Yahoo!しか出来ない快進撃、EC業界全体を天下統一?
Yahoo!、決算発表。EC業界で天下統一?
ここ数年のヤフー株式会社(以下、Yahoo!)の動きを見ていると、EC業界において天下を取るのではないだろうか、と思わせる出来事が多い。そしてその考えは、先日発表された、Yahoo!の2016年度第1四半期決算において、更に現実的なものへと変わっていった。
ヤフー株式会社 代表取締役 宮坂学氏により発表された決算内容はこちらから
決算の結果として、eコマース国内流通総額は4,300億円であり、前年同四半期比は+38.2%という結果を収めている。その内、アスクル単体におけるBtoB事業、インターネット経由売上高(取扱高)541億円を占めている。「Yahoo!ショッピング」「LOHACO」といったショッピング事業の取扱高は増加しており、Yahoo!のEC事業に対しての本気度が伺える。
Yahoo!のeコマース革命、第一次維新に見るその先は?
ショッピング事業取扱高の成長率を前年同四半期比で見てみると、2013年1Qは-2.2倍、2014年1Qは+3.5%、2015年は1Qは+23.1%、2016年1Qは+37.9%と急成長を遂げている。2013年、Yahoo!のショッピング事業取扱高の成長率はマイナスだった。 そこからのYahoo!の快進撃。EC業界に衝撃を与える革命が起きた。それが2013年10月から始まった「eコマース革命」である。
eコマース革命大きな2本の柱は「無料」と「自由」である。eコマース革命前のYahoo!ショッピングでは、現在の他モールと同様に初期費用・毎月の固定費・売上ロイヤルティの支払いを求めていた。しかし、eコマース革命後は法人・個人を問わずこれらの全てを「無料」にした。
他にもこの革命で、Yahoo!ショッピングにおいて、自社ECサイトなどの外部リンクを設置することができるようになった。また、消費者からの同意を得たのであれば、アドレスを自社保有することができる。そして、その個人情報を自社で仕掛けるプロモーションやマーケティングへと活かすことができるのだ。これらの施策によりYahoo!ショッピングへ出店するECサイトは「自由」を手に入れた。
革命後、EC事業者へもたらす影響
今までモールへ出店するとなると、初期費用・毎月の固定費・売上ロイヤルティの支払いは必須だった。また、顧客の情報についてもモール運営会社のデータになる場合が多いため、ECサイトは自社でリピートへの施策を打つことができなかった。eコマース革命は、今まであり得なかったことを可能にして、EC業界へ大きな衝撃を与えたのだ。
元々は約2万の出店店舗数だったが、eコマース革命後、2015年6月末で31万店舗にまで拡大した。Yahoo!ショッピングでECサイトを開店する事業者が増え、その結果、ショッピング事業取扱高の成長率は右肩上がりという結果になったのだ。 Yahoo!はEC業界において「誰でも、無料で、簡単にネットショップを開ける」、そんなプラットフォームを作った。そして人々から、ECというビジネスを身近にした。
そして伸びが顕著に表れた事例がある。それが今年6月に行われた、「Yahoo!ショッピング Yahoo! JAPAN 20周年大感謝祭セール」であり、そこではショッピング事業取扱高が前年比2倍にまで伸びた。このことから出店のハードルは低いが、売り場の実力は高まってきたことが伺える。また、Yahoo!ショッピングで購入する消費者を満足させるために、ストアの拡大とともに商品数も2.2億点と、品揃えも充実させてきている。
Yahoo!は、通常他モールがマネタイズしている毎月の固定費や売上ロイヤルティ等からは収益を上げていない。他社とはビジネスモデルが違い、広告ビジネスである。Yahoo!からすると、収益を上げるためには、多くのEC事業者にYahoo!ショッピングで店を開店してもらう必要がある。 そしてそのショッピング広告の売上高も、ECサイトの数と比例して、前年同四半期比で2.2倍と順調に伸びてきている。そしてYahoo!も順調に収益を上げていることが、今回の決算発表でも分かった。
Yahoo!、第二次維新がここに始まる。遂に天下統一か?
