アスクル、売上高および各段階利益ともに過去最高に BtoCサイト「LOHACO」も好調

湯浅 英夫

代表取締役社長 CEO 吉岡晃氏

事務用品を中心とした通信販売などを展開しているアスクルは2023年7月4日、2023年5月期(2022年5月21日~2023年5月20日)の通期決算を発表した。

グループの売上高は前期比4.2%増の4467億1300万円、過去最高を更新

2023年5月期は「売上高の成長カーブを変える」ことを掲げてきた。そのため取扱商品数の拡大に加え、東日本で物流拠点のフラッグシップとなる「ASKUL東京Distribution Center(ASKUL東京DC)」の稼働を開始。また、中小事業所向けと中堅・大企業向けを統合して構築する新しいECサイト(新アスクル Web サイト)について、売上効果が高い機能から先行してスタートさせるなど、積極的な設備投資を進めてきた。

その結果、グループの売上高は前期比4.2%増の4467億1300万円、営業利益は前期比2.2%増の146億2000万円になるなど増収・増益となり、売上高および各段階利益ともに過去最高を更新した。目標としていた「BtoBの成長カーブを変える」ことと、BtoCサイトである「LOHACOの通期黒字化」をいずれも達成している。

取締役 CFO 玉井継尋氏は「BtoBの売上拡大、LOHACOの徹底的なコスト削減、1箱あたりの単価向上にともなう物流費比率の低減、これら3つの要素で成長コストを吸収し、増益を達成した」と述べた。

アスクル取締役 CFO 玉井継尋氏

1箱あたりの売上単価向上がカギ

アスクルでは、物流費削減のために「1箱あたりの売上高」を指標としている。顧客にまとめて購入してもらい、配送する箱の数を減らすことで配送費の低減につながる。配送するドライバーの負担低減にもつながり、2024年問題への対策にもなる。

BtoBでは、例えば2023年5月期4Q期間のBtoB事業における一箱あたりの売上高は前年同期比109.9%と伸びた。これは7億円相当の配送費低減にあたる。LOHACOの1箱あたりの売上高も23年5月期4Q期間で前年同期比119.2%と非常に大きく伸びており、LOHACO黒字化の大きな要因となっている。「増益を達成できた大きな要因。まとめて購入してもらうことは環境負荷の低減にもつながる。今後もさらなる向上に取り組んでいく」(玉井氏)という。

BtoBは新型コロナ需要の反動をものともせず大幅増収

アスクルの売上高のおよそ98%を占めるのはeコマース事業で、その85%以上がBtoB事業だ。BtoB事業の売上高は3738億6800万円で、前年比7.4%増となった。

これまで特需のあった抗原検査キットなど、新型コロナウイルス感染症関連商材の反動減があったものの、生活用品や戦略的に強化しているMRO(工場、建設現場、倉庫などで使用される、袋や梱包(こんぽう)資材といった消耗品、補修用品などの間接材)商材が伸長したこと、以前からあるOA・PC、文具などの消耗品需要が回復してきたことなどにより大幅な増収となった。

2022年7月に新アスクルWebサイトの一部機能として、中堅・大企業向けの一括購買ソリューションを備えたWebサイト「ソロエルアリーナ」のオープン化を先行して行ったことも効果を発揮した。オープン化により、外部検索サイトの検索結果からソロエルアリーナに直接アクセスできる(外部流入が起こる)ようになり、売上が大幅に増加。戦略カテゴリーに位置づけている医療・MROの販売が好調なこともあり、注文単価が伸びた。

2022年7月にオープン化を先行して行った「ソロエルアリーナ」(写真は画面キャプチャ)

LOHACOはBtoB事業との融合などで黒字化を達成

BtoC事業は、海外需要の減少やYahoo!ショッピングでのキャンペーン変更等の影響で売上高は461億7600万円で前期比15%減の減収となった。しかし販促手法の見直しや配送料無料のラインを引き上げたこと、BtoB事業との融合による人件費など固定費の低減などにより、前述のようにLOHACOでも一箱あたりの売上高が大幅に増加。売上総利益率が上昇し、通期黒字化を達成した。

最強eコマースや新サービスでさらなる売上増をめざす

2024年5月期は、引き続き売上高、各段階利益ともに過去最高を計画している。売上高の成長カーブと同時に利益の成長カーブも変える年と位置づけ、売上総利益率改善を目指す。

BtoB事業は、医療・介護と製造業の2つを戦略業種と位置づけ、取扱商品数を増やして成長率アップにつなげる。2023年5月期末は取扱商品数1274万アイテム、オリジナル商品数9600アイテムであるところを、2024年5月期末には取扱商品数1470万アイテム、オリジナル商品数1万1000アイテムに増やす。

また、新アスクルWebサイトで購買管理機能の強化、ボリュームディスカウント、検索結果から素早く購入できる動線の用意、リコメンド機能強化などを行い、テレワーク対応の新機能も追加することで、購入頻度の増加や購入単価の向上などを目指す。通販だけでなく、LOHACOで培った知見を生かした広告サービスや、中小事業者向けのDX支援サービス「ビズらく」も強化していく。

BtoC事業はBtoB事業との融合をさらに押し進める。LOHACOでも法人向け商品を販売し、業務用・大容量ニーズや低価格志向に対応していく。また、家庭用品やガーデニング、DIYなどの耐久品の商品数を増やし、日用消耗品を中心に価格訴求力のあるオリジナル商品の開発を強化する。Zホールディングスグループの集客力も活用し、LOHACOは黒字を維持しつつ4Q以降の再成長を見込む。

代表取締役社長 CEO 吉岡晃氏は、「これまでLOHACOとBtoBはぞれぞれ別個に運営してきた。今期からはBtoBの基盤をふんだんに生かしていく。商品領域を広げ、価格訴求力のあるオリジナル商品開発し、翌日お届けというBtoBの物流品質を生かすなど、サービスを強化していく」とした。

吉岡氏は、これからの主な環境変化はアフターコロナ、インフレによる原価高騰、物流コストの増大の3つとしたうえで、「アフターコロナは人流の回復・活発化であり、われわれが得意とする日用品やオフィス用品の需要を積極的に取り込む。成長分野で品ぞろえを拡充し、専門商材を強化していくことで売上を増やしていく」とした。

また、「インフレによる原価高騰には、サプライチェーンの見直しを続け、柔軟な価格改定も視野に入れて対応していく。2024年問題に代表される物流コスト増大については、自社ネットワークの強化、自社システムの開放、物流センターの高度化や自動化への投資により、倉庫内の生産性向上に取り組む。売り方についても、WebサイトのUI/UXの工夫などにより、まとめて買っていただくようにして、荷物の個数を減らすことで高騰を抑制していく」(吉岡氏)という。

これらの施策により、2022年5月期から2025年5月期までの4年間の中期経営計画の最終年度である2025年5月期には、連結売上高5500億円、連結営業利率5%を目指すとしている。


記者プロフィール

湯浅 英夫

フリーライター。新潟県上越市生まれ。1992年、慶應義塾大学理工学部機械工学科卒。PC、スマートフォン、ネットサービス、デジタルオーディオ機器などIT関連を中心に執筆。主な著書に「挑戦すれば必ずできる 自作パソコン完全組み立てガイド」(技術評論社)、「大きな字だからスグ分かる!エクセル2013入門 Windows 8対応」(マイナビ)、「Excel2000 300の技」(技術評論社)がある。

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