LINEで実現する「お客様のつながりの深化」、成功企業の秘訣とは?~「LINE LOCAL DAY2022」レポート
2022年8月31日、LINE株式会社主催のオンラインイベント「LINE LOCAL DAY2022」が開催された。「LINE LOCAL DAY」は全国の店舗運営者向けのイベントで、今年で2回目となる。
今回のテーマは「店舗とお客様のつながりの深化」だ。コロナ禍で特に実店舗においては、営業自粛や時短営業が求められ、「お客様とのつながり」の重要性を再認識した事業者も多い。
ここでは、特にECに関連する内容やEC業者のヒントとなりそうな内容に焦点を当て、「LINE LOCAL DAY2022」のハイライトを紹介する。
LINEで実現する「店舗とお客様のつながりの深化」
基調講演では、LINE マーケティングソリューションカンパニーCEO池端氏とローカル・バーティカル事業企画室 室長の岩本氏が「店舗とお客様のつながりの深化」をLINEでどのように実現するのか、これまでの取り組みを振り返りつつ、今後の方向性について語った。
コロナ禍で多くの店舗事業者が苦難に直面する中で気付いたことは、「お客様とのつながり」の重要性だという。電話やDM、メールではスムーズに連絡が取れないことも多かったが、お客様とLINEでつながっている店舗ではスムーズに連絡ができたそうだ。
「『お客様が日頃から使っているツールでつながっていることがとても重要であるということに気付き、LINEの活用を本格化し始めた』というお声もいただきました。我々はこのように、店舗とユーザーがつながることができる未来を創っていきたいと思っています」と池端氏。
店舗とユーザーのつながりの中核を担っているのがLINE公式アカウントだ。2022年7月時点で39万以上のアクティブアカウントがあり、企業や店舗とつながっている総友だち数※1 は、2022年3月時点で58億人。月間のメッセージ配信通数は260億に達している。
※全アクティブアカウントの友だち数
LINEのマーケティング活用が進んでいるのは「コミュニケーションツールとしてだけではなく、店舗運営に必要な新規顧客の獲得から店内での体験、再来店・再購買までをサポートできるさまざまなサービスを拡充してきたからです」と池端氏は語る。
新規来店・再来店を促進するための「LINEチラシ」や「LINEで予約」、店内での体験をサポートするための「LINEミニアプリ」など、より深いつながりを構築していくためのサービス提供を行ってきた。
EC領域においては、ヤフーとのシナジーを生み出すプロジェクトの一環として、2021年7月にYahoo!ショッピング出店ストアのLINE公式アカウント開設受付をスタート。これが大きな反響を呼び、2022年6月までにアカウント開設数が3万件を突破した。
LINE公式アカウント活用の実証実験に参加したストアの実績では、メルマガ経由と比較して、LINE経由の売上が約2倍という成果が出ている。池端氏は「プロジェクトを開始してわずか1年ですが、EC領域でもLINE公式アカウントが非常に有効であることが証明できたのではないか」と自信をのぞかせた。
「LINE公式アカウントの進化」の方向性
今後のさらなる「店舗とお客様のつながりの深化」を後押しするべく、「LINE公式アカウントの進化」の3つの方向性が示された。
①PayPayとの連携
累計登録者数5,000万人超※2 のPayPayとLINEの本格連携を開始し、PayPay決済時の友だち追加を促す機能の開発を検討中。さらに友だち追加をしたユーザーに対し、PayPayクーポンを配信することで、再来店やECへの誘導を促す仕組みの構築を検討している。
※2,累計登録者数(2022年8月時点)アカウント登録を行ったユーザー数の累計
②友だちの理解促進
LINEでの予約情報やショップカード・クーポンの利用情報など、さまざまなデータとユーザーを紐づけることにより、友だち追加したユーザーへの理解を深めるための情報把握を可能にする。それによって、ユーザーデータに基づいたメッセージ配信を可能にすることで、常連化やECへの誘導など、最適なコミュニケーションの実現を目指す。
③飲食店向けパッケージの提供
