ECサイトの戦略とは?基本の施策から業種別の成功事例まで徹底解説

ECのミカタ編集部

ECサイトの戦略とは?基本の施策から業種別の成功事例まで徹底解説

成長を続けるEC市場で勝利をおさめるために大切なのは、賢い戦略です。そしてサイトごとにとるべき戦略は異なります。自社が顧客に対して提供できる価値をよく理解し、選ばれるECサイトとなるために、改善を重ねていきましょう。

EC戦略の基本

ECサイトの売上を効率的に伸ばすには、ただやみくもに販売額を増やそうとするのではなく、ECならではの特徴をおさえた戦略が大切です。
では、この戦略とは具体的にどういったものなのか、そして何を目的として戦略をたてるのか。この理解を深めていくため、まずはECサイトの売上をつくる要素を知りましょう。

売上=流入ユーザー数×CVR×顧客単価


ECサイトの売上は、「流入ユーザー数」「CVR」「顧客単価」の3つの要素に因数分解できます。
例として下記の場合、
・月間で10,000ユーザーがサイト訪問
・うち1割にあたる1,000人が商品を購入
・ひとりあたりの購入額は5,000円

10,000(流入ユーザー数)×0.1(CVR)×5,000(顧客単価)=500万円(売上)

という計算で月間の売上高を導き出せます。
この式からわかるとおり、「流入ユーザー数」「CVR」「顧客単価」の伸びが、売上を大きくします。もちろん、理想的なのは3要素すべてが上向くこと。ただし、そのための施策には人手や資金などのコストがかかるので、一度にすべてを向上させるのは難しいでしょう。

3つのうちどれかひとつであっても、改善すれば売上アップへの効果はあります。
たとえば先ほどの計算式にもどり、流入ユーザー数を1.5倍に増やせたとすると、

15,000×0.1×5,000=750万円

となり、CVRと顧客単価が現状維持でも250万円のプラスが生み出されます。
賢いEC戦略とは、売上に影響をあたえる要素のうち、自社が注力すべきポイントを見つけ出し、効果的に改善策を打っていくことなのです。

改善点とひと口に言っても、方向性は2種類あります。ひとつは、伸ばすことで他社に差をつける自社の特性。もうひとつは、解決すべき問題点や課題点です。
今回、主に取り上げるのは、前者をみつけて伸ばすためのヒントです。もちろん課題の解決も非常に大切ですが、顧客に選ばれる企業となるためには、自社のオリジナリティを磨く必要があります。

EC戦略の立て方

運営するECサイトの特性を見つけ、戦略を立てていく方法を紹介します。

ベースとなる戦略を決める


まずは進むべき方向性をさだめましょう。そのために把握したいのが、自社が市場に対して提供できる価値の正体です。マーケティング用語を使うと、「ターゲティング」と「ポジショニング」を明確化します。
ターゲティングとは、どんな人がメインの顧客層になるかの想定。そしてポジショニングとは、想定する顧客に対し、自社がどのような価値を提供できるかを表します。
それぞれの解像度が高いほど、売上を伸ばすためにまず何から着手すべきかが見えてきます。

競合サイトを分析する


競合サイトの商品ラインナップ、ターゲット層の設定、販売や宣伝の施策を調査することも非常に大切です。
ライバル企業の動向には、市場の現状が反映されます。自社が展開をしようとする市場で、いま満たされているニーズ(つまり、競合サイトがすでに提供している価値)と満たされないニーズのブルーオーシャンを探してみてください。その分かれ目が、自社をユーザーから求められる存在にするための差別化ポイントです。

4P分析をしてマーケティング施策を決める


4P分析とは、販売戦略を「Product」「Price」「Place」「Promotion」の4つに分けて考える手法です。マーケティング・ミックスとも呼ばれます。
4つの戦略では、それぞれ具体的に下記の内容を策定し、打つべき施策を一連の流れに落とし込みます。

Product(製品戦略)


