2025年版・年末商戦の勝ち方と今すぐ使える対策チェックリスト! ~今年の鍵は、EC市場で起き始めた「オフラインからの逆輸入」にあり!~
EC事業者にとって最大の商戦期である年末が迫ってきました。シリーズ最終回となる本稿では、年間売上の最大の”山場”である「年末商戦」を徹底解説します。今回は特に、楽天市場、Amazon、Yahoo!ショッピングを念頭においたモールごとの違いをデータに基づきご紹介します。本調査は、大手ECモールの商品販売を推計データとして可視化・分析できるツール「Nint ECommerce」(※1)を活用し実施しました。
市場が成熟し、価格や利便性での競争が限界を迎えつつある今、今年の年末商戦を勝ち抜くヒントは、ECと対になるオフラインの世界にあります。その鍵は、EC業界で本格化する「オフラインからの逆輸入」と呼ぶべき現象です。通常、EC市場の流行がオフラインへ波及するイメージが強いですが、今回はその逆の現象です。これは、今後もEC市場が成長していく上で重要な転機となる可能性を秘めており、この視点の有無が今年の年末商戦の成果を大きく左右すると予想します。
●過去記事はこちら! 第1回/第2回/第3回/第4回/第5回
今、EC市場で起きている「オフラインからの逆輸入」とは?
「モノ消費からコト消費へ」という言葉が示す通り、現代の消費者は商品のスペック(モノ)より、それを通じて得られる素晴らしい体験(コト)に価値を見出します。この「体験価値」の提供は、本来オフライン店舗の得意領域でした。
〇オフライン店舗の成長戦略
心地よい空間、五感への訴求、丁寧な接客を通じ、顧客との情緒的な繋がりという「体験」を付加価値として提供し成長してきました。
例:おしゃれなカフェ、ライフスタイルを提案するショールーム、目を引くディスプレイなど
〇EC市場の成長戦略
「価格・品揃え・利便性」といった合理性・効率性を武器に成長してきました。
例:物理的制約のない豊富な品揃え、容易な価格比較、自宅への配送、24時間注文可能など
しかし、ECの武器が当たり前となった今、次の成長を遂げるため、オフラインが培ってきた「体験価値」を商品名や画像、動画で表現する手法が本格化しています。これこそが「オフラインからの逆輸入」の正体です。Nintの推計でも、2025年上期は睡眠の質を向上させるマクラや、リカバリーウェア、生活の質を上昇させるウェアラブルウォッチ、生活水準を上昇させるロボット掃除機など「質」を意識した商品、関連した商品ワードが増加傾向でした。
もちろん「体験価値」は通年で重要ですが、特に年末商戦ではその重要性が一段と増します。なぜなら、年末はあらゆる事業者が大規模セールを仕掛け、価格だけでは差がつかなくなるからです。その中で“選ばれる理由”を作るのが、体験価値を伝える訴求なのです。今年の年末商戦は、この「体験価値」をデジタル上でいかに表現し、顧客に届けられるかが差別化の決定打となるでしょう。
その具体的な手法として注目すべきが、「CEP(カテゴリーエントリーポイント)」を意識した訴求です。CEPとは、顧客が「こういう時に、この商品が欲しい」と思い浮かべる“きっかけ”や“利用シーン”を指します。例えば歯磨き粉を販売する際、単に商品を説明するのではなく、CEPを喚起することが効果的です。
● コーヒー等の着色汚れ防止 ⇒ 歯の白さを維持したい欲求への訴求
● 朝起きた時の口のネバつき解消 ⇒ 不満の解消と必要性の訴求
● 歯周病を予防し、楽しい食事を ⇒ 将来のリスクや不安の解消を訴求
消費者は、こうした具体的な悩みや欲求(CEP)を想起することで購入に至ります。自社商品が解消する生活の「質」や「シーン」を意識することが重要です。 このCEPの視点を持ちながら、次章で解説する各モールの特徴とジャンル別動向を読み解き、「いつ」「どのタイミングで」CEPを訴求すべきか考えていきましょう。
