LINEが新施策を発表。P&Gやプジョー、SABONの成功事例も紹介【LINE BIZ DAYレポート】

ECのミカタ編集部

2021年8月24日・25日の2日間、オンラインで「LINE BIZ DAY BREAKOUT BRAND&DIRECT」が開催された。

「ブランディング」と「ダイレクトマーケティング」の2つのテーマを軸として、それぞれの領域におけるLINEの最新施策の紹介に加え、LINEのマーケティング活用に成功しているゲスト企業を招いてのセッションが行われた。

ここでは、特にECに関連する内容や、EC事業者のヒントになりそうな内容に焦点を当て、LINEのマーケティング活用の最前線を紹介する。

LINEが考えるブランディングの未来と今後の新施策

企業ブランディングにおけるLINE活用は、「ブランディング広告」「CX」「データ」の3つの領域からなる。「これからの時代にユーザーに支持されるブランドになるためには、購買ファネルの上流から下流まで、顧客体験を分断させることなくデザインする必要がある」とLINEの宮本氏は説く。

◆ブランディング広告

ブランディングを目的としたLINEのディスプレイ広告の出稿金額は、2020年上期から2021年上期の1年間で204%に伸長。また、LINEのトークリスト最上部に掲載される広告メニュー「Talk Head View」の出稿目的は「企業・ブランド認知」が80%を占めており、「LINEを活用したブランディング」が根づいてきていることがうかがえる。

このTalk Head Viewは、5500万UU /日を誇り、10代から50代以上までの幅広い世代にまんべんなくリーチできる点に特徴がある。

2021年9月に提供開始した「Talk Head View Custom」。従来のTalk Head Viewに比べ、配信期間や最低出稿予算などの掲載条件に柔軟性を持たせた運用型のプロダクトだ。

2021年10月には、「LINE NEWS TOP AD」のトライアル提供も開始する。LINE NEWSのファーストビューに掲載される自動再生の動画広告で、1日に2700万インプレッションを想定している。

◆CX
より良いブランド体験のためには、CXの深化がますます重要になってくる。LINEでは今後、買い物先の店舗でのお得な情報の配信や、スマホ会員証、住所・氏名の入力なしのキャンペーン参加など、ユーザーにとってスムーズなブランド体験の提供を後押ししていくという。

カネボウ化粧品ではもともとネイティブアプリの会員証を使っていたが、LINEミニアプリを活用した会員証を導入したところ、会員比率が30%から50%に向上。誕生日メッセージの配信や購入履歴に基づいたレコメンドの配信といった1to1コミュニケーションにもLINEを活用した結果、LINE公式アカウントのメッセージ開封率は、既存のネイティブアプリに比べて143%と高い水準を誇っている。

◆データ活用
LINEでは、「Any1」というコンセプトを掲げ、マーケティング活用に必要なデータを1つのIDに統合すること、人、場所、瞬間に合わせたコミュニケーションをすることに取り組んでいる。

LINEのデータを活用するためのさまざまなサービスを統合する形で、2021年7月に「LINE DATA SOLUTION」をローンチ。データ活用を「データ収集」「データ統合・連携」「分析・レポート」「オーディエンス活用」の4つのフェーズに分類しており、「オーディエンス活用」のフェーズにおいては、Treasure Dataとのパートナーシップにより、事業者がより簡単にLINEで自社データを活用できるようにする。

また、今後はZホールディングスのグループ企業が持つサービスとの連携も段階的に進めていくとしており、現段階ではYahoo! JAPANのオーディエンスデータとの連携を予定。これが実現すると、Yahoo! JAPANのデータを活用した配信が可能になる。

「データ統合・連携」のフェーズにおいては、今後、「ビジネスマネージャー」のリリースを計画している。「ビジネスマネージャー」は、LINEのデータと事業者が持つ自社データ、Zホールディングスのサービスデータなどを広告主単位で統合して管理できるデータ基盤だ。

これによって、プロダクトを横断したオーディエンスの共有が可能となり、立体的なオーディエンスの可視化につながる。また、紐づくLINE公式アカウントによらずLINE広告とLINE公式アカウントを横断したオーディエンスデータの活用ができるようになる。

さらに、2021年10月以降には、Yahoo!広告の管理画面から、LINE広告のLINE NEWS面の一部に出稿が可能となる予定。2022年夏以降(調整中)は、LINE広告の管理画面からYahoo!ニュースの一部面への掲載も可能になるよう準備を進めているという。

