ECで音を聴かせずにオーディオを売るJBLの挑戦! インフルエンサーには「残念ポイント」含め正直に感想を~JBL直撃取材前編
ハーマンインターナショナル株式会社が持つオーディオブラントのひとつであるJBLは、緻密なEC戦略によって幅広い世代から支持を得ている。2019年からわずか4年で売上を20倍に拡大し、Amazonでは初めてベンダーとセラーの賞を同時に受賞した。前編である今回は、同社コンシューマーオーディオ E-Commerce Manager 田野勉氏に、JBLのECにおける集客やファンを拡大するための施策について伺った。
JBL製品は、映画館、スタジアムなどの音響設備から 自動車にも使われている
――JBLと言えば、熱烈なオーディオファンに支持されているイメージがありますが、ハーマンインターナショナルという企業全体でいうと、オーディオだけを手がけているのではないのですよね。改めて、事業内容をお聞かせいただけますか。
ハーマンインターナショナルは、JBL®をはじめ、AKG®、Harman Kardon®、 Mark Levinson®、ARCAM®、Lexicon®、Crown®といったブランドを含む、数多くの伝説的なオーディオブランドを保有する企業です。ファッション業界でLVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)が多くのブランドを買収して大きくなったように、私たちも様々なオーディオブランドを買収して拡大してきました。その結果、世界中の拠点で合計約3万3000人の従業員を抱えるまでに成長しています。
──オーディオだけでなく、自動車に関連する事業も展開されているのですね。
ハーマンインターナショナルのビジネスは、大きくは自動車に関連するビジネス、自動車以外のビジネスに分けて考えることができます。自動車関連事業で言えば、オーディオスピーカーはもちろん、デジタルコックピットや自動運転といった先進的技術を駆使した事業も展開しています。車好きの方ならご存じかと思いますが、トヨタ車のオーディオにも採用されています。
――JBLはどのようなブランドでしょう。
JBLは1946年にカリフォルニアで誕生。全世界の映画館やスタジアム、コンサートホール、身近なところでは渋谷のセンター街の音響などにも使われています。日本では6年連続ワイヤレススピーカーシェアNo.1、グローバルではポータブルスピーカー累計出荷台数2億台、ヘッドホン・イヤホン累計出荷台数2億台、パーティスピーカーマーケットシェア3年連続No.1の販売実績がある世界最大級のオーディオブランドです。2020年からはゲーミングカテゴリにも進出しています。
若年層を意識した広告戦略でファンを拡大
――2019年からわずか4年で売上を20倍に拡大し、Amazonでは初めてベンダーとセラーの賞を同時に受賞するという快挙となりましたが、JBLのECはどのように伸びてきたのでしょう。
2019年にJBL.comという自社ECを開始してから、2021年に楽天とYahoo!、2023年にはAmazonへ出店を開始したので、歴史としては短いですね。売上が拡大した理由は様々ですが、一つにはSNSやYouTube、メディアを使った認知拡大が挙げられます。
JBLは歴史あるブランドですので、40代や50代のファンの方が多くいらっしゃいます。ただ、これから売上を拡大するにはZ世代などの若年層も獲得しなくてはいけません。そこで2023年からアンバサダーとして、水曜日のカンパネラの詩羽さんや、ブレイクダンサーのShigekixさんを起用して、若い世代への認知を強めています。
――商品も若年層を意識したものを展開しているのでしょうか。
昨今の若年層は使用シーンや好みが多様化していることが特徴です。そのニーズに応えるため、ECの特性を活かし、あえて幅広いラインナップやカラーリングを展開しています。イヤホンやワイヤレススピーカ―をファッションアイテムとして考える人もいるので、色違いで2個購入する人も珍しくありません。
また、昨年投入したフラッグシップのイヤホンは、3万円を超える高価格にもかかわらず、購買データを分析してみると20代の購入が多かったです。音質や機能を若い人が認知する経路で適切なコンテンツを提供することで、購買につながりました。
――ターゲットを意識した商品とイメージ戦略をとられているのですね。全ての世代に向けて意識している戦略もお聞かせください。
SNSやYouTubeなど、幅広い媒体でインフルエンサーさんに商品を紹介してもらっています。この時に大切なのは、商品のポイントそのものは事前に丁寧に説明するのですが、決して嘘の感想を強要しないことです。例えばあるYouTuberさんの紹介動画を見てみると、評価してくださっている面がある一方で、残念なポイントも正直に言っていたりします。
──残念な感想も、ありなんですね。
感想を強要するとJBLだけでなくYouTuberさんの信頼も失ってしまうので、正直な意見を伝えてもらうことは大切です。
また、紹介を依頼する人の幅も広げています。ガジェット好きのYouTuberさんもいれば、おしゃれなVlogを投稿している女性インフルエンサーさんもいます。ランニングにおすすめのイヤホンであれば、スポーツ系のYouTuberさんに依頼することもありますね。
日本人の好みに合わせたコンテンツで購入率を高める
――認知拡大後、購入を促すための戦略もあるのでしょうか。
ECでイヤホンを買うことは、実際に手に取って装着したり音を聴いたりしないで買うことを意味します。そのため、グローバルでは行っていない日本独自の「読ませるコンテンツ」に力を入れています。
実際にイヤホンを購入する際に重要視することのアンケートをとったところ、約45%の人が「音質」ではなく、「フィット感」だと答えました。女性で耳が小さい人はイヤホンが入らないという悩みを抱えていることもあり、「耳の形に応じた適切なイヤホン」といった読ませるコンテンツを制作しました。
また、機能に関しては、日本独自で絵やグラフなどを活用し説得力を持たせるコンテンツにしています。コンテンツを読んで納得感が得られると購入に至ります。そこで、発売時の初動でモールの売れ筋ランキングに入れば、ランキングからのトラフィック流入で、さらに認知が拡大して売れる流れが作れます。
――日本人に特化した戦略で売上を拡大しているのですね。
商品が売れてくれば、レビューもたまります。ただし、ただ貯めればいいわけではありません。レビューは購入の意思決定に関係する大切な項目なので、貯め方や活用方法も工夫しています。例えば、購入者がレビューを記載するとマグカップやイヤホンケースが当たるレビューキャンペーンを定期的に開催。一般的にレビューを書いてくれる割合が購入者の2%だと言われる中、私たちは購入者の8〜9%というたくさんのお客様がレビューを書いてくれます。
また、いただいたレビューは部署を横断して改善につなげるようにしています。不良品のレビューは品質管理、配送に関するレビューは物流部門などと共有して、常に顧客満足度を高めるために改善を繰り返しています。レビューは各ECモールだけでなく、価格.comやYouTuberさんのコメント、SNSなども確認するのが大切です。
──レビューが8~9%という多さで、しかもそのレビューを分析し、社内で連携している……だからこそECでの売上がうなぎのぼりなのだなと思いました。後編ではモールの活用方法やOMO戦略について伺います。