【アリババ分析】ポストコロナの中国消費者動向・提供すべき買い物体験は?
アリババグループは、中国の海外旅行需要が勢いを取り戻すなか、オムニチャネル展開、オンラインのように快適な実店舗体験、荷物の少ない買い物という海外高級ブランドが中国の高級品購入者に提供すべき「買い物体験の特徴」について公表した。ここではその概要についてポイントを絞って見て行く。
カギとなるオムニチャネル展開
マッキンゼーの調査より、中国の消費者の70%以上がPC、スマートフォンなどのモバイル機器、実店舗での体験といったあらゆるチャネルを駆使して買い物をしていることが明らかになった。
Tモール・ラグジュアリー・パビリオン(天猫奢品)パリ拠点の営業・事業開発責任者であるNicholas Canos氏は、次のように述べている。
「今後、実店舗への来店客数は回復することが予測されており、海外高級ブランドは中国の消費者を引きつけるために、より魅力的な実店舗での買い物体験を提供するべきです。実店舗で探している色やサイズに在庫がなかった場合でも、すぐにオンラインで購入できるように、テクノロジーを活用してあらゆるチャネルで消費者と関わっていく必要があります」
またスイスの高級時計メーカーであるピアジェは、2023年1月、海外旅行再開を受け増加が予想される中国人観光客をターゲットに、香港のショッピングの中心スポット広東ロードの実店舗にてピアジェのオンラインサイトを閲覧できるQRコードを準備した。
香港では、この広東ロードの店舗やアリババグループECプラットフォームのより魅力的になった旗艦店などで、オムニチャネル戦術を展開しており、中国の消費者は好きな場所で、好きな時に買い物ができる。
ピアジェCEOのBenjamin Comar氏は、次のように述べている。
「ブティックで商品を見てオンラインで購入することも、その逆も可能です。また、ブティックで商品を見てそのまま購入することも、オンラインで見てそのまま購入することも可能です。重要なのは、すべてのチャネルで同じ満足度の高い買い物体験を提供することです」
リアルでも重要な「快適な買い物体験」
コロナ禍でオンラインショッピングにすっかり慣れた消費者は、実店舗の列に並ぶことに不満を感じており、ブランドはデジタル技術を活用し、課題解決を図っているようだ。
例えば、アリババはTモール・ラグジュアリー・パビリオンのメタバース売り場に無料で入場でき、しかも実店舗における優先購入やオフラインイベント参加など様々なプレミア特典を受けられるメタパスを提供し、待ち時間のないスムーズで快適な買い物体験と同時にプレミア体験を提供していると述べている。
また中国人旅行者は海外で買い物をする際、重い荷物を持ち運ぶことを嫌うようだ。アリババのTmall Global(天猫国際、Tモールグローバル)は、高級ブランドのクリアランスセール製品やアウトレット製品を提供するShop Premium Outletsと特別な協定を結んでおり、海外のShop Premium Outlets店舗で実際に見て購入した高級ブランド品を自宅まで直送することで、荷物の少ない快適な海外旅行を提供している。
ニューヨークを拠点とするTmall Globalの幹部Demi Shi氏は、次のように述べている。
「アウトレットで行われるすべてのプロモーションは、すべてオンラインで行われます。海外旅行客が中国まで荷物を持ち帰りたくない場合は、オンラインでも購入できます」
コロナ禍を経て、さらに購買意欲旺盛な中国消費者
国連世界観光機関によると、中国の消費者は、コロナ前において世界一の購入者層であり、2019年には2550億ドル(約34兆円)もの海外ブランド製品を購入している。モルガン・スタンレーの予測によると、3年ぶりの中国人の海外旅行再開の効果は、高級ブランド品の今年の売上を20%向上させ、2030年までの高級ブランド品への支出額増加の60%を占めるとのことだ。
LVMHやリシュモンなどの高級ブランドや旅行業界アナリストの予測では、中国人の旅行先は、香港が先ずは増え始め、2023年半ばにかけてヨーロッパ諸国が増加するとしている。英国を本拠とするバークレイズによると、ヨーロッパで販売されている高級ブランドの衣料品や革製品は中国の店頭価格と比べ25%から45%安いため、より高価なブランド製品を購入することが、中国人の海外旅行の動機になっているようだ。
日本国内においては、新型コロナウイルスの公衆衛生上の取り扱い(感染法上の位置づけ)が季節性インフルエンザなどと同等の5類に移行した。これに先立ち、すでに海外からの渡航者の感染予防上の措置も大幅に緩和され、ゴールデンウイーク中なども中国をはじめとした海外からの多くの旅行客が日本を訪れ、観光地や商業施設がにぎわっている。
こうした海外からの旅行客は、日本での滞在中と、その後、本国に帰ってからのECと合わせて、日本製品を好んで購入してくれる存在だ。コロナ禍前にこうした流れができていたが、ようやくそれが戻りつつあり、今回のアリババの分析からも、さらに中国消費者における特に高級ブランド製品などへ向けられた旺盛な購買意欲が示され、今後もオムニチャネル施策を含んだ越境EC展開を考える上でも明るい材料と言えそうだ。