度付きのメガネをネットで購入 新たな常識をクリエイトする老舗の切り口

ECのミカタ編集部

いまだかつてないEC概念 メガネをネットで買う時代

いまだかつてないEC概念 メガネをネットで買う時代

メガネを購入する。休日に街のメガネ屋に行く。時間をかけ検査する。煩雑な手続きを済ませ、実物を手にするのはそこから数日後...。手間と時間がかかる、そんなイメージが湧いてくるのではないだろうか。

しかし、そのイメージが今後塗り替えられていくかもしれない。そう、今メガネ業界はあらゆる面で革新が進められている真っ最中なのだ。業界では老舗のメガネスーパーが、凝り固まった常識にメスを入れる。ECの立場から会社の再生現場を支えてきた川添 隆氏に、話を伺った。

課題だらけの状況にECによるカンフル剤 ユーザー目線で実店舗とECにシームレスな連動性

まず大きな背景として、本業かつ収益性が高い度付きメガネのネット販売を本格化したい、という強い願望がありました。

当社は2008年より ECを展開しており、売上の9割くらいがコンタクトだったので、その割合中のメガネをどう増やしていくかということが課題でした。
全社の売上では、メガネとコンタクトの比率がほぼ2:1ですが、そもそも店舗に並んでいる新作メガネが ECに在庫自体が割り当てられていないという状況でしたので、まずはそこから、課題だらけの状態からスタートしました。

在庫の配給システムやルートを考え ECに配分を増やし、ウェブの広告代理店を切り替えメルマガの配信頻度を増やし、サイト内のバナーやページのデザインを変えたり。リピーターにとっても新規のお客様にとっても、「ユーザー目線で考える」という理念を重要視しました。何を訴求されているか見直し、即日発送など、今までやっていたサービスの中でお客様が求めているであろう内容の強化に努めました。

課題認識がより明確になると、お客様がしてほしいであろうことも見えてきます。わかりやすいネーミングでのセールをやってみたり、実店舗のポップ感覚でバナーに煽りの言葉を入れてみたりなど。
コンタクトレンズは業界全体として価格競争になっていて、実店舗と比べるとウェブの値段は安い。しかし、思いのほかお客様はご自身が買われた商品の値段を覚えていなくて、ほとんどの方は一度買ったモノを同じ場所で買い続けていることが多い。まさにリピート商材なんです。セールなどで「安い」という価値を引き出すことによって購入する理由を付加するんです。コンタクトに限って言えば、買うモノとして差別化ができないので、売り方を工夫する。それだって立派なユーザー目線ですからね。

ECで度付きメガネを売りたいという課題

そもそもコンタクトと度付きメガネを共存して本格的に売っているEC自体があまりありませんでした。どうしても、検査してレンズを作るという壁があったり、コンタクトとメガネは買うモチベーションが異なったりするためだと思います。
大手競合他社でもECを失敗している所もかなりあって、今伸びている企業では、度なしのフレームのみ(PCレンズ等)がメインだと聞いています。その中で当社では、実店舗か直営ECサイトでコンタクトやメガネを買ったお客様は、一度買ったことがあれば直営 ECサイトで細かい度数を指定せずに簡単にまた買えるという仕組みを作り、ECとしての安心感や利便性を徹底して追求していきました。まずは「ECで売る仕組み」を確立することを優先し、売上の大半を占めていたコンタクトの販売をさらに強化し、その先のメガネ販売につなげていこうと考えたのです。

それと並行して、直営ECサイトのリニューアルを機に、メガネのレンズオプションを増やしました。コンタクトは箱1個が勝負なのですが、メガネはフレームとレンズという別々の商品を1つの商品として売らなければならない。実店舗ではレンズオプションが数多くあるので、ECでもオプションを増やしたところ、客単価にカナリの差が出始めました。今までは5,000円くらいの商品しか売れなかったメガネも、オプションを豪華にすることにより客単価が4~5倍になってきました。