業種に特化したパッケージの第1弾として、飲食店向けのパッケージのリリースを予定している。
岩本氏は「今後はZホールディングス各社のサービスとも連携を深めていくことで、店舗とお客様がより深くつながることのできる環境を作っていきたいと考えています。飲食店向けパッケージのように、個別のニーズに対応した新たな商品や料金プランなども積極的に提供したいと考えています」と締めくくった。
応答メッセージ機能でWeb接客に成功した澤井珈琲
「LINE LOCAL DAY2022」では、LINE活用で成果を上げているさまざまな企業を招いたセッションも実施された。
鳥取発の澤井珈琲は1982年創業の珈琲専門店で「お客様の一番身近なコーヒーになる」「生活の中で澤井珈琲まみれになってもらう」を目標にマーケティングを行っている。「メルマガの開封率低下」という課題に直面したことから、新たなコミュニケーションツールとしてLINE公式アカウントを導入した。
澤井珈琲では、サイト内にバナーを掲載することでLINEの友だち追加を促している。メルマガ登録特典のクーポンは15%割引のところ、LINEの友だち追加特典は20%割引に設定している。ここに、「すでにメルマガ登録しているお客様にもLINEの友だちになってもらいたい」という同社の狙いがある。
こうした取り組みの成果もあり、PayPayモール店と楽天市場店の2つのアカウントの友だち数は4年間で21万人以上を突破(PayPayモール店は2021年7月に運用開始)。
「LINEの友だちが増えて実感するのが、メッセージを配信することでアクセスや売上といった形でお客様からの反応があることです。反応があると私たちもどうやってお客様を喜ばせようかとワクワク楽しみながら配信することができています」と常務取締役の澤井理憲氏は語る。
澤井珈琲が考えるLINE公式アカウントの活用ステップは次の通りだ。
①まずは友だちを増やす
②友だちが増えるとサイトのアクセスが増える
③お客様からの反応があると運用も楽しくなっていく
メッセージ作成のポイントは、「ファーストインプレッションでどんなことを行っているのか、何がどうお得なのかをわかりやすく伝えること」だという。写真や画像で見せながら、短い文言で刺さる言葉を意識している。また、価格帯別のクーポンを配布することで、買わない理由を作らないことも心がけているという。
配信タイミングは「お客様がコーヒーを飲むタイミング」やモールのセールが開催される「ターゲットデー」を意識している。「お客様が朝のコーヒーを飲んでいるタイミングに合わせてセール告知を配信します。時間をかけて検討する方も多いので、セールの前日・前々日に商品の良さをアピールして、セール当日に最後のひと押しをするイメージです」と澤井氏。
リッチメニューの応答メッセージ機能を活用したWeb接客でも成果を上げている。どの商品を買えばいいか悩んでいる人向けに、いくつかの選択肢をテキスト入りの画像で提示し、お客様が画像をクリックすると選択した内容に沿っておすすめのコーヒーが提案される仕組みだ。この機能を使ったユーザーに商品を提案するに至った割合は88%にのぼる。
澤井氏は「店舗がお客様にメッセージやメルマガを配信する、お客様が商品を探す、それぞれ一方通行だと思うんです。そういった時にLINEの応答メッセージ機能を試しに使ってみたら、お客様が面白いように反応してくれたんです」と声を弾ませた。
2021年7月からLINE公式アカウントの運用を開始したPayPayモール店においては、2022年3月にLINE経由の売上だけで1,500万円を突破し、月間売上ギネスを更新。LINE経由の直近4カ月間の1人あたりの合計購入金額は、PayPayモール店全体と比べ1.3倍となっている。
さらに、メルマガと比較したLINEメッセージの開封率は3.3倍、クリック率は1.7倍と、コミュニケーションツールとしてのLINEの強さが際立つ結果となっている。
澤井氏は「従来のメールマガジンは一方的だったかもしれないと感じています。LINEというコミュニケーションツールを活用することで、お客様にとってより身近な存在になれたと感じています。今後は、澤井珈琲の楽しみ方や澤井珈琲の想いを伝えるコミュニケーションにも力を入れていきたいです」と今後の展望を語った。
