広告主は、巧妙化する手口によって数億ドルの被害も AppsFlyer Japanが『モバイル広告不正の状況 2020年版最新レポート』を公表
AppsFlyer Japan株式会社は、「モバイル広告不正の状況」に関する2020年版の最新レポートを公表した。ここではその概要についてポイントを絞って見て行く。
レポートの概要
モバイル広告効果測定プラットフォームとマーケティングアナリティクスを提供するAppsFlyer Japan株式会社(本社:東京都 渋谷区、代表取締役社長:オーレン・カニエル、カントリーマネージャー:大坪直哉、以下AppsFlyer)は、「モバイル広告不正の状況」に関する2020年版の最新レポートを公表した。
同レポートは、世界シェア72%を誇るAppsFlyerが保有する、12.5万のアプリと2019年7月から2020年5月までに起こった73億のインストールについてのデータを基に、世界各国の動向をまとめたものだ。
世界におけるアドフラウド(モバイル広告不正)被害の最新状況
◆AndroidとiOSによるアドフラウド被害状況の違い
世界においては、Appleが提供するiOSに比べてGoogleが提供するAndroidが市場シェアの点で多くを支配していることなどを背景に、Androidでのアプリインストール詐欺率はiOSの4.5倍を超えており、アドフラウドの主戦場はAndroidとなっているという。
一方で、Androidでの不正の発生率が高いのは市場シェアの差だけではなく、Androidが、不正行為を開始またはサポート するマルウェアやアドウェアを運ぶことが多いストア外アプリ(APK)をサポートした結果でもあるとしている。
◆世界における地域別の被害発生率
アプリインストールの不正発生率を地理的分布で見てみると、韓国で31%、インドネシアで28%、インドで22%と、APAC エリアが圧倒的に高いことがわかったそうだ。日本では現状10%だが、それでも国内の広告費全体の1割が不正に騙し取られていることになる。
ラテンアメリカの市場も目立っており、ブラジルで15%、メキシコで13%と、急速に成長している発展途上国が狙われやすくなっていることが見てとれる。
◆世界における地域別の被害額
アプリインストール詐欺の被害額を世界の地域別に見てみると、全体の60%近くが日本を含むAPAC市場の被害となり、その金額は実に9億4,500万ドルにのぼる。また、ヨーロッパにおける不正の発生率は低くなっているが(8.4%)、被害額は2億4,000万ドルとAPACに次ぐ金額だ。
◆アプリカテゴリー別の被害発生率
アプリインストールの不正発生率が最も高いカテゴリーを見ると、非ゲームアプリとゲームアプリの間に大きなギャップがあるという。ゲーム以外のカテゴリーでは、ファイナンスで48%、トラベルで45%と、不正被害の割合が最も高くなっている。これらのカテゴリーでは、インストールあたりの費用が平均よりも高い点とマーケティング予算が大きいことが原因と考えられると分析している。
その他の非ゲームカテゴリでエンターテイメントで28%、ショッピングで26%、ソーシャルで12%と比較的高い数字となり、非ゲームにおける平均不正率は31.8%となった。一方で、ゲームアプリの不正被害率は劇的に低く、わずか3.8%だった。これは主に、ゲームの広告主がアドフラウドへの 理解が非常に高く、手法に精通しているためだと同社では見ている。
つまりインストールプロセスを不正に操作しようとすることを阻止するためのツール や対策を持っているのだ。しかし、モバイルゲーム業界は規模が大きく、アドフラウドの対象として狙われやすいため、継続して対策が必要だとも述べている。
◆アプリカテゴリー別の被害額
2020年上半期においてアプリインストール不正にさらされた被害額は16億ドルにのぼり、2019年上半期に比べて30%減少したものの、成長し続ける市場において大きな懸念であることは変わらない状況だ。その中でも特に、ファイナンスは最も多くのリスクを抱えているカテゴリーであり、全体の40%を占める6億3,000万ドルという 驚異的な金額となっている。
