やずや・北の達人・オルビス代表が「しくじり」体験を披露~『D2Cの会』フォーラム2023 レポート
2023年6月15日、株式会社売れるネット広告社が主宰する『D2Cの会』による大規模リアルイベント『D2Cの会』フォーラム2023が開催された。
「ともにD2Cの成功ノウハウを学び、ともにD2Cの売上を劇的にアップさせる未来を創る」をテーマに8つのセッションを設け、D2C企業の経営者らが「マーケティング」「新規獲得」などをテーマに、実体験に基づく実践的なノウハウを披露した。
ここでは3つの注目セッションに焦点を当てて、ハイライトをレポートする。
1200回以上の【A/Bテスト】から導いた「売れるD2Cクリエイティブ」
オープニングセッションには株式会社売れるネット広告社 代表取締役社長 CEO 加藤公一レオ氏が登壇。1200回以上の【A/Bテスト】結果に基づいた、再現性のある「売れるD2Cクリエイティブ」を解説した。
最近売上を伸ばしているのは、5日分や7日分のモニター商品をフックに見込客を集め、その後、定期商品に引き上げる「ツーステップマーケティング」を実施しているD2C事業者だという。
ツーステップマーケティングを行う際は、新規ユーザーとの最初の接点となるランディングページ(以下、LP)を「アンケートランディングページ(以下、アンケートLP)」にするとコンバージョン率が最大2.1倍になるという。
アンケートLPとは、全4問のアンケートに回答してもらい、そのお礼として「500円モニター」などをオファーする手法だ。これにより「特典を受け取らないともったいない」という心理が働くだけでなく、設問に商品のUSP(Unique Selling Proposition)を盛り込むことによって、知らぬ間に商品の良さを刷り込む効果もある。
アンケートLP本来の効果を発揮させるポイントは「申込フォーム一体型」にすることだ。アンケートLPから通常のLPに遷移させる構造にしてしまうと離脱が増えるが、アンケートLP内に申込フォームを設置することで、コンバージョン率が最大2.3倍アップするという。
次のステップとして、「申込確認画面」で定期商品へのアップセルをオファー(確認画面でアップセル)すると、LP内でアップセルをオファーしたときに比べて、アップセル率が最大10倍に上がる。また、ここで定期商品にアップセルしたユーザーには、さらに申込完了画面で「3カ月おまとめ便」へのアップセルをオファーすることで、LTVが最大1.5倍にアップするという。
やずや・北の達人・オルビス代表が経験した「しくじり」
「D2C業界のしくじり先生」と題したキーノートセッションには、株式会社やずや 代表取締役社長 矢頭徹氏、株式会社北の達人コーポレーション 代表取締役社長 木下勝寿氏、オルビス株式会社 代表取締役社長 小林琢磨氏が登壇し、自身の「しくじり体験」を披露した。
小林氏はオルビスの代表に就任した当初、データ分析に溺れてしまったことが反省点だと語る。
「データを見ることで相関関係はわかっても、因果関係を導き出すことはできません。お客様を見ずに相関関係を追い続けても、精度の高いギャンブルをやっているようなものです」
敏感肌専門ブランド「DECENCIA」を立ち上げた当初は「取れる媒体」を必死に探して「取れる」と聞いたら本来ターゲットではない媒体にも出稿していたという。「なぜ人が行動変容して商品を買うのかを無視した状態で、Howに走り続けることの愚かさが身に染みました」と振り返った。
北の達人コーポレーションの木下氏は、LTVから逆算して上限CPOを設定して集客したところ、赤字になってしまった経験を明かした。
調べ直すと媒体ごとのばらつきが大きいことが判明したため、それ以降は媒体ごとにLTVの計測と上限CPOの設定を行って広告運用をするようになった。初回特典を付けたときやLTVに影響が出そうなクリエイティブ変更をしたときも、LTVを計測し直しているという。
