三木谷浩史社長が楽天カンファレンスで講演 「AI」も「モバイル」も結果は楽天市場に!

三浦真弓【MIKATA編集部】

2024年1月25日(木)、楽天グループ株式会社(以下「楽天」)が「楽天新春カンファレンス2024」を開催。代表取締役会長兼社長・三木谷浩史氏が講演を行い、年頭所感にもあったとおり、「AIエンパワーメントカンパニー」に進化することを表明した。昨年はモバイル事業の強力な推進が目立ったが、そのモバイルにしてもAIにしても、「すべては楽天市場、楽天経済圏のためにある」ことを感じさせる内容となった。

今年はAIの年

「楽天新春カンファレンス2024」で三木谷社長が強調したのは、2024年の楽天が「AI Empowerment Company(AIエンパワーメントカンパニー)」に進化するという点だ。「AI」に関しては年頭所感でも語られていたことではあるが、より具体的なビジョンが語られた。

まずは全体を振り返ろう。

「楽天モバイル」で携帯料金が浮けば、消費につながる

楽天グループの2023年度(速報値)グローバル流通総額は40兆円を超え、2013年の東証一部(現:プライム市場)に市場変更時点で0.5兆円だった売上収益は2兆円超まで伸びたという。

しかし2023年初頭には楽天モバイルを要因とする「損失」「赤字」が取り沙汰されており、実際、2023年1〜9月期連結決算(国際会計基準)の発表では、最終損益が2084億円の赤字(前年同期は2625億円の赤字)で、5年連続同期間の赤字を公表。その大きな要因は楽天モバイル関連の設備投資費だったといえる。

一方で、明るい兆しが見えてきたのも事実だ。契約数自体は増加し、2023年12月時点で600万回線を突破。また2023年10月には総務省に申請していた「プラチナバンド」(700MHz帯の周波数)が割り当てられたことが発表され、通話やデータ通信がつながりやすくなるなど、さらなるサービス向上を期待できる状態になった。

三木谷社長は楽天モバイルがもたらす価値を「携帯市場の民主化」と説明。令和6年能登半島地震においても、一番の要望は「携帯がつながるようにしてほしい」というものだったと説明。「今の若い世代の方に人生の選択肢が2つしかないとして、車とスマホ、どちらを持ちたいかと聞いたら、97%がスマホを選ぶ」と三木谷社長が話すように、スマートフォンは今やあらゆる生活インフラ機能の中心。ない生活が想像できない人が圧倒的に多いだろう。

ただ、料金は菅義偉前首相時代の携帯電話料金の引き下げ圧力によって、政府主導で「官製値下げ」が行われていたものが、2023年8月にはNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクという携帯大手3社が軒並み「実質値上げ」に移行。再び消費者に大きな負担を与える存在となりつつある。

そのなかで、楽天モバイルは「携帯市場の民主化」のため、「低価格」「高品質」「無制限」をうたい、「すべての国民が手軽・自由にスマホを楽しめる社会」を目指すという。

「携帯料金が年間4兆円抑えられることで、その分消費に回るわけです。その4兆円の一部が楽天市場で使われることもあるでしょうし、あるいはほかにも有意義な使い方をしていただける」(三木谷社長)

携帯市場の民主化は、やはり何といっても楽天市場を中心とした楽天経済圏への好循環を招くということであり、楽天モバイルの成功は、2030年の達成を掲げる、10兆円への道に欠かせないものだとした。

本当に可能か? 楽天AIによる進化

楽天における「AIエンパワーメント」とは何か。

今までのAIとの違いを「これまでは過去のデータを学習して同様の解を出すのがAIだった。機械学習、あるいは深層学習という世界だったが、生成AIは人間のように考えるもの。新たなコンテンツをつくったり、文章・画像・動画生成などが行える。楽天市場におけるAIは、使いやすく、分かりやすくしていくことが重要。それこそがAIエンパワーメントカンパニーへの進化。基本的にはAI3(Cube)という、3つの観点で使いやすくしていこうと考えています」(三木谷社長)

1つ目は例えば配送やセキュリティなど「オペレーションの効率を上げていく」こと。2つ目はいかに「友好的にお客様を誘導してこられるか」という「クライアント(店舗)効率に役立てる」こと。3つ目は、「マーケティング効率(集客装置)を上げる」こと。

「楽天が有利なのは、世界的に見ても類を見ないユニークなデータ資産を保有していること」(三木谷社長)。年間ポイント発行数は6,600億あり、それだけ取引データを持っているという証拠でもある。

「例えばGoogleであれば検索データはあっても取引データはありません。Meta・Facebookはソーシャルグラフはあるけれど、取引データはありません。楽天はショッピング、クレジットカード、そのほかさまざまなデータが1つのIDで結び付いています。これは世界的に見ても稀有で、非常にリッチなデータ」(三木谷社長)だと強調。また複数サービスを使うユーザーが多い点も強みだ。この強みを生かし、AI分野における戦略的パートナーとしてOpenAIが参画する新プラットフォーム「Rakuten AI for Business」を発表したと話した。

ただAIの活用のためには、エンジニアやデータサイエンティストが不可欠で、日本ではその人材不足が指摘されている。この点を三木谷社長は世界100の国と地域からのグローバル人材を採用してきたこと、エンジニア+研究者コミュニティには約6,000人が所属していること、研究開発拠点は世界7カ国9都市に及ぶことの3点から「優位だ」と説明。

「一番重要なのは、店舗の皆様や楽天グループのクライアントの業務効率を20%上げることを目標にしていること」(三木谷社長)だとした。ではどう活用していくのか。

2023年の国内EC流通総額は6兆円到達、2030年の10兆円へ

具体的には例えばWebページのデザインにおいて、AIベースのアプローチが可能だ。あるいは楽天トラベルでは、AIを活用してユーザーに対して個別の提案や情報提供をすでにしている。また楽天証券では、AIを使った投資商品のシステムや顧客対応などさまざまな業務で活用などがある。

AIを使用することで近年課題になっている商品説明などの作成支援にもつなげられ、業務負担が軽減。マーケティング戦略においても生成AIが活用されることで、購買にもつながりやすくなるという。

またECコンサルティングにもAIを全面活用し、店舗へのサポートを強化。さらにはAIやビッグデータの活用により、物流の効率性を高める独自システムを開発。出荷数の予測をしたり、作業スタッフ数の最適化を図ったり、あるいは在庫配置・輸送車両の最適化や、商品梱包(こんぽう)資材の適正化もはかっていったりするという。

また今後、「RMS AIアシスタントβ版」(最新モデル「ChatGPT-4」をベースにした楽天に最適化されたAIチャット)や「Rakuten AI大学(仮)」(AIの一般的な概要や「RMS AIアシスタント」の活用方法が学べる講座)を近日リリースする予定だとした。

AmazonやYahoo!ショッピングと楽天市場の違いは「つながり」であり、「原点は店舗の皆様に元気になっていただく。そして、消費者の人もなんか楽天市場っていいよね、と思っていただくこと。日本にしかないサービス内容というものが、根底にあると思います」と話した三木谷社長。AIというツールを使うことにより,皆様の人間らしいサービスをいかに大きくしていくか。店舗の皆さん思い、考え方、もちろん商品を消費者に届けることに注力するためにいかにAIを提供していくか。最後に三木谷社長が掲げた言葉は「No AI, No Future but No Human, No Future」。楽天モバイルもAIも、どこまでも「楽天市場で結果を出していく」ことにつなげたい思いがあることが伝わってくる講演だった。