クリック率5.1倍、ターゲティングで成果を上げる下着ECの白鳩
白鳩は、1965年創業の下着を専門とした京都発の通販会社だ。ナショナルブランドからプライベートブランドまで175ブランドを取り扱っており、2015年からLINE公式アカウントを活用している(当初は自社ECからスタート)。
白鳩もサイトでのバナー掲載に加え、メルマガやSNSなどを活用してLINEの友だち追加に誘導している。友だち追加に誘導する際は、特典紹介ページを挟んで届く情報を具体的に紹介しているのが特徴だ。これにより、すぐにブロックするユーザーを最小限に抑えることにつなげている。
LINE公式アカウント経由の売上の57%が友だち追加直後のあいさつメッセージ経由であり、新規の友だち追加限定のクーポンの影響が大きいという。
「友だち追加のクーポンを獲得してすぐにブロックされないよう、友だち追加の特典をあいさつメッセージと一緒にお送りするようにしています。友だちになることでどんな情報が受け取れるのか、どんなメリットがあるのかを提示することがLINE公式アカウントを運用する上で大事だと考えています」とWEB事業部 CRM課 課長の森谷真夕子氏は語る。
白鳩のメッセージ配信のポイントは以下の2つだ。
①セグメント配信
「オーディエンス」機能を使ってセグメントし、効率的な配信を心がける。特に開封者を絞れる「インプレッションリターゲティング」を活用している。
②配信タイミング
媒体特性に合わせてイベントの告知などを行う。LINEは即時性があるため、セール開始直前に配信し、メルマガは購入が高まる時間帯に向けて配信している。
リッチメニューの最適化にも力を入れており、検証の結果、右上のセールアイテムが他と比べて2倍近くクリックされていることがわかった。「ユーザーの多くが右手の親指でスマートフォンを操作するので、親指の届きやすい右上が押されやすいことが関係していると思います。これに基づき、クーポンやセールなどお客様に一番クリックしていただきたい情報をこの右上に掲載するようにしています」と森谷氏。
白鳩では自社サイトのLINE公式アカウントに加え、楽天市場とPayPayモールのアカウントも運用している。自社サイトのアカウントは下着好きなお客様が多いことから、ブランド情報や機能など、商品の詳細訴求を中心にメッセージ配信を行い、買い物上手な人が多いモールアカウントは、セールやクーポンなどのイベント訴求を中心に、モールのターゲットデーに合わせた運用を行っている。
ユニークなのが、1人のお客様に対して2回アプローチをしていることだ。1回目でカート追加またはお気に入り追加を狙い、2回目で購入してもらうという2段階のステップを踏んでいる。「モールのお客様は事前にカートに商品を追加しておいて、ターゲットデーに購入する傾向があります。そのため、1回目でセールやクーポン情報を配信してカートに商品を追加してもらって、ターゲットデーに2回目の配信をすることで購入を後押ししています」
2021年11月に本格運用を開始した PayPayモール店のLINE公式アカウントは、友だち数がすでに10万人以上に達している。LINE経由の直近4カ月間の1人あたりの合計購入金額は、PayPayモール店全体と比較して1.6倍。LINE活用は、若年層顧客の獲得にもつながっているという。
メルマガとLINE(ターゲティング)を比較した白鳩の成果は、開封率が3.7倍、クリック率が5.1倍という圧倒的な数字だ。PayPayモール店においては、運用開始から9カ月ほどでLINE経由の売上が全体の売上の15%を占めるまでになった。
森谷氏は「今後は、LINE VOOMのさらなる活用によって新規のお客様との接点を強化していきたいと考えています。また、カゴ落ちやクーポン未利用のお客様への配信など、より詳細なセグメント配信によってお客様と白鳩のつながりの強化に取り組んでいきたいです」と意欲を見せた。
LINE友だち限定商品で訴求する老舗ラーメン店・黒亭
黒亭は1957年創業の老舗ラーメン店。自家製のスープ・焦がしにんにく油・麺・チャーシューを使った手作りの味が売りで、熊本県内に4店舗を展開する傍ら、お土産ラーメンを販売するECサイトも運営している。
