ヤフーショッピング無料の影響は?(中) 出店者がECの主役へ
仮想モール出店料・売上高手数料の無料化というヤフーが放った"一手"がECの市場や業界にどんな変化をもたらし得るのか。今回は「モール運営者と出店者のポジションの変化」の可能性について見ていく。
「革命は『主役の交代』を意味している。場を提供する"地主"ではなく、お客様にモノを提供する"皆様(出店者)"が主役になる」。10月7日の仮想モール出店者向けのイベントで"無料化"を軸とした新戦略を「eコマース革命」と称して発表した際、今後、ヤフーの無料戦略で起こるであろう"変化"について、ヤフーの孫正義会長(写真)はこう断言した。
まさに孫氏の言う通り現状、仮想モールの「主役」は「地主=モール運営者」だ。"物言える"一部の有力出店者は別として、中小出店者はモール運営者が例えば出店料金や売上高手数料を値上げするような出店者にとって不利な規約変更を行ったとしても唯々諾々と従わざるを得なかった。
もちろん、モール運営者の決定や方針に納得いかなければ退店すればよい話だが、現実的なことではなかった。「ECを辞める覚悟があるならともかく、不満があって退店してその先、どうするのか。自社通販サイトだけで(不満のあるモールの出店舗と)同じ売上高を稼ぎ出すのは、集客面だけ考えても不可能だ。売り上げの大半を"ここ"で稼いでいるわけで、不満があっても退店など現実問題できはしない」(雑貨販売A社)というのが実情だった。
しかし、それでも仮想モールはいくつもあるわけで、不満のあるモールについては退店して別のモールに出店するか、または退店までいかなくとも他モールをメーンとして力を入れ不満のあるモールからは徐々にフェードアウトしていけばよい、のではと思うが、そうもいかないのは仮想モールは数あれど、"売れるモール"は限られているためだ。その"売れるモール"とは、その流通総額や規模感から見ても明らかな通り、「楽天市場」だ。
EC事業者はもちろん、複数のモールに出店したり、自社通販サイトを強化するなど売り場の多様化を進めてはいるが、主戦場となる"売り場"は事実上、"売れるモール=楽天市場"に依存している。そうした現状などから、本来は相互依存関係にあり、互いにとって重要なパートナーであるはずのモール出店者と出店者のポジションが次第に変わり始め、孫氏が言うところのECの主役は"小作人"に成り下がった「出店者」では当然なく、権力を持った"地主"である「モール運営者」となっていたわけだ。
しかし、こうした状況はヤフーの放った今回の一手で大きく変わる可能性がある。無論、前回でも触れた通り、ヤフーの無料化以降も「楽天市場」の現在のポジションはそう簡単に揺るがないだろう。他のモールよりも一日の長があり、すでに多くの利用者がいる。現在でもネット上の広告のみならず、テレビCMや百貨店などでの催事を含めたリアルイベントなども駆使し、常に新規利用者の獲得を周到に進めており、顧客の囲い込みも「楽天スーパーポイント」など様々な施策を用いて展開中だ。出店者からの売り場としての信頼も非常に高い。
楽天が仮想モールとして優れているという状況は変わらないとしても、前回述べた通り、ヤフーが現在進めているポータルサイトからの集客強化策やシステム面の改善、年末に予定する大型販促セールの行方などにもよるだろうが、無料化に踏み切ったことで、「ヤフーショッピング」がこれまでとは桁外れの勢いで出店者と商品を集めていることは事実であり、"儲け"という観点から、少なくともこれまで以上にはヤフーに力を割く有力出店者が増えてくるはず。「楽天を超えられるかどうかは別にしても、一定規模まで拡大すれば、"ヤフーショッピング"が"選択肢"になる」(衣料品販売B社)可能性が出てくる。そうなるとモール運営者は優位なポジションにはいられなくなるのではないか。仮にモールのやり方に不満を持った場合、力点をある程度ヤフーにシフト、又はその逆も可能となり、結果として"孫氏の言葉"通り、ECの主役の座は"出店者"になるかも知れない。「店子だけでなく"大家"の競争も必要。それで市場環境が健全化されると思う。そう言った意味でもヤフーにはぜひ頑張ってほしい」(寝具C社)とヤフーの新戦略を支持する声も多い。