生協の通販ECサイトを大改革!短期間での基盤構築と運用、若年層を意識したスマホ対策、そのプロジェクトの背景と想いに迫る
「生協」と言えば紙のカタログのイメージが強いが、近年では通販サイトにも力を入れている。その生協の2つの通販サイトが、NECの「NeoSarf/DM」を基盤にリニューアルを行い、成果を上げている。プロジェクトの背景にはどのような課題や想いがあったのか、日本生活協同組合連合会 通販本部 カタログ供給企画部 川口剛史氏、通販本部 ギフト事業部 商品・編集グループ 片岡麻衣子氏、コープ情報システム株式会社 総合システム事業部 吉田剛久氏にお話を伺った。
複数サイト運営やスマホ対応など旧サイトの課題
日本生活協同組合連合会(以下、日本生協連)は、「会員生協」と呼ばれる324の生活協同組合・生協連合会が加入する全国連合会だ。事業としては、コープ商品の開発・供給を行う商品事業、会員生協の支援事業、そして生協の全国組織としての事業の3つから成り立っている。
今回リニューアルした通販サイトは、衣料品や雑貨などの一般商品向けの「くらしと生協」と、贈答用の商品を扱う「コープのギフト」。前者は、川口氏が所属するカタログ供給企画部が運営を行い、後者は片岡氏の所属するギフト事業部が運営している。吉田氏は、日本生協連のシステム開発を担当している。片岡氏はもともと「くらしと生協」運用を担当していたためどちらの現場も把握しており、川口氏はインターネットグループのグループマネージャーとして全体を把握する立場だ。
この2つの通販サイト、「くらしと生協」と「コープのギフト」は、2017年、NECの「NeoSarf/DM」を利用してリニューアルを行った。リニューアルの背景としては、大きく3つの課題があったという。
1つ目は、それまで利用していたインフラ基盤の保守期限が迫っており、早期の構築・稼働が求められていたこと。
2つ目が、「くらしと生協」と「コープのギフト」のサイト運営が別々だったために起こっていた、運用やメンテナンスの業務の二重化だった。「これを機にサイトの基盤を統一して、運営やメンテナンスのコストを圧縮したいという考えがあり、基盤の統一を目的としました」と川口氏は言う。
そして3つ目が、スマートフォンユーザー増加への対応だ。生協の通販サイトは前回2010 年のリニューアルから7年の間に利用環境は大きく変わった。
このスマホ対応については、そもそも「コープのギフト」にはPC版のサイトしかなく、「くらしの生協」にはスマホサイトがあるものの、PC版にある全てのコンテンツを見ることはできなかった。そのため、スマホで注文をしようとする利用者の負荷が非常に大きかった。
それが今回のリニューアルによって、スマホでもスムーズに注文の手続きができるようになった。「そもそもスマホで見ることができなかったり、見えても分かりづらかったりということがあったので、そこが改善されたのは大きな前進でした」と片岡氏は語る。
それ以外に今回は、組合員が便利に利用できるよう新しいサービスも積極的に取り入れた。川口氏は、「たとえばFAQを取り入れることで、組合員さんの知りたい情報がキーワードで検索しやすくなったり、商品を色やサイズで絞り込めるようになったりしました。こういったことは、旧サイトではできなかったことです」と説明する。
「旧サイトでもこのようなサービスは一部採用していたのですが、大きくフロントを見直すなどの大規模な改善は簡単にはできないので、リニューアルのタイミングで旧サイトで蓄積した課題に対して優先順位を決めて対応しました」と吉田氏は語る。
NEC「NeoSarf/DM」導入の決め手
サイトリニューアルは複数のソリューションを比較・検討されたそうだが、NECの「NeoSarf/DM」を導入した決め手は何だったのだろうか。
まず、NECは旧サイトの基盤から携わっており、生協の仕組みを理解していることが大きかったという。