従来、黒亭の店舗では紙のスタンプカードを使っていたが、「財布の中身を増やしたくない」という理由でスタンプカードの発行を断られてしまうケースがあった。また、不定期で紙媒体の「黒亭新聞」を配布していたが、手間がかかる上、希望するお客様全員への配布が難しかったことから、お客様と直接つながり、情報提供ができるツールとしてLINE公式アカウントの導入に踏み切った。
2017年に本店からLINE公式アカウントの運用を開始し、2019年には4店舗にLINE活用を拡大。当初は自社スタッフがLINE公式アカウントを運用していたが、4店舗に拡大したタイミングで代理店と一緒に運用するスタイルに転換。現在はオンラインショップのLINE公式アカウントも本格運用していることから、マーケティング業務を外部委託している。
代理店との協業開始以降は、クリエイティブの改善や配信カレンダーの導入、企画の質の向上が実現したという。
代表取締役社長 平林京子氏は「当初はスケジュールを特に決めずに、思いついた時に送っていましたが、現在はメッセージは月3~4回、LINE VOOMは月5回程度のスケジュールを組んで運用しています。自社だけで運用しているとワンパターンになりがちでしたが、代理店さんと協業してからは、お客様目線でアドバイスをいただけるようになりました」と振り返る。
CMO 佐藤弘一氏はクリエイティブのこだわりをこう語る。「食品ですので、クリエイティブはお客様に『おいしそう』と思っていただけることを重視しています。一番大事にしているのは、見やすいか、わかりやすいか、触りやすいかということです。50代以上のお客様も多いので、使いやすさ、見やすさがないと読んでいただけません」
その結果、黒亭のLINE公式アカウントは実店舗4アカウントの友だち数が計43,000人、オンラインショップ(自社EC)の友だち数は8,000人に達している。
実店舗のアカウントでは、試験的にステップ配信を採用しており、友だち追加から特定の日にち経過後に順次特典クーポンが届く設計になっている。こうした特典を提示した上で店舗で声かけをすることで、友だち獲得につなげている。また、友だち追加後最初に送られてくるあいさつメッセージにおいても、毎月LINE限定クーポンが送られてくることなど、友だちになるメリットを端的に伝えている。
「お客様に友だち登録をしていただくと、こういった特典が届きますよということを事前にお知らせしておくことで、納得した上でご登録いただけると感じます」と平林氏。
黒亭の店舗と友だちになると、リッチメニュー内の「今月のクーポン」というメニューから、その月に使えるサイドメニューサービスのクーポンを取得できる仕組みだ。
平林氏は「クーポンを毎回メッセージで送るとクーポンばかりになってしまうので、お客様が好きなときに取り出せるようにしたほうが使い勝手がいいんじゃないかと考えました」とその理由を語る。クーポンのリッチメニューへの格納は、いたずらにメッセージ配信数を増やさないことにも貢献しているという。
オンラインショップにおいても、LINE広告で新規の集客を行い、友だち追加に誘導してリピートを促進するという施策を行っている。LINE広告を使った新規獲得単価は2,500~3,000円に収まっており、他媒体に比べると安く獲得できているという。
「お中元・お歳暮のシーズンは検索広告も有効ですが、それ以外では興味のある人を探してターゲティングするというLINE広告が非常に有効だと感じています」と佐藤氏。
友だち追加促進のため、オンラインショップではLINEの友だち限定で購入できるお得な食べ比べセットも提供している。
オンラインショップとLINE公式アカウントのID連携もスタートしているが、まだ連携率が低いことが課題だそうだ。佐藤氏は「会員情報と紐づけて、注文のお礼や購入商品に合わせたレコメンドなど“接客”を意識した配信をするにはID連携が必要不可欠なので、今後はID連携を促進する取り組みを行います。お客様の行動に合わせて対応するという接客サービスの基本を、LINEを使ってオンラインショップでも実施していきたいです」と今後の展望を語った。