「No.1表示」消費者庁が実態報告書を公表 広告主は調査報告書のチェックを

奥山晶子

2024年9月26日、消費者庁は「顧客満足度No.1」などのいわゆるNo.1表示についての実態調査報告書を公表した。当該表示に関する一般消費者の認識や広告主へのヒアリングの結果など、広告主が不当表示を行わないために必要なことが示されている。誇大広告を行う責任は、あくまで広告主にある。今後どんな対応が必要か確認されたい。

消費者庁、No.1表示実態調査を発表

近年、No.1表示に関する措置命令が増加したことから、一般消費者による自主的かつ合理的な商品等の選択を保護するため、消費者庁はNo.1表示に関する景品表示法上の考え方を示すべく実態調査を実施した。実際の広告から368のサンプルを収集しNo.1表示サンプル、表示等について1000名の消費者に意識調査としてウェブアンケートを実施。なお、15社の広告主と大手調査会社および事業者団体へのヒアリング調査を行った。

調査が行われたのは2024年3月から同年9月までの期間。2024年9月26日、調査の報告書が公表された。

調査ではまず、以下のようなサンプルを用いて、消費者へ「購入の意思決定にどの程度の影響を与えるか」「同種の他社商品と比べて優れていると思うか」「実際の利用者に調査をしていると思うか」と問いかけた。

※画像引用元:No.1表示に関する実態調査報告書(概要)P.3

すると新しい商品等を購入する際に、No.1表示が購入の意思決定に「かなり影響する」又は「やや影響」すると回答した人の合計は、約5割であった。また、4割を超える消費者が「同種の他社商品と比べて優れていると思う」「実際の利用者に調査をしていると思う」と回答。消費者は、実際の利用者による評価が「No.1」である商品等だと認識するがゆえに、同種の他社商品等と比べて優れていると認識することがうかがわれる。

ただし実際、No.1表示の中には合理的な根拠に基づいているとはいえないものも存在し、不当表示に陥っている例もある。表示内容に見合った調査が行われていないと判断されれば、景品表示法違反と認められてしまうため、広告主の責任は多大なものだ。

広告主、調査内容を把握できていない実態が浮き彫りに

広告主である事業者へのヒアリングでは、No.1表示等を行うことを検討した経緯として、調査会社・コンサルティング会社等から勧誘・提案を受けたことを挙げる回答が多かった。また、「費用の安さ(1フレーズ10万円~数十万円)を魅力に感じた」という回答も見受けられ、適法性を強調して不適切な調査の勧誘を行っている調査会社も見られた。

なお、ヒアリングを行った広告主の多数は、調査会社がインターネット上で消費者に対して(No.1表示の根拠となるような)アンケートを実施していること自体は把握しているものの、具体的な調査内容や比較対象にどのような企業が選定されていたのかを把握していた会社は少なく、15社のうち1社だけであった。

ヒアリング内容をまとめた結果、見受けられた共通点は以下の3点だ。

① 広告主は、広告効果を期待して、又は「競合他社に見劣りしないよう何らかのNo.1を訴求しておきたい」等の理由から、No.1 表示等を行いたいという動機を有している。

② 複数の調査会社が、不適切な調査を廉価で行っている実態があり、①の動機を有する広告主は容易に調査を委託できる環境にある。

③ 広告主は自ら調査内容を十分に確認することもなく、安易に「法的に問題がないもの」と結論付けてしまっている。

つまり表示の根拠を十分に確認しておらず、不当表示等を未然に防止するための管理上の措置(景品表示法第22条第1項)が十分にとられているとはいえない可能性がある。

No.1表示等の根拠、第三者機関による調査確認だけでは不十分

消費者庁では、事業者が景品表示法第 22 条第1項を履行する際の参考となるように、「事業者が講ずべき景品類の提供及び表示の管理上の措置についての指針」(平成26年内閣府告示第276号。以下「管理措置指針」という)を定めている。