自社から市場に対して提供できる価値とは何かを、顧客目線で考えましょう。
ここでのProductは、商品のみに限りません。商品の品質やデザイン、企業としてのブランド力やイメージ、サービス、カスタマーサポートなどユーザーに提示しうるすべてのものがProductです。
市場でいま消費者に求められているモノとは何か、自社だからこそ顧客に与えられるメリットはどんなものかを具体的に構想します。

Price(価格戦略)


自社が提供する価値を、どれくらいの価格で市場に送り出すのかを決めるステップです。
価格は、高すぎても安すぎてもいけません。商品の質と市場の価値観でバランスのとれる落としどころを探す必要があります。
高すぎる商品が売れないのはもちろんですが、ユーザーに喜ばれるからといって価格を下げるのも考えもの。薄利多売のスタイルは、ゆくゆくリソースをすり減らしますし、価格競争では結局ダイナミックな販売展開でコストを下げる大手に軍配があがります。
値段以外の部分、サービスや品質といった付加価値で選ばれる理由をつくることも重要です。

Place(流通戦略)


製品の方向性が定まり、価格を決定したら、次はその販売場所・流通経路を策定します。
ECサイトなのだから販売場所はネットに決まっている、と思うでしょうか。実はEC販売であっても、流通戦略を工夫できます。
たとえば、販売経路を複数もち、たがいに活用しあうオムニチャネル化。ECサイトでの購入品の実店舗受け取りを可能にする、ECサイト以外の注文窓口(電話やFAXなど)をもうける、SNSプラットフォームを活用するなど、視野を広げて顧客との接点を積極的につくりましょう。

Promotion(宣伝戦略)


最後に、自社と製品を顧客に知ってもらうための宣伝戦略を考えます。
オーソドックスなのはやはり、WEB広告の出稿でしょう。ほかにも、SNSを活用する、インフルエンサーを起用する、あるいはもっとアナログな方法でDMを送付するなどやり方はさまざまです。
おさえておきたいのは、自社が定めているターゲットが目にする機会の多い場所。それはSNSかもしれませんし、特定のメディアかもしれません。
また、手法だけでなく宣伝のクリエイティブ面も、提供する価値に見合うものにする必要があります。

代表的なEC戦略

流入数・CVR・顧客単価、それぞれの要素を伸ばすために効果的な方法を紹介していきましょう。
ちなみに、この項目では具体的な施策内容を述べていきますが、用語として厳密にいえば、これらは戦略ではなく戦術にあたります。
戦略とは、目標を達成するためにたてる筋道のこと。そして、戦略を遂行するためにおこなう一つひとつの手段が戦術です。
しかし、一般的には「EC戦略」として下記のような施策のことを指すことが多いため、本記事でもそれにならい記載をさせていただきます。

複数のECモールに展開する


楽天市場やAmazonなどのECモールは、ユーザー数が多く集客に強い点が特徴です。これらのモールに複数出店・出品をすれば、自社ECサイト1本で運営するよりも幅広い客層へのアプローチができます。
ただし、複数のECモールへの出店は出店料など経費がかさむというデメリットも。出店により見込める売上の増加とコストのバランスに注意しましょう。

実店舗と連携してオムニチャネル化する


実店舗、ECサイトなど複数のチャネル(販売経路)同士を連携させるオムニチャネル化は、顧客を囲い込むのに効果的な施策です。
オムニチャネルでは、企業がもつ商品や顧客のデータをダイナミックに活用し、単体チャネルではできないようなサービス展開ができます。サービスの充実によって顧客の満足度があがると、リピーターが増え、ゆくゆくは固定顧客の獲得につながります。
固定顧客を増やし、年間の購入額(LTV)やリピート率を増やすのも、売上増加への貢献が期待できる戦略です。

越境ECで海外の顧客にも販売する


少子高齢化が進む日本社会では、越境EC参入による海外市場の開拓も、顧客数を増やす手段のひとつです。
ここ数年越境ECに参入する企業が増えています。品質のいい日本製品は海外で人気が高く、成功すれば大幅に市場を拡大できます。
海外での販売では、対象とする国での販売ルールなどに注意が必要ですが、越境ECへの参入を専門的に支援してくれるサービスなどもあるので、うまく活用するとよいでしょう。

