デジタルマーケティング研究機構が「企業SNSのためのKPI設定フレームワーク Ver.1.0」を提唱

ECのミカタ編集部

社団法人日本アドバタイザーズ協会 デジタルマーケティング研究機構(所在地:東京都中央区銀座 代表幹事:中村 俊之)は、企業SNS運営の課題解決に向けた議論をするためのモデルとして「企業SNSのためのKPI設定フレームワーク Ver.1.0」を提唱した。

企業SNSの運営の実務担当者にはさまざまな課題や苦労がある中、SNS運営に関する議論が深化することを期待してのことだという。

本フレームワークは企業SNS運営の実務担当者(いわゆる「中の人」)が集い、課題意識や事例、知見を共有することで、企業とソーシャルメディアのよりよい関係を作るための研究活動を行っているソーシャルメディア委員会の発案により制作されたものだ。

企業のソーシャルメディア運営の課題解決に向けて

企業のソーシャルメディア運営の課題解決に向けて

2022年2月に企業のSNS担当者向けに実施した「企業のソーシャルメディア運営に関するアンケート」の回答を分析した結果、企業SNS担当者は「KPI設定/分析」「コンテンツ企画」「運営方針」などに課題を感じていることが明らかになった。

アンケートでのコメントにも「何をKPI/KGIとすればよいのか、現在設定しているKPI/KGIが正しいのかがわからない」(IT関連企業)、「SNSらしさを活かして運用していますが、販促や認知向上への貢献が測れないのでなかなか大きい施策まで乗り込めない」(金融関連企業)といった声が寄せられていた。

この結果を踏まえて、ソーシャルメディア委員会では課題解決のための議論を行ってきた。今回、企業SNS運営に関わるマーケターも広く巻き込んで、ソーシャルメディア委員会の中に留めずに議論を行うために「企業SNSのためのKPI設定フレームワーク Ver.1.0」を制作したという。

企業SNSにはオウンドメディアやペイドメディアとしての側面も

トリプルメディアの中でアーンドメディアと位置づけられることが多いSNSだが、ソーシャルメディア委員会としては企業が運営するSNSではオウンドメディアやペイドメディアとしての側面もあると考えている。

オウンドメディアやペイドメディアとしての要素が強い企業SNSの運営においては、「商材の特性」と「UGC(User Generated Contents、SNS上のクチコミなどを指す)の量」がSNS運営の戦略を分けると考えられる。「企業SNSのためのKPI設定フレームワーク Ver.1.0」では、4つの類型を提示している。

「企業SNSのためのKPI設定フレームワーク Ver.1.0」4つの類型

「企業SNSのためのKPI設定フレームワーク Ver.1.0」4つの類型

① (低関与商材かつUGC量が多い):マスプロモーション戦略
主に消費財(シャンプー、洗剤 etc.)や外食、飲料のように検討期間が短く購買頻度が高い、SNSでのクチコミ量も見込める商材においては、キャンペーンやSNS広告等の展開から売上への相関関係を計測し、費用対効果やマーケティング投資の回収という視点でのKPIを設定することができる。

その一方で、エージェンシー(広告代理店)等SNS運営のプロフェッショナルが運営に参画し、マーケティング活動の中で明確に宣伝予算が割り振られるため、SNSという本来はユーザーが主体となる場において一方的な宣伝活動を行いがちになってしまうという課題がある。

② (低関与商材かつUGC量が少ない):無形商材のコンテンツマーケティング戦略
主にアプリやSaaS形式で提供されるソフトウェア等、無形商材で、検討期間は短いものの、顧客の維持(リテンション)が重要な指標となる商材においては、ターゲットとなる顧客へ絞り込んだSNS広告を展開し、Webへの流入数や登録/ダウンロード数などをKPIとして設定することが望ましいと考えられる。

①との違いとしては、商材のターゲット顧客がある程度限られるため、広告展開に関する予算や規模感は小さく、大きな予算は消化ができないという特徴がある。また、既存顧客のリテンションを高めるためのサポートや、有益なコンテンツの提供などをSNS運営に取り入れていく必要があるため、デジタルマーケティング活動全体との連携がきわめて重要となる。

③ (高関与商材かつUGC量が少ない):コーポレートコミュニケーション戦略
金融商品やB2BのITソリューションといった検討期間が長く、購買頻度も低い無形商材は、①や②のような戦略だけでは成果をあげることが困難で、間違った戦略を取ることでリソースを無駄にしてしまうというリスクがある。

この類型における戦略で重要なことは、時間をかけてブランド価値を高めていくコーポレート・コミュニケーションとしての側面が強いということを経営者やSNS運営担当の上司が理解することだ。

SNSの投稿にユーザーからの反応を得る、フォロワー数を獲得するといった地道な活動を通じて、SNSアカウントの発信力を高めることで、ターゲット顧客や自社社員との接点を生み出し、ブランド価値を高め、購買意向を高める連鎖反応を起こすことが理想像の一例となる。理想に近づくためには、日々のオーガニック投稿のみならず、エンゲージメントを獲得しやすい投稿への広告投資や、思い切ったキャンペーンの企画などにリソースを割く覚悟が必要になってくる。ここではスキルのある実務担当者に活躍してもらうためのマネジメントの支援が欠かせない。

④ (高関与商材かつUGC量が多い):クチコミが主導するソーシャル・リスニング戦略
パソコンや携帯電話といった検討期間が長く購買頻度も低いが、クチコミ(UGC)が発生しやすく、購入の判断にも影響を与える耐久消費財に関しては、発想の逆転が必要だ。このような耐久消費財はマスプロモーションへの投資が大きく、SNS運営もマス向けのキャンペーン等で連携をするため一見すると①の類型に近い世界に思える。

ところが、重要なのは自社の発信はさておき、発生しているクチコミを分析し、キャンペーンの効果検証や、企画等に生かしていくというソーシャル・リスニングの取り組みだ。ユーザーがどのように自社や他社について認識しているのか、どのような課題を持っているのかといった貴重なデータをSNS上のクチコミから得ることができるという側面に着目することでマーケティング活動に新たな顧客の声を取り入れることができる。

一口に「SNSマーケティング」といっても、企業や商材の特性によって、取るべき戦略やKPIは異なってくる。SNSのマーケティング活用に取り組む事業者は、本フレームワークを踏まえて、適切な戦略策定やKPI設定が行えているか、一度立ち止まって確認してみるといいだろう。

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