差別化困難な炭酸水市場で楽天SOY5年連続受賞「ライフドリンク カンパニー」の戦略

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桑原 恵美子

2025年7月に発表された「楽天上半期ランキング2025」の水・ソフトドリンクジャンルで1位を獲得し、水・ソフトドリンクジャンル賞を受賞した「強炭酸水 OZA SODA(オーザ ソーダ)」(2024年11月に「ZAO SODA(ザオー ソーダ)」から名称変更)。販売店舗「LIFEDRINKオンラインストア 楽天市場店」は楽天ショップ・オブ・ザ・イヤーをオープンから5年連続で受賞している。差別化しにくい炭酸水市場で、EC後発の同社がこれほど快進撃を続けている理由は何か。

2000年にペットボトル飲料の製造事業を開始

楽天市場で店舗をオープンした年に、いきなり楽天ショップ・オブ・ザ・イヤー新人賞を受賞し、翌2021年には楽天年間ランキング1位(水・ソフトドリンクジャンル)も受賞したことで「突如現れた“謎”の炭酸水」と多くのEC事業者や支援会社の耳目を集めた「ZAO SODA」。だが同商品を製造販売している株式会社ライフドリンク カンパニー(以下「ライフドリンク カンパニー」)のルーツをたどると意外にも歴史は古く、茶葉の加工・販売を祖業として1950年に創業した「緑香園」から始まる。1972年に「株式会社あさみや」として法人へ改組した後、清涼飲料水事業に進出。2017年に商号を現在の「株式会社ライフドリンク カンパニー」へ変更した。

「お取引のある小売店からの要望に応じて、茶葉のほか調味料やチョコレート、麺類などを製造・販売していた時期もありますが、2000年初頭にペットボトル飲料の製造事業を開始して以降、徐々に軸足を飲料にシフトしてきました。現在では小売り各社など約20社に、PB(プライベートブランド)や自社ブランドのペットボトル飲料を販売しています」(株式会社ライフドリンク カンパニー 執行役員 人財本部長 浅井祥平氏)

ライフドリンクカンパニーの自社EC「LIFEDRINKオンラインストア」

BtoBでペットボトル飲料事業を拡大してきた同社が、販売チャネルの多角化を模索する中で着目したのが、顧客と直接つながることができるECだった。「重いペットボトルを自宅に届けてもらうという利便性がありますので、飲料はECとの相性が良い。顧客と直接つながることができるBtoCは成長の余地があると考えました」(浅井氏)

商品情報が豊富な楽天市場は、後発の商品でもシェアを獲得しやすい

ECに参入する場合、まず自社ECからスタートするのが定石だが、同社は最初から楽天市場に出店した。EC事業部主任 越前真央氏によると、その理由は3つあるという。

「1つ目が、楽天市場は国内有数の市場規模を持っている点。2つ目は、サイトの構成が他のモールよりも、店舗や商品の個性をしっかりとPRできるようになっている点。当社はECでは後発ですので、やはり魅力をきちんと伝えられるようなモールが向いていると考えました。3つ目がサイトを見比べて買い物を楽しむユーザーが多い点です。特に3つ目が重要で、いろいろなリサーチを行った結果、楽天市場では他モールであまり見かけないような商品が上位に多くランクインしているという状況がありました。こうした点から、楽天市場では後発のメーカーでもシェアを獲得しやすいモールであると判断しました」(越前氏)

「LIFEDRINKオンラインストア」楽天市場店

スタート当初のEC専任者はわずか2名(メイン担当が1名、バックアップが1名)。受注や在庫管理は、すでに多くの小売店との取引があるBtoB部署と協力して行ったため、新たなスタッフは特に必要がなかったという。EC担当者も、特にECの経験や知識があるわけではなかった。ではどのようにして、認知度ゼロからわずか1年で楽天市場の水・ソフトドリンクジャンルでトップに立つ売上を達成できたのか。

同社の最大の強みは、年間約4700万ケースのペットボトル飲料を製造販売しているというスケールメリットによる価格の安さだ。加糖飲料などと違い、無糖炭酸水のように味に大きな差がない商品では、価格の訴求力が強みになる。LIFEDRINKオンラインストア 楽天市場店の人気商品であるOZA SODA 500ml×24本は、送料無料で通常価格1429円~(2025年8月時点)。48本入のまとめ買いなら1本あたりの価格がさらに安くなるという。

株式会社ライフドリンク カンパニー EC事業部 主任 越前真央氏

「ブランド認知力のある競合がすでに多数存在するので、まずはリーズナブルな価格を求める層をターゲットにして、そこから徐々に認知を上げていく戦略をとりました。コロナ禍で自家消費が増えたことも追い風となりました」(越前氏)

