ヤフー広告で7893件のアカウントが非承認 EC事業者は根拠のない「最上級表示、No.1表示」に注意を

湯浅 英夫

ヤフー株式会社(以下、ヤフー)は2023年6月13日、2022年度の「広告サービス品質に関する透明性レポート」を公開した。広告サービス品質向上のための審査実績をまとめたもので、2019年より半期ごとに公開している。公開当日は、非承認となる広告素材や広告アカウントの傾向について説明会が開催され、JARO(公益社団法人日本広告審査機構、以下JARO)による、2022年度に寄せられた苦情の審査状況についての説明も併せて行われた。

“暮らしのレスキューサービス”の消費者トラブルが増加

ヤフーの広告審査は、広告掲載の申し込み(広告アカウントの開設)から始まる広告アカウント審査と、広告を入稿してから始まる広告素材の審査がある。

広告アカウント審査は、開設時の審査と開設後の審査に分けられる。基準に抵触すると開設が断られたり、開設後も違反表現を繰り返したり、大量の非承認広告の入稿を行ったりするアカウントは停止される。2022年度は上半期で4069件、下半期で3824件のアカウントが非承認とされた。

開設後の非承認理由の内訳を見ると、「アカウントの登録情報から不正な広告出稿の懸念」を理由とした非承認が、上半期から下半期にかけて増加している。これは、水漏れや解錠、害虫駆除といった日常生活の緊急時に事業者が駆け付けて対処する“暮らしのレスキューサービス”の広告を出稿している一部の契約者に対して、本人確認を強化したことが要因だ。

暮らしのレスキューサービスについては消費者トラブルが近年増加しており、政府も広く注意を呼びかけている(※1)。ヤフーでも本人確認の強化とともに、ユーザーとのトラブル情報が複数確認された場合にはアカウントの停止措置を行うことを周知するなど、対策を強化している。

(画像は独立行政法人国民生活センター報道資料より)
※1:独立行政法人国民生活センター「水回り修理『950 円~』のはずが…数十万円の高額請求に!-水回り修理、解錠、害虫駆除などの緊急対応で事業者とトラブルにならないためには?-」より。PIO-NET(パイオネット:全国消費生活情報ネットワークシステム)とは、国民生活センターと全国の消費生活センター等をオンラインネットワークで結び、消費生活に関する相談情報を蓄積しているデータベースのこと。相談件数は2021年8月31日までのPIO-NET登録分。消費生活センター等からの経由相談は含まれていない。

客観的な根拠のない「最上級表示」が増加 ECサイトも注意を

広告素材は、ヤフーが定めている基準に抵触するとして、2022年度は約1億3000万件を非承認として掲載を断っている。非承認理由の内訳を見ると、「最上級表示、No.1表示」が大幅に増えている。これは客観的な根拠を示すことなく、最上級の商品であるとうたっているケースだ。ディスプレイ広告に絞ると、化粧品や薬用化粧品(医薬部外品)の非承認が多く、検索広告に絞ると健康食品の非承認が多い

テキスト、画像、動画といった素材別で見ると、動画広告において「ユーザーに不快感を与えるような表現」で非承認となったものが多い。鼻の毛穴や口の画像、眼のアップといった人体の局部を強調したものや、性表現が露骨なものがこれに当たる。ECサイト側としても、根拠のないNo.1表示など過大な表現や、見た人に不快感を抱かせるような表現にならないよう注意したい。

コロナ禍を経て広告への苦情は減少、媒体は4年ぶりに「テレビ」最大

JAROは2323年6月1日、広告に対する苦情の状況をまとめた「2022年度の度審査状況」を発表した。

※関連リンク:JARO「2022年度審査状況公表」

総受付件数は1万2030件で、2021年度の1万3771件より減少している。件数のピークは2020年度で、そこから2年連続の減少となった。また2019年度よりも少なく、新型コロナウイルス感染症拡大前の水準に戻ったといえる。要因としては、新型コロナウイルス感染症拡大により不安感が高まり、メディア接触時間が長くなっていた状況が解消されてきたことなどが挙げられる。広告媒体別に見ると、「インターネット」の割合が減少し、4年ぶりに「テレビ」が最大となっている。

「化粧品」広告への苦情は大幅減! 2020年急増の「医薬部外品」は最大

業種別に見ると、「化粧品」の広告に対する苦情が大きく減った。その一方で、2020年度に急増した「医薬部外品」はほぼ変わらず、割合としては最大になっている。「健康食品」も減少しているが、「保健機能食品」が増加。特に「機能性表示食品」に対する苦情の増加が目立っている。そのほか、新型コロナ感染症による外出自粛の影響などで増加していた「電子書籍・ビデオ・音楽配信」「オンラインゲーム」「買取・売買」が減少し、「人事募集」が増加している。

件数減少も内容は悪質化

JAROは、生活者から寄せられた意見を起点に審査を行い、不適正な広告・表示に対して「提言」「要望」「警告」「厳重警告」の4段階で「見解」を出している。2022年度の見解は26件で、2021年度の30件より減少した。

しかし内訳を見ると、関係法令への抵触が明らかであると判断された警告と厳重警告の合計は2021年度の2019件に対してが24件と増えており、悪質化している。媒体別ではインターネットが26件中21件と、約8割を占めている。

警告や厳重警告となった事例はJAROの資料に詳しいが、価格や料金の表示に関する見解が14件と目立つ。定期しばりなしと誘って一度契約させた直後に、ポップアップ表示などであおり、しばりのある別の契約に誘う二段階契約などだ。そのほか、月額制のように誤認させて額契約の分割払いに誘ったり、根拠のない単なるイメージ調査で満足度No.1や業界No.1を掲げたりするなど、契約内容が複雑化してより巧妙化している。

ECサイト側としても、こうした悪質な手法をとらないことは当然として、顧客に誤解させるような表現はないか、価格や料金の表示が分かりにくくないか、注意したい

※関連リンク:ヤフー株式会社「広告サービス品質に関する透明性レポート」


記者プロフィール

湯浅 英夫

フリーライター。新潟県上越市生まれ。1992年、慶應義塾大学理工学部機械工学科卒。PC、スマートフォン、ネットサービス、デジタルオーディオ機器などIT関連を中心に執筆。主な著書に「挑戦すれば必ずできる 自作パソコン完全組み立てガイド」(技術評論社)、「大きな字だからスグ分かる!エクセル2013入門 Windows 8対応」(マイナビ)、「Excel2000 300の技」(技術評論社)がある。

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