多くのEC事業者が不満 公取委が大手ECモールの取引慣行などに関して実態調査

公正取引委員会は、平成31年1月に開始した「デジタル・プラットフォーマーの取引慣行等に関する実態調査」の一環として、①オンラインモール運営事業者の取引実態に関するアンケート調査,②アプリストア運営事業者の取引実態に関するアンケート調査、③デジタル・プラットフォームサービスの利用者(消費者)に対するアンケート調査を実施し中間報告としてまとめている。ここではその概要についてポイントを絞って見て行く。

オンラインモールにおける事業者間取引の実態調査

オンラインモールにおける事業者間取引の実態調査規約の変更について(公取委資料より。以下、同様)。

◆【規約の変更】

オンラインモール規約の変更について、運営事業者によって「一方的に変更された」との回答が多く、規約の変更の中に「不利益な内容があった」との回答も多かった。

◆【出店・出品の審査】

運営事業者による出店・出品の不承認が行われた場合、その理由について「説明はなかった」という回答が多かった。また運営事業者の説明に「納得できなかった」との回答も多かった。

◆【商品の販売価格又は品揃え】

運営事業者から、商品の販売価格又は品揃えに関する「要請や指示を受けたことがなかった」との回答が多かったが「要請や指示を受けたことがあった」との回答も一定程度存在した。

また運営事業者による要請や指示があった場合、その根拠について「説明があった」,「説明はなかった」との回答がそれぞれ一定程度存在した。また,運営事業者の説明に「納得できなかった」との回答が多かった。

さらに要請や指示に従わなかった結果として「貴社にとって不利益なことは特になかった」との回答が多かった。

◆【運営事業者に支払う利用料】

利用事業者が運営事業者に支払う利用料について「一方的に決定された」との回答が多かった。

また運営事業者から,不必要・不合理な支払い又は値上げの要求があった場合、その根拠について「説明があった」との回答が多かったものの,運営事業者の説明に「納得できなかった」との回答も多かった。

さらに利用料やその他支払う金銭に問題があるとする理由について「交渉の余地なく一方的に決められた」,「他のオンラインモール運営事業者に比べて,利用料の水準が高額である」を挙げる回答が多かった。

◆【消費者からの代金支払い・決済関係】

オンラインモールを利用する消費者が代金を支払う際の方法の指定について、「オンラインモール運営事業者が指定した支払方法や決済方法しか利用できなかった」との回答が多かった。

◆【運営事業者による支払い】

運営事業者が、利用事業者に代わって消費者から受け取った商品の代金等について、利用事業者に対する「支払いの拒絶又は支払いの遅延はなかった」との回答が多かった。

◆【オンラインモールの表示画面・検索結果】

オンラインモール上での商品の表示画面・検索結果について何らかの理由で問題があるとする回答が多く、その理由として「表示位置や表示方法を決定する基準又は検索結果の順位を決める基準(検索アルゴリズム)が不透明である」「有利な表示位置・方法又は優位な検索結果で表示させるためにはオンラインモール運営事業者のサービスを利用するなどオンラインモール運営事業者に費用を支払う必要がある」を挙げる回答が多かった。

◆【返品関係】

運営事業者の返品処理について何らかの理由で問題があるとする回答が多く,その理由として、「貴社に責任がない場合であっても、返品を受け入れなければならない」「返品に関する費用を負担させられる」を挙げる回答が多かった。

◆【データの取扱い関係】

消費者の顧客情報や販売データの取扱範囲について、運営事業者と利用事業者との間で「不公平な取扱いがあった」との回答が一定程度存在した。

◆【運営事業者との取引全般】

運営事業者の行為によって、深刻な又はある程度の影響を受けたにもかかわらず、何らかの理由で当該オンラインモールを利用せざるを得ないとする回答が多く、その理由として、「貴社の全売上額に占める当該オンラインモールの売上額の割合が高いため」「切り替えてもよいと考えるオンラインモール運営事業者が他にいないため」を挙げる回答が多かった。

◆【今後の調査・検討の視点】

公正取引委員会は次のように述べている。独占禁止法上は例えば、①オンラインモール運営事業者が、オンラインモールを利用せざるを得ない利用事業者に対し,規約の一方的変更による利用料の値上げなどによって、不当な不利益を与えていないか、②オンラインモール運営事業者が、運営者と出品者の立場を兼ねる場合に,出店・出品の不承認,オンラインモール運営事業者として収集した消費者の個人情報や販売データの不公平な取扱いなどによって、自ら販売する商品と競合する商品を販売する利用事業者を不当に排除していないか、③オンラインモール運営事業者が,利用事業者に対し,オンラインモールでの販売価格又は品揃えを他のオンラインモールと同等又は優位にするよう求めることなどによって、利用事業者の事業活動を不当に拘束していないか,といった点が論点になり得ると考えられる。