EC向けのペットボトル飲料に特化した「脱付加価値戦略」

安さの理由は単にスケールメリットだけではない。同社が構築した「脱付加価値戦略」も奏功した。「脱付加価値戦略」とは、品種・味にあえて「付加価値」をつけず、「究極にスタンダード」なドリンクを販売することで、「ドリンクの本質的な価値(くせがなく、万人が喉を潤すために飲めること・おいしいこと)」を求めやすい価格で生活者に届ける戦略だという。この戦略のポイントは以下の3つ。


➀液種をベーシックな商品(水・お茶・無糖炭酸水)メインに
②味に付加価値を付けない
③「価格重視」で安全なドリンクの提供


つまり少品種大量生産を徹底することで、高い効率化を実現し、製造価格を低く抑えていく戦略だ。また、ペットボトル本体を自社工場で製造しており、原材料の調達から直接手がけることで、仕入れ価格も大きく削減している。また飲料の原価においては物流費の占める割合が大きいが、全国12拠点に工場を構えることで物流費も低く抑えている。「製造工程を内製化することで、品質のトレーサビリティも確保できています」(浅井氏)

株式会社ライフドリンク カンパニー 執行役員 人財本部長 浅井祥平氏

生産拠点拡大による名称変更でパッケージデザインを一新

「ZAO SODA」はその名の通り、宮城・山形の両県にまたがる蔵王連峰の地下水を原料水としていたが、累計販売数が2億本を超えた2024年には生産拠点の拡大が必要となり、蔵王連峰の地下水以外の原料も使用することになった。その時に「蔵王の水を使っていないのに、ZAO SODAという名称のまま販売するのは不正直ではないか」という議論が社内で起こり、名称を変更することにした。新商品名は、同社のInstagramで募集を行い、1500件超の応募の中から「ZAO SODA」のアナグラムであり、「王座=No.1の炭酸水」を目指すという想いを込めた「OZA SODA」に決定。それに伴い、パッケージデザインもリニューアルした。

左がリニューアル前の「ZAO SODA」、右が情報を減らしロゴを強調した「OZA SODA」

「従来のパッケージは『強炭酸水』という文字が大きくあしらわれていたり、果物のイラストが描かれていたりと情報量が多いデザインでした。リニューアルを機に、これまで長くご愛飲いただいてきた『ZAO SODA』の印象を大きく崩さないよう配慮しつつ、情報を整理して、シンプルなデザインに変更しました。そもそもEC限定の商品であり小売店での販売を想定していないため、情報が目立ちやすい必要はありません。そこで、手に取った時に気分が上がることを目指して、ロゴが主役になるようなデザインにしました」(越前氏)

モールで新規顧客を獲得、自社ECの定期便コースでロイヤルティを醸成

現在、同社は楽天市場のほかに、「Yahoo!ショッピング」「Amazon」「Qoo10(キューテン)」「dショッピング」「au PAY マーケット」の5モールに出店している。モールでのシェアを確立した今後はより収益率の高い自社オンラインショップでの販売へと軸足を移していくのかと思いきや、「モールも自社ECも伸ばしていく方針です。EC市場は非常に流動的であり、消費者の行動やプラットフォームの変化に適宜適切にかつ柔軟に対応していくことが重要だと考えています。モールは新規獲得やキャンペーンでの拡散力が大きい一方で、自社ECは顧客との継続的な関係構築や柔軟なサービス設計ができる点が強みです。それぞれの役割や特性を活かしながら、最適なバランスを模索していきたいです」(越前氏)という。

自社ECで力を入れているのは、「お得定期便コース」。現在、自社EC利用者の7割以上は、定期便コースを利用しているという。「継続的にお客様と関係性を築いていきたいという思いから、自社ECでは定期便を中心とした仕組みを構築し、利便性や価格面でのメリットを打ち出しています。私たちが提供する『ライフドリンク』は、日常的に飲まれる“生活必需飲料”であることから、定期便による継続的なご購入と非常に相性が良く、『選び直す手間』や『買い忘れの不安』を感じることなく、必要な飲料がきちんと届く安心感をお届けできると考えています。

また、お得定期便はモールでの購入よりもお得な価格設定にしており、お客様にとって “使い続けやすい・負担が少ない”サービスを目指して、日々改善を重ねています。まだ発展途上の部分もありますが、毎日飲むものだからこそ、できるだけ手間なく、快適に続けられるECサイトを目指して、チーム一丸となって試行錯誤を重ねながら運営しています。将来的には国内EC市場の拡大に合わせて成長を続け、お客様の生活に欠かせない存在となることを目指しています」(越前氏)

自社EC利用者の7割以上が購入するという定期便コース

ブランド力よりも価格と品質で選ばれる生活必需品ジャンルで、価格訴求を第一とする層にターゲットを絞り、合理性に徹して勝利した同社の戦略は、「後発でも勝てる」モデルケースとなりそうだ。


記者プロフィール

桑原 恵美子

フリーライター。秋田県生まれ。編集プロダクションで通販化粧品会社のPR誌編集に10年間携わった後、フリーに。「日経トレンディネット」で2009年から2019年の間に約700本の記事を執筆。「日経クロストレンド」「DIME」他多数執筆。

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