P&Gが描く未来の買い物体験「もはや1 to 1コミュニケーションは絶対条件」

大手消費財メーカーのP&Gでは、商品を使用する人を「コンシューマー」、商品を購入する人を「ショッパー」と呼ぶショッパーマーケティングチームでは、小売店と協業して「ショッパー」に対するマーケティングに取り組んでいる。

P&Gでは、「LINE公式アカウント」や「LINEで応募」「LINE POP Media(トライアル中)」「LINEで応募」などのメニューを活用している。新たに「P&G」としてのLINE公式アカウントを開設した背景には、会社としてデジタルを通じたショッパーへの1 to 1アプローチを本格的にスタ―トする狙いがあった。

LINEを選んだのは、圧倒的なユーザー数や女性の使用比率の高さから、コミュニケーションツールとして有効であることが理由だ。P&Gジャパンの根岸氏は「LINEを活用したデジタルプロモーションでは、従来のメディアに比べ、より直接的に買い物の流れの中でショッパーとつながることができる」と評価する。

「LINEで応募」は、LINEを使って誰でも簡単に応募ができるキャンペーンプラットフォーム。ユーザーにとっては、キャンペーン応募のためにアプリをダウンンロードしたり、ID・パスワードを設定したりする必要がないというメリットがある。企業側から見れば、キャンペーンの応募内容から、誰が何を買ったかをID単位で捕捉でき、1対1でコミュニケーションが取れるというメリットがある。

P&Gが過去に実施した、事前エントリー型レシート応募キャンペーンは、エントリーするだけでLINEポイントがもらえ、さらに対象商品を購入したレシートで応募するとさらにポイントが全員もらえるというキャンペーンだ。これによって、エントリー段階でLINE公式アカウントの友だちが大幅に増えただけでなく、キャンペーンの参加者増・購入者増にもつながった。

ここで、P&Gが考えるこれからのショッパーニーズを紹介しよう。これらのニーズはコロナ前から芽があったものの、コロナ禍で加速しており、今後重要性を増している。

・RELEVANT:自分にぴったりの情報を選びたい
情報が氾濫している現代は、自分にぴったりの情報でないと無意識にシャットアウトしてしまいユーザーに届かない時代。データをもとにして、いかにパーソナライズを実現するかが重要となる。

・EXPERIENCIAL:リアル・デジタルで体験をしたい
コロナ禍でオンラインでの買い物が増えている。コロナ禍が収束しても、単純に元に戻るのではなく、リアルとデジタルの融合を通じてより良く進化していく。

・EFFORTLESS:より快適で効率の良い生活を求めたい
時間的・物理的に効率的な買い物ができるようにするだけでなく、ユーザーの精神的な重荷を取り除くことも大切。信頼できる情報を提供して、迷いのない意思決定を手助けする。

・MEANING:地球に、社会に、自分に良いことをしたい
サステナビリティや地元支援など、買い物を通じて気軽に「ちょっといいこと」をする機会をユーザーに提供する。

これらのショッパーニーズを踏まえると、その人にあった情報を、その人に合った手段で、その人に合ったタイミングで提供する1 to 1の重要性が高まっていくことは間違いない。

P&Gでは、今後デジタル化、1 to 1化が進んでいくと「買い物は買い物の前から始まっている」という側面がより色濃くなっていくと考える。具体的には、事前の情報収集や増えすぎた情報の選別などである。どのブランドを選ぶか、どのお店を選ぶか、買い物前から吟味が始まっているのだ。

未来の買い物体験においては、「買い物前」「買い物中」「買い物後」の各フェーズでショッパーとつながり、ショッピングジャーニーが繰り返され、ループすることで、購買情報等が蓄積され、1to1のアプローチが精緻化していく。根岸氏は「もはや、1 to 1コミュニケーションは付加価値ではなく、絶対条件」と、1 to 1コミュニケーションの重要性を強調し、締めくくった。

スタンプで204万人の友だちを獲得したプジョーのLINE活用例

フランスの自動車ブランド「プジョー」は、日本市場において5年連続で販売台数を伸ばしており、輸入車マーケットでの存在感を増している。自動車の平均所有年数は短くない。そのため、ブランドの認知を高め続け、常にショッピングリストに入っていることが重要だ。

