北の達人コーポレーションなど話題の企業のデジタルマーケティングに迫る、AD EBiS Conference 2020レポート

ECのミカタ編集部

2020年11月25日(水)、「データマーケティングの壁を越えろ」をテーマにAD EBiS Conference 2020が開催された。当日はECで高収益を上げ注目を集める通販事業者から今話題のD2Cブランド、デジタルマーケティングで成長を続ける世界的アパレル企業などの事例が紹介され、最先端の情報に参加者の衆目が集まった。

今回は、事例発表企業の中から株式会社北の達人コーポレーション、株式会社Sparty、ディーゼルジャパン株式会社、株式会社プライムクロス、株式会社オプトの発表をレポートする。

突出した営業利益率を生み出す、北の達人流マーケティング戦略

突出した営業利益率を生み出す、北の達人流マーケティング戦略

北海道・札幌市を拠点に健康食品や化粧品の企画・製造販売などを展開する北の達人コーポレーションは、売上、利益ともに2002年の創業から伸ばし続け、現在は東京証券取引所と札幌証券取引所に上場している。

北の達人コーポレーションの特徴は、売上ではなく、あくまで「利益」に重きを置いていることだ。同社の代表取締役社長を務める木下 勝寿氏は「営業利益率は国内でEコマース専業上場企業の中で抜きん出ている」と胸を張る。

なぜ、北の達人コーポレーションはこのような業績を残し続けられるのか。その秘訣は、同社のマーケティングへの考え方にある。マーケティング業務のみならず、システム開発も内製化を進め、ある方針に則って実行される。木下氏いわく、「マーケティングの原則は、”目立たないプロモーション”を行うこと。これにより、他社と無駄な競合をせずビジネスを伸ばすことができる」とのことだ。

必要以上のプロモーション活動は、他社が参入するきっかけになりかねない。木下氏は「広告の目的は目立つことではなく、利益を生み出すことだ」と言い切る。

そこで『利益最大化の広告運用の3つの極意』として木下氏が掲げたのは、①上限CPOの決め方 ②CPOはグロスで考えてはいけない ③親子CPOの考え方であった。

なかでも『親子CPOの考え方』について注目が集まった。同社では、通常の広告とリターゲティング広告が明確に関連性がある場合は『親子CPO』と呼んでおり、親広告を通常広告、子広告をリターゲティングや指名検索と位置づけている。

例えば、上限CPOを親広告がオーバー、子広告が採算が合っている状態で親広告をやめてしまうと、繋がりがある子広告の効果はいずれなくなってしまう。そのため、同社では月次で親広告と子広告の連動性を確認し、上限CPOの調整を欠かさずに行うことで、広告の効果を最大化していると語った。

北の達人コーポレーションが取り組むマーケティングは、これだけに止まらない。Webマーケティングの世界でも「AIの活用」が焦点になっているが、同社も積極的に活用している。しかし木下氏は「あくまで与えられたデータに対して、最適解を導くのがAI。そのためのデータ用意と差別化の基準づくりなどを行うのは、人間」と説き、それぞれの役割を明確化した上で、PDCAを回しAIが最適な判断をくだせるようブラッシュアップを続けることが重要であると話した。

地道なようだが、この姿勢こそが北の達人コーポレーション躍進の真因だろう。AI時代のデジタルマーケティングのベストプラクティスが同社から誕生する日はそう遠くないかもしれない。

パーソナライズシャンプー「MEDULLA」が話題、Spartyのデータ活用術

パーソナライズシャンプー「MEDULLA」が話題、Spartyのデータ活用術

近年、新たなビジネスとして脚光を浴びる「D2C」。今回のカンファレンスでは、国内D2Cブランドとして注目を集める株式会社Spartyのマーケティングへの取り組みについて、Sales Division WEB Section Chiefの坂口 光氏から発表があった。

Spartyは、約3万通りの組み合わせから最適なヘアケアを提案するパーソナライズシャンプー「MEDULLA」を展開。会員は約1年で7〜8万人規模のサービスに成長して、現在は約20万人(イベント開催時の数値。2021年1月時点では30万人突破)を誇る。国内のベンチャー企業グランプリ「ICC サミット KYOTO 2018 スタートアップ・カタパルト」で準優勝に輝くなどの受賞歴もある。

同社が躍進した秘訣はどこにあるのか。坂口氏は「顧客に価値を提供し続けるためのバリューチェーン全体を構築して、PDCAを回し続けているのが大きい」と語る。IDを1つに統一してWebデータとLTVデータをつなげ、全顧客のパーソナライズデータを一括で管理。そうすることで、一気通貫した広告評価を実現させている。また会員に対するコミュニケーションやCX改善などもデータを基に設計を見直し続けている。

「お客様の購入前だけでなく、購入後のPDCAも数ヶ月単位で改善を図っている」(坂口氏)という言葉にあるとおり、Spartyはサービスのブラッシュアップに余念がない。例えば、最適なヘアケア商品を顧客に提案するために、顧客からのフィードバックが得られるようUI・UXの絶え間ないアップデートを重ねている。フィードバックデータについては商品開発やクリエイティブデザインに反映しており、直近2年間でLTVは140%UPと大幅に向上した。

