いまECに求められる“カスタマーエンゲージメント”とは?クラシコム青木社長とRepro平田社長がディスカッション

ECのミカタ編集部 [PR]

左:株式会社クラシコム 代表取締役社長 青木耕平 氏
右:Repro株式会社 代表取締役社長 平田祐介 氏

「北欧、暮らしの道具店」を運営する株式会社クラシコムは11月28日、2006年の創業以来、初めてECアプリをリリースした。今後はアプリを活用し、顧客との関係をさらに強化していくという。そんなクラシコムの青木耕平社長と、CE(カスタマーエンゲージメント)プラットフォーム「Repro」を提供するRepro株式会社の平田祐介社長が、ECにおけるカスタマーエンゲージメントの重要性や、ECのLTVを高める方法などをテーマにディスカッションした。

クラシコムとReproが「LTV」をテーマに対談

北欧のライフスタイルを取り入れたインテリアや雑貨、衣類などを販売しているECメディア「北欧、暮らしの道具店」。運営会社である株式会社クラシコムは2006年の創業以来、WEBのみでネットショップを運営してきたが、ECを取り巻く環境の変化にあわせ、11月28日にアプリをリリースした(現在はiOS版のみ。アンドロイド版は2020年春頃にリリース予定)。

好みの商品などを登録しておける「お気に入り機能」や、顧客向けのリトルプレス「暮らしノオト」と「オトナのおしゃべりノオト」のバックナンバーを読める機能などをアプリに実装。クラシコムが制作した動画やラジオもアプリで視聴できるようにした。

テキストの記事や動画、SNS、さらには短編ドラマまで、さまざまなコンテンツを発信することで熱狂的なファンを増やしてきたクラシコムが、満を持してアプリを作ったのはなぜか。また、クラシコムが今後取り組むLTV向上のための施策とは。

今回、クラシコム・青木耕平社長の対談相手を務めたのは、カスタマーエンゲージメントプラットフォーム「Repro」を提供し、EC事業者などのLTV向上を支援しているRepro株式会社の平田祐介社長。

世界66か国7,300以上(2020年1月時点)のアプリやWEBサービスに導入されている「Repro」の事例を踏まえ、ECにおけるカスタマーエンゲージメントの重要性や、LTVを高めるために必要な施策についてディスカッションした。
対談はクラシコムのLTV戦略に始まり、EC事業者のLTV向上に役立つ具体的な施策や、KPIの設定方法といった実践的な内容にまで話は及んだ。2人の対談を前後編でお届けする。

Reproとは

「Repro」は世界66か国7,300以上(2019年4月時点)のサービスで利用されている、企業と顧客のつながりや関係性を強化するエンゲージメントマーケティングが実行可能なCE(カスタマーエンゲージメント)プラットフォーム。

企業が保有するあらゆるデータを活用し顧客一人ひとりに最適なタイミング、内容、チャネルでのコミュニケーションを図ることができる。

アプリを作ったのは「自前のプラットフォームで顧客とつながるため」

アプリを作ったのは「自前のプラットフォームで顧客とつながるため」

Repro株式会社平田祐介社長(以下、平田):クラシコム さんは11月28日に、初めてアプリをリリースされましたね。EC事業を行う上で、アプリは「LTV」にも重要な役割を果たすと思います。

ズバリお聞きしますが、なぜアプリをリリースすることにしたのでしょうか?

株式会社クラシコム青木耕平社長(以下、青木):理由の1つは、自前のプラットフォームでお客さまとつながりたかったからです。

少し表現を変えると、外部のプラットフォームへの依存度を下げたかった。プラットフォームの方針次第で、自分たちのやりたいことが出来なくなってしまうリスクを低減したかっということです。

EC事業を手掛けていく上で、外部のプラットフォームにまったく依存しないというのは難しいですが、出来るだけ自前のプラットフォームでお客さまとのつながりを持っておくことで、リスクを分散したいと考えています。

平田:アプリを通じて、商品も販売していくのでしょうか?

青木:もちろんです。これまで、ネットショップはWEBのみでしたが、中長期的にはアプリ側にお客さまを寄せていきたいと思っています。

平田:逆に、今までアプリを作らなかったのはなぜですか?

青木:エンジニアのリソースを分散したくなかった、というのが一番の理由です。弊社はECシステムのほぼすべてを内製化しています。ただでさえ足りない開発のリソースを分散させたくなかったんです。

北欧、暮らしの道具店のアプリ画面

アプリで顧客と長期的な関係を構築。LTVを高めるアプリ開発のコツとは?

平田:クラシコムさんはコンテンツを軸に、お客さまとのつながりをものすごく大切にしていらっしゃるので、アプリに向いていると思います。アプリはダウンロードの障壁こそ高いですが、ユーザーと緊密にコミュニケーションを取れますから、WEBで作ったネットショップよりもLTVは高まりやすいんです。

青木:コンテンツ作りの自由度が高く、お客さまにダイレクトにリーチできるアプリは、弊社にとってこれから重要なチャネルになるでしょうね。

アプリは改善の余地がたくさんあると思っているので、アプリのプロであるReproさんからは、色々と教わりたいですよ。

平田:僭越ながらアドバイスすると、機能をできるだけシンプルにした方がアプリの継続率は高まります。また、ユーザーがアプリを最初に使った瞬間の満足度が、アプリの継続率や、その後のエンゲージメントに大きく影響します。アプリの初回体験が悪く離脱したユーザーの多くは二度と戻ってこないことが「Repro」のデータでも実証されていますから、アプリの初回起動時の体験に全精力を注ぐことが重要です。

LTVを高めるには「正しいKPI」を設定することが重要

平田:アプリについてはリリースされたばかりですが、クラシコムさんは、EC事業全体のLTVをどのように計測していらっしゃいますか?

