三井住友カード、ライオン、サントリーはYouTube広告でどう成功した? Google「YouTube Brandcast」レポート

大矢根 翼

Google合同会社は2023年10月18日、東京ガーデンシアターで「YouTube Brandcast 2023」を開催し、変化し続ける視聴環境の動向とYouTube広告の成功事例を紹介した。広告主の事例会社として三井住友カード株式会社、ライオン株式会社、サントリー株式会社の担当者が登壇。YouTubeで販路を切り開いたプロセスを紹介した。YouTube広告のHow toにとらわれない講演内容は、マーケターにとって学びの多いイベントとなった。

変容するYouTubeの利用実態

YouTubeのユーザーは増え続けている。18歳以上の月間ユーザー数は2023年5月現在で7120万人を超え、登録者100万人を超えるチャンネルは昨年比25%増の500以上と大きく成長。その背景には視聴環境の変化がある。

基調講演に登壇したYouTube日本代表の仲條亮子氏は、コネクテッドテレビにおける視聴時間の増加、Z世代を中心とした若年層における『YouTube Shorts』の利用増加を強調。

「月間3800万人がコネクテッドテレビを使用していることから、ユーザーとテレビデバイスの付き合い方が多様化していることがわかる。『YouTube Shorts』は1日あたりの視聴回数が前年比110%に増加。マルチデバイス、マルチフォーマットが視聴トレンドになっている」(仲條氏)

一方で巨大な情報プラットフォームになったYouTubeは、情報源としての公正さにも注力している。新型コロナウイルスに関連する誤情報の動画を100万本以上削除。政治、医療、科学情報の領域では、信頼できる情報源を上位表示している。

変革に適応するクリエイター

YouTube Shortsの活用事例としては美容系インフルエンサーの小田切ヒロ氏が登壇。若年層を中心に利用者が増えている、短尺縦長フォーマットの動画を効果的に配信する方法を、実例を交えつつ紹介した。

マルチデバイス化の事例としては動画専門のニュースメディアPIVOT株式会社代表の佐々木紀彦氏が登壇。広告媒体としてのYouTubeを「広告モデルがしっかりしているので動画に集中できる。クリエイターとして感謝している」と評価した。

佐々木氏は動画コンテンツが情報源として重視されるようになっているトレンドをとらえて、動画特化メディアの創設に踏み切ったという。舞台では大画面で映える海外の美麗な映像の活用事例を紹介した。

効率的な広告配信

Googleからは日本法人代表の奥山真司氏が登壇。YouTubeがROI(投資利益率)の高いプラットフォームであることを、ユーザーの接触時間と獲得効率から解説した。

「ユーザーのメディア接触時間における3分の1以上をモバイルデバイスが占め、コネクテッドテレビのシェアは34%。コネクテッドテレビにおける視聴時間の40%が配信視聴になっている。広告のターゲットリーチもテレビを上回る27%の純増を達成した。セッションあたりのコストはテレビ広告の6分の1程度で、消費財ブランドにおけるYouTubeの広告効果はテレビの3倍。認知からコンバージョンまでの顧客ファネルに合わせた広告フォーマットを用意しており、AIも活用して効果測定できる」(奥山氏)。

広告出稿における分析の事例では日清食品株式会社と東宝株式会社を紹介。東宝のケースではリーチ単価を17%削減しながら、ユニークリーチを15%向上させたという。

Googleはマーケティングモデルミックスによって、季節やトレンドなどの外部要因、複数メディアを融合させた場合のROIを可視化できるソリューションを用意している。

優秀な広告配信事業者に送られるYouTube Worksアワードのグランプリは電力会社の明電舎が受賞。「電気よ、動詞になれ」のキャッチコピーを冠した広告によって明電舎はサイトアクセスを20倍に伸ばした。

革新を生み出した事業者のアプローチ

セッションの後半では異なるアプローチで業績を伸ばした事業者が登壇し、成功体験を語った。登場した広告主は、若年層へのキャッチ力に優れたコンテンツを制作した三井住友カード、「全世代デジタル時代」を前提にユーザーの行動変容に着目したライオン、メディアミックスによる広告効率の最大化を目指したサントリーの3社。

三井住友カードは学生の検索ボリューム最大化を目指してインストリーム広告とバンパー広告を出稿。「学生パフォーマンス」を略した造語「学パ上げてこ!」をコピーに、指名検索を30%増加させた。

革新的で大胆な広告を決定できる社内体制を構築し、YouTuberを起用するなど、学生世代へのアピールを強化。クリエイティブは、トピックに一貫性を保ちながら、トゥルービュー広告と6秒尺のバンパー広告を出し分けた。

ライオンはハイグレード商品「クリニカPro」の宣伝にYouTube広告を活用して売り上げを11%増加させた。顧客がテレビだけでなく、YouTubeも見るようになるという態度変容を起こすなか、商品選びの態度変容を可能と考えて広告を出稿したという。

ライオンは「効果が出るものを買いたい」から、「信じられるものを買いたい」に顧客の意識を変化させるべく、クリニカProの特徴である酵素による歯垢の分解力を強調。困りごとを解決するという従来のアプローチをあえて外した。行動変容に必要な広告接触回数は3回という分析結果になったという。

最後に登壇したサントリーは、テレビCMとのシナジーを狙った。顧客のメディア体験がマルチデバイス、マルチコンテンツ化していることを受け、組織を横断して効果測定の補法を刷新。位置情報データやファネルごとの顧客行動を分析し、メディア別の重複ユーザーの動向を分析した。

4商品を対象にした調査では、広告認知とブランド認知で最大13.9ポイントの上昇がみられたという。広告はメディア別に分離して評価せず、組み合わせながら試行錯誤することでROIを最大化する知見が得られた。


記者プロフィール

大矢根 翼

1996年生まれ。自動車業界を経てフリーライターとして活動開始。サラリーマン時代は法人営業として活動。

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