また、インストールの不正率が低いにも関わらず、ゲーム業界も大きな被害額となっている。モバイルゲームは、ユーザーの流動性が高く、かつマーケティング予算の規模が大きいため、ユーザー獲得に多額の投資をするゲームアプリが広告不正に狙われた場合、大きな被害額に直結する。
日本を含むAPACにおけるアドフラウド被害の最新状況
◆APACおよび日本における国別の被害発生率
世界の傾向に対して、現状では比較的低い不正率の日本やオーストラリア、ニュージーランドを除くほぼすべての国においてAPACは最も危険にさらされている。31%と最も高い不正発生率である韓国は、世界平均の2倍以上(+113%高い)にのぼる。
一方で、かつて詐欺の温床であった東南アジアの状況は大幅に改善し、2020年4月~6月では、2019年7月~9月に比べ50%減少した。日本の平均不正率は約10%と現状低い状況を保っているが、国内の大きな広告予算全体を見るとその1割が不正に 騙し取られている厳しい現状が伺える。
◆APACおよび日本におけるアプリカテゴリー別の被害発生率
APACでは、ファイナンスアプリでは非常に高い不正率があり、5つの国のうち4カ国で50%を超えていた。ゲームカテゴリーの世界においての不正発生率は比較的低いにもかかわらず、APACにおけるハードコアおよびソーシャルカジノゲームを見ると、特に韓国ではハードコアで44%、ソーシャルカジノで60%と非常に高い数字となっていた。
また日本は、ソーシャルにおいて圧倒的に不正率が高く、2019年から増加傾向にあり、2020年5月現在で不正率45.2%と 2番目のインドネシア(26.4%)と比べて実に高い数字となっている。さらに、近年ゲーム業界を席巻しているハイパーカジュア ルゲームでは最も高い1%、カジュアルゲームでも韓国(8.1%)に次ぐ2番目(3.8%)など、ゲームカテゴリーにおいても日本は APAC内で高い不正率を記録している。
減少傾向も、手口は巧妙化
レポートの公表に際して、同社では次のように述べている。
「無効なインプレッションやクリックによって成約件数や効果を不正に水増しすることで、広告主から広告費を奪い取る『不正広告(アドフラウド)』。このような広告詐欺によって、これまで世界各国の広告主が大きな被害を受けてきました。しかし近年、2020年3月には新型コロナウイルス感染拡大に伴う在宅時間増加の影響もあり被害率が上昇したものの、アドフラウド の認知拡大や不正防止ソリューションの強化によって過去1年、被害率は減少傾向にあります。
アドフラウドの発生率低下は業界にとって大きなニュースである一方、不正業者の手法が年々進化してきていることも事実です。例えば、これまで一般的であったインストールの水増しによる不正に加えて、インストール後のアプリ内課金における詐欺が大幅に増加しています。広告主は、年間数億ドル規模の被害が想定されるアドフラウドに対して、引き続き最新の情報をウォッチしながら、警戒を怠らない必要があります。適切な広告予算の投下、および経営資源の配分を実現するために、 常に進化するアドフラウドを防ぐ、最新の対策が必要不可欠です」
同社も述べているようにアドフラウドの発生総数自体は減少傾向にあるようだが、その手口は、より巧妙化している。こうした悪意ある行為は、ECをはじめとしたインターネット上での各種サービスの高度化や、消費動向の変化に合わせるように、手を変え品を変え、新たな手法が生み出され、それに対応するといったイタチごっごとも言える状況が続いている。
今後さらにスマートフォンをはじめとしたモバイルデバイスの利用が増加していくものと見られ、こうした不正の潜在的脅威は、むしろ拡大する可能性が高く、損失を被らないためにも、プラットフォームや広告サービスの提供者は、しかるべき不断の対策を講ずることが求められる。そして出稿する側としても、適切な対策を講じているサービス提供者を選ぶ目を養うことも必要となってくるだろう。