「Beサポ!」を通して見据える人生100年時代の「幸福の連鎖」【3人のキーパーソンが語るサントリーウエルネスの理念と戦略 <第1回>】

桑原 恵美子

1980年代から健康食品の本格研究を開始し、2001年に通販事業をスタートしたサントリーウエルネス株式会社(以下、サントリーウエルネス)。サプリメント市場の国内No.1(※1)を誇り、事業成長を続ける同社は、「ひとりひとりの“生きる”を輝かせる ~体と肌と心のつながりを通じて~」をミッションに掲げ、商品開発のみならず年間延べ200万人超という顧客との関係構築にもその理念を貫いている。

競合の多い健康・美容・サプリメント市場にあって、サントリーウエルネスがユーザーから選ばれる理由とは何か――。本特集ではキーパーソン3人へのインタビューをもとに、超高齢化社会を見据えた同社の戦略と独自の取り組みを探っていく。

1人目は、サントリーウエルネス株式会社 代表取締役社長 沖中直人氏(※2)。インタビューは、同社がサッカーのJリーグと共同で推進するプロジェクト「Be supporters!(ビーサポーターズ)」から生まれた「人生100年時代の物語大賞」の授賞式後に実施。「Be supporters!」の活動を支援する意味とともに、同社が目指す事業の未来像について聞いた。

※1  出典:H・Bフーズマーケティング便覧 2022 総括・パーソナライズ編《サプリメント企業別ランキング ※2020年売上金額(確定)》株式会社富士経済
※2 沖中氏の役職は取材時。2025年1月1日付でサントリー食品インターナショナル株式会社 専務執行役員、サントリーウエルネス株式会社 取締役に就任

支えられる人から、支える人へ――「Beサポ!」から生まれた物語

サントリーウエルネスは、Jリーグの複数のクラブと連携した「Be supporters!」プロジェクトを2020年12月にスタートした。「Be supporters!(以下、Beサポ!)」は、「支えられる人から、支える人へ」をコンセプトとし、高齢者施設の利用者や認知症の人など、普段は周囲に“支えられる”機会の多い人々が、Jリーグクラブのサポーターになることで、“支える”存在になっていくことを目指す取り組みで、現在、全国で約230施設、延べ約1万人にまで参加者が広がっている。そして2023年から、同プロジェクトの一環として参加者の体験をストーリーとして伝える「人生100年時代の物語大賞」も始まった。

第2回となる「人生100年時代の物語大賞」授賞式が開催されたのは、2024年12月11日。授賞式(第一部)では、全国の「Beサポ!」参加施設から応募のあった30の物語から選出された大賞1つ、ファイナリスト4つの計5つを表彰。大好きな選手に会うために神戸から生まれ故郷の鹿児島へ旅した83歳女性のエピソード(大賞:広がるつながり賞「愛は生まれ故郷、鹿児島へ。~推し活で生まれた奇跡~」)、難聴で会話の難しいときがあるものの青いアフロヘアを付けて笑顔で応援する101歳の女性のストーリー(ファイナリスト:いのちの輝き賞「アフロ姿の101歳」)など、いずれも心を揺さぶられる物語が選出された。

同日の第二部では、「人生100年時代を生きるヒント ‟幸福寿命”って何だろう?」をテーマにした、有識者によるパネルディスカッションを開催。サントリーウエルネス 生命科学研究所 研究員の森田賢氏による「Beサポ!」参加者を対象にした研究に基づく“推し活”と幸福度の相関関係をはじめ、パネリストたちが人生100年時代の“幸せ”についてのトークが繰り広げられた。

だが、そもそもなぜ健康食品・サプリメントを売るサントリーウエルネスが高齢者の“応援活動(推し活)”を推進しているのか。もっと言えば、このプロジェクトが企業としてのビジネスにどのように関わっているのだろうか。授賞式終了後に、同社代表取締役社長の沖中直人氏を直撃した。

「サプリメントを売るための活動では、まったくない」(沖中氏)

沖中氏によると、2020年にサントリーウエルネスの社長就任後、「Beサポ!」の活動を始めてから、多くの人から「なぜこの活動をやっているのか」「これでサプリメントを売ろうとしているのか」という質問を受け続けているという。それに対して沖中氏は、「この活動を通してサプリメントを売ろうとは、一切考えていない」と言い切る。