管理措置指針においては、次の7項目の実施が求められている(※2)。

① 景品表示法の考え方の周知・啓発:景品表示法の考え方を、表示に関係する役職者に対し、その職務に応じた周知・啓発を行うこと。

② 法令遵守の方針等の明確化:景品表示法を含む法令遵守の方針や、法令遵守のためにとるべき手順等を明確化すること。

③ 表示等に関する情報の確認:一般消費者に訴求するために商品等の長所等を積極的に表示する場合には、表示の根拠となる情報を確認すること。

④ 表示等に関する情報の共有:③で確認した情報を、当該表示に関係する各組織部門が必要に応じて共有し、確認できるようにすること。

⑤ 表示等を管理するための担当者等を定めること:表示を管理する担当者・担当部門をあらかじめ定めること。

⑥ 表示等の根拠となる情報を事後的に確認するために必要な措置を採ること:③で確認した情報を、商品等が一般消費者に供給され得ると合理的に考えられる期間保管するなど、事後的に確認できるようにすること。

⑦ 不当な表示等が明らかになった場合における迅速かつ適切な対応:景品表示法違反又はそのおそれがある事案が発生した場合、事実関係の迅速かつ正確な確認、再発防止に向けた措置等を行うこと。

今回のヒアリング調査の結果、ほとんどのヒアリング対象の広告主ではNo.1表示の根拠が十分に確認されている様子はうかがわれず、広告主は自らの責任において広告表示が合理的な根拠を有しているといえるか確認する必要がある。

※2 出典元:No.1 表示に関する実態調査報告書(消費者庁)p24-p25

表示等管理担当者を定め、表示根拠の確認を

報告書では、広告主が不当表示を行うことのないよう必要な措置について、以下の4つが挙げられた。

・担当者を定める
表示等管理担当者を定め、表示の根拠の確認が確実に実施されるよう管理する。
・景品表示法を理解する
広告に携わる社員に対し、景品表示法の考え方を周知する。
・マニュアルにチェックポイントを記載する
広告に関する業務マニュアル等を策定している場合は、このたびの報告書を踏まえた具体的なチェックポイントを追加記載することも有益。
・消費者が情報を確認できるようにする
表示物に調査方法の概要を表示したり、QRコードを記載したりするなどして容易に確認できるようにするのが望ましい。

新井消費者庁長官「広告主が提案・勧誘を受けないこと」大事

2024年9月26日に行われた新井ゆたか消費者庁長官の記者会見では、冒頭にこの報告書の公表が明らかにされ「消費者庁としては、本報告書で示された考え方を、広く事業者や消費者に周知するとともに、本調査結果を踏まえ、迅速な指導による是正を含め、引き続き、厳正に対処してまいりたい」と話した。

質疑応答では景表法上の責任の所在について「まず事業者がコンサルティング会社の提案なり勧誘を受けないということが、景表法上の責任ある立場としての広告主の在り方」と明示。「コンサルティング会社が(提案を)やめますというのは景表法上の責務ではありません」「法的な責任はあくまで広告主ということであります」と語った。

新井長官はあくまでも広告主がしっかりと根拠を確認すべきであることを強調した上で、「ガイドラインをしっかり見た上で活用していただきたい」と念押しした。

※参考:No.1表示に関する実態調査報告書(消費者庁)

No.1表示に関する実態調査報告書(概要)(消費者庁)

新井消費者庁長官記者会見要旨(2024年9月26日(木) 14:00~14:19 於:中央合同庁舎第4号館6階消費者庁記者会見室/オンライン開催)


記者プロフィール

奥山晶子

2003年に新潟大学卒業後、冠婚葬祭互助会に入社し葬祭業に従事。2005年に退職後、書籍営業を経て脚本家経験を経て出版社で『フリースタイルなお別れざっし 葬』編集長を務める。その後『葬式プランナーまどかのお弔いファイル』(文藝春秋刊/2012年)、『「終活」バイブル親子で考える葬儀と墓』(中公新書ラクレ/2013年)を上梓。現在は多ジャンルでの執筆活動を行っている。

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