アプリをリリースしてユーザーを囲いこむ


オムニチャネル化にも通じますが、アプリのリリースは顧客の囲い込みに有効です。
消費者がWEBサイトにアクセスする際の使用デバイスでは、年々スマートホンの割合が高くなっています。そしてスマホユーザーにとっては、ホーム画面からワンタッチで開けるアプリのほうが、わざわざ検索エンジンからサイトにアクセスするよりも便利です。
アプリはプッシュ通知や位置情報サービスを利用して、ネットにアクセスしていない状態のユーザーとも接点を持つ機会を増やします。実店舗・ECサイトをつなぐ役割も果たし、顧客と企業のつながりをより密接にできるのです。

コンテンツマーケティングでSEOに取り組む


検索エンジンでの流入数を確保するため、SEOにも積極的に取り組みましょう。
ブランド名や企業名での“指名検索”で検索結果に上位表示させるのはもちろん、自社の製品やサービスに関連する“ジェネラルワード”での流入獲得もぜひ目指したいところ。そのために有効なのが、コンテンツマーケティングです。
ちなみにジェネラルワードには、固有名詞の指名ワードに対し、もっと汎用性の高い検索語句が含まれます。たとえば「ユニクロ」は指名ワードで、「セーター」や「春服」といったワードは、ユニクロが扱う商材に関するジェネラルワードです。
ジェネラルワードによる検索には、消費者の潜在的なニーズがあらわれています。顧客層が関心を持ちそうなコンテンツを充実化し、サイトへの流入に導きましょう。

マーケティングをオートメーション化する


マーケティング活動における商品の売れ行きや顧客層の分析は、サイトの改善点を可視化したり、施策の効果を実証したりするために不可欠です。しかし、その過程で発生するデータの精査などは手間のかかる作業でもあります。
それを解決するのがマーケティングオートメーション。データ集計などの正確性の求められる細かい作業をシステムに任せられるので、業務を効率化でき、担当者の負担も減ります。

SNSを活用して顧客とコミュニケーションをとる


SNS人口は年々増加していると言われています。消費者が日常的に使うLINE・Twitter・InstagramといったSNSプラットフォームは、企業にとって顧客との接点をつくるチャンスの場です。
とくにECサイトにとっては、WEB上で直接サイトに流入させる働きかけもできるため、相性のよいチャネルでもあります。

CX施策で顧客体験を向上させる


CXは、Customer Experience(顧客体験)の略。顧客体験の向上とは、簡単に言えば「このサイトで買い物をしてよかった!」とお客さんに思ってもらうことです。
ユーザーの立場になれば、満足のいく買い物ができた店を次回以降も使いたいと思うのではないでしょうか。繰り返しサイトを利用してくれる“お得意さん”の獲得は、サイトにとって大きなメリットとなります。
CX向上で重要なのは、つねにユーザー目線をもってサイトの見直しを続けること。自分だったらどのような機能やサービスがあれば嬉しいかを考え、サイトに反映させましょう。

大手企業のEC戦略成功事例

年々拡大するEC市場をけん引する大手企業は、それぞれ特徴あるEC戦略によって成果を生み出してきました。そのうちのいくつか、代表的な例を紹介します。

【アパレル】ユニクロ


国内のオムニチャネル成功例としてまず挙げられるのが、大手ファストファッションブランドのユニクロでしょう。「オンラインストアでの購入品を実店舗で受け取れる」「店頭で商品バーコードをスキャンするとEC在庫がわかる」といった、実店舗・ECサイト・アプリを使ったダイナミックなオムニチャネル戦略を展開。顧客の買い物体験を大きく進歩させ、囲い込みに成功しています。

2021年にはアプリでのキャッシュレス決済が可能になる「UNIQLO Pay」を開始するなど、さらにユーザビリティを向上する施策を打ち出しました。また、「StyleHint」というコーディネート検索に特化したアプリもリリースしており、商品販売にとどまらない幅広いユーザーコミュニケーションに取り組んでいます。