週次の定義と売上指数
具体的なモールごとの動向を見る前に、分析の前提を説明します。今回は国内3大ECモールを想定し「Aモール」「Bモール」「Cモール」として解説します。
<年末商戦の分析にあたり>
● 週別定義
年末商戦を「週別」で分析します。(※図1:各年度の年末までの週別定義を参照)2024年と2025年の週の日付は類似しているため、2024年の動向が参考になります。
● 売上指数
年やジャンルを横断して比較するため、各年の分析対象7週分の平均売上を100とした「売上指数」を算出しました。100より高ければ需要が高い週、低ければ平均を下回る週と判断します。
● 紹介データ
モール全体の売上指数動向は3年分、ジャンル別動向は2024年度のデータを使用します。
図1:各年度の年末までの週別定義
激動の市場を勝ち抜く! モールタイプ別・年末対策
ここからは「モールの特徴」「ジャンル別動向」「CEPのポイント」を具体的に見ていきましょう。
【Aモール:一点集中・短期決戦の突破型】
※別名候補だと、一気に出荷の倉庫型
◆特徴
3年間の売上推移を見ると、特定の週に売上が爆発的に伸長し、その後急速に落ち込むという、非常に明確なトレンドを持ちます。(2022年・2023年は3週目、2024年は4週目)短期間で祭りのような盛り上がりを創出するのが最大の特徴です。
◆攻略のポイント
1. ブラックフライデー(今年は11月28日《金》)の「ヤマ」を外さない
Aモールの売上ピークはブラックフライデーと重なります。この時期の欠品対策や販促強化が攻略の絶対条件です。リソースを分散させず、この1~2週間に集中させることが売上増の鍵となります。
2. CEPを刺激し、体験価値を訴求する
この時期、消費者は「お得に買う」合理性だけでなく、「イベントに参加したい」「自分へのご褒美」といった高揚感(CEP)に満ちています。高まった購買意欲に対し、自社商品の「コト消費」を意識した訴求を商品名・ページ・動画で行い、購買に繋げます。
◆ジャンル別動向とCEP活用法
【最注力ジャンル】
2024年のジャンル別データでは、「生活家電」がピーク時に大きく伸長しています。このジャンルでは、単なるスペックではなく、「QOL(生活の質)がどう向上するか」という体験価値を前面に押し出すCEP訴求が効果的です。
● CEP商品ワード例: 「最新家電」「快適な生活」「大掃除が楽に」「自宅を映画館」「自宅で楽しむ」
図2:Aモール売上指数推移
図3:Aモール2024年ジャンル別売上指数推移
【Bモール:全方位(全ジャンル)巻き込みの1点集中型】
※別名候補だと、全ジャンルが盛り上がるお祭り型
◆特徴
毎年必ず11月末~12月頭にあたる“4週目”に売上ピークが来るため、年末商戦のヤマを予測しやすい傾向があります。モールが総力を挙げて開催する大型セールと重なり、全ジャンルが連動して消費が上昇する点も特徴的です。
◆攻略のポイント
1. 大型セールの「ヤマ」を外さない(全ジャンル)
攻略法は、4週目の超大型セールに照準を合わせ、その波に乗ることです。2024年と同様の傾向(ブラックフライデー⇒大型セール)が予想されますが、年によっては「ポイント還元率の高い、特定の日」の影響も大きいため、該当日を抑えることも重要です。
2. 「買い回り」を前提としたCEPとお得感を訴求
このモールは「買い回り店舗数」でポイント倍率が上がる仕組みが強力なため、「ついで買い」を誘発することが消費者のメリットに直結します。この仕組みを前提としたCEP訴求が売上を最大化します。また、販促やクーポン情報を事前告知し、ブラックフライデー時期から購入計画に組み込んでもらうことで機会損失を防ぎます。
◆ジャンル別動向とCEP活用法
【最注力ジャンル】
