2025年上半期EC市場をデータで総括。売上回復の背景と、下期に向けた3つの戦略とは?

最終更新日:

山本 真大

2025年も折り返し地点を過ぎました。物価高や円安、光熱費の高騰など、家計に厳しい状況が続く中で、消費者の購買行動にはどのような変化があったのでしょうか。そして、コロナ禍を経て一時注目された「オフライン回帰」や「オン・オフ併用型」の購買スタイルは、今、どのような状況にあるのでしょうか。国内外の主要ECモールを対象に、独自の販売推計データを提供するNintでは、そうした変化の兆しをいち早く捉えています。

本記事では、2025年上半期(1月~6月)における日本のEC市場の最新動向を整理し、下期に向けてEC事業者が押さえるべきポイントを、Nintが独自に推計したEC市場データをもとに解説します。

●過去記事はこちら! 第1回/第2回/第3回

2025年上期の市場動向:EC市場で起きた「消費動向の変化」

2025年上期のEC市場は復調しました(図1)。しかし、市場は単なる回復ではなく、消費者が”ECの価値”を再定義した結果に起きた回復であったと分析しています。

まず、国内3大ECモールの売上推移を見ていきましょう。2024年上期は前年比96%と、家電や雑貨品、家具などの一部のジャンルがオフライン市場へ戻ったこと、TEMUなどの格安越境ECの台頭により、落ち込んだことが分かります。一方で、2025年上期は前年比109%と大きく回復しています(図1)。これは消費者が今まで通り、単純に3大ECモールに戻ってきたことによる結果でしょうか?

ジャンル・価格・売れ筋商品から消費者がECに戻ってきた心理を読み解いていきましょう!

図1:3大ECモール上期(1月~6月)の年度別売上推移

ジャンル別で前年比成長率を確認すると、2024年は一部の好調ジャンルが市場を牽引していましたが、2025年には変化がみられます。ほぼ全てのジャンルがプラス成長に転じ、市場全体が底上げされる健全な成長へと変化しました(図2)。

図2:3大ECモール上期(1月~6月)ジャンル別前年成長率

次に、「売れている価格」に注目して市場を分析します。2025年上期の市場平均価格は約3,400円。平均価格を挟むようにして、5,000円までの商品で、売れている価格帯を確認します。

最も売れている価格帯は「1,500円~1,999円」であり、なおかつ最も高い成長率を示しています(図3)。これは、消費者が単に安いものを求めているのではなく、「賢く、お得に、合理的な価格で買う」という価値観がEC利用の前提になっていることを示唆します。この価格帯は、例えば日用品の「まとめ買い」や「大容量タイプ」などが多く含まれる傾向があり、ECならではの利便性(重くても自宅に届く)や、コストパフォーマンスの高さが支持を集めているのかもしれません。全ジャンルでこの価格帯の支持が広がっているという事実に対し、こうした要因が背景にあると考えられます。

図3:3大ECモール上期(1月~6月)価格帯別売上推移(5,000円以下)

ヒット商品から紐解く! 新しい消費者像「賢いEC利用」

この「賢い消費の変化」は、上半期のヒット商品からも読み取れます。2024年以降市場で売れている商品は、「ゲーム機」などのオフラインでも割引が少ないものや、大容量・重量のある商品が多く並びます(図4)。

図4:3大ECモール 上期売れ筋TOP10商品

ゲーム機などは顕著な特徴で、かつて店舗での購入が主戦場だったこの商品がECで売れる背景には、①どこで買っても価格が同じという「価格の安定性」、②重いものを自宅に届けてくれる「利便性」、③大型セールで得られる「ポイント還元」という3つのメリットがあります。消費者はこれらを天秤にかけ、ECを「最も合理的な購入チャネル」として選択しているのです。

この傾向は、衣類・服飾雑貨ジャンルで上位にランクインしている商品でも読み取れます。自宅での時間を豊かにする「リカバリーウェア」や、外出用の高機能な「日傘」といった商品が2025年に多くランクインしています。これらは全て、消費者が自身の生活を合理的に向上させるための「投資」と捉えている商品群です。