青木:特に重視しているのは、会計年度ごとに獲得したお客さまが、過年度にわたってどのように増えているかということ。会計年度ごとに新規顧客の人数を集計し、そのうち何人がリピーターになっているか調べています。そして、獲得年度別のリピーターの人数をグラフ化します。

平田:どのようなグラフになりますか?

青木:リピーターの人数は毎年、ミルフィーユ状に積み上がっています。

獲得年度ごとのリピーターの人数をグラフ化するようになったのは最近のことですが、「北欧、暮らしの道具店」を継続的に利用してくださっているお客さまが着実に増えているということが分かり、嬉しい気づきでした。

平田:獲得年度ごとのリピーターの人数の推移は、LTV施策の成果を計る目安になりますね。

LTVを高めていく上で、正しいKPIを設定することは非常に重要です。ECに関する指標はアクセス数、客単価、CPA、コンバージョン率、クリック率、回遊率、リピート率など、さまざまなものがありますが、重視する指標を間違えると施策の方向性も誤ります。

例えば、広告をガンガン出稿し、ECモールのセールに参加して大幅に値引きすれば、ECサイトへの流入数を増やすことはそれほど難しくありません。しかし、その施策が本当にLTVを高めることにつながるのか、しっかり見極める必要があります。

短期的な売り上げを追求するあまり、無理なプロモーションを実施すれば、お客さまから嫌われてしまうでしょう。その結果、本来なら長く利用してくれるはずだったお客さまが離れてしまう。短期的な売り上げを確保することが必要な場合もあるとは思いますが、お客さまに「残念な経験」をさせないために、バランス感覚が重要だと思います。

青木:おっしゃる通り、売り上げが足りないからといって、焦って無理に短期間で売り上げを伸ばそうとすれば、顧客から嫌われてLTVが下がるでしょうね。

そういった失敗を避けるには、極論を言えば、売り上げが計画に届かなそうなときに「まあいいか」と言えるようにしておくことが大事だと思っています。

弊社は以前から、損益分岐点をものすごく意識して収益構造を強化してきました。仮に、今期の売上高が前期比40%減少しても、おそらく黒字を維持できる。そういった経営改善の努力を含めて、これまでの積み重ねがLTVを高めることにつながっていくと思っています。

クラシコムが重視する指標は「年間20回以上訪問したユーザー数」

クラシコムが重視する指標は「年間20回以上訪問したユーザー数」

平田:青木さんは、「北欧、暮らしの道具店」の事業規模や経営環境の変化に伴って、LTVに対する考え方や取り組みは変化していますか?

青木:根っこの部分は変わらないですね。「北欧、暮らしの道具店」のことを好きになってくださったお客さまが求めているものを提供していくことで、LTVの向上につなげていくというのが私の考えです。

商品であれコンテンツであれ、どのようなものを提供すれば、弊社の価値観に共感してくださるお客さまを増やすことができるのか。そこから逆算して商品や記事、動画などを作っています。

平田:重視している指標はありますか?

青木:重視しているのは、「北欧、暮らしの道具店」のサイトを1年間に20回以上訪問してくださるユーザーの人数です。

この人数が毎年純増していますので、これまで取り組んできた施策の方向性は正しかったと思っています。

平田:「年間20回以上の訪問者数」は、今回のテーマである「LTV」の先行指標とも言えそうですね。

売上高や客単価といった指標よりも、まずは接触回数を増やすことを大切にしていると。

青木:弊社が目指しているのは、「ユーザーさんが暇なときに、ふと来たくなるようなECサイトを作ること」なんです。お客さまの「可処分時間」を少しでも長く弊社のために使っていただくことを目的に、記事や動画などのコンテンツを作っています。

消費者がインターネットで買い物をしようと思ったとき、おそらく先ずはAmazonや楽天、ZOZOTOWNのような大手ECサイトにいくと思います。品ぞろえが多ければ多いほど、欲しい商品が見つかる可能性は高いですから、それが普通でしょう。

弊社は、そういった大手ECサイトと真正面からぶつかるつもりはありません。

一方で、買い物をするつもりがなくて、暇つぶしをしたいというユーザーさんの取り合いであれば、弊社は巨大ECサイトにだって勝てるかもしれない。「買い物を目的としていないお客さま」とのつながりが強ければ、結果的にLTVの向上につながっていくと考えています。

EC事業者が見ておくべき正しいLTVの指標とは?

平田:お客さまとの接触回数を指標にするというのは、非常に示唆に富んでいると感じました。

今後、国内の人口が減少していく中で、従来のように規模の拡大を追求して新規顧客獲得ばかりを優先していては、いずれ限界がくるでしょう。そういった観点からも、既存のお客さまと継続的な関係を持っておくことは、ますます重要になると思います。

ちなみに、青木さんは購入者数や客単価、記事のアクセス数、コンテンツ経由のコンバージョン率といった指標も見ていますか?

青木:もちろんです。むしろ経営者としては、購入者数や客単価、コンバージョン率といったECの数値をかなり細かく、毎日見ていますよ。

ただし、その数字だけで、社員やコンテンツを評価することはありません。なぜなら、数字による評価を優先すると、社員が遊び心を失ってコンテンツがつまらなくなるからです。

私たちは、お客さまが暇なときに、「何か面白いものはないかな」という気持ちで「北欧、暮らしの道具店」に来ていただきたいんです。つまり、ECサイトに遊びに来て欲しいわけです。そうであるならば、僕たちも遊び心を持たなくてはいけないでしょう。

コンテンツを作っている社員には数値目標を課すのではなく、「自分が読みたい記事を作って」と指示しています。

後編:顧客に好かれるコンテンツ”でECのLTVを高める秘訣とは?クラシコム×Repro対談


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