そこでプジョーは、「お客様と接する時間を増やす」「接した際のインテンシティ(強度)を上げる」という2つのコミュニケーション戦略に基づいてマーケティングを行っている。

2019年10月にLINE公式アカウントを開設。現在278万人のLINEの友だちとつながっている。日本でプジョーブランドを展開するGroupe PSA Japanの志水氏は、「オンライン・オフラインと分けて考えるよりも、どれだけ生活者が日々接しているかという観点で、マーケティングコミュニケーションツールにLINEを選んだ」という。

輸入車各社よりもLINE活用が後発だったことも踏まえ、アカウント開設時には、LINEプロモーションスタンプ施策を実施。日本にローカライズした「プジョーライオン」のLINEスタンプを制作したことで、204万人の友だち獲得に成功した。LINEスタンプは汎用性の高さが好評で、LINEスタンプを使っているうちに愛着がわき、結果的にプジョー車の購入につながったという例もあるそうだ。

LINEを活用したプロモーション施策には非常に高額な投資が必要になるが、「テレビCMやなどと比較するとはるかにコスト効率が高く、イベントと比べると圧倒的にリーチの幅が広がること、LINEスタンプで多くの友だちを獲得すればその後の継続的なコミュニケーションにつながることなどから、スタンプ施策の実施を決めた」と志水氏は語る。

2020年9月にコンパクトSUVモデルの2008をフルモデルチェンジした際のキャンペーンにおいても、LINE公式アカウントを大々的に活用。LINEの秋祭りキャンペーンでプジョーブランドの認知を促進するクイズを出したところ、178万人が参加し、1週間で74万人の友だちを獲得した。

秋祭りキャンペーン掲載開始日にブランドワードの掲載ボリュームが大幅に増加するという波及効果もあり、キャンペーン期間中に実施したメッセージ配信のリード獲得数(資料請求や来店予約)は、通常の配信の3倍以上にのぼったという。

LINEのマーケティング活用においては、友だち獲得後のアカウント運用が重要だ。プジョーでは、コンテンツの内容や性質によってセグメントの出し分け、メッセージ配信を行っている。具体的には、新車のリリース情報などは友だち全員に配信しているが、フェア情報や金利サポート情報は、よりプジョー車購入に関心の高いユーザーに絞って配信している。


また、メッセージ配信にあたっては、TVCM素材等をそのまま流用するのではなく、顧客視点に立って、LINEのトーク画面に最適化されたフォーマットでクリエイティブの制作を行っているそうだ。

今後プジョーでは、販売店におけるLINE公式アカウントの活用を強化し、ユーザーとの関係の深化に取り組んでいくという。

LINEを活用したダイレクトマーケティングと新サービス

LINEを活用したダイレクトマーケティングには「ダイレクトレスポンス広告」「LINE公式アカウント」「データ」の3つの領域がある。

LINE広告の出稿額のうち、58%がダイレクト領域で活用されており、LINE公式アカウントにおいても、売上の51%をダイレクト領域が占めている。

◆ダイレクトレスポンス広告
LINEの川代氏は、LINE広告の配信機能アップデートと機械学習精度向上の取り組みを紹介。2021年7月には「オークション分析」「キャンペーン最適化」機能をリリース済で、2021年秋には「Animation Ads」のリリースも予定している。Animation Adsは、LINEのトーク画面に4秒以内のアニメーションが掲載できる新しい広告メニューだ。

また、2021年秋には「スタンダードイベント」のリリースも計画中。これを導入することにより、事業者はLINE広告を経由したユーザーのアクションを購買ファネル別に認識することができる。さらに、2021年内にコンバージョンAPIを提供することにより、従来のサードパーティークッキーを使った計測では欠損していたコンバージョンデータを取得することができるようになる。

LINEでは今後、これらの学習データを活用して、これまで以上に高いパフォーマンスが発揮できるよう機械学習の精度向上に取り組む構えだ。

◆LINE公式アカウント
ID連携はLINEを活用したマーケティングに欠かせない打ち手となっている一方で、実装コストや運用負荷が課題となっている。

2021年秋、この課題を解決するために、フィードフォースとの協業により、より多くの企業が開発不要でID連携を手軽に実装できるソリューション「LINE CRM Package for EC」の提供を予定している。

