「売らない店」のb8taが「売らない(ノウハウ)を売る」ビジネス開始
マーケティングを目的としたショールーム型店舗、通称「売らない店」が増加傾向にある。その市場を牽引してきたb8ta Japan(ベータ・ジャパン、本社:東京都千代田区、代表:北川卓司、以下b8ta)aが、「売らない店」のノウハウを売る新サービス「by b8ta(バイベータ)」をスタートさせた。
入店者が店内を回遊する軌跡をデータ化し分析するビジネスモデル
「リテールを通じて人々に“新たな発見”をもたらす」ことをミッションに掲げるb8ta Japanが、新たなサービスをスタートさせた。それが「売らない店」業界のパイオニアとして蓄積してきた「売らない店」のノウハウを売る「by b8ta」だ。
b8taは2015年にアメリカ・サンフランシスコでスタートしたショールーム型店舗で、2020年8月に日本に上陸。出品希望者(企業)側が店舗に商品を送り、タブレットに商品情報を入力するだけで、オフラインでの出品が完了する。店舗では40~60cmをひとつの区画として商品を展示。これだけなら通常のショールームと変わらないが、ここからがこのビジネスモデルの肝。
店内の天井には、AIカメラが設置され、入店者の動きを逐一モニタリング。区画の前を通り過ぎた数と、5秒以上立ち止まった(商品に興味を持った)数を分析。さらに「デモグラフィックカメラ」で、性別・年齢層を類推する。この定量的なデータを基に、定性的なフィードバックを提供し、マーケティングに活用してもらうというわけだ。このビジネスモデルは多くのメディアで注目を集め、現在は国内に常設4店舗を展開し、さらにさまざまなエリアでポップアップストアを開催している。
b8taが新たなサービスをスタートさせたきっかけは、問い合わせの多さ。「売らない店」の認知度が高まったことで、「商業施設の中で『売らない店』を開業したい」「店舗の中に、体験コーナーを作りたい」といった声が多く寄せられ、ノウハウを模索している企業が多いことがわかった。そこで、そのノウハウを外販する新ビジネス、by b8taを考案。2022年8月8日にソフトローンチとして第1弾「売らないトレーニング」の外販をスタートし、2022年12月8日の本ローンチを迎えた。
提供サービス一覧
by b8taはこれまで培ってきたノウハウを提供することで、あらゆる企業がベータのような体験型店舗を展開できるようになるサービスになっており、ソフトウェア、ハードウェア(タブレットなど)、什器のデザインや製作支援、店舗レイアウト、売らないトレーニングなど8つの項目から構成。その中から自由に選び、導入できる仕組みになっている。
ハード面は以下の4つ。
[1]ソフトウェア :定量・定性データをダッシュボード上で管理し、店舗内で何が起きているかを可視化。
[2]ハードウェア(タブレットなど):店内の行動分析ツールとして活用
[3]什器のデザイン、制作支援、店舗レイアウト:効率的な動線設計を実現するレイアウトや什器制作を支援
[4]店舗デザイン、施工:自社ブランド店舗や、売らない店に限らず、店舗デザイン、施工をゼロから支援
ソフト面の支援は以下の4つ。
[5]売らないトレーニング:ベータの誇る売らない店を運営する鍵となる接客のトレーニングをトレーナーが伝授
[6]ベータテスター(ベータの店舗スタッフ)派遣:派遣法の許可を待ち、2023年度後半のスタートを予定
[7]PR・ブランディング支援 :店舗PRやブランディングを支援
[8]店内イベント、集客案などのコンテンツ支援:店内のシーズナルイベントや、集客アイデアを一緒に考え実行
N2i、兼松コミュニケーションズ、福島日産の導入の決め手は?
ベータ・ジャパン株式会社の北川代表によると、8月のソフトローンチ後、60社以上から問い合わせがあり、現在はその半分と具体的に話が進んでいる。現時点では、株式会社N2i(本社:愛知県名古屋市、代表取締役:篭橋裕紀)、兼松コミュニケーションズ株式会社(本社:東京都渋谷区、社長:菊池孝)、福島日産自動車株式会社(本社:福島市、代表取締役:金子與志幸)の3社が導入を決定している。
⾯接⾃動化ツール「面接コボット」などの共同開発や運用を手がけているN2iは、「ジェンダーレスアイテム」に特化したECブランドの体験型店舗「myGAKUYA」スタッフ用に、サービス中の「売らないトレーニング」の導入を決定した。エンドユーザーからマーケットデータを引き出す接客技術の醸成が狙いだという。
全国規模で携帯電話ショップなどの運営や、法⼈顧客向けの携帯電話や各種デバイス、通信に関連するシステムやソリューションを提供する兼松コミュニケーションズは、[1]~[6]までの導入を決定した。兼松コミュニケーションズの場合、携帯機器は個人情報を扱うことにもなるため、ショップでの情報収集が難しく、これまでは防犯カメラの静止画を利用したアナログな方法で試行を続けてきた。これをby b8taのシステムを利用することにより、購⼊や販売を⽬的としない新規顧客とスタッフの関係を構築したい考えだ。今後は親会社である兼松株式会社のEC限定販売の国内未発売の商品やサービスのマーケティングも視野にいれている。
福島日産株式会社も[1]から[6]までの導入を決定。年間1万人ほどの来場者がある、福島県最大のショールームで、⼩売商品体験型コーナーを展開するのが狙いだ。すでに日産自動車には顧客データから分析するAIシステムがすでに存在するが、それでわかるのは自動車関係の顧客の動向のみ。自動車の購買は7年から10年に1度しかないというデータもあり、購入頻度が高く自動車に興味を持つ来場者と親和性の高い商品をリサーチしたいというニーズがあった。by b8ta導入により収集したマーケティングデータにより、将来的にはパートナー事業に提供して商品開発をサポートするという、持続可能なバリューチェーンの確立を視野に入れている。
「本当は、最初からこちらをやりたかった」(北川代表)
同社代表の北川卓司氏はb8taに入社した2019年11月に、アメリカの店舗を何カ所か見て回ったが、家電が中心だったため、「家電量販店の多い日本では少し難しいのでは」と感じていた。日本国内でのデータの店舗展開は、データの存在やその考えを知ってもらうためであり、常設店の目標を8店舗としそれ以上は大きくしないと決めていた。ただそれではビジネスとしては限界があるので、ほかに新しいセールスドライバーが必要であることは、最初から認識し、「by b8taは『戦略の転換』ではなく、むしろこちらを最初からビジネスの本流に見据えていた」(北川氏)という。2023年度中に、30拠点でのby b8ta導入を目指している。