EC・通販の近未来を見通す市場調査を実施【富士経済調査】
株式会社富士経済(以下「富士経済」)は、通販・EC(物販)の国内市場を調査し、その内容を公表した。
今後の通販市場の方向性を見通す
総合マーケティングビジネスを事業とする富士経済(東京都中央区日本橋小伝馬町 社長 清口 正夫)は、創業が1962年で、市場調査専門会社としての55年の歴史を持つ。消費財、生産財、社会インフラなど、その対象は多岐にわたり、また調査対象となるエリアも全世界に及ぶ。その富士経済は、国内の通販市場(BtoCの物販)を調査、分析し、その結果を「通販・e-コマースビジネスの実態と今後 2018」にまとめた。
ECが、利便性の高さや品目の多さにより他通販業態からの需要流入が進み、通販市場をけん引して拡大を続ける一方、再配達や人手不足といった配送に関連する問題が顕在化し配送サービスの見直しなどの課題が浮上している。
この調査では国内通販市場を、EC、カタログ通販、テレビ通販、ラジオ通販、その他の通販形態別、食品・産直品、健康食品・医薬品、ビューティ他、生活雑貨、アパレル、家電製品・パソコン、書籍・ソフト、その他の商品カテゴリーに分けて分析し、今後の通販市場の方向性を明らかにしている。以下その内容について見ていく。
◆調査方法
富士経済専門調査員による参入企業及び関連企業・団体などへのヒアリング及び関連文献調査、社内データベースを併用
◆調査期間
2017年10月~2018年1月
通販市場はECへ大きくシフトへ
同調査によれば通販市場は、ECの伸びが市場拡大をけん引している。ECへの需要シフトにより、その他の形態はテレビ通販が微増のほかは縮小しており、企業によってはテレビ通販やラジオ通販を広告宣伝としての位置付けとするケースも増えている。
ECは、特に仮想ショッピングモールが取り扱い品目の拡充や顧客サービスの充実化を進めることで大きく伸びている。積極的な出店店舗の誘致により取り扱う商品カテゴリーを拡充していることから、上位3モールを中心に集約が進んでいる。受注形態別では、スマートフォン利用が、大手EC企業や流通企業を中心にアプリのリリースや機能強化によるユーザー取り込みが進んでいることにより急増している。
カタログ通販は、シニア層に定着した通販形態であるものの、主要プレイヤーである総合通販企業が近年EC化を進めていることに加え、収益性改善を目的としたカタログの発行頻度、部数の削減や種類の見直しを行っており縮小が続いている。
テレビ通販は、若年層のテレビ離れもあり新規需要の獲得が困難な状況にあり、ECへのシフトも進んでいるため、テストマーケティングや広告宣伝としての性格が強まっている。しかし、健康食品・医薬品などの専門通販企業の注力や、参入企業がオムニチャネルの一つとしてテレビ通販に注力していることから、今後も微増が予想される。
ラジオ通販は、インターネット聴取サービスの利用が増加しているものの各年代でラジオ離れが進んでおり、主要購買層である40代以上のユーザーでもEC利用が増えているため縮小が続くとみられる。
注目の商品カテゴリーは?
食品・産直品や生活雑貨は、生鮮食品などを取り扱う「Amazonフレッシュ」のサービス開始など、日常使いの品目に特化したサービス展開や取り扱い品目の拡充により堅調な伸びが予想されるとしている。
食品・産直品は、オムニチャネル化を進めている流通大手がネットスーパーを中心に実績を伸ばしており、市場拡大をけん引している。今後も市場は拡大が続き、2019年に1兆2,755億円と予測。
生活雑貨は、ECサイトでの取り扱いが多く、ユーザーのまとめ買いが進んでいることなどから利便性の高いECの利用が増えている。特に購入頻度の高い消耗品については定期購入が推奨されるなど、都度買いの手間が省けるため需要が増えている。今後も大幅な伸びが期待され、2019年の市場は9,592億円になることを予測している。
アパレルは、ファッションECサイトが好調に推移している。また、店舗販売がメインのファッションブランド、ファストファッションがECに注力していることも伸びを後押ししており、2017年以降も伸びが続くとみられる。
化粧品や美容・健康関連器具などと同様に女性ユーザーが多く、参入企業によるショッピングアプリのリリースや「LINE」の公式アカウント開設、コミュニケーション施策の実施などスマートフォンユーザー向けの取り組みが積極的に実施されている。2019年の市場は1兆8,563億円と予測。
家電製品・パソコンは、メーカーや家電量販店を中心にサービス面の拡充による実店舗からの需要流入や、ECによる購入が多いAIスピーカーの発売などによる需要喚起などもあって伸びている。
書籍・ソフトは、電子書籍や音楽/映像配信サービスの台頭もあり伸長率は鈍化しているものの、書店やCD販売店による自社ECサイトへの送客や、配信サービスとECサイト間の相互送客を実施する中で、配信サービス対象外商品の需要の刈り取りが進められている。
ECの国内市場動向は?
2016年は、楽天によるケンコーコムや爽快ドラッグの完全子会社化をはじめとした市場再編の動きにより競争が激化したものの、インターネットやモバイル端末の普及により中高年、シニア層の需要流入が進んだため、EC市場は前年比7.5%増の7兆2,343億円となった。
2017年は、「Amazonフレッシュ」をはじめとした新規サービスの開始や、実店舗運営企業によるオムニチャネル戦略の推進、新たな仮想ショッピングモールの運営開始といった話題に恵まれたこともあり、EC市場は前年比7.8%増の7兆7,991億円が見込まれる。また、2017年にはイケア・ジャパンが「IKEAオンラインストア」を開設するなど、流通企業のECサイトへの注力の度合いが高まっている。
PCからスマホへのシフトはいかに?
近年は中高年~シニア層でもインターネット利用やモバイル端末の普及が進んでおり、これらの世代の取り込みの進展も市場拡大を後押しするとみられる。2019年の市場は8兆8,537億円が予測される。一方、配送業者からEC事業者への要請による即日/翌日配送サービスの縮小や送料引き上げの動きが広がるなどサービスの見直しを迫られており、今後のEC市場拡大のための課題も浮き彫りになっている。受注形態別にみると、PCの構成比が高く2016年時点で60.5%を占めている。構成比は縮小しつつあるもののPCの利用は多いため、2019年でも55.0%を占めるとみられる。
大きく伸びているのがスマートフォンで、2016年時点の構成比は30%を超えている。実店舗で商品を確認し店頭からECサイト経由で発注する購買プロセスの定着や、隙間時間に発注が可能という手軽さからPCからの需要シフトが進んでいる。
参入企業はアプリのリリースに注力しており、プッシュ通知などを通じたユーザーとのコミュニケーション施策やクーポン配布、アプリ限定のセール企画などの取り組みを進めている。タブレットPCは2015年頃から端末の普及が一段落しているものの、タブレットPC向けにECサイトを最適化する企業が増えており、スマートフォンと同様に発注が手軽なため利用が増えている。
全体を通して、拡大する通販市場と、その中でECへのシフトが進んでいること、そして各ネット上のショッピングモールもテクノロジーを駆使して果敢に集客を行っている様子が浮き彫りになった。通販、EC市場はPCからスマホへのシフトと合わせて、2018年もさらに進化して行きそうだ。