勢いに乗るベンチャー企業の姿とは対照的に、愚直なまでに顧客と向き合う姿勢がSpartyからはうかがえる。一方で、データだけでなく社員の感覚も大事にしているという。「質の良い商品はたくさんある、でも選べない。そんな顧客に寄り添う」というポリシーを、これからも体現し続けるだろう。

前年対比150%売上増を実現した「DIESEL」のデジタルマーケティング

前年対比150%売上増を実現した「DIESEL」のデジタルマーケティング

ディーゼルジャパン株式会社の河野 友香氏による講演では、フルファネルコミュニケーションストラテジーを掲げているディーゼルジャパンのデジタルマーケティングについて発表があった。

ディーゼルジャパンでは、PDCAを回しながら結果に応じてコストアロケーションをした結果、認知・理解促進・購入促進の全てのフェーズで成果を向上させることに成功。ブランド広告はファッションメディアを中心にリーチは200%増、プロダクト広告もSocial Mediaを中心にトラフィックが80%増えている。その結果は、ECの売り上げは前年対比で150%を達成した。

今後はCDPを活用するなど、ユーザーを起点としたマーケティングDXに取り組む。コロナ禍で急速にデジタル化が発展した一方、「リアルで人と会う」「リアルで買い物をする」という今までは当たり前であった体験がより贅沢な体験へと変わった。ディーゼルジャパンがマーケティングDXに取り組む目的は、単なる効率化のためではない。データを最大限活用した顧客理解のもと、ブランド価値や体験価値の向上に努めることで、顧客とのコミュニケーションを深めることが最大の目的である。

その目的達成のため、現在は”組織横断のDX”にも注力しているという。一部の専門スタッフだけでなく、すべての社内スタッフがデータを扱えるよう、社内環境の整備や意識の統一を今後も目指していくと締めくくった。

デジタルマーケティングカンパニーが実践した不動産マーケティング

デジタルマーケティングカンパニーが実践した不動産マーケティング

不動産業界におけるWebマーケティングの特色は3つ、1つは高額商品であることから資料請求から実際に購買する率、つまり契約率が他商材に比べて低いこと、2つ目がエリアや間取りによって契約単価が大きく異なること、そして3つ目が検討期間が長いため、間接的なCVなどが非常に増えること、このように株式会社プライムクロスの木村 栞氏は話す。さらに不動産は人生でも数える程度の買い物になるため、購買者にとってすぐ想起してもらうためのブランディングも重要だと話した。

そして不動産プロモーションの課題として挙げられるのは、Web広告改善施策の枯渇、ターゲットユーザーのニーズ不一致、配信者対象者の枯渇だ。

その解決のために必要となる目線が契約率・契約単価を加味した媒体運用、データ分析によるCVユーザーのマッチ度向上施策、アトリビューションスコアによる初回接触広告の適切な評価だという。

今後はアドエビスの機能を活用することで、追いにくい来訪から商談、成約に至るまでの情報をリアルタイムに取得すること、そして広告をクリックする前のユーザーのインプレッションの評価を突き詰めることで、不動産業界のWebマーケティングの課題解決に繋げていくと話した。

顧客体験の最大化がカギを握る、ポストCookie時代

顧客体験の最大化がカギを握る、ポストCookie時代

コロナの影響を大きく受けている今、経済政策不確実性指数が過去最大となっている。不確実な世の中だからこそ、企業が生き残っていくためには確固たる優良顧客基盤が必要であると、株式会社オプトの岩本 智裕氏は語った。そんな時代に広告代理店であるオプトが重要視するのが、データ分断のリスクだ。複数のデバイスとブラウザをまたいだオンライン上のデータと、オフラインのデータが、一元化されておらず分断化されていることで起きるリスクを懸念する。

データが連携されないことで起きる機会損失は目に見えないが、LTVやCRMの観点のほかにも、新規顧客の獲得が年々難しくなっていることを考えると、あらゆるチャンスを逃している可能性がある。

そこで重要なのが、会員IDの管理だという。IDを軸に一気通貫でデバイスの壁やオフライン・オンラインの壁を超えて分析が可能になる。そして優良顧客に対して積極的に広告配信を行うことでCPAが改善されると話した。

さらに、2022年には3rd Party Cookieの規制が予定されており、アプリの領域でも同様の動きが見られている。その影響は4人に1人が3rd Party Cookieの制限を受けており、2022年にはそれが5人に4人の割合まで増加するという。

ポストCookie時代となる今後は、Sever Side API、そして1st Party Cookieなど活用できる仕組みを最大限活用することで、正確なデータの収集と蓄積、そして各媒体にてデータの整理・配信を行うことで、効果の高いマーケティングが可能になると話した。

マーケティング領域の変化は著しい。そして分析に必要なデータ全てを自社のみで取得し、分析・活用を行うのは容易ではない。そのなかで、今回登壇した企業は、変化の波のなかで柔軟に対応し、最善策を常に模索し実行し続けている。今回のようなイベントでリアルな最前線の情報収集を行うことや、自社の状況に見合った正しいツールを導入・活用していくことが今後の事業成長につながっていくと言えるだろう。

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