2024年のジャンル別データでは「食品」「化粧品」がピーク時に大きく伸びました。特に食品は、カニの解禁、ふるさと納税、お歳暮、鍋需要などが重なり、指名買いで上昇します。これらのジャンルでは、QOL向上や季節のイベント、体調変化といった情緒的価値を訴えるCEPが有効です。
● CEP商品ワード例<食品>
「みんなで囲む」「あったか」「カニ鍋」「パーティー」「クリスマス」「豪華海鮮」「食卓を華やか」「お歳暮ギフト」
● CEP商品ワード例<化粧品>
「頑張った自分へのご褒美」「限定クリスマスコフレ」「冬の乾燥」「高保湿スキンケア」「忘年会シーズンの肌荒れ対策」
図4:Bモール売上指数推移
図5:Bモール2024年ジャンル別売上指数推移
【Cモール:終盤追い上げ・高還元による駆け込み寺型】
※別名候補だと、高還元ポイント飛び跳ね型
◆特徴
年間トレンドが読みづらい変則的な動きですが、「年末最後の大型販促」のスタート時と終了間際に売上が上昇する傾向があります。2024年は6週目に大規模なポイント還元があり、消費が急上昇しました。他モールで買い逃した層や、ポイント還元を狙う合理的な消費者にとって、年末最後の“駆け込み寺”的な特徴を持ちます。
◆攻略のポイント
1. セール終了直前の数日間が最大のヤマ
セール最終日の2~3日前に大きなポイント還元があるため、このタイミングに広告予算、タイムセール、クーポンなどを全て集中させ、売上と費用の効果を最大化します。アクセス時間を意識した時間限定クーポンも有効です。
2. 「今のお得額」を数字で可視化してCEPとする
大きな還元率が魅力のため、自店舗の還元を明確に提示し「お得感」を訴求することが基本戦略となります。「今だけ」を強調し、購入を迷っている消費者の背中を押しましょう。
◆ジャンル別動向とCEP活用法
【最注力ジャンル】
2024年のジャンル別データでは「食品」「生活家電」「化粧品」が伸びました。特に「生活家電」はボーナスと年末最後のセールが重なるため、高額商品が動く可能性が高いです。(※ふるさと納税は制度変更による駆け込み需要の時期に注意が必要です)
● CEP商品ワード例<生活家電>
「駆け込み」「年内配送可能」「ラストスパート」「ボーナスでご褒美」「高還元」「最終日」「本年最後のチャンス」「年末買い替え」「快適な新年」
図6:Cモール売上指数推移
図7:Cモール2024年ジャンル別売上指数推移
まとめ:明日から使える共通対策チェックリスト
各モールの特性を深く理解し、「オフラインからの逆輸入」=「体験価値」という新たな視点でCEPを訴求することが、今年の年末商戦を制する鍵となります。この記事を読んだ皆様がすぐに行動に移せるよう、どのモールにも共通して使える「対策チェックリスト」をご用意しました。ぜひ、自社の準備状況の確認にご活用ください。
【チェックリスト】
明日から使える! 年末商戦・勝利への最終チェックリスト
□ 1. 「体験価値(CEP)」の棚卸し
[ ] 自社商品の「CEP(顧客が欲しくなるシーン)」を3つ以上書き出したか?
[ ] そのCEPを商品名やキャッチコピーに反映させる言葉を考えたか?
(例:「#自分へのご褒美」「#おうちで贅沢ディナー」)
[ ] 商品がもたらす「理想の体験」が伝わる画像や動画は用意できているか?
□ 2. モール別戦略の確認
[ ] Aモール(突破型): ブラックフライデー期間中の広告予算と在庫は重点的に確保したか?
[ ] Bモール(一点集中型): 「買い回り」を促すための、あわせ買いしやすい低価格帯商品は準備したか?
[ ] Cモール(駆け込み寺型): セール終盤に投入する「限定クーポン」や「ポイントアップ施策」の計画は万全か?
□ 3. 販促・運営体制の最終準備
[ ] 各モールのセール日程(BF、大型セール等)を社内カレンダーに登録したか?
[ ] SNSやメルマガでの「事前告知」のスケジュールは決まっているか?
[ ] 受注増加に備えた、問い合わせ対応や梱包・発送の人員体制は整っているか?