楽天・三木谷社長「店舗がどこまでAIを使いこなせるようになるか」 楽天新春カンファレンス2025講演

桑原 恵美子

3000名近くの出店店舗代表者とメディア関係者が注目する中で行われた三木谷氏の講演

毎年1月に楽天グループ株式会社(以下「楽天」)が開催する楽天市場の一大イベント「楽天新春カンファレンス」が、2025年1月31日、東京・品川のグランドプリンスホテル新高輪にて開催された。同カンファレンスで特に注目度が高いのが、冒頭に行われる代表取締役会長兼社長・三木谷浩史氏の講演。楽天グループ全体がその年に目指す方向性がわかる講演の内容を紹介する。

今年のテーマは「店舗がどこまでAIを使いこなせるようになるか」

三木谷社長はまず2024年を総括し、「世界的に大きな変動が多数起こり、情報の重要性がより高まった。ソーシャルメディアがなかったらアメリカの代表者も変わっていたかもしれない、というくらいに、インターネットがビジネスにとっていかに重要かということが極めてわかりやすく現れた一年だった」と振り返り、「その中でさらに重要性が増しているのがAI。今年の大きなテーマとして、(楽天市場の出店者である)皆さんが、いかにAIを使いこなせるようになるか。それをグループ全体で考えていきたい」と語った。

「膨大なデータを並立処理できるGPUにより、AIの進化が加速している」と語る三木谷社長

「AIに仕事を奪われないためにはAIを使いこなすことが重要」

「元々AIは予測が主な機能だったが、昨年くらいから生成AIが汎用化された。これからはエージェント、つまり実際の取引や商品購入などの実務的なタスクまで、AIがやってくれるというところまで行ってしまうかもしれない。実際、自動運転技術の進歩により、サンフランシスコではタクシーとライドシェアの約30%が自動運転化されている」(三木谷社長)

2010年代は、学習したデータから候補を提示し、予測・分類に特化していたAIが、2025年以降は指示に基づきコンテンツを新たに生成し提案を行うようになっている。2030年以降は意図を理解して特定の目標を達成するタスクを実行するようになり、2045年にはAIが人間を超える可能性を予測

三木谷社長「AIに仕事を奪われないためには、AIを使いこなすことが重要。AIを使いこなせない企業や組織人の未来は厳しくなる」と警告。一方、楽天は世界的に見ても特殊な企業であると強調。楽天モバイルや楽天カードなどの様々なデータを活用し、独自のエコシステムを形成しており、そのベースにあるのは世界中から集めた優秀なエンジニアによる様々なAIの開発だと語った。その一つが、楽天グループ独自のAIシステムとして開発・運用している日本語に最適化した高性能な大規模言語モデル(LLM)の基盤モデル「Rakuten AI 7B」。

同モデルはAIの機能強化により、短期記憶と大規模生産量が効率化され、容量が増加している。汎用モデルでは扱うデータ量が多いと計算にかかるコストが高くなるが、Rakuten AI-7Bは楽天市場などに特化した高い効率性を備えていることが特色。三木谷社長は、一般の人よりも脳の神経回路の数が少なかったというアインシュタインを例にとり、「シンプルなほうが効率的な処理が可能で、創造的で新しい発見ができる」と自社AIの優位性を強調した。

楽天は今年、AIのさらなる活用を推進し、「マーケティング効率20%増」「オペレーション効率(同じ人間の数で伸ばせる売上)20%増」「クライアント(店舗)効率20%増」を目指す「トリプル20」を目標として掲げている

Rakuten AIはどのように活用されているのか

では現在、「Rakuten AI」は楽天市場などでどのように活用されているのか。三木谷社長は11のサービスでAIを活用したセマンティック検索(顧客が何を検索したかの結果だけではなく、何を検索したいかを理解し、最適な検索結果を提供する検索)を稼働させていると語り、その結果、「検索結果ゼロ」を最大98.5%減少。セマンティック検索経由のGMS(流通総額)は、最大5.3%増加しているという。

顧客がより良い意思決定をできるように新しい選択肢を提案する「セマンティックレコメンデーション」も7つのサービスで稼働。楽天市場アプリサイトにあるパーソナライズ化されたおすすめウィジェットでの購入は59%増加

三木谷社長は「将来的には沖縄と北海道で異なる検索結果が出るというような、地域性などより詳細なデータを加味した検索も可能にしたい」と語った。

「ブラシ」というキーワードで検索しても、革製品をよく買う男性と、美容商品をよく買う女性とでは異なる検索結果が表示される例。嗜好・時間・季節・地域など、個人ごとにニーズに合った検索結果を表示できるように進化させているという

店舗運営支援ツールにより画像作成のリソースが90%削減

また、2024年3月に提供開始し、楽天市場に出店している約6万店舗の中の約3万店舗が使用している店舗運営支援ツール「RMS AIアシスタント β版」についても言及。商品画像加工支援AIの活用により、これまで商品1点につき10分かかっていた画像作成のリソースが90%削減されることや、それによってできた時間をよりクリエイティブなマーケティングなどに使用するなど、大きな変化が生まれているという

AI分析により、楽天スーパーSALEの過去実績から注力すべき商品を選定し、販促を強化した結果、流通総額が77%、販売件数が76%増えた店舗Smart Lightの例

またマーケティング効率アップや店舗のパフォーマンス改善にAIが貢献している例を紹介。「AIの活用は、今後さらに重要になってくる。楽天グループ全体で、出店者を応援していきたい」と締めくくった。

楽天グループはAI化を意味する造語「AI-nization」をテーマに掲げ、2024年4月に、出店店舗向けにAI技術の基礎知識やAIツールの活用法について学べる動画講座「楽天AI大学」を公開。全国各地で店舗向けのリアルイベント(勉強会)も開催し、店舗への理解度促進に注力している。

講演で「No AI, No Future」を掲げた三木谷氏

今回の三木谷氏の講演からは2025年に、その流れをさらに加速させる強い意志がうかがえた。AIに不安や抵抗を感じているEC事業者はまだ多いが、こうした楽天グループのサポートをどう活かせるかが、2025年の明暗を分けるかもしれない。


記者プロフィール

桑原 恵美子

フリーライター。秋田県生まれ。編集プロダクションで通販化粧品会社のPR誌編集に10年間携わった後、フリーに。「日経トレンディネット」で2009年から2019年の間に約700本の記事を執筆。「日経クロストレンド」「DIME」他多数執筆。

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