また競争政策上の観点からは、オンラインモール運営事業者と利用事業者の間における取引条件の透明性が十分に確保されていることが望ましい。そのため,オンラインモール運営事業者による運用や検索アルゴリズムの不透明さなどといった点についても論点になり得ると考えられる。

公正取引委員会は,今後,このような観点から,オンラインモール運営事業者側の事情も含め,更なる実態の把握を行い,独占禁止法・競争政策上の考え方の整理を進めていくとしている。

アプリストアにおける事業者間取引の実態調査

アプリストアにおける事業者間取引の実態調査アプリの審査について。

◆【規約の変更】

規約の変更について,、営事業者によって「一方的に変更された」との回答が多く、規約の変更の中に「不利益な内容があった」との回答が一定程度存在した。

◆【アプリの審査】

運営事業者によるアプリの不承認が行われた場合、その理由について「説明があった」との回答が多かったものの、運営事業者の説明に「納得できなかった」との回答も多かった。

また運営事業者が自ら提供するアプリと機能が類似するアプリを申請した場合に、運営事業者から,そのアプリを承認する条件として、運営事業者のアプリと類似する機能の一部又は全部を機能させないようにする旨の「要請や指示を受けたことがある」との回答が存在した。

アプリの審査について何らかの理由で問題があるとする回答が多く、その理由として,「規約の内容が曖昧である」「審査担当者によって規約の解釈・裁量に幅がある」を挙げる回答が多かった。

◆【アプリストアを経由しないアプリやサービスの提供】

利用事業者がアプリストア上で提供しているアプリと同じ又は類似の内容のアプリやサービスを、ウェブサイトを通じて利用者に提供している場合、そのアプリやサービスをブラウザで検索した場合の検索結果について「問題はない」との回答が多かった。

◆【運営事業者に支払う手数料】

利用事業者が運営事業者に支払う手数料について、エンドユーザーであるアプリ利用者から支払われる額の「30%」との回答が多かった。

また手数料について何らかの理由で問題があるとする回答が多く、その理由として,「手数料の水準が高額である」「交渉の余地なく一方的に決められた」を挙げる回答が多かった。

◆【アプリ利用者が支払う料金の決済方法】

アプリ利用者が支払う料金の決済方法について何らかの理由で問題があるとする回答が多く、その理由として「アプリストア運営事業者自らが提供する決済手段しか利用できず、それ以外の決済手段をアプリ内で利用することが認められていない」「決済用のウェブページのリンクをアプリ内に掲示できない」を挙げる回答が多かった。

◆【アプリストア外での販売促進活動の制限】

アプリストア外でのアプリに関する販売促進活動について、運営事業者から「制限を受けたことがある」との回答が一定程度存在した。

◆【アプリ又はアプリ内で利用するコンテンツ等の販売価格】

アプリ利用者に対するアプリの販売価格又はアプリ内で用いるコンテンツ等の販売価格について、「自由に決定できる」との回答が多かったが,「自由に決定できない」との回答も一定程度存在した。

◆【売上・返金情報】

運営事業者から開示されるアプリの売上情報について,「問題はない」との回答が多かった。一方、問題があるとする理由について,「開示される情報が少ない」を挙げる回答が存在した。

運営事業者の返金処理や返金情報の開示について何らかの理由で問題があるとする回答が多く、その理由として「提供される情報が少なく,返金の妥当性を確認することができない」「貴社に責任がない場合であっても返金を強要される」を挙げる回答が多かった。

◆【運営事業者との取引全般】

運営事業者の行為によって,深刻な又はある程度の影響を受けたにもかかわらず、何らかの理由で当該アプリストアを利用せざるを得ないとする回答が多く,その理由として「当該アプリストア運営事業者以外にアプリストア運営事業者が存在しないため」「当社の全売上高に占める当該アプリストアの売上高の割合が高いため」を挙げる回答が多かった。