【家電】ヨドバシカメラ


家電販売のヨドバシカメラは、自社ECサイトの「ヨドバシドットコム」において、国内での売上高2位という数字をもっています。(参考:https://netshop.impress.co.jp/node/9126
ヨドバシドットコムでは家電に限らず、食料品や日用品などの生活必需品も幅広く展開しています。なんといっても特徴的なのが、「ヨドバシエクストリーム」でしょう。これは、注文額何円からでも送料無料、なおかつ追加料金なしで当日注文の配達OK、さらには最短なんと2時間半で商品を届けてくれるという独自の配送サービスです。ヨドバシはこのサービスの実現のため、物流改善に力を注ぎました。結果、他社との差別化に成功し、多くの顧客から支持を得ています。

【スーパーマーケット】イオン


デジタル事業を積極的に推進するイオンは、2019年時点で「次世代ネットスーパー構想」を発表しています。英国のネットスーパー「OcadoSolutions」との連携により、AI技術やロボティクスといった最先端技術を取り入れたデジタルシフトに取り組み、グループ全体のDXの要としてECの成長をめざしています。

イオンの特徴は、運営サイトを複数持っている点です。1番大規模な「イオンネットスーパー」は、各店舗の在庫から商品を出荷する、地域の店舗と密接につながったECサイトです。そのほか、お中元やお歳暮を扱う「イオンショップ」やインテリア・雑貨などをあつかう「イオンスタイル」など、商材ごとにサイトをわけて販促をしています。
イオンはUGC(=お客様の声)活用にも力を入れており、「イオンスタイル」では特集ページにユーザーのInstagram投稿を表示させるなど、商品の活用イメージを伝える工夫が行われています。

【スーパーマーケット】ウォルマート


アメリカや中国は、日本よりもさらに小売業のEC化率が進んでいます。比例して、EC市場の競争もより激しくなっていると考えられるでしょう。その中で成長をしている企業の事業モデルからもヒントを得られます。米国内でAmazonに次ぐシェア率を持つウォルマートは、「BOPIS」という施策の実施で、CXの向上とコスト削減の両方を実現させました。BOPISとは「Buy Online Pick-Up In Store」の略で、ネット注文した品物を店舗ロッカー、もしくはドライブスルー方式で受け取れるようにした取り組みです。

コロナ禍において歓迎された非接触のサービスであると同時に、ECの配送費削減に貢献しています。一方で、テクノロジー開発に取り組むベンチャーを買収し、AIによるレコメンド機能を導入するなど、サイトUX改善にも積極的に取り組んでいます。

【コスメ】資生堂


大手化粧品メーカーの資生堂は、「ワタシプラス」というECサイトを運営しています。ワタシプラスでは美容や健康のテーマに沿ったコンテンツを複数展開し、商材に関連した、ユーザーニーズのある情報を提供しています。また、画像分析機能を使った似合うメイクの診断サービス、ライブコマースの実施など、消費者の購買を刺激する仕掛けもサイトに取り入れられています。

越境ECに積極的に取り組んでいる点も資生堂の特徴です。中国の大手ECモール「天猫国際」に出店をしており、その売上額は、2019年時点でグループ全体の売上の17.5%にまで成長。伸び率においては、世界の各地域の市場のなかでトップとなっています。
(参考:https://www.alibaba.co.jp/service/tmall/post_1/

【インテリア】ニトリ


大手インテリアメーカーのニトリも、ここ数年ECサイトが好調な一社です。コロナ禍で「おうち時間」が注目され、在宅環境を充実させる家具へのニーズが高まったことも、ニトリのEC成長の追い風となっています。外出自粛を受けて実店舗の販売を伸ばせないなか、状況を逆手にとり、ECサイト限定の商品ラインナップを充実化して売上を伸ばしました。

ニトリは公式アプリを活用した「One to Oneマーケティング」も展開。アプリ会員限定で、商品購入でもらえるポイントサービスを実装し、会員数の増大に成功しています。


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