約2割の荷物が指定された日には届かなくなる可能性! 解決の方策は?~物流現場から見た「2024年問題」の現実【前編】

企画・構成=三浦真弓、文=桑原恵美子

働き方改革法案により、ドライバーの労働時間に上限が課されることで生じる物流・運送業界の「2024年問題」がEC業界で大きな懸念となっている。この問題にどう対処していけばいいのかを特集する企画第3弾。現場では何が起きているのか。株式会社スクロール360 常務取締役の高山隆司氏に、実情とソリューションについて聞いた。前後編でお届けする(前編)。

10年後には、集荷した荷物の2割が指定日に届かなくなる!?

ここ10年間のEC市場規模の拡大により、配送業者が扱う貨物は劇的に増えているが、配送するトラック・ドライバーの数はそれに比例して増えているのだろうか。それを表したのが、下のグラフだ。

出典:「日本のトラック輸送産業 現状と課題」より、株式会社スクロール360高山隆司氏作成

このグラフは、2010から2021年のトラック・ドライバーの年代別構成比の推移を表したもの。これを見ると、10年前の年齢の構成比がそのままスライドしているだけで、大きく増えてはいないことがわかる。若い世代になるほどドライバーの数は少ないので、10年後は50代から60代のドラックドライバーに依存しなければならない状況になることが予測される。

出典:「トラック運転者の労働時間等に係る実態調査事業報告書」より高山氏作成

「やはり、ドライバーの労働環境の悪さに問題があるといえます。しかし今、トラック業界全体で配送している荷物の量を100%とすると、残業してようやく配達できている量が21.7%。これが2024年になると法的に違反となる“レッドゾーン”にそのまま切り替わります。つまり現在のペースでいけば、約2割の荷物が、指定された日には届かなくなる可能性があるのです」(高山氏)

配送には大きく分けて大量の荷物を長距離で運ぶ「幹線輸送」と、少量の荷物を細かく分けて運ぶ「地域配送」の2種類がある。地域配送の残業時間はそれほど多くないが、問題は輸送距離が長い幹線輸送だ。

「幹線輸送の約3割が残業に依存して成立しているので、2024年の規制実施以降は長距離の配送が大きな打撃を受けるでしょう」(高山氏)

例外的に、北海道エリアの物産の多くは、北海道の港から大洗港まで船で配送しているのでドライバーの残業時間規制の影響を受けないと考えられる。しかしこうした海路での配送ルートを持たない地域で、産地直送の物産を大型消費地に配送している事業者は、打撃を受けやすいだろう。さらに、今まで残業で生計を立てていたドライバーが残業できなくなれば、給料が減る。すると離職率が高まり、ますますトラック・ドライバー不足に拍車がかかる可能性が高まる。

「そうなると困るから、トラック会社は残業が減った分は給料を上乗せしなければなりません。長期的に見れば、ドライバーの待遇改善になり配送のインフラは強固になると思いますが、過渡期にはいろいろと大変なことが起こると予測しています」(高山氏)

通販業務をトータルサポートする「株式会社スクロール360」の常務取締役 高山隆司氏。42年以上にわたり通販の第一線で実戦を経験し、「ネット通販は物流が決め手!」(ダイヤモンド社)などの著書も多い

緊急事態宣言時に、3大配送キャリアの配送がそれほど増えなかった理由

危機的な状況に思えるが、高山氏によると明るい材料もあるという。それは、配送キャリアの変化だ。

「緊急事態宣言が出たときにeコマースにお客さんが殺到し、弊社の倉庫の出荷件数が1.5倍になりました。しかしながら、3大キャリアの配送はそれほど増えていないことがわかったのです」(高山氏)

※国土交通省調査をもとに高山氏が作成

画像は2020年時点の株式会社ウケトル発表の資料

上のグラフ(※)は、Amazonが使っている配送キャリアの構成比の変化だ。かつてはヤマト運輸がほぼ100%だったが、2017年にヤマト運輸が大幅な値上げをしたことを受け、70%に減少。その後、Amazonは着々と自社配送を増やしていき、2020年にはヤマト運輸が占める配送比率は2割程度になっている。Amazonが自社で行っている「Amazon宅配」(Amazonと貨物事業者が直接契約する「Amazon Flex(アマゾン・フレックス)」と「Amazon delivery service provider(アマゾン・デリバリー・サービスプロバイダ)」)が59%を占めているため、ECの注文が増えても3大配送キャリアにはそれほど大きな影響はなかったというわけだ。

また物流マッチングサービスサイト「PickGo(ピックゴー)」を提供するCBcloud株式会社では、軽車両を持っている会社の4万社・軽貨物ドライバー16万人と契約をしていて、荷主が運びたい荷物をクラウド上に登録すると、配送を希望する軽貨物ドライバーとマッチングできるようになっている。こうした新たなサービスの登場も、3大配送キャリアへの影響を軽減したといえるだろう。

※:株式会社ウケトルは現在公式サイトを閉鎖中

幹線輸送の打撃を減少させる2つの方法

「地域配送は配送キャリアの変化や大手配送会社の企業努力もあり、以前ほど残業への依存はなくなってきています。2024年問題で懸念されるのは長距離の幹線輸送の分野で、それを解決する方策の一つとして挙げられるのが『モーダルシフト』です」(高山氏)
「モーダルシフト」とは、トラック等の自動車で行われている貨物輸送を、より環境負荷の小さい鉄道や船舶へと転換することをいう。例えば船で輸送する場合は、少人数で大量の荷物を運ぶことができるためドライバーの負担を減らすだけでなく、CO2排出量はトラック等自動車での配送時の5分の1程度、鉄道を活用すればその10分の1程度にまで抑えられるといった環境面でのメリットもあるという。

もう一つの方策が「中継輸送」の拡大だ。

例えば、静岡県浜松市の新東名のサービスエリアに設置された「コネクトエリア浜松」。ここでは東京発トラックのドライバーと大阪発トラックのドライバーが合流し、トラックの乗り換え(交換)をする。東京発トラックには大阪発ドライバーが乗り、大阪に戻って荷物を運ぶ。東京も同様に大阪発のトラックに乗り換えて東京に戻る。こうすれば、通常は目的地に着いたら一泊しなければならないところを、どちらのドライバーもその日のうちに帰宅できるというわけだ。

「こういうものが各所にできれば、残業がなくても物がちゃんと届くようになってくるのではないか」(高山氏)

出典元:「コネクトエリア浜松」Webサイト

※後編に続く

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記者プロフィール

企画・構成=三浦真弓、文=桑原恵美子

■三浦真弓(ECのミカタ編集部)
https://ecnomikata.com/about/editor/
■桑原恵美子
フリーライター。秋田県生まれ。編集プロダクションで通販化粧品会社のPR誌編集に10年間携わった後、フリーに。「日経トレンディネット」で2009年から2019年の間に約700本の記事を執筆。「日経クロストレンド」「DIME」他多数執筆。

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