技術発展とコロナで変わる 物流のこれから
EC業界を支えている物流。新型コロナウイルス感染症の影響で世界が大きく変動する中でも、その動きは止まることなく、さまざまな産業の事業継続に貢献している。今後、物流業界はどのように変化を遂げ、EC事業者にどのような影響をもたらすのだろうか。佐川グローバルロジスティクス株式会社 代表取締役社長の森下琴康氏にお話を伺った。
物流業界における現状と今ある課題とは
――EC需要の高まりによって、少し前には「宅配クライシス」という言葉も使われました。業界全体で人手不足などの課題はありますか?
森下:現状、当社では人手不足とは感じていませんが、人の集め方が難しいと感じています。倉庫内の仕事はコンビニや飲食店の店員とは違いイメージがつきにくく、求人誌などに「軽作業」と書かれていても、どんな業務内容か分かりません。
そこで、当社ではパートさんの紹介制度を取っています。また、グループ会社の佐川急便では、運転免許証を持っていない人でも集配業務ができるように工夫しています。例えば自転車を利用したり、都内では台車で集配を行うなど、地域特性に合わせた仕組みを採用することで、より広い層から人材を集めることができます。
小さな物流企業は、さらに人集めが大変だと思います。1、2名の人員を採用するにも、採用費、育成費などのイニシャルコストはかかります。物流業界が人材難と指摘される理由はそこに注目が集まったからではないでしょうか。
――Amazonや楽天らプラットフォーマーが自社で物流網を構築するなど、業界を取り巻く環境は日々変化しています。新しく参入してくる企業に勝算はあると思いますか?
森下:「新規参入するEC事業者」次第です。例えば自社で物流網を構築できるだけの体力がない事業者様であれば、物流会社に委託した方が効率的でしょう。最近では、当社のように保管スペースなどを使用した分だけ支払う「従量課金制」を導入している物流会社もあります。自社に合った物流を選択すれば、新規参入の事業者様でも十分勝算はあるのではないでしょうか。
コロナで見えた物流の強さなぜ影響を受けなかったのか
――今回の新型コロナウイルスの感染拡大は、物流業にどのような影響がありましたか?
森下:例えばイベントやコンサートの開催中止によって機材の移動がなくなったり、実店舗を持つ企業の倉庫の稼働が止まったりと、物流業界にも多大な影響がありました。宅配便については、BtoBのボリュームが減った一方、EC需要の拡大によるBtoCが増えたことで、うまくバランスが取れたと思います。また、リモートワークが増えたことで在宅率が高くなり、再配達が減少するなど、これまでになかった現象も見られています。
――外出自粛期間でも、リモート対応が難しい物流業は稼働が止まりませんでした。その理由についてはどうお考えですか?
森下:倉庫はとても広大な空間ですし、スタッフ同士が“密”になることは避けています。接客業と比較すると、物流現場の感染リスクは低いはずです。現在も緩まないように対策を継続しています。また、物流はあらゆる産業のインフラなので、「止めるわけにはいかない」という使命感もあります。
技術発展により進む自動化物流はどう変わるのか
――新しいテクノロジーによってあらゆる物事が効率化されるようになり、物流業界でも自動化やシステム管理が進んでいます。今後はどのように変化していくとお考えですか?
森下:例えば、人が手作業していたものを自動化することで、人員が削減され、そこにかかっていたコストは事業者様へ還元できるようになります。もしECのスタートアップのお客様なら、当社の用意した仕組みに沿って出荷していく「プラットフォーム物流」でコストを下げることもできます。これからも技術の進歩によって、物流の効率はさらに高まっていくことが期待されます。
その一方で、どんなに機械化が進んでも、人が行う業務はそうそうなくなりません。オーダーメイドの物流が適している企業やサービスもあるでしょう。これからの時代は、物流のフローやプロセスがどんどん多様化していき、事業者様が置かれている状況に応じて最適な選択をすることが求められていくでしょう。
事業者意識はどこへ 競合と差別化するポイントは
――物流業はこれまで、ビジネスにおいては裏方だった印象ですが、これからは事業者とどのような関係づくりをするのがよいでしょうか?
森下:ビジネスパートナーとして、お互いフェアな関係でちゃんと話し合いができる状態が望ましいですね。お客様の商売がうまくいくためには物流を回していくのが大事なので、そこに責任を持ってやっています。こちらからお客様に無理な要求をすることはありませんし、「これはできません」とはなるべく言わないようにしています。お互い補い合い、共に成長していきたいと考えています。
物流業界は、お客様から理不尽な扱いを受けるイメージがあるという話も聞きますが、当社はそのように感じたことはあまりなく、お客様に恵まれていると思います。
――物流といえば「保管~配送」程度の認識を持つ事業者が多く、値上げに対してもシビアです。どのような価値をプラスしていくべきなのでしょうか?
森下:その企業ならではの強みを持つことが重要です。例えば当社グループなら、海外も含めた幅広いネットワークを生かし、お客様にどのようなサービスを提供できるか。倉庫の業務と、全国配送の物流網を併せ持つ会社は業界の中でも数社しかありません。そこに付加価値を見出せると考えています。
これから日本はどんどん人口が減っていって、ますます競争が厳しくなりますし、多くのEC事業者様は世界で売りたいという想いがあると思います。特に市場の大きい中国に興味のあるお客様が多いと感じています。当社が窓口になれるのであれば安心ということで、最近中国へ進出された企業もあります。このように、日本のEC事業者様のフィールドが世界規模になったときに、いち早く対応できるのが当社の強みです。今後はさらに強固なネットワークを世界中でつくりたいですね。