売上を左右する楽天市場の「最強配送」対応、物流アウトソーシングを検討すべきタイミングや最適な倉庫の選び方とは?【株式会社スクロール360 セミナーレポート】
2024年7月9日、ECのミカタでは「楽天市場カンファレンス」を開催。楽天市場のスペシャリストが集結し、「楽天市場で成功するためにEC事業者は何をするべきか」に関する各種セミナーが行われた。今回は、その中でも物流に特化した話題で注目を集めた、株式会社スクロール360(以下、スクロール360)のセミナーレポートをお届けする。
同社専務取締役であり物流課題のプロである高山 隆司氏による、「楽天『最強配送』をクリアするために~物流・顧客対応・ECショップ運営の基盤づくりが勝敗のカギ!~」と題したセミナーから、楽天市場の「最強配送」をクリアするための物流基盤の整え方や、成功する物流アウトソーシングのポイントをお伝えする。
「最強配送」ラベルの有無で売上に大きな変化?
昨今、楽天市場出店ショップの関心を集めたトピックとして、2024年7月1日にスタートした「Rakuten最強配送」がある。楽天市場が設定した店舗基準と商品基準の両方を満たすと「最強配送ラベル」が付与される仕組みで、ラベル取得により次のようなメリットがある。
①ラベルがついた商品はユーザーの目に留まりやすいため、競争力が向上する
②厳しい条件をクリアしているという安心感から、ショップの信頼度が向上する
➂検索上位表示、特設検索窓の設置など、楽天市場内で露出強化の優遇措置の可能性がある
反対に、「最強配送」ラベルがない商品は検索順位が下がり、売上低減につながる恐れがある。実際に、Yahoo!ショッピングで「優良配送」が導入された際は、土日の出荷ができないために「優良配送」ラベルが取得できず、売上が半減したショップもあるという。
これを受けて、「最強配送」の要件の一つである土日出荷を実現するため、物流のアウトソーシングを検討しているEC事業者も増えている。高山氏は、プロの目線で物流アウトソーシングのメリット・デメリット、アウトソーシングを検討すべきタイミング、倉庫の選び方を次のように明かす。
物流アウトソーシングのメリット
売上が順調に伸びてくると、出荷量や取扱いアイテムの増加等により、出荷の遅れや在庫不足による受注キャンセルなど、さまざまな問題が生じるが、物流アウトソーシングを行うことにより、次のような効果が期待できる。
①出荷量が増えても安心
②複数社の出荷を行っているため、人員が豊富で物量の波動吸収ができる
➂アイテムの拡大、在庫増に対するスペース不足が解消
④人員確保の心配がなくなる
⑤土日の出荷も可能(楽天市場の「最強配送」ラベルの取得も可能に)
さらに、適切なアウトソーシング先を選ぶことにより、次のようなメリットも期待できるという。
①運賃の削減
②梱包資材費の削減
➂倉庫料の削減
④労務管理費などの間接コストの削減
⑤梱包品質の向上
⑥出荷クレームの削減
⑦在庫精度の向上
⑧コストの明確化
物流アウトソーシングのデメリット
ただし、物流のアウトソーシングにはメリットだけでなくデメリットもある点を、高山氏は指摘する。アウトソーシングを検討する際は、以下のデメリットをよく理解しておく必要がある。
■アウトソーシングのデメリット■
①全てにおいてルール化が必要になる
(「当日12時までの受注データを13時までに出荷指示すると当日出荷になる」など)
②自社ではない外部に作業してもらうため、明確な指示や管理が必要となる
➂すべてのケースにおいて物流費を削減できるとは限らない
確かに①②に関しては、「自分や社内の人」が業務・作業を担うのとは異なり、「暗黙のルール」では済まないことが多くなる。よって、細かなルールや指示書は必要だろう。また、物流費は委託量によっても変わってくるため必ずしも削減できるとは限らないのは当然だ。
では実際に物流のアウトソーシングを行うためには、どんな準備が必要なのか。高山氏は「アウトソーシング先とスムーズに情報連携等が図れるよう、システムや体制を整える必要があります」という。高山氏が挙げる、物流アウトソーシングを実施するための条件は次の5つだ。
■アウトソーシングするための5つの条件■
①出荷指示のデータ(CSV)を出力できること
②在庫のある受注のみを出荷指示し、在庫が不足している受注をプールできる手段(システム)があること
➂商品のコードや品名がマスタ管理され、整備されていること