「生協の事業形態から、基盤システムにカスタマイズ性が必須になります。そのため、パッケージ型では、ある程度の要件を満たしていても一部の業務をパッケージ側に合わせないといけない部分がありました。また、会員生協との連携まで兼ね備える必要がある特殊な条件となると、そこまで作り込めるパッケージはあまりありませんでした。それに対応できるというのも『NeoSarf/DM』導入の決め手です」と語る。
その一例として挙げられるのが「ログイン認証」だ。
生協のサイトは、会員生協の各生協の組合員が利用するために、各生協と連携する必要がある。具体的には、組合員が所属する生協から組合員のコードと氏名の提供があり、サイト側で訪問者が生協の会員でサイトを利用できる人物か判断する。そして、サイトを利用する組合員が、住所などの個人情報を登録するという流れだ。
ECシステム構築にはそれ以外にも生協独自の仕組みが存在していた。
NECは旧サイトからの付き合いがあり、こういった生協の仕組みについて理解した上での提案だったという。SI体制も、生協の仕組みについて開発から熟知しているメンバーで組まれたことも大きなポイントだった。
吉田氏は、「要件を詰めていく中で、旧サイトや基盤のことをご理解いただいた上で、こちらの要望についてどうしたら良いか意見を頂くことができたので、安心感がありました」と評価する。
売上アップなどサイトリニューアルによる効果
サイトリニューアル後には実際どのような変化があったのだろうか。
実績としてはまず、ECサイトで言うところの売上である供給高が伸びているということがあげられる。直近の第一四半期では、前年比約110%を達成した。
川口氏いわく、「ECサイトの見やすさ、使い勝手が改善したことが要因だと考えています。生協はまだまだ紙カタログの比率が高く、紙の実績にネットが連動するという構造なのですが、現在は紙の実績が横ばいの状態にも関わらず、ECサイトは伸びています」とのこと。
片岡氏も、「旧サイトでは購入までの導線が分かりにくいところがあり、離脱率も高かったのですが、サイトリニューアル後はCVRがすごく上がっています」と、サイト改善の効果を感じている。
また、「くらしと生協」では、『私の欲しいに出会える。「よかった」が響き合うお店。』というコンセプトがあり、リニューアルにあたって口コミ投稿の増加を目指していた。この口コミの投稿も、サイトリニューアル後、第一四半期で前年比約140% となっている。「口コミは、サービスに対する一つの評価バロメーターだと考えており、サイトの活性化にもつながります。実際にたくさんの投稿をいただいており嬉しいです」と川口氏。
また、課題であったスマートフォンでの使い易さの改善だが、その成果を示すのがスマホユーザーの伸び率だ。「くらしと生協」でのスマホユーザーが占める割合は、前年の40.7%から47.7%に引き上がっている。
スマートフォンへの対応は、若年層の取り込みの強化という面もある。川口氏いわく、「生協の利用世代が年々上がっていく中で、若年層の方にもっと生協を知っていただくこと、そして新規利用、継続していただきたいという想いがあります」。生協の利用中心世代は60歳代が多い中、実際にサイトリニューアル後、35歳以下の若年層のサイト訪問率は112%となった。
運用面の変化と今後の展開
サイトリニューアル後、現場での運用面でも使いやすさが増している。片岡氏は、「最初にフォーマットとして枠を作っておけば、画像や商品を差し替えるだけで簡単に更新もできますし、期間などの管理もできますので、運用する現場の人間にとっても分かりやすいと思います」と「NeoSarf/DM」を評価している。
ECの成長を受けて、さまざまな業界でECに関する積極的な取り組みが見られる。安く簡単に利用できるサービスが増えてきている昨今、今回の日本生協連の事例のように、ECサイトが特殊な形態であるからこそ、単純なパッケージではないカスタマイズ性が高いNECの「NeoSarf/DM」のようなソリューションが必要になるケースもある。
「安い」「簡単」などの安直な観点だけで判断せず、EC事業を本当に成功させるためにも、自社のECの現状や目的に合わせて、カスタマイズ性などの別の視点でサービスを選ぶことも大切だろう。