最近注目されているのが、LINE広告のリターゲティング補完としてのLINE公式アカウントの活用だ。

LINE広告に接触し企業のランディングページを訪れたユーザーがコンバージョンせずに離脱しようとすると、ポップアップでLINE公式アカウントの友だち追加を促す。友だち追加をしたユーザーにはチャットボットで診断コンテンツなどを用意し、コンバージョンに向けてナーチャリングしていく。

「従来の刈り取り型のマーケティングからLTV型のマーケティングへのシフトに向けて、いかにお客様とつながって適切なコミュニケーションを生み出し、購入意向を高めていくか。そして、その後のロイヤル化、関係性をどう構築していくかが今後のダイレクトマーケティングのカギになる」と川代氏は結んだ。

EC売上の30%がLINE経由、SABONが実践するファンづくり

イスラエル発のナチュラルコスメブランド「SABON」がマーケティングにおいて大切にしているのは、「世界観あふれぬくもりのある店頭体験」と「デジタルの積極活用」の2軸だ。店頭での体験を重視してきた一方で、最近ではオンライン接客やバーチャルストアなどを介して、店頭の世界観をオンラインで実現することに積極的に取り組んでいる。

SABON Japanの西氏は、「顧客データを一元管理できること、顧客データに基づいてお客様と1 to 1コミュニケーションができること、顧客利便性の高さから、マーケティングにおけるLINE活用を決めた」と語る。

2019年4月にLINE公式アカウントをオープン。現在の友だち数は140万人以上で、月に5万人以上の新規の友だちを継続的に獲得している。

SABONでは、顧客ステータスに合わせた適切な内容とタイミングでのコミュニケーションにより、ファン化・ロイヤル化を実現。量より質を重視しており、店舗スタッフの誘導等により友だち数を増やしているという。友だち追加を促進するLINE広告も配信しているものの、適切なターゲットに届けることを優先してセグメントを絞り込んでいる。

SABONでは、LINE公式アカウントをCRMの軸として活用しており、LINEの友だちからの本会員登録者数をKPIとして設定。そのために、「LINEの友だちからの本会員化(ID連携の促進)」「シームレスな顧客情報の一元管理」「ステータスに合わせたコミュニケーション」「店頭・公式サイトへの誘導」に取り組んでいる。

本会員登録が完了していないLINEの友だちには、「SABONネイチャーマイレージクラブ」と本会員登録のベネフィットをLINEのメッセージで配信。このメッセージ配信により、良いときには配信対象者数の半数を本会員化できているそうだ。

LINE公式アカウントの運用においては、「SABONブランドの世界観を表現したストーリー性を重視したコンテンツ」「顧客ステータスをもとにした適切なコミュニケーション」をメッセージ配信の軸としている。

例えば、「キービジュアル⇒スペシャルキット・限定商品⇒ラインナップ」のように、クリエイティブのビジュアルや構成に配慮することで、配信したすべてのコンテンツをまんべんなく閲覧してもらえるよう工夫している。

また、ID連携ユーザーには誕生日メッセージの配信や、買い物カゴに商品が残っている場合のフォローアップLINEなど、カスタマイズした内容での配信を実施。こうした取り組みは売上にも直結しており、eDMと比較するとLINE公式アカウント経由の売上は約5倍になっているという。費用対効果もきわめて高く、LINEのメッセージ配信のROASは約1000%を達成している。

今ではSABONのEC全体に占めるLINE経由の売上は30%にのぼっており、LINEはなくてはならないマーケティングプラットフォームになっている。今後はさらなる友だち獲得のほか、上質なブランド体験を促せるようなコンテンツ配信、セグメント配信の強化を行っていくという。

■「1 to 1」の重要性が改めて浮き彫りに



今回「LINE BIZ DAY BREAKOUT BRAND&DIRECT」に登壇した企業は、オフラインメインでビジネスを展開している企業、オンラインでのみビジネスを展開している企業、オフラインとオンラインの両方に力を入れている企業と、商材やビジネスモデルはさまざまであるが、共通して言えるのは、LINEはオンラインでの販売促進、リアル店舗への来店促進・買い回り促進の両方において、高い潜在力のあるマーケティングツールであるということだ。

また、LINEのマーケティング活用に成功している企業はほとんど例外なく、「1 to 1コミュニケーション」を意識し、実践している。P&Gが考えるように、もはや1 to 1コミュニケーションは決して特別なものではなく、マーケティングの成功に不可欠な要素と言えるだろう。

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