Yahoo!の第二次維新、キーワードは“マルチサービス”
では、eコマース革命でEC業界へ大きな変化を与えたYahoo!は、将来どこへ向かうのだろうか。宮坂氏は語る。「EC業界の中で、ECサイトへサービスを提供する会社として、常にトップを走り続けたい。」と。そんな宮坂氏率いるYahoo!は、ナンバーワンを取りに行くべく、ある施策を進める。それは自社が提供する様々なサービスを利用した“マルチサービス”である。
まずは、Yahoo!と言えばメディアサービス。2016年4月~6月にかけての月間総ページビュー数は、約698億と圧倒的な集客力を誇る。そしてYahoo!ショッピング等のEC事業、クレジットカードの決済事業。これらのサービスの中で、Yahoo!が抱えるプレミアム会員を回遊させようという施策が、マルチサービスの施策なのである。
もう少し踏み込んでみると、メディアサービスを通してプレミアム会員化するべく、特典を付ける。そしてEC事業とクレジットカード事業へ送客を行う。EC事業からは、インターネットでの買い物を通して、プレミアム会員へ変化させるためにプレミアム会員へと送客を行う。また、ECと決済には密接な関係があるため、クレジットカード事業へも送客を行う。
一方でクレジット事業からは、カードを利用することで与えられる特典を付加価値として付けることによって、EC事業を活気づけていく。プレミアム会員からは、ECサービスの利用を促進させるために、特典を付けて買い物を促す。そして最終的にプレミアム会員を増やすことで、Yahoo!が提供するサービスを総合して利用してもらう施策なのだ。各サービスで集客した客を、相互に送客し合い回遊させることで、単発でサービスを提供するよりも相乗効果を図ることができるだろう。
しかし現状、4つのサービスを全て利用している顧客は、1桁%である。まだまだ普及していないのだ。しかし発想を転換すると、大きな伸びしろがあるとも考えられる。もしこの施策が成功したら、Yahoo!は、莫大なビックデータを様々なサービスにおいて、抱えることとなるのだ。宮坂氏も「マルチビックデータの会社になっていきたい。」とコメント。本施策は今後、メディアサービスを軸として更にYahoo!を成長させ、EC業界でナンバーワンになるための鍵となっていたのだ。
コマース21買収で、マルチビックデータ宣言!
Yahoo!は、先日もEC業界にて大きな動きを見せている。それが先日EC業界で大きな話題になった、株式会社コマースニジュウイチ(以下、コマース21)の買収だ。コマース21とは、ECサイトを構築・運営するためのパッケージソリューションや、ECコンサルティングを提供している。主に独自ドメイン店舗向けのサービスである。一見、モールという形で展開しているYahoo!とは関係がないように見えるかも知れない。しかしここには、深い関わりがあるのだ。
現在Yahoo!は、Yahoo!ショッピングやヤフオク、そしてLOHACOにおいて集めた顧客データを保持している。そこで独自ドメイン向けサービスを提供しているコマース21と連携していくことで、EC業界へよりよいサービスを提供することができる。マルチビックデータを生かすことによって、連携を促進していくのだ。
また、今後は“個人に合わせて的確なものを”というレコメンドについてのサービスも考えているという。Yahoo!IDに紐づく形で、クレジットカード使用履歴や、インターネットショッピング履歴を確認できるようにする。そして今回の施策で集まったマルチデータを使い、顧客を理解し、1人1人に合った商品や情報やサービスを的確に案内する。マルチサービスに併せて、一気通貫でサービスを提供できるように、と考えているのだ。
Yahoo!のEC維新で、天下統一か?
eコマース革命では、主にEC事業者へ満足させるサービスを提供する施策を行ってきた。しかしマルチサービスではどちらかと言うと、消費者目線に立っているように感じられる。それは、4つのサービスを提供することで、総合的にYahoo!という企業への顧客満足度を上げる施策だからだ。この施策が成功した暁には、Yahoo!ショッピングなどのECサービスへ買い物に訪れる消費者が今よりも格段に多くなっていることだろう。
今回の決算結果は、ほぼ想定内の決算だったという。Yahoo!ショッピングで出店するEC事業者を増やし、流通額も伸ばす。そして自社の収益も上げており、今後はマルチビックデータを使い、そのデータをECへ利用していく。2013年のあの日、eコマース革命前に誰がこのことを予想できていただろうか。既に宮坂氏の頭の中では、描かれていたのかもしれない。そしてEC業界で圧倒的ナンバーワンになった後の事も。