前代未聞、Amazonへの度付き出品 今までなかったことへの道のり

コンタクトの売上が強化され、オプションをきっかけにメガネの売上も伸びてきている。更なるメガネECの啓発が必要だということで、いよいよAmazonに度付きのメガネ販売店を出店します。
ここで、新たな試みとして、フレームのみネットで購入し、レンズは実店舗で入れるというやり方を考えました。
「競合他社との差別化」という観点からいいますと、当社は検査をしてしっかりご自身に合ったレンズを作るところからアイケアまで、つまりレンズの提案能力や目の健康を意識するという点では圧倒的に他社に勝っている自信があります。特に、検査・接客を含めたサービス軸での優越性では負ける気がしません。基本的には長期間身につけて使用するものなので、多少割高になったとしても価格以上の価値を引き出し、しっかりとその人に合ったメガネを提案できるメガネ屋であろうという信念を徹底しております。
さらに今年から「アイケアカンパニー宣言」を打ち出して、ミドル・シニアを主なターゲットにするとともに「目の負担を軽くしたい方は是非一度ご来店・ご相談ください」「我々プロにお任せください」というスタンスで全店営業しております。そうするとアンケートでも、

「○○○のメガネを使って疲れていたけど、メガネスーパーのメガネに変えたら疲れなくなりました」

「視力の測定はもちろん、目年齢やコントラスト感度など他のメガネ屋より細かい所まで測っていただけるんですね」

などのお声を頂戴しました。
そのバックボーンがあるので、先程も申しました「フレームはネットで買い、店舗でレンズを買う。アフターフォローも充実させる」という売り方を、Amazonに先に導入しました。後に自社ECにも導入して、今では自社ECでの利用率がどんどん高まっています。

最近では「メガネの試着サービス」も始めました。メガネは顔の一部として身に付けるモノなので、試着する体験が必要になってきます。ネットで商品は見るが、着用感がわからないモノをECで購入するのはためらうという層の開拓です。往復の送料は当社持ちで、5本まで選んでもらい送ります。まだまだ母数は小さいですが、買い上げ率が3割ほどからスタートし、今は5割くらいまで伸びてきています。全て返品ももちろんありで、PR費や販促費として考えても費用対効果は高いです。試着されるお客様はほとんど新規の方なので、新規獲得につながっています。
あとは他社ではどこも対応してない、度付きのサングラスをECで買えるサービスも始めました。地道に1つずつサービスレベルを上げ、一歩一歩売上を拡大させていこうと考えております。

広大なメガネ市場のEC化率アップ 先陣を切り長期スパンで定着を目指す

コンタクトECで固めた地盤を活かしメガネECも本格化してきていますが、やはり当社としては本業かつ収益性も高いメガネをしっかり売っていきたい。今後の方針や目標は大きくいえばそうなります。

メガネ市場全体は4千億円規模くらいで、他社やモールECの数字から推測すると、おそらく業界全体のEC化率はまだ1~2%くらいしかないとみております。例えば、メガネ業界のEC売上トップの企業でも、度付きメガネとなるとEC売上の3%くらいしかないと聞いております。当社の競合としては本来、老舗メガネチェーン店ですが、彼らに至っては度付きメガネのEC展開すら始めていません。この構図の中で、当社メガネスーパーが先陣を切っていかなければならないと考えております。

メガネという商材は、絶対に店舗がないと成立しないと思います。店舗がないと買いにくい、店舗が必要な商材というのは、本来ECにとっては販売しにくいモノです。その点当社は、一定の知名度のある企業ブランド・店舗で、なおかつ圧倒的にサービスレベルは高いという自信と実績があります。出店していない地域も含め、物理的に近所にメガネ屋がなくて非常に買いにくい環境の方などでも、ECを通じて安心してリスクなくメガネが買えるように供給できるようにならなければいけません。そういう位置づけを目指していきたいと考えております。


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