◆【今後の調査・検討の視点】

公正取引委員会では、独占禁止法上は,例えば,①アプリストア運営事業者が,アプリストアを利用せざるを得ない利用事業者に対し,規約の一方的変更などによって,不当な不利益を与えていないか、②アプリストア運営事業者が,運営事業者とアプリ配信事業者としての立場を兼ねる場合に,アプリの不承認などによって,自ら配信するアプリと競合するアプリを配信する利用事業者を不当に排除していないか、③アプリストア運営事業者が,アプリストアを経由しないアプリやサービスの提供を制限するなどして、利用事業者の事業活動を不当に拘束していないか、といった点が論点になり得ると考えられるとしている。

また競争政策上の観点からは,アプリストア運営事業者と利用事業者の間における取引条件の透明性が十分に確保されていることが望ましい。そのため、アプリストア運営事業者による運用の不透明さなどといった点についても論点になり得ると考えられるとする。

公正取引委員会は,今後、このような観点から,アプリストア運営事業者側の事情も含め,更なる実態の把握を行い,独占禁止法・競争政策上の考え方の整理を進めていく方針だ。

デジタル・プラットフォームサービスの利用者(消費者)の認識

デジタル・プラットフォームサービスの利用者(消費者)の認識デジタル・プラットフォーマーによる個人情報や利用データの収集・利用・管理等について。

◆【個人情報や利用データの経済的価値】

無料のデジタル・プラットフォームサービスを利用する代わりに自身の個人情報や利用データを提供しているという認識について、「認識はある」との回答が「79.76%」だった。

また自身の個人情報や利用データの経済的な価値について,「経済的な価値を持っていると思う」との回答が「66.1%」だった。

さらにデジタル・プラットフォーマーが自身の個人情報や利用データを活用することについて「デジタル・プラットフォーマーが個人情報や利用データを勝手に利用することはやめてほしいと思う」との回答が「47.7%」だった。

◆【個人情報や利用データの収集等】

デジタル・プラットフォーマーがどのような個人情報や利用データを収集しているかについて「十分に知っている」・「ある程度は知っている」との回答が「57.0%」、「あまり知らない」・「知らない」との回答が「43.1%」だった。

また自身の入力した情報等がデジタル・プラットフォーマーにどのように利用されているかについて,「十分に知っている」・「ある程度は知っている」との回答が「48.9%」、「あまり知らない」・「知らない」との回答が「51.3%」だった。

さらに自身の入力した情報等をデジタル・プラットフォーマーが誰と共有しているかについて「あまり知らない」・「知らない」との回答が「59.6%」だった。

◆【利用者の懸念】

デジタル・プラットフォーマーによる個人情報や利用データの収集,利用,管理
等について「懸念がある」との回答が「75.8%」だった。具体的な懸念として,「個人情報や利用データの取扱いや情報管理(情報流出など)に懸念を感じる」との回答が「85.6%」だった。

デジタル・プラットフォームサービスを利用している中で,個人情報や利用デー
タの収集,利用,管理等について,具体的に,「不利益を受けたと感じたことはない」との回答が「66.8%」、「不利益を受けたと感じたことがある」との回答が
「15.1%」だった。

◆【今後の対応】

公正取引委員会では、デジタル・プラットフォームサービスの利用者の多くは,無料のデジタル・プラットフォームサービスを一方的に受けているだけではなく、自らも経済的な価値のある個人情報や利用データを提供しているという認識を持っていると考えられるとしている。

またデジタル・プラットフォーマーによる個人情報や利用データの収集,利用,
管理等について,懸念を有しているサービス利用者が多く、不利益を受けたと感じたことがある者も存在するところ,デジタル・プラットフォーマーがデータの収集、利用、管理等によって,サービス利用者に不利益を与える場合があると考えられるとする。

公正取引委員会としては、このようなサービス利用者の認識も踏まえつつ,対消費者取引に対する優越的地位の濫用の適用の考え方について,引き続き,検討を進めていく方針だ。

公取委による是正の重要性も高まっている

このようにECプラットフォームによる一方的な規約の変更や出店審査、顧客情報の取り扱いなどについて多くの出店者、EC事業者が不満を感じており、またアプリストアについてもそれは同様である点が明らかとなった。

ECモールなどの巨大デジタル・プラットフォーマーは、多くの集客力を有するだけに、出店するEC事業者に対して際立って優越的な地位にあるとも言える。今回の公取委による中間報告では、そうした立場から、結果としてかなり高圧的な運営になりがちであるとの実態があることも示唆する内容となっている。

いずれにしろ不公正な取引慣行があるのだとすれば、その是正に向けてそれぞれの出店者ではできることが限られているのも事実で、公正取引委員会など公的な機関による是正の重要性が高まっているとも言えるだろう。

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