ルミネの新井社長に聞く 【ネット販売の役割と強化方針は?】(上)
ルミネは、2013年3月期に約30億円だったネット販売売り上げを3年後には100億円に引き上げる計画だ。9月末にはボトルネックだった通販サイトのシステム改修を行って消費者の利便性を高めたほか、実店舗との連携強化にも乗り出している。「ECはリアルの補完」とする新井良亮社長にネット活用のあり方などを聞いた。
──まず、ルミネとしての企業方針は。
「基本的な経営方針は、20代~30代の女性に向けて上質なファッションを提供することにあり、それが可能なインフラをハード、ソフトの両面で整えていく。当該顧客層の感性は豊かで、なおかつ自己主張も強い」
「ただ、そうした顧客ニーズに応えるだけでは不十分で、マーケットを作り、いかに需要を喚起するかが重要だ。どれだけ新機軸を打ち出せるのかに企業としての価値が問われている。誰かが始めたことを追随するのではなく、当社として新しい価値を提供する。それには、『館』としてのルミネだけでなく、ショップ側のクオリティーを高める必要もある。ルミネは多くのモノをそろえるのではなく、専門店としての位置付けを強固にしていく」
──ネット販売の活用方針は。
「リアルの店舗を強くしながら、その補完としてECを展開する。なぜなら、服の生地の良さや色合い、店の空間や販売員のおもてなし精神などに触れることでファッションビジネスは成り立っている」
「ネット上の売り場を否定するわけではないが、ルミネがターゲットとする消費者の求めているものは、これまで作り込んできたリアルにあると考えている。『右』か『左』か、どちらかに決めるのではなく、リアルでマーケット作りをしているからこそ、ネットの事業も成り立つ」
──消費者の購買行動も変化している。
「大事なことは、需要の奪い合いではなく、需要をどう喚起するかだ。右から左にパイ(市場)を動かすのでは意味がない。長い目で見れば消費者が離れていくことになりかねないし、そうなればマーケット全体が痛むことになる」
──繊維・ファッション産業が停滞する中、ルミネの業績は右肩上がりにある。
「成熟した社会、物余りの中でファッション領域に特化したモノを売るには、それぞれの企業の経営方針が極めて大事だ。ルミネでは接客力を重視していて、当社が主催するロールプレイングコンテスト『ルミネスト』の場で、ショップ店員は接客技術を競っている。店頭のスタッフは、物作りの現場を思い浮かべ、どうやって商品の付加価値を高めるかを考えて接客している。販売員自身も店頭に陳列している商品を、身銭を切って着用し、食事制限をしてでもスタイルを維持している。これは並大抵の努力ではできない」
「一方で、接客は技術だけでは難しく、人として成長しない限り消費者の購買意欲を刺激することはできない。ルミネが目指すのは売り場作りではなく、『買い場』を作ること。ウェブ上の画面だけで『買い場』は作れないのではないか。当社が取り組んできたことに間違いはないと信じているし、業績が10年以上右肩上がりできたという自負もある」
──スタートトゥデイの「ウェア」には否定的のようだ。
「『ウェア』の利用を認めていないのは、経営方針に反するからという明確な理由からだ。ルミネでは接客力を重視しているのに、第三者の新しいサービスのためにオペレーションの仕組みを変え、販売員が接客に集中できない環境は好ましくない。そもそも、館内の撮影禁止は契約事項だ。これまで通り、普通に買い物を楽しんでいる来店客の横でスマホをかざすようなケースが増えたら、館の運営者としてどういうリスクを負うかが議論されていない」
「また、ショップ店員は顧客に再来店してもらうためにさまざまな苦労をしている。違う仕組みの中でビジネスが成り立つのであれば、販売員が自己否定することにもなりかねないし、モチベーションも上がらない。ルミネとしてはこれまで通り『販売員とともにある』という方針は変えない。これまで取り組んできたこと、企業としての基本方針を継続することに対して、善か悪のような言われ方をするのはおかしい」
──「ウェア」に賛同する施設が増える可能性もある。
「ルミネは、不特定多数の消費者をターゲットにしたビジネスではなく、20代~30代女性に的を絞っている。百貨店ともモールとも違う。ターゲットやコンセプトが違うのに、『やる』『やらない』の部分だけをフォーカスして比べるのは筋違いだ」(つづく)