TikTok経由の推定消費額は2375億円 マーケティングに活用するポイントとは【TikTok経済レポート】

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大矢根 翼

2025年6月4日、ショートムービープラットフォーム「TikTok」が日本の経済・社会にもたらす影響を分析したレポート「TikTok Socio-Economic Impact Report〜日本における経済的・社会的影響〜(2025年6月発行)」が発表された。同レポートによれば、2024年のTikTok経由の推定消費額は2375億円にのぼり、中でもファッション・コスメをはじめとする消費財(内訳は後述)の合計は843億円を占めたという。

日本でのサービス開始から約8年が経過し、すでに幅広い世代の消費行動にも影響を与えているTikTok。TikTokを活用して商品の認知を広げ、売上につなげるにはどのようなことが必要なのか? 同日に開催されたレポート発表会の模様と、TikTok Japan 執行役員・公共政策本部長の安永修章氏のコメントをお伝えする。

TikTok経由の推定消費額は前年比37%増

「TikTok Socio-Economic Impact Report〜日本における経済的・社会的影響〜(以下、TikTok経済レポート)」の発表は、昨年に続き2度目となる(調査委託先は株式会社マクロミル、調査企画・分析委託先は株式会社エイトハンドレッド)。発表会ではエイトハンドレッド社の大谷直子氏がレポートのハイライトを解説した。

大谷氏は「近年、TikTokのようなショート動画は『見てすぐに欲しくなる・行きたくなる』といった行動を引き起こし、経済活動に直接つながるようになってきている」と現状を踏まえつつ、TikTokが生み出した経済的インパクトを紹介。今回のレポートによれば2024年、日本におけるTikTok経由の推定消費額は2375億円、国内名目GDPへの貢献額は4855億円(※1)、そして4.2万人の雇用がTikTokを通じて創出されたという。

続けて「クリエイター経済圏の広がり」「観光PRによる地域経済への影響」も紹介した後、大谷氏は以下のように総括した。

「これらのデータからわかることとして、TikTokはもはや単なるSNSや動画プラットフォームの枠にとどまらず、個人の収益機会を広げ、企業の成長を促し、地域経済を動かす存在へと進化している。これからの日本経済においても、TikTokは多様な可能性を通じて、新たな価値や雇用、経済効果を生み出し続けることが期待される」(大谷氏)

※1:国内名目GDP貢献額は、TikTokを通じて実際に商品やサービスが購入されることによって直接的に生まれた経済効果と、企業広告などによる間接的影響、TikTokをきっかけにした消費行動が他の産業にも波及した誘発的影響の合計

事業者が「発信したい」ものより、ユーザーが「見たい」ものを。パネル登壇者が語るTikTok活用効果

発表会後半は、レキットベンキーザー・ジャパン Digital E2E Marketing Team Manager 大谷真輝人氏、奈良県 観光局 観光戦略課長 辻勝式氏、自民党 デジタル社会推進本部長 平井卓也衆議院議員、そして4人の人気TikTokクリエイターが参加した2つのパネルディスカッションが行われた。

「TikTokが実施した観光プロジェクトの効果とTikTokクリエイターが及ぼす影響」をテーマにしたパネルに登壇した平井氏は、瀬戸内の魅力を発信するために昨年から行われている「TikTok Connect By Tourism 〜瀬戸内の魅力発信・裏瀬戸芸プロジェクト〜」で得た実感と手ごたえを語った。

「行政が地域プロモーションを手掛けると真面目な、“供給サイド”からのPRになりがちだが、TikTokはおしつけがましくなく、コンシューマーに近い視点でさまざまなものを紹介するのが良い。特に地方とのコラボでは『見せたいものより、(ユーザーが)見たいもの』をPRする、『食べてもらいたいものより、新しいものを発見してもらう』といった発信が、これからの時代は受け入れられると思う」(平井氏)

一方、パネル「クリエイター・企業・自治体によるTikTok活用とその効果」に登壇したレキットベンキーザー・ジャパンの大谷真輝人氏は、同社が販売する着圧ソックス「メディキュット」のプロモーションにおけるTikTokの効果を紹介。同氏によれば、メディキュットはユーザー認知率こそ高かったものの、直近の売上に結びついておらず、“知っているけれど最近買っていない”という「認知の『質』の古さ」が課題だったと明かす。

「まず、横型のテレビCMとは違うTickTokの縦長のクリエイティブが新鮮だった。また、TikTokで広告キャンペーンを実施することで、当初はECの売上を期待していたが、実際はドラッグストアなどのオフラインでの売上が大きく伸びた。これには社内でも驚きの声が上がりました」(大谷真輝人氏)

結果としてメディキュットは、TikTokでの広告キャンペーンによって検索数やオンライン・オフライン売上が前月比50%以上増加するという成果をあげている。

大谷真輝人氏は今後の展望として、「我々が良いと思ったものを届けるのではなく、ユーザーが良いと思ってくれたものを届けるためにTikTokを使っていきたい」とも。前述の平井氏の発言にも通じるが、TikTokを活用して認知を獲得しビジネス上の成果をあげるには、「売る側」の論理で商品をプッシュするのではなく、ユーザーインサイトに寄り添ったコンテンツであることがより重要になるということだろう。

認知を広げるポイントは「共感」と「継続」

今回公表された「2024年 TikTok経由の推定消費額」の内訳を産業別にみると、「ファッション・コスメ」「家具・家電」「飲食料品」などの消費財分野の合計は843億円。個別では「金融・保険(475.9億円)」や「個人向けサービス(458.4億円)」に及ばないものの、全体2375億円の中で消費財は大きなウエイトを占めている。発表会後、TikTok Japanの安永修章氏にこの点について尋ねたところ、「消費財全体として(TikTok経由の売上が)伸びており、最も多いのは『ファッション・コスメ』だが、伸び率が高いのは『家具・家電』と『飲食料品』」だという。

さらに安永氏は、TikTokを活用してユーザー認知を拡大し消費につなげるためのキーワードとして「共感」と「継続」をあげた。

「TikTokはクリエイターと見る人の距離感が近いプラットフォームなので、『応援したくなるコンテンツ』であることが重要。クリエイターへの共感や信頼を感じてもらえる、商品の良さに納得してもらえるコンテンツを継続的に発信することで、(認知が)広がっていくと考えている。

『継続する』こともポイントで、どうしても最初は再生数がのびなかったり、コメントが少なかったりすると思うが、そこで諦めず、例えばネガティブなコメントを参考にしてコンテンツを変えていくなど、TikTokをコミュニケーションのツールとして活用するのも良い方法だと思っている」
(安永氏)

日本での「TikTok Shop」ローンチに向けて、EC業界での注目度も高まっているTikTok。その経済的・社会的影響は2025年の下半期以降、さらに増していくことになるのか、今後の動向も注視していきたい。


記者プロフィール

大矢根 翼

2018年法政大学卒業後、自動車部品メーカーに就職。
ブログ趣味が高じてライターに転身し、モータースポーツメディア『&Race』を副編集長として運営。
オウンドメディアの運営、記事制作など、複数ジャンルで記事制作をメインに活動している。

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