10月1日からステマ法規制開始 「規制の対象になるのは広告主であり、事業会社」の現状を知る

桑原 恵美子

一般社団法人クリエイターエコノミー協会主催の「ステルスマーケティング規制に関する勉強会」に登壇したUUUM株式会社 執行役員CMO 市川義典氏

消費者庁は2023年3月28日、10月1日から「ステルスマーケティング(以下、ステマ)」に対する法規制をスタートさせると発表した。これを受けて4月6日、一般社団法人クリエイターエコノミー協会(以下「クリエイターエコノミー協会」)は、クリエイターの視点から今回の法規制について解説を行う勉強会を開催。インフルエンサーマーケティングが活発な昨今、EC事業者はどう理解すればいいのかを考える、重要なきかいとなった。

「ステマは不当表示である」と消費者庁が明文化

広告であるとの表示がないステマについては長い間問題視されていたが、不当表示に該当する文言がなければ規制できない状況が続いていた。そうした状況を改善すべく、2022年12月27日に消費者庁が「ステルスマーケティングに関する検討会」を開催し、ステマそのものを不当表示の一つとする方針を示して「ステマは規制の必要性がある」とする報告書をまとめた。

消費者庁は2023年1月25日に、運用基準案に関する意見(パブリックコメント)の募集を開始。そこで運用基準案の改善提案などを提言してきたのが、今回の勉強会を主催したクリエイターエコノミー協会だ。クリエイターエコノミー協会は、あらゆる人々がクリエイターとして活動し、それによって新しい経済圏を生み出すことを目的に発足した。代表理事社は、BASE株式会社、note株式会社、UUUM株式会社(以下、UUUM)の3社(五十音順)。

登壇したのは、YouTubeやSNSで活躍するクリエイター、インフルエンサーとの共創によるビジネスを手掛けるUUUMの執行役員CMO市川義典氏。多くの専属クリエイター・インフルエンサーをマネジメントするとともに、1万チャンネル以上が加入する日本最大級のMCN(マルチチャンネルネットワーク)でもある。

クリエイターが活動しにくい環境を招きかねない箇所に、意見を提出

クリエイターエコノミー協会は、「ステルスマーケティングの問題性については理解するところであるものの、運用基準案が日本のクリエイターエコノミーの実態と乖離(かいり)しており、発信を伴うさまざまな経済活動にも悪影響を及ぼしかねないおそれがある」として、運用基準案の改善提案などを行ってきた。

クリエイターエコノミー協会がこれまでに出してきた意見は、大きく4つ。

① 定義や境界線の曖昧さ
② 包括的な規制によって生じる悪影響への懸念
③ クリエイターなどの『自主的な意思』の重要性
④ クリエイターエコノミーの実態にそぐわないルールメイキング


「どれも大事ですが、とりわけ私たちは、『クリエイターの自主的な意思の重要性』ということを本当に大事なことだと考えています。クリエイターのコンテンツの情報発信というのは、あくまでUGC(User Generated Content=ユーザー生成コンテンツ)であるということが、非常に大事だと考えるからです。そこでクリエイターが活動しにくい環境を招いてしまいかねないところに関しては、問題視しながらお話をさせてもらいました」(市川氏)

消費者庁への意見提出と同時にクリエイターエコノミー協会が重視しているのが、クリエイターたちへの啓発だ。

「今回発表された内容によると、規制の対象になるのは広告主であり、事業会社。『ではクリエイターが対象にならないのか』というような疑問の声も多く聞こえますが、規制の対象外だからクリエイターが好き勝手自由にやっていいということでは全くありません。当然ですが、問題が発生してしまったクリエイターは仕事の依頼は激減しますし、その後の情報発信も1回の過ちによって信頼を失う悪循環になってしまいます。ですから私たちとしては、今後もクリエイターに対する啓発をより強化していかなければならないと考えています」(市川氏)

今回の規制は、「最初の一歩」

こうした多くのパブリックコメントの意見を背景に、初案から一部修正を加えて発表されたのが、今回の運用基準だという。

3月28日に公表された運用基準

「今回の規制では、(その情報発信に対価が伴わないとしても)『過去に対価を提供した関係性がどの程度続いていたのか』『今後対価をどの程度提供するのか』といったようなことを総合的に考慮するとされています。私たちとしてはそういう場合でも、きちんとした自主的な意思に沿った情報発信として活動していく分には、何ら問題がないと思っております」(市川氏)

ただそれまで自主的な情報を発信していたのに、それに関して企業から仕事を依頼された場合、そのために以降の自主的な情報発信がしにくくなる状況もあり得る。だからこそ、仕事としての情報発信と、そうでない情報発信は明確に分ける必要があるという。

ただし、実際には明確な区分は難しいことも多い。例えば観光大使のような立場での地方の情報発信の場合、第三者機関との具体的なやり取りがあり金銭が発生する場合は仕事としてのプロモーションだが、クリエイターの意思による自発的な情報発信であれば、それは仕事ではないのでPR表記はせずに活動できると考えているとのこと。

「今回の規制だけではどうしてもカバーしきれない、グレーな事例も今後は出てくると思っています。それに対して、協会としても今後も継続して意見を出していきたいですし、消費者庁さんの方でも『まずは一歩目』というようなお話があったと思いますので、私たちもその考えに非常に賛同しています。より業界が発展するためには今後どのような制度にしていけばいいかということを、今後も議論をさせていただきたいと考えています」(市川氏)

EC事業者にとって、インフルエンサーマーケティングを考える場合に、YouTuberなどクリエイターとの連携は重要だ。今後の動向に十分注意し、まずは規制の対象者となる事業者としての対策をしっかりしていきたいところだ。


記者プロフィール

桑原 恵美子

フリーライター。秋田県生まれ。編集プロダクションで通販化粧品会社のPR誌編集に10年間携わった後、フリーに。「日経トレンディネット」で2009年から2019年の間に約700本の記事を執筆。「日経クロストレンド」「DIME」他多数執筆。

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