ここから浮かび上がるのは、”ECの利便性と賢い消費・質を上げる自己投資”という新しい消費者像です。彼らは、価格、利便性、品質、そしてポイントのような付加価値まで含めた”総合的な価値”を冷静に見極め、最も合理的な選択を行う層と言えるでしょう。

2025年下期、EC事業者が押さえるべき3つの戦略

消費マインドの変化に、EC事業者は下期にどう動くべきか。押さえるべき戦略は3つです。

1. 「合理的価値」の訴求
消費者はもう、ただ安いだけでは動きません。自社の商品が、顧客の生活にとって「なぜ合理的か」を伝える必要があります。例えば、売上のホットゾーンである1,500~3,000円の商品なら、その価格で得られる品質や利便性がいかに優れているかを訴求します。口コミやレビューの数も購買行動に大きく寄与します。高価格帯の商品なら、ポイント還元を含めた実質的な価値や、長期利用によるコストパフォーマンスを提示することが有効です。

2. 商品を「ライフソリューション」として提案
ゲーム機が「娯楽と生活の質」、先にあげた衣類・服飾雑貨ジャンルであげた、リカバリーウェアなどの「睡眠と生活の質向上(セルフケア等も含む)」というソリューションであったように、自社の商品を「顧客の課題を解決する手段(ライフソリューション)」として再定義し、提案することが重要です。単なる商品説明ではなく、「この商品を使えば、あなたの生活のこの部分がこれだけ良くなる」という具体的なメリットを、ショート動画や活用事例で見せていくことで、質を重視する消費者の購買意欲をかき立てられます。

3. 売上最大のタイミングは「ブラックフライデー」
下期のポイントは、モールで開催される”大型セール”と最大の商戦期である”年末商戦”です。特に年末商戦は3大ECモールの2024年度の前年比成長率(101%)よりも、3ポイント高く、成長率の高い市場商戦です。そのため、この商戦を確実に押さえることが、売上の最大化を図る上で最も重要なポイントです(図5)。

図5:3大ECモールの年末商戦 売上推移

年末商戦が非常に重要なことは分かりましたが、ここで一つ気になる疑問が出てくるかと思います。それは、年末商戦の「いつ」が仕掛けるべき「タイミング」なのかということです。今回、11月中旬から年末の12月31日までを対象に年末商戦時期と定義し、週次単位でそれぞれのジャンルがいつ、売上のピークを迎えるかを調査しました(図6)。

図6:3大ECモール年末商戦週別売上ピーク(2024年)

図6から見ると、3週目に多くのジャンルで「急激な売上上昇」がみられます。つまり、この”3週目”が売上が大きく上昇するトリガー週と考えられます。該当週は11月25日~12月1日。そう、「ブラックフライデー(※2024年は11月29日)」が入る週です。この時期が、消費者が求めるニーズが最高潮に達するようです。

2025年のブラックフライデーは11月28日。これに向けて、前述の「合理的価値」と「ライフソリューション」のメッセージを磨き上げ、集中的に投下することで、下期売上最大化が図れると予想します。今からぜひ準備を!

まとめ

2025年上半期、EC市場は復調しましたが、消費者心理には変化が見られます。消費者はECを、生活を賢く、合理的に向上させるための強力なツールとして認識し始めています。この新しい価値観を理解し、顧客に寄り添った提案ができるかどうかが、下期の、そしてこれからのEC市場での成否を分けることになるでしょう。


著者

山本 真大

株式会社明治の菓子営業としてキャリアをスタートし、主に店頭での販促施策を担当。その後IT業界・流通業界・他業界のメーカー職を経験し、オフライン市場における、製造・流通に携わる。EC業界の今後に魅力を感じ株式会社Nintへ入社。営業・カスタマーサクセスを経て現在、ECデータアナリストとして、数々のブログや電子書籍の執筆、セミナー登壇に関わる。セミナー登壇数は50を超え、オフラインの経験とオンラインのデータ分析をもとにした、セミナー内容は参加者からも好評をいただいている。

山本 真大 の執筆記事