「サントリーという会社は創業から、事業であげた収益は社会に還元する『利益三分主義』を理念としています。人類が地上に現れてから、“人生100年時代”は始まったばかり。これまで60歳手前で人生が終わるとイメージしていた人に、いきなり『あと40年人生がある』と言われても、戸惑うのが当たり前でしょう。そして多くの人は、100年までの人生を幸福に生きるためのナレッジ(知識)を共有する前に亡くなられています。これは人類の大きな課題であり、この解決のためにサントリーとしては少しでも貢献していきたい。人生100年時代に不安を抱えている方々に少しでも希望を与えられるようなアイデアを共有できる機会を提供していきたい。 そのために、事業を継続し売上利益をあげ続ける限り、『利益三分主義』の理念に基づいて『Be supporters!』をサポートし、活動を発展させていきたいと考えています」(沖中氏)。

この活動のきっかけのひとつとなったエピソードがある。顧客からさまざまな声が寄せられる同社のコンタクトセンターにある時、商品を長年にわたり愛用していた人から解約の申し込みがあった。理由は、認知症と診断されたことだという 。「商品がもう必要ないと判断されれば、せっかく築いたお客様とのご縁が切れてしまう。それでいいのだろうか」と担当者は、問いを立てたという。

「僕はその問いを立てたこと自体が素晴らしいと思います。サントリーという会社は、人と人とのつながりの間にあるお酒や飲料、サプリメントで事業を展開してきた会社。いわば人とのつながり、縁を大事にすることで125年間続いてきた会社だと、私は考えています。我々はシニアのお客様のウエルネスに貢献することをビジネスとしていますが、社会活動として、やはり日本の課題、人類の共通課題であるシニアの幸福のために貢献していきたい」(沖中氏)。

サプリメントの効果効能だけで人を幸せにできる時代ではない

シニアの幸福度の指針としてよく「健康寿命」があげられるが、健康寿命の定義は「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」。しかしシニアになれば、多くの人が何らかの健康上の問題を抱えているのが普通と言える。年齢を重ねて歩行が不安になったり、目が見えにくくなったりして“日常生活が制限される”ことが増えたとして、それでも人生をエンジョイしている人はたくさんいる。こうしたことから授賞式後(第二部)「人生100年時代を生きるヒント、『幸福寿命』ってなんだろう? 」をテーマにしたトークセッションで、精神科医の和田秀樹氏は、本質的な健康寿命とは病気のあるなしではなく、「やりたいことを実践できている」「日常生活を楽しめている」と自分が感じているかどうかにあると語っており、沖中氏もこの考え方に賛同しているという。

「もちろん健康であったほうがいいということは揺らぎませんが、でもそれもいつかは衰えていくという前提の中で、心の豊かさをどう作り出していくかが重要です。その基本は生活習慣にあり、生活習慣の中にサプリメントやスキンケアがあります。ならば、生活習慣を通じて人生をより豊かにするお手伝いをするところまでやらなければ。サプリメントを飲んだらそれだけでウエルネスが実現するわけではないということは、多くの科学者もわかっています。サプリメントの効果効能だけで人を幸せにできるわけではないということです。我々が生活習慣を変えるお手伝いをしていくためには、サントリーという会社の信頼感を高めなければならない。サントリーがやる以上、中途半端でいい加減なことはできないと考えています。我々は、これまでのサイエンスの知見・技術を活かして、人生100年時代の幸福の考え方を社会に提案したい 」(沖中氏)。

「Beサポ!」をスタートさせ、「物語大賞」を受賞者やスタッフと一緒に盛り上げる沖中氏の姿は、商品を売り利益をあげるという一企業として当然の指標からは少し離れて見えるかもしれない。しかし沖中氏は、お客様に喜んでもらうことが結果として業績につながるということを社員に浸透させたいとも語る。「Beサポ!」の活動にはサントリーウエルネスの社員も多く関わっているが、自分たちが一生懸命取り組んでいることが社会に貢献していると感じられれば、会社に誇りを持つことができ、働く意欲も高まる。それも狙いの一つだという。「幸福は連鎖しますし、その連鎖から新しいイノベーションが生まれてくると思うんです」(沖中氏)。


特集の第2回は、沖中氏がイメージする「生活習慣を通じて人生をより豊かにするお手伝い」「幸福の連鎖によるイノベーション」をサービスとしてかたちにした実例とも言える、ヘルスケア習慣化アプリ「Comado (コマド)」について紹介する。

《第2回へ続く》

第2回「人生100年時代の物語大賞」つながる広がり賞「愛は生まれ故郷、鹿児島へ。~推し活で生まれた奇跡~」


記者プロフィール

桑原 恵美子

フリーライター。秋田県生まれ。編集プロダクションで通販化粧品会社のPR誌編集に10年間携わった後、フリーに。「日経トレンディネット」で2009年から2019年の間に約700本の記事を執筆。「日経クロストレンド」「DIME」他多数執筆。

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