企業別「オムニチャネル化」の実態、EC化率向上の鍵に
東海大学は、社会科学系研究の活性化を目的に「総合社会科学研究所」を新たに設立し、その1機関で「ECコマースユニット」が主催する「第1回研究報告会・講演会」開催した。本記事では、そこで東海大学総合社会科学研究所 客員准教授 小嵜秀信さんが発表された、「リーディングカンパニーにおけるオムニチャネル対応の実態と業績に与える影響」をまとめていく。
スマートフォンの普及でオムニチャネル化が進む
インターネットが普及され、ECで商品を購入できる時代となり、実店舗とEC店舗、問わずに同価格で商品が販売され始めた。これが「オムニチャネル化」であり、実店舗とEC店舗で顧客情報が一元管理され、顧客は実店舗とEC店舗問わずに自由に商品を購入できるようになった。
この「オムニチャネル」という言葉が一般化されたのが2014年。この年に日本のEC化率が4.37%となり、あらゆる店舗でオムニチャネル化が始まった。さらに、オムニチャネル化が進んだきっかけが「スマートフォン」の普及だ。これにより、ECでの買い物もスマートフォンで行うようになり、実店舗とEC店舗に対応することが求められる時代に変化していった。
時代の流れに沿って、「いかに顧客のニーズにタイムリーに応えるか」、これがオムニチャネルの根本なのだ。
今回の分析による評点基準
オムニチャネル化が進む現代、業績にはどういった影響があるのだろうか。東海大学総合社会科学研究所では、それを明らかにするべく、業種ごとの分析を行った。なお、分析した業種と主な評点基準は以下の通りだ。
【分析対象の業種】
家電量販店、百貨店・総合小売り、家具・ホームセンター、アパレル、リサイクル
【主な評点基準】
・リアルチャネルとスマホチャネル、ECチャネルがあるか
・商品情報が正確に読み取れるか
・アプリの提供、実店舗とEC店舗の会員情報や購入履歴の連携、SNS等の情報提供、チラシなどは行っているか
※これらを主な基準とし、点数を100点満点で採点した。なお、点数の詳細は以下の表の通り。
家電量販店とアパレルの点数が高い
分析結果によると、家電量販店が54.55点、アパレルが50.12点と点数が高く、次いで、百貨店総合小売り、ホームセンター、リサイクルと続いた。平均点数は46.34点であり、家電量販店とアパレル、百貨店総合小売りは平均点数以上となった。
企業規模別では、5,000億円以上が57.18点、3,000億円~5,000億円が54.20点。また、店舗数では、1,000店舗以上が58.08点、500店舗~1,000店舗が43.56点となった。つまり、企業規模が大きく、店舗数が多いほど、オムニチャネル化が進んでいるということだ。
さらに、点数が50点以上はアプリを提供しており、全体平均で約6割がアプリを提供していた。70点以上は、実店舗とアプリの会員情報がしっかり統合されており、それだけにお客様が会員であることのメリットを享受できるが故の、当然の結果が出ている。
その他、オムニチャネル化と企業業績の関係性については顕著な関連性は見られなかったが、オムニチャネル化が進んでいない企業は業績の伸び率は低い。なお、EC化率は、オムニチャネル化が進んでいる企業は伸び率が高い結果となった。企業業績を伸ばす要因として、オムニチャネルが少なからず影響していると言えるのではないか。
オムニチャネルはEC化率に影響を与える
分析結果をまとめると、オムニチャネル化が企業業績そのものに直接的な影響を与える点に関しては、明確な根拠はなかったが、EC事業全体の業績に関しては、一定の根拠あった。また、オムニチャネル化は、企業業績そのものではなく、企業におけるEC化率向上に影響を与えることが明らかとなった。
少し前までは、店舗に足を運び、商品を購入することが当たり前であった。しかし、インターネットの登場により、EC店舗を介して、時間と場所を問わずに、自由に商品を購入する人が増加していった。さらに、スマートフォンが普及されてからは、実店舗とEC店舗の他にアプリも登場し、店舗はECだけでなく、アプリも開発し始めた。
実店舗とEC店舗、そしてアプリと、あらゆる販売チャネルの顧客情報を統合するために「オムニチャネル化」を進め、顧客がより買い物しやすい環境を整えた。それが今回の分析結果に現れ、オムニチャネル化が進んでいる企業ほど点数が高い。つまり、顧客満足度が高いということだ。時代の流れに沿って、販売チャネルが増えた今だからこそ、オムニチャネル化をすることが大切である。それが顧客満足度や売上向上に繋がっていくのではないだろうか。