法と特定商取引法では,お客様から「同意」を得た経緯に応じて,保存しなければならない記録をいくつか定めています。

 個別の「同意」のデータを,その時期や状況を示すデータと共に保存しておくという方法もありますが,そこまでのデータが全て揃わない場合には,「同意」を得た方法に応じて,上の表にあるとおりの情報を保存しておけばよいこととされています。

(2)保存しなければならない期間

 上記のとおり保存が必要な文書やデータの保存期間は,メール送信日から3年と考えておきましょう(特定電子メール法では長くても1年,特定商取引法では3年とされていますので,長い方に合わせればいいわけです。)。

(3)保存義務に違反した場合

 保存義務に違反した場合には,100万円以下の罰金に処せられる可能性がありますので,注意が必要です。

4 お客様から配信中止を求められたら,配信を中止しなければなりません。

4 お客様から配信中止を求められたら,配信を中止しなければなりません。「通信販売のルールが変わります!」(経済産業省)12頁の画面例を参考に作成しています。
http://www.no-trouble.go.jp/search/spam/pdf/20080601sp04.pdf

 「同意」を得てメルマガ配信を行った場合でも,その後にお客様からメルマガ配信中止の連絡を受けた場合には,配信を中止しなければいけません。

 そして,メルマガ配信中止の連絡についても,お客様がわかりやすく手続できるようにしなければいけません。具体的には,上記のメール例1のように,メール本文中に配信中止の連絡先となるメールアドレスやURLなどを表示します。

 配信中止の連絡を受けたにもかかわらず,広告メールを送信した場合には,100万円以下の罰金に処せられる可能性がありますので,注意が必要です。

メルマガに記載が義務付けられている項目とは?次ページへ

5 メルマガには,記載が義務付けられている項目を漏れなく記載しましょう!

5 メルマガには,記載が義務付けられている項目を漏れなく記載しましょう!「特定電子メールの送信等に関するガイドライン」(総務省)27頁の表示例を参考に作成しています。
http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/d_syohi/pdf/m_mail_081114_1.pdf

 広告メールの送信にあたっては,以下の①~⑤について記載することが義務付けられています。ですから,メルマガ配信にあたっても,メール例2のような方法で,簡単にわかるような場所に記載しなければいけません(※1)。

 「同意」を得ずに広告メールを送った違反者や,配信中止の連絡を受けたにもかかわらず広告メールを送った違反者が,そのメールに以下の項目を記載しなかった場合には,1年以下の懲役と200万円の罰金のどちらか一方あるいは両方に処せられる可能性がありますので,注意が必要です。

※1:メルマガにおいて,通信販売の商品等の販売条件等を広告する場合には,これに加えて,通信販売広告における表示義務が別途課されることになりますので,この場合には更に詳細な記載が求められることになります(特定商取引に関する法律11条,同施行規則8条~10条ご参照)。

①送信者の氏名・名称
②配信中止手続のための連絡先メールアドレス,URL等
③配信中止ができることの記載
④送信者の住所
⑤苦情や問い合わせ先の電話番号,メールアドレス,URL,またはリンク
※電話番号については,記載することが望ましいものの,法律上は,電話番号,メールアドレス,URL,またはリンクのいずれか1つで足ります。

6 まとめ

 最後にポイントをまとめておきましょう。

 ①同意のないお客様への配信はNG!
 ②同意を得たことに関する3年の保存義務を守りましょう!
 ③同意を得たお客様であっても,配信中止を求められたら,配信中止!
 ④義務付けられている記載は,わかりやすい位置にもれなく記載!


 これらのポイントを押さえて,メルマガを有効に活用し,ビジネスチャンスを広げて下さい。

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https://ecnomikata.com/admin/inquiry.php?form_id=144
※コラム『弁護士法人MartialArtsの「EC相談室」』への質問である旨の明記をお願いいたします。


著者

吉新拓世 / 齋藤拓 (Takuyo Yoshiara / Hiraku Saito)

●弁護士 吉新拓世
東京弁護士会所属 弁護士法人Martial Artsシニアパートナー
2003年東京大学法学部卒業
通販会社・通信会社等が有する比較的少額な債権の回収業務について多数の実績があり,電話対応・お客様対応に関する講演も多数。
 
●弁護士 齋藤拓
福岡県弁護士会所属
弁護士法人Martial Artsアソシエイト
中央大学法学部国際企業関係法学科 卒業
中央大学法科大学院 修了


弁護士法人Martial Arts http://www.martial-arts.jp/