④商材を外装判断できるようにすること(商品管理バーコード等)
⑤受注から出荷までのタイムチャートに無理がないこと
物流アウトソーシング、検討の目安は月1,000件
以上の様に、物流のアウトソーシングはメリットばかりではないことから、アウトソーシングに踏み切るタイミングの判断が重要になってくる。この点について、高山氏は「月間の出荷件数が1,000件を超えた時点でアウトソーシングを検討するのがおすすめです。ただし、1,000件に届いていなくても、売上が急速に伸びている場合は、月間出荷件数700件、800件の段階で検討することが必要になってきます」という。
世の中には数多くの倉庫事業者があるため、自社に合った倉庫を選ぶためには次のようなアプローチが求められる。
①アウトソーシングしているショップ仲間がいたら評判を聞く
②倉庫見学会に各種参加する
➂ECのミカタ等のマッチングサイトで調べる
④自社の商品ジャンルの得意な倉庫を検索する
⑤EC物流企業のホームページを確認する
その上で、高山氏は倉庫選びのポイントとして、次の3点を強調する。
①EC物流の実績のある3PL(サード・パーティー・ロジスティクス)であること
②波動吸収ができるため、規模の大きい3PLが望ましいこと
➂必ず倉庫の見学をすること
倉庫の見学をする際は、次の4点がポイントだと語る。
(1)5S(整理、整頓、清掃、清潔、しつけ)ができていること
(2)スタッフがイキイキと挨拶できていること
(3)正確な出荷ができる環境、システムを完備していること
(4)付帯作業が充実していること(ささげ、ギフト加工、化粧品製造等)
物流アウトソーシングで売上8倍!「AXES」の事例
物流アウトソーシングをフル活用して成功した事例として、高山氏はスクロール・グループの株式会社AXES(アクセス:以下、AXES)を挙げる。同社の売上は10年間で10億円(2012年度)から87億円(2022年度)に急伸。対して、社員数は15名から64名と、売上の増加率に対し、社員数の増加率は抑えられている。
少人数運営ながら、高級感のある丁寧な梱包や手書きのメッセージカード、キャンドルのギフト、問い合わせに対する迅速かつ的確な回答などで、高い評価(楽天市場におけるショップ評価は4.82)を得ているのは、物流のアウトソーシングを行っているからにほかならない。
スクロール360に、「入荷検収・保管」「ささげ(撮影・採寸・原稿)」「8ショップへの商品出品」「受注データDL⇒受注処理」「出荷・返品対応」をアウトソースしているからこそ、AXESは仕入れや戦略、MD、CRM構築といった付加価値の高い業務に専念。その結果、社員数が少ないながらも、10年間で売上8倍以上という飛躍的な成長を実現したという。また、土日祝日の受注処理・出荷ができていることから、楽天市場の「最強配送」にも対応している。
スクロール360は、楽天に新しくECショップを立上げたい事業者に向けて、ショップ立ち上げの支援から、立ち上げ後の運営(販売支援&顧客対応・受注処理支援)を“まるっと”任せられる「楽天立上げ&運営支援プラン」を提供しており、AXESで培ったノウハウが活用可能だ。
高山氏は常々、物流の2024年問題を背景に、ドライバーの人手不足による配達の遅れや配送料金の値上げ、集荷時間の繰り上げ、荷受け個数の制限、翌日配送エリアの縮小などへの危惧にも言及しており、EC物流を取り巻く環境は厳しさを増しているとする。
「だからこそ、これからの物流センターにおいては、配送キャリアの非効率なポイントをセンター側の智恵で解決することが重要になってくる」と高山氏は語った。
EC市場の成長に伴って、事業者間の競争が激化する中、店舗運営にかかる業務はかつてないほど多く、多様になっている。配送の質を担保しつつ、EC事業者が高付加価値業務に専念することを可能にする物流アウトソーシングは、単なる一部業務の外注ではなく、成長戦略になりうるようだ。
1981年株式会社スクロール(旧社名ムトウ)に入社後、新規通販事業の立上げ、販売企画、INET戦略策定など43年にわたり通販の実戦を経験。 2008年、他社のネット通販事業をサポートするスクロール360設立に参画、以後200社を超えるネット通販企業の立ち上げ、コンサル、物流受託を統括。著書に『ネット通販は物流が決め手!』『EC通販で勝つBPO活用術』『通販まるごとソリューション』(いずれもダイヤモンド社)がある。