効率性を重視するあまり「過去に当たった広告」の踏襲ばかりするようになり、クリエイティブ力が低下したこともあった。
「『商品やユーザーを見て広告を作る』のではなく『広告を見て広告を作る』ようになってしまった結果、新しい切り口の広告が作れなくなったり、クリエイティブの内容を見ずに数字だけで判断するようになったりして、成果が激減しました」
その反省から、社内教育のためのテキストとして『ファンダメンタルズ×テクニカル マーケティング Webマーケティングの成果を最大化する83の方法』を執筆・出版。ユーザーおよび商品の理解を大前提とすることで成果が改善したという。
やずやの矢頭氏は、売上好調だった「熟成やずやの香醋」の広告表示が景品表示法違反で排除命令を受けたことを「しくじり」として挙げた。当時は同商品が売上の8割を占めていたが、1つの商品に売上が偏ることのリスクを実感し、売上構成比の分散に取り組むようになった。
mederi・I-ne・タマチャンショップが明かす新規獲得の本質
トークセッション「売上をアップする『新規獲得』」には、mederi株式会社 代表取締役 坂梨亜里咲氏、株式会社I-ne 執行役員 ダイレクトマーケティング本部長 伊藤翔哉氏、有限会社九南サービス 副社長 兼 キャプテン 田中耕太郎氏が登場。テクニック論にとどまらない、新規獲得の本質について語った。
mederiは、2022年1月にオンラインピル処方サービスを開始。サービスリリースから半年後に全国的なCMを打った結果、オンラインピル処方サービスとしては後発でありながら、認知度2位を獲得している。
坂梨氏は、「自分たちの領域特性によってマスマーケティングとデジタルマーケティングをバランスよく活用することがポイント」と語る。
新規獲得に取り組む前提として、継続率が高いサービスやプロダクト設計を徹底的に考え抜くことも重要だと述べた。「いくら新規獲得ができても継続率が悪いと意味がありません。解約する顧客にもしっかり向き合うことが重要だと考えています」
タマチャンショップは「ニッポンのおかあちゃんになりたい」をコンセプトに、地元・九州や全国各地から厳選した食材を使った食品をEC、実店舗、卸の多チャンネルで販売している。
当初は思うように売れない時期もあったが、サイトトップでいきなり商品を提示するのではなく、まずはショップのコンセプトと世界観を伝えてから商品を見せるようにしたところ、劇的にコンバージョン率が向上した。田中氏は「情報が氾濫する中で、自分たちがどんな存在になりたいのか、どんな世界を創っていきたいのかを示すことが大切」だと語る。
Web広告やSNS、実店舗など集客のチャネルはさまざまだが、最も力を入れているのは「口コミ」だという。
「既存のお客様を熱狂的なファンにさせて、その方々の口コミから新しいお客様が来るというスタイルが一番自分たちに合っていると感じます。いかにお客様に語ってもらえる商品を提供するか、いかにしてストーリーを伝えるかを意識しています」と田中氏。「タマリバ」というコミュニティサイトも、クロスセル促進やLTV向上に寄与しているそうだ。
ヘアケア、スキンケア、美容家電など約10のブランドを運営するI-neは、「BOTANIST」の発売を機に急成長を遂げ、2020年に東証マザーズに上場した。
伊藤氏は、社外のパートナーを含めた最強のチームを作ることの重要性を強調する。
「新規獲得のポイントとして『ダイレクト広告に注力する』『バズを作る仕組みを作る』の2つがありますが、前者をメーカーがインハウスでやるのは簡単ではありません。いかに良い代理店、パートナーと組んで「ワンチーム」で取り組めるか、社外に自分たちのブランドを背負ってくれる仲間を社外で見つけることが大事なのです」。
イベントでは300名を超す参加者が「マーケティングファネル」「商品開発」「CRM」「ランディングページ」「経営論」をテーマとしたセッションも聴講。セッション間のネットワーキングタイムのほか、全セッション終了後には懇親会も設けられ、リアルな「学び」と「交流」を楽しんだ。