越境ECへつなげ!インバウンド対策

ECのミカタ編集部

2020年はオリンピック・パラリンピック東京大会が開催されることもあり、世界で日本が注目されるタイミングです。中には日本の文化や商品に興味をもたれる方も多いでしょう。この特集ではインバウンド増加というチャンスを越境ECに活かすためには、どのような戦略をもつべきなのかを越境ECのトレンドとともにご紹介します。

なぜインバウンドに注目するのか

日本において、インバウンドへの注目は年々高まっています。その理由は、訪日外国人旅行者数および訪日外国人旅行消費額の増加です。また、日本に訪れた際に見た商品や購入した商品を、その後越境ECで購入するという傾向もあるため、インバウンドはEC業界でも注目の市場といえます。

訪日外国人旅行者数は、2012年以降、増え続けています。日本政府観光局(JNTO)発表のデータ「年別 訪日外客数、出国日本人数の推移(1964年―2018年)」によると、2012~2017年の訪日外国人旅行者数は二桁の伸び率で、2018年、2019年は落ち着きつつあるものの、引き続き増加傾向にあります。

同じく日本政府観光局(JNTO)発表のデータ「国籍/月別 訪日外客数(2003年~2019年)」およびプレスリリースによると、2019年の訪日外客数(総数)約3188万2千人のうちもっとも多いのが中国からの訪日旅行者で、2019年には約959.4万人と2018年に続いて過去最高を更新しました。年間の訪日旅行者数950万人を超えたのは中国がはじめてです。

中国に次いで訪日旅行客が多いのが、韓国、台湾、香港で東アジアからの旅行者が特に多いことがわかります。これら上位4つの国・地域を合わせた訪日旅行者数は全体の約7割を占めます。訪日旅行者数の増加とともに、訪日旅行消費額も増加しています。

観光庁が2020年1月17日に発表した「【訪日外国人消費動向調査】2019年暦年 全国調査結果(速報)の概要」によると、2019年の訪日外国人旅行消費額(速報)は前年比6.5%増の4兆8113億円と推計されており、これは7年連続で過去最高の更新となります。訪日外国人(一般客)一人当たりの旅行支出は前年比3.5%増の15万8千円と推計されています。

消費額を国籍・地域別に見ると、中国が1兆7718億円ともっとも高く、次いで台湾、韓国、香港、米国となっており、これら上位5つの国・地域で全体の約7割を占めています。

一方、一人当たりの旅行支出を国籍・地域別にみると、オーストラリアが24万9千円ともっとも高く、次いで英国、フランスとなっています。これには、費目、つまりお金を使う目的が大きく関係します。訪日外国人旅行消費額の全体を費目別に見ると、買物代が34.6%ともっとも多く、次いで宿泊費、飲食費の順になっています。買物代が多いことは、小売・流通業界にとっては期待できるデータなのではないでしょうか。ただし、これには国籍・地域による違いもあります。オーストラリアや英国、フランスは、宿泊費が10万円超と、買物代よりも高い傾向にあり、これが一人当たりの旅行支出を引き上げているものと思われます。

一方、一人当たりの旅行支出で、買物代が多いのは中国です。10万9千円と突出した金額となっており、小売・旅行業界にとって、中国からの訪日旅行者がいかに重要な存在かがわかります。

ここまでの数字で、インバウンド市場が盛り上がりを見せていることがわかってくるかと思います。では、訪日旅行者の増加は、本当に越境ECにも影響があるのでしょうか。

参考にしたいのが、経済産業省が2019年5月に発表した「平成30年度我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備(電子商取引に関する市場調査)」です。このなかの「中国におけるECおよび越境EC動向」で、「インバウンド考察」が述べられており、インバウンドと越境ECの関係を考える際に参考になります。

また、2018年12月に日本貿易振興機構(JETRO)が発表した「中国の消費者の日本製品等意識調査」では、「なぜ越境ECを使って日本の輸入品を購入したか、したいか(複数回答)」という質問が設けられており、「日本に旅行をしたときに購入して気に入った製品だから」と回答した人の割合が、2018年8月調査で21.6%となっています。

このことから、訪日旅行者に製品を買ってもらうことが、越境ECでの売上につながる可能性が大いにあると考えられます。ちなみに、この質問に対してもっとも多かった回答が、「中国国内では店頭で販売されていない製品だから」で、2018年8月調査では69.1%となっています。日本を旅行したときに見かけて気になった、または再度購入したいが、中国では売っていないという流れで、越境EC利用のきっかけができるかもしれません。このほか、越境EC利用の理由として、「注文してから商品が届くまでの時間が短いから」「ニセモノではないから」といった回答も多くなっています。

なお、同調査によると、「中国消費者が購入したいと思う製品・サービス」のなかで、デジタルカメラ、化粧品・美容、漫画・アニメについて、日本が1位となっています。

また、旅行前には観光先や日本で購入したい商品について、事前に調べている人も多いのです。つまり、インバウンド対策は日本へ来てからはじめたのでは遅いのです。越境ECにチャレンジしている、もしくはチャレンジしていきたい場合は、SNSの投稿にターゲットにしたい国の言語でハッシュタグをつけるなど、小さいことからはじめてみるのも良いでしょう。

東南アジアの可能性

中国を始めとした東アジアに続く次の有力市場として注目されているのが東南アジアのASEAN諸国です。その理由として、今後の成長率の高さと、参入のハードルの低さがあげられます。

成長の根拠のひとつとなっているのが、今後の人口増加と若い世代の比率です。国際貿易振興機構(JETRO)が2015年2月に発行した調査レポート「【世界】人口ボーナス期で見る有望市場は」によると、ASEAN諸国では、今後10~20年以上、総人口に対して、生産年齢(15歳以上65歳未満)の人口比率が上昇もしくは多い時期が続き、人口増加が見込まれます。国によって状況は違いますが、インドネシア、マレーシア、ミャンマー、フィリピンなどは、特に長期的に生産年齢の人口比率が上昇もしくは多い時期が続きます。生産年齢の人口が多く、人口増加が続くということは、それだけ市場の拡大が見込まれるということになります。

越境ECという観点で、EC市場の成長について前述の経済産業省「電子商取引に関する市場調査」を基に考えると、ASEAN諸国のEC化率はまだ低く、その中で比較的高い国でも、シンガポール5.4%、マレーシア2.7%、インドネシア2.3%、タイ1.8%となっています。ちなみに、日本のEC化率は7.9%です。しかし、ASEAN諸国のEC市場は今後数年にわたり年20~30%の成長が予想されており、越境ECの進出先として注目度が高くなっています。また、東南アジアではインターネット利用率やモバイル経由でのインターネット利用率が高く、この点もEC市場の成長を後押ししています。

また、中国のようにすでに成熟した市場では規制が厳しくなっていきます。これに対し、新興市場には比較的簡単に参入できます。日本のEC事業者にとっては、欧米などに比べて文化が近いという点も、メリットでしょう。

東南アジアのEC市場において代表的なプラットフォームとしては、中国EC最大手の「アリババ」、eBayが展開する「Qoo10(キューテン)」、東南アジア最大級のECサイト「Lazada(ラザダ)」などがあります。また、最近急成長しているのがシンガポール発の「Shopee(ショッピー)」です。

東南アジアのEC市場については、中国などに比べると情報が出回っていないため、慎重になる日本のEC事業者が多いようですが、今述べた支援会社のサービスなどをうまく利用していくと良いでしょう。

現在の成長と未来の変化

2020年はオリンピック・パラリンピック東京大会が開催される年でもあり、インバウンド市場のさらなる盛り上がりが期待されます。日本で商品を購入してもらったり知ってもらったりすることをきっかけに、越境ECの盛り上がりも十分に期待できるでしょう。

ただし、「越境EC」と一口にいっても、国・地域ごとに異なる文化や商習慣、トレンドがあり、どこの国・地域をターゲットとするかにより、効果的な施策は異なります。一番正確なのは現地のリアルタイムの情報を入手することですが、日本を訪れている旅行者の反応も参考になるはずです。

そういった点でも、インバウンドはEC事業者にとって注目の市場といえます。それと同時に、世界全体の出来事にも目を向ける必要があります。最近では新型コロナウイルスに関する話題がそのひとつです。こういった出来事は、インバウンド消費に大きな影響を与えることが予想されるため